オンラインとオフラインを切り分けて考えるのは企業主体の発想。お客様にとってはどちらも「心地いい入口」であるべき(人流解析対談Vol.2)
中国の小売業界では、OMO(Online Merges with Offline)という概念でオフラインとオンラインを融合させたマーケティング・販売手法を行い、今までにない顧客体験を提供する活動が浸透してきています。
これは中国に限った話ではなく、日本国内に目を向けても顧客の購買行動は変化してきているため、小売業界のデジタル化は避けて通ることのできない課題です。
そこで当コラムでは、スプリームシステム株式会社の沖野聖史さんとSBクラウドの野嶋将光の対談をもとに、OMOの実現を支援する「人流解析」をテーマに計5話のコラム記事をお届けします。
第2話は、国内でもOMOやO2Oの波が広がっているなか、「小売業はオンラインとオフラインをどのように融合すべきか」を考えるとともに、人流解析システムだからこそできることを提示します。
オンラインとオフラインが断絶していることによる弊害
野嶋:前回、御社の動線分析ツールMoptarを利用しているのは「小売業が多い」という話がありました。近年は小売業側のニーズが変化していて、OMO、O2Oなど、オンラインとオフラインを統合させたデータを蓄積してビジネスに応用する話が出てきていますが、沖野さんは“データの流れ”がどのように進化していると感じますか?
沖野:店舗もデジタル空間の一つと捉えてデータを取得するという流れがありますね。Webでは当たり前に行われているレコメンドなどのOne to Oneマーケティングができる土壌が整ってきたと感じています。
それが今、OMOやO2Oが流行っている背景であり、実際に弊社の「Moptar」を利用してWebのアクセスログと同じように店内の人の動きをデータとして可視化しようとする企業が増えています。
「オンラインとオフラインの敵対関係」は企業主体の発想
野嶋:2、3年前は「オンラインはオフラインの敵」というイメージがあり、店舗がショールーミング化されて、店舗に製品並べてもネットで検索されて安い店に行かれるから店舗の売上があがらないという流れがありました。でも最近、またオフラインの注目度が高まっていて、リアル店舗が存在する意味が非常に大きくなっていると感じています。
ただ、その意味合いは以前と大きく変わっていて、「体験する」「モノに触れる」など、いわゆるユーザーエクスペリエンスが重視され、購買だけでなく「お客様がどれぐらい満足したか、楽しんだか」に重きが置かれているように感じます。その流れの中で、人流解析によって取得できるデータである「売り場を回遊した」「商品に手を伸ばした」というところは大きな指標になりますよね。
沖野:そう思います。そこに関して私が感じている流れは、直販や卸が主体のメーカーがBtoCの手段として直営店を出すケースが増えていることです。その目的は売上をあげるというよりも、お客様がどういう振る舞いをしているかを確認して、メーカーとしてお客様と向き合おうという意味合いが強いんですね。
そこでMoptarを導入して、店内でお客様がどう動いているかというデータを取ることがあります。オフラインではお客様と繋がっていくという目的の出店も今後加速していくように感じています。
野嶋:オフラインの新しい活用法が出てきているんですね。沖野さんは多くの企業と接していて、オンラインとオフラインの棲み分けは既に整備されてきていると感じますか?
沖野:そもそもの話になってしまいますが、「オンラインとオフラインが敵」という感覚は企業主体の発想であり、お客様にとっては店舗もECも心地いい入口であるべきです。その観点に立って、両方をどうまたいでコミュニケーションしていくかを考える企業が増えています。
デジタルの時代はお客様側が主導権をもっているので、企業は顧客を囲い込むのではなく、どういう入口を用意して、企業として一貫したコミュニケーションをしていくか、というところが重要です。そのコミュニケーションの中にECや店舗があるという位置づけで、OMOの核はそこにあります。
だからこそ、オフラインでもお客様の動きを可視化することができる人流解析のテクノロジーが流行っているのだと思います。
野嶋:その通りですね。お客様とどういうタッチポイントをもって、満足度を上げていくか、という観点でのトライはどの企業にも求められていると思います。
人流解析システムだからこそできるオフラインの施策
野嶋:トライアンドエラーを試せるところが人流解析の魅力の1つです。たとえば商品のパッケージや置く場所を変えるとどうなるかを調べられることはもちろん、そもそもその場所に行かない、手は伸ばすけど買わないなど、いろいろなデータを取得することで売り場の問題を解決できる可能性があります。
沖野:実際に人流解析を導入してみて、「平均滞在時間は下がったけれど売上があがった」ことが証明されれば「目的買いが増えた」ことがわかります。いろいろな目的に応じてどう変わったのかが見られるところもメリットで、「回遊を演出したい売り場」であれば「平均滞在時間が長くなったか」をKPIにして検証することもできます。
例えば検証の結果、スーパーの定番商品はだいたいのお客様が立ち寄るところだから店の奥のほうにおいても立ち寄り率や滞留はあまり変わらないとわかったとします。それであれば入口近くの目立つ場所には季節の商品を置くなど、人流解析によって売り場を改善することができます。
野嶋:利用者の立場で言うと、棚が変わって迷ったりすることもありますが(笑)、人流解析を使うことで、トライ&エラーを早く回して、正解にたどりつける可能性があるということですね。Moptarで取得したデータは後で分析・検証ができるだけでなく、リアルタイムで売り場へとフィードバックすることもできるんですよね?
沖野:ここはまだまだこれから発展していく部分でもありますが、「この商品を見た人には関連する商品の広告をサイネージで出す」「手を伸ばした商品の口コミを出す」「Tシャツに手を伸ばしたときにモデルが実際に着ている写真を出す」など、オンラインでは当たり前のリアルタイムなアプローチをすることも可能です。
さらに、QRコードを使ってお客様個々の動線に応じたプッシュ通知、立ち寄った棚の商品のクーポンをLINEで送るなどもできます。
野嶋:そのような施策は人流解析でなければできないことですね。