年商1兆円。中国EC企業の成長の原動力は?深センの衝撃と中国越境

古西なつ子

12月20日~23日の4日間、JECCCAメンバーが中国の深センを訪問しました。深センは「ウィーチャット」で知られるテンセントが本拠地を置くIT商業地で、平均年齢32歳と若く、人口2300万人を抱えます。現在中国の越境EC 7~8割が深センだとも言われています。この視察を受け、1月のジェシカセミナーで深センECの最新情報についてディスカッション形式で報告が行われました。
中国EC企業の現状とは?日本企業との相違点は?今後中国越境ECの可能性は?日本企業が今知っておきたい中国の最新EC事情について、セミナーの一部を抜粋してレポートします。

越境ECの可能性は大きい~概況報告

越境ECの可能性は大きい~概況報告深センECの最新事情について語る松本理事とパネリスト

松本順士理事(JECCCA理事、エスアンドティーパートナーズ株式会社代表取締役)

深センでは、深セン市越境EC協会と意見交換し、電子商総合企業のトップ3に入るTOMTOPや、プラットフォームを担う企業を視察した。無人コンビニや無人スーパーといった、現地の最先端の小売り店舗を見学。日本の商品が展示されている中日交流促進会の保税展示ショールームやオープンしたばかりの保税スーパーも視察した。第2回微商博では川連代表がスピーチした。

今回意見交換した越境EC協会は、有力なEC企業が多数参加し、会員が1万1千社、スタッフ数が52人という規模だった。日本商品の輸入に興味があるだけでなく、ドローン1位の企業など「輸出したい」という企業がたくさんあった。日本から深セン、深センから日本という越境のチャンスはたくさんあると思う。

スケールの大きい深センのEC企業

スケールの大きい深センのEC企業深圳市越境EC協会とのミーティング

深センを訪問して違いを感じたのは、EC企業の規模感。例えば三日目に訪問したTOMTOPは中国の電子商トップ3に入るEC企業で、1日のアクセス数はヨーロッパ向けサイトだけで60万。スタッフは社内に2000人いる。世界に物流拠点を持ち、全世界の商品を中国で売って、中国の商品を全世界に発信している。社内を視察して興味深かったのはスタッフがマットを持っていたこと。泊りがけで仕事をしているのだと思う。天虹というスーパーでも無人コンビニ開発に携わっている人が300人もいた。

深センはテンセントのお膝元のため、無人スーパーでもウィーチャットアプリを使用してQRコードを読み取り会計するなど、何に関してもウィーチャットを使ってやっていた。
日本商品を展示する保税ショールームに行ったときには、もっと並べられる商品もあるかなと思ったし、商品の見せ方もあるかなと思った。

強い韓国商品。中国越境ECは長期スパンで考える

強い韓国商品。中国越境ECは長期スパンで考える保税スーパーの日本化粧品

出口允博氏(Eストアー東アジア事業部長)

Eストアーでは東アジアを中心に越境ECを支援している。ほぼ中国なので毎月深センに行っているが、行くたびに焦りを感じる。技術的には中国は日本のはるか先をいっているのではないかと思う。早くやらないと日本はどんどん中国に先を越されるのではないか。

天虹のことは知らなかったが、エンジニアの方が「いいと思ったらすぐやる、明日にでもすぐやる」と言っていたのが印象的だった。日本の企業は決断が遅く、撤退が速い。中国はその逆だ。決断が速く、あきらめない、粘り強い。

また、日本のイメージと違って、マナーが良い。無人スーパーでもタダでもらって帰る人はいない。98%が支払っているそうだ。

越境EC協会にもどんどん日本商品を紹介してほしいと言われるが、今中国では韓国製品が強く、化粧品は韓国コスメが多い。一つ目の理由は、韓国商品の売り込みが強いこと。もう一つの理由は、定価は日本商品とほぼ同じか少し安いくらいだが、韓国商品の場合は上代の15%くらいの値段で仕入れることだ。日本の化粧品は上代に対して卸値が安くならない。日本製はいいものなんだけど、これからブランディング必要で、韓国製ほどもうからない。今は過渡期で徐々に日本の商品を紹介していっている。日本企業は決断が遅くて撤退が速いので、長期スパンで考える必要がある。まず行ってみて、サプライチェーンの会社の声を聞いてみるのが良い。

スピード感に愕然。決済がモラルを変える

スピード感に愕然。決済がモラルを変える深センのEC企業の若い経営陣

加藤真奈氏(JECCICA参事・MDプランナー)

新しい力をもった街、という印象を受けた。思っていたよりも早くスピード感がある進み方をしていた。全国から集まっている若くて優秀な人たちをトップの人たちが束ねて、トップの人たちだけで動かしている。経済特区で中国でも特異だと思う。

印象的だったのは、天虹というスーパーの役員の人が言っていた言葉。天虹はITを導入して人を減らしているが、サービスの質を落とすのではなく、ソフト面でどう人を呼ぶか計算している。日本とスピード感が違い、違いに愕然とした。新しいことをどんどんやる、どんどんやって次にいく。負けてるというより引き離されてしまっているのに日本人は気づいていないのではないか。

深センのシェアサイクルは、ウィーチャットペイでQRコード読み込んで利用し、どこでも置いていける。自転車が山積みになってるのを見て「やっぱり中国人」と当初思ったが、60歳以上の人もスマホで決済して商品を買い物する世の中にシフトしていく中で、決済がモラルの質をあげていくのではと思う。日本人はルールを守るのは得意だけれど、その先の新しいことにチャレンジしてステップアップする一歩がむつかしい。中国の人の「やってみちゃったほうがいいんじゃない」という国民性の違いを感じた。

