注目が高まっているオフラインの分析ツール「人流解析」では何ができる?(人流解析対談Vol.1)

SBクラウド株式会社

SBクラウド株式会社 野嶋 将光、スプリームシステム株式会社 営業部部長 沖野 聖史氏

中国の小売業界では、OMO(Online Merges with Offline)という概念でオフラインとオンラインを融合させたマーケティング・販売手法を行い、今までにない顧客体験を提供する活動が浸透してきています。

これは中国に限った話ではなく、日本国内に目を向けても顧客の購買行動は変化してきているため、小売業界のデジタル化は避けて通ることのできない課題です。

そこで当コラムでは、スプリームシステム株式会社の沖野聖史さんとSBクラウドの野嶋将光の対談をもとに、OMOの実現を支援する「人流解析」をテーマに計5話のコラム記事をお届けします。

2004年から人流解析システムの開発をスタート

野嶋:本日はよろしくお願いします。私はSBクラウド株式会社でIoTを推進する部署で働いていて、今回のメインテーマである「人流解析」に関わったのは2014年頃からです。

沖野:よろしくお願いします。スプリームシステム株式会社 営業部部長の沖野聖史です。弊社は2000年設立のソフトウェアメーカーで、人流解析システムを使った動線分析ツール「Moptar」や棚前行動分析ツール「Mopreach」、その他にもMAツール「Aimstar」やWeb接客ツール「Webica」などを開発、提供しています。

野嶋:まず簡単に人流解析の歴史を振り返ってみると、ビーコンやWi-Fiによる行動データ取得からはじまり、その後、画像認識のテクノロジーが進んで誰でも簡単に顔認識システムを使えるようになり、人流解析が本格的に脚光を浴びはじめたのが2017年中頃と認識しています。

沖野:弊社が「Moptar」の開発をはじめたのは2004年です。まだIoTという言葉もない時点からスタートしていて、その頃は野嶋さんがおっしゃるように無線LANや超音波を使っていました。私たちは15年間にわたり、人流解析の分野で数々のトライ&エラーを繰り返してきたて、数々のしくじり事例をどこよりも持っているところが弊社の強みですね。

野嶋:人流解析というと“新しい技術と”感じている人も多いかもしれませんが、以前から取り組んできた御社のような会社にとっては既に4周目ぐらいに入っている感覚ですよね。早速ですが、「Moptar」はどのようなシステムなのか、教えてもらえますか?

動線分析ツール「Moptar」とは?

沖野:Moptarは1人ひとりの入店から退店までの動きをデータとして記録するシステムです。タグやスマホアプリなど何も保持しなくても、高精度で動線のデータを取得することが可能で、それによりリアルタイムでの入店率や滞在時間、立ち寄り率などのモニタリングを行うことができます。

人の動きのデータはWebでいうところのアクセスログ、つまり興味のデータであり、それを可視化していくことで接客を改善したり、プロモーションに活用したりすることができます。分析段階ではAI・機械学習を使用して、重要なKPIに寄与している行動因子を分析するサービスを提供しています。

動線を追跡取得することで、店内レイアウトの改善、デジタルサイネージでの店内広告、接客必要性検知・不審者検知を従業員へリアルタイム通知、無人店舗での利用など、幅広い活用方法があります。



野嶋:現在はテクノロジーの進化により多くの会社が人流解析のツールを提供していますが、その中でいち早く取り組んできた「moptar」の優位性はどこにあるのでしょうか?

沖野:moptarを海外で紹介すると「こういう製品は見たことがない」と言われるので、人流解析の世界で弊社ができないことは他もできないと自負しています。その要因の1つは高精度であることです。他社の人流解析ツールの多くはカメラを使用していますが、カメラは人が重なったときに入れ違えたり、細かく人の動きを追うことができなかったりと弱点があります。一方、Moptarは2013年から高精度の赤外線センサーを利用しているため、人の動きを細かく追うことができます。

ただ、Moptarは高精度だけにこだわっているわけではありません。人の動きに応じて出力するサイネージの内容を変えるなど、高精度ゆえに人の行動に応じてシステムを制御できるところが面白い点だと思っています。

野嶋:人流解析の世界では赤外線センサーを使っているほうがニッチなんですよね。でも、なぜ他社は高精度の赤外線センサーを使わないんですか?

沖野:赤外線を扱うのはソフトウェアを組んだり、使用する前にチューニングをしたりと、いろいろな技術が必要で、簡単に使えるものではないからです。

弊社はソフトウェアにしても高精度を出すために、センサーなどのデバイスメーカーから提供されたものを使わずに、社内で独自に開発しています。こういうことができるのも、どこよりも早く人流解析に取り組んできたからこそなんです。

人流解析を最も利用している業態は「小売業」

野嶋:現在、Moptarを利用している企業はどういう業種が多いのでしょうか?

沖野:利用していただいている業種は、コンビニやスーパーなどの小売業、工場、施設・ビル、イベント会場、病院・介護施設など、さまざまですが、小売業が一番多いですね。

野嶋:小売業のお客様からは具体的にどういう相談が来ますか?

沖野:店舗リニューアルの際に「このままの店舗設計でいいのか」という相談をよく受けますが、そもそも店舗の状態がわかっていないというケースが多いです。だいたいのお店は、入店客数は入店カウンターで数値化されているし、どこのポイントカードもID-POSを利用しているので購入したお客様の属性まではわかります。でも、“購買以外の行動”はわからないんです。

その点、Moptarを利用すると、入店客のうち、通路に入っているか、通路から売り場に来たか、さらに売り場も素通りではなく立ち寄ったか、商品に手を伸ばしたのか、というところまで細かくデータとして可視化することができます。それにより、どこのステップでお客様を取りこぼしているかを見ていくことができるんです。

この分析はオンラインの世界でGoogleアナリティクスを入れている企業にとっては当たり前のことですよね。それと同様の分析をオフラインでも行い、直帰率が高い棚を見て、そこからプロモーションを考えていくなどの取り組みをします。人流解析のポイントは買ってない人を見ていくところですね。

野嶋:オフラインで買わなかった人の動向を検証する仕組みは他になかったということですよね?

沖野:今まではアンケートで検証しているところが多かったと思います。でも、アンケートの情報は偏りがあり、どれぐらい代表制のある優位なデータかわかりません。さらに、アウトプットまでに1~2週間かかり、タイムラグが発生します。それが原因で弊社の人流解析を検討されるところもあります。

人流解析システムを利用することでオンラインと同様にオフラインを分析できる

野嶋:Moptarを活用する際の具体的な流れを教えてください。

沖野:まずはWebでいうところのコンバージョン要因である「どういう行動を取りたいか」を規定するところからはじめます。たとえば接客が必要なアパレル店や化粧品店の場合、接客がコンバージョンをどれぐらい押し上げるのかを見たいという要望があります。それを見るために必要な行動を決める必要があります。

野嶋:入店から退店までの行動データを取った後はどうするんですか?

沖野:小売業では直感的に現状を見てから分析をしていくアプローチを取るパターンと、購買プロセスを定義してからその通りになっているのか、ボトルネックはどこなのかを分析していくパターンが多いですね。前者の直観パターンの一例としては、Moptarには10倍速で行動記録を再生できる機能があるので、まずはお客様の動きを時系列でずっと見ていきます。そうすると、レジ前に人が溜まっている時間があって、このとき何を展開していたか?と、細かく分析していくことができるようになります。

野嶋:そこはBIツールや他のWebシステムなどとは違う点ですね。

沖野:そうですね。まずは網羅的に動線の流れを見て、直感的にどこにポイントがあるかをチェックしていきます。ポイントを見つけたら、シフト表と見比べたり、店員さんの動きを見たりして、何が問題かを調べていきます。

野嶋:人流解析システムを使って店舗の分析をすることで、オンラインのECと同様の分析を行うことが可能になる、ということですね。


この対談はVol.2へと続きます。


著者

SBクラウド株式会社 (sbcloud)

SBクラウド株式会社は、ソフトバンク株式会社とアリババグループの合弁会社です。
Alibaba Cloudの日本市場への展開を支援しています。

パブリッククラウドサービス「Alibaba Cloud」の日本向けサービスのローカライズ、日本語サポート等を提供しています。

https://www.sbcloud.co.jp/