中国語を勉強し始めたほど強い衝撃を受けた

中国語を勉強し始めたほど強い衝撃を受けたウィーチャットアプリで入場から決済までできる無人コンビニ

笹本克氏(JECCICA特別講師・参事、有限会社A-コマース 取締役社長)

商社で香港にいた経験があるが、久しぶりに行って驚いたのは深センの空気感。
行くまでは「規模は大きいけど商売はガサツ」というイメージを持っていたが、違った。サービス面でユーザーにも配慮し、街にゴミも落ちてない。一定以上の常識を持っている方々がいる印象。

例えば、あるネット販売代行会社は最初からヨーロッパ向け越境ECを中心にしていた。日本にも同様の業態は多数存在するが、大きなマーケットを対象としただけで日本の企業とは桁数がいくつも違う規模に成長している。日本の企業とは元々の意識づけが異なるレベルにあると思う。バックヤードのシステムを扱う自然一度という企業も訪問したが、中国では独身の日に日本円で2兆7千億、8千億売れるわけで、単純計算で楽天さんの600~700倍の負荷がシステムにかかる。それに対応するシステムや物流があるということ。僕らが知らない世界を体験して知っている。中国語を勉強し始めたほど強い衝撃を受けた。日本のほうが先だと彼らが思ってくれているうちに何かをしなきゃと思う。

深センでは無人自動化コンビニを体験したが、将来性があると思う。日本では地震時の対策などクリアすべき条件はあるが、宅配便の受取りや遠隔医療、調剤薬局のお届けができるようになれば、損益分岐点がものすごく下がる。また、電子マネーの決済で本人確認が確実になるので、社会的なインフラにもなりうる。繁忙時の決済などは限界もあるだろうが可能性が大きい。高齢者の人にレクチャーして地域の人が電子マネーをもってどういうことができるのか考えるのも面白い。

規模が大きい中国EC企業。日本のものづくりに可能性

規模が大きい中国EC企業。日本のものづくりに可能性中国電子商トップ3のTOMTOPのオフィス光景

福田泰志氏(サヴァリ株式会社代表取締役)

ネットショップの支援をして、商品MDやテストマーケティングを行っている。今回はいい会社とコネクションがつくれる刺激が多い旅だった。深センは平均年齢32歳と若く、街のフードコートも大学の学食のようだった。EC企業のスタッフも若くてクレバー。優秀なスタッフがそろっている印象を受けた。

日本のEC企業との違いとして印象的だったのは、スタッフの人数。何百、何千のスタッフが不夜城で仕事をしている。日本であれば20人、30人のECサイトでもそれなり大きいという印象だが、スケール違う。

日本の企業はこうした規模の大きい中国のEC企業と、どうやって、何で組めるのか。システムなのか翻訳なのか何かを代行するのか。それを考えた時に、中国のEC企業は全部自前でできてしまうし、スピードが早い。日本のものづくりに寄り添うしかないと思った。あとは物をつくってマーケットに出していくという部分だと思う。

年商で一兆円。スケールとスピードに驚き

年商で一兆円。スケールとスピードに驚きTOMTOPの撮影ブース

成嶋祐介氏(株式会社成島代表取締役社長)

日本人形や工芸品をネット中心に販売している。販売店の立場で実際の需要を見てきた。
深センは香港の少し上の経済特区。行く前はドローンやスマホ関連を製造していると思っていたが、実際行くと製造はしないで製造をさせる。六次産業化していた。電子マネーが普及し、現金を使わない。ローコストで決済し、とことんコストカットして投資にまわす。お金も集まり、人も集まっている。若くてやる気がある。いい循環をしている。熱量高くて成長性がありそうだと感じた。

訪問したEC企業の中には、5大陸16の倉庫を持ち、アメリカで売れても深センからアメリカの倉庫に出荷指示を出す、という企業があった。決済も何個も束ねてAPIでつないで処理しているし、配送も違う配送業者を連携している。

TOMTOPという企業は、自社サイトだけでなく、様々な店の名前で何十カ国に展開していた。ランキングに入っているような商品をOEMでつくらせている。みんな若くて一般の人が持っている中国人のイメージと違った。非常にクレバー。月商を聞いたら1000億円だそうで、年商で一兆円を超える。日本で一兆円を超えるといったらショッピングモール全体になると思う。撮影ブースは10近くあって、ブース全体で200万円くらいかかっている印象だった。撮影も常時30人位の人がそれぞれのブースで行っている。一部を間借りさせてもらうか、仕事を請け負ってやってもらいたいと思うくらいだった。

深センのEC企業は各大陸をまたいで、いろんな倉庫に出して、すさまじい。今回の訪問では挨拶に伺ったような感じだったのですが、いきなり商談に入るようなスピード感だった。


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要チェック!次回は最新版ZOZOTOWN攻略法!& EC担当者のための2018年AIスピーカー最新情報

要チェック!次回は最新版ZOZOTOWN攻略法!& EC担当者のための2018年AIスピーカー最新情報

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第一部では成長を続けるZOZOTOWNの攻略法についてわかりやすくご紹介します。ZOZOTOWNの攻略法だけでなく、アパレルでの売り方、在庫回転率など、すぐ役立つ情報が満載。特にアパレル系のEC企業さんやファッション商材を扱うネットショップさんは聞き逃せません!

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■日時 :2018年2月16日(金)15時~
■会場:ソニーペイメントサービス株式会社
〒108-0074 東京都港区高輪1-3-13 NBF高輪ビル6階
https://goo.gl/JXvk1C

■主催:JECCICA(ジャパンEコマースコンサルタント協会)


著者

古西なつ子 (Natsuko Konishi)

出版社などを経て、ライターとして入社した会社でネット通販に携わるように。モール店舗運営、分析、OEM商品開発、LP作成、中国仕入れ、卸、ブログ関係の業務を行う。