日本における人流解析システム導入のハードルと課題(人流解析対談Vol.4)

SBクラウド株式会社

SBクラウド株式会社 野嶋 将光、スプリームシステム株式会社 営業部部長 沖野 聖史氏

中国の小売業界では、OMO(Online Merges with Offline)という概念でオフラインとオンラインを融合させたマーケティング・販売手法を行い、今までにない顧客体験を提供する活動が浸透してきています。

これは中国に限った話ではなく、日本国内に目を向けても顧客の購買行動は変化してきているため、小売業界のデジタル化は避けて通ることのできない課題です。

そこで当コラムでは、スプリームシステム株式会社の沖野聖史さんとSBクラウドの野嶋将光の対談をもとに、OMOの実現を支援する「人流解析」をテーマに計5話のコラム記事をお届けします。

第4話は、日本の小売業の現場で人流解析システムを導入するうえでのハードルや課題は何か、というところを探ります。オフラインのデータを取得・分析することが当たり前になる日が来るのでしょうか?

野嶋:私は主に海外で人流解析に関する仕事に携わってきましたが、お話をうかがっていると海外に比べて日本の企業のほうがデータの精度を求める傾向が強いと感じています。

特に御社の人流解析ツール「Moptar」は高精度ということですが、その点はいかがですか?

沖野:精度はもちろん求められます。たとえば人流解析システムを使って、棚のどの商品を手に取ったかを調べたいときに30センチや1メートルずれてしまうと違う棚を認識してしまい、データとして成り立ちません。

弊社は2004年から無線LANや超音波など、いろいろなデバイスを試してきましたが、最終的に赤外線センサーに落ち着いたのは精度が高いからです。

野嶋:棚もそうですが、通路幅にも精度が求められますよね。幅が1メートルでいいのか、1.2メートルがいいのか、そこまで細かく見たいという要望が私のほうも以前ありました。

沖野:人流解析をプロモーションに使いたいと思ったときに判別するお客様を間違えてしまうと、違うIDに対して異なるプロモーションを打ってしまうので、求められる精度はさらに高くなります。

One to Oneのプロモーションで、接客したお客様のLTVあがったかどうかを見るときにもやはり精度が必要です。

野嶋:確かにそうですね。たとえば私がスーパーでカレーの材料を買い物かごに入れていて、あとは玉ねぎを買えばいいという段階で、人流解析システムとリンクしている目の前のサイネージで別の食材をすすめられてしまうと、何のプロモーションかわかりません。

むしろスーパーの信頼を失うというマイナスにつながりかねませんよね。海外で仕事を続けてきた私が意外だったのはOne to Oneマーケティングの重要性が日本でも急速に上がってきていることでした。

沖野:日本でも早い企業は既に取り入れていますね。

人流解析システムを導入するうえでのハードルは?

人流解析システムを導入するうえでのハードルは?

野嶋:日本の企業が人流解析システムを導入するうえで“ハードル”になっていると感じるものはありますか?

たとえば個人情報の観点で、自分の行動をデータとして取られていることに対するお客様の嫌悪感はありますか?

沖野:そこはやはりまだあると思います。具体的なクレームとして弊社にはあがってきていませんが、空気感としてはありますね。

また、嫌悪感でいうとお客様だけでなく、企業やブランド側にもあって、特にハイブランドはその世界観の中にセンサーがあることを嫌がる傾向にあります。本来はハイブランドのほうが投資したときの価値は出やすいと思うのですが。

野嶋:私の個人的な感覚としては、人流解析のセンサーが世の中に広まり、“便利なもの”として認識されると許容されていくと思います。

私も以前、ECで「過去にあれを買ったからこれがオススメ」と出てくるレコメンド機能に対して気持ち悪い世界と思っていましたが、ECの買い物が大半になってくると、その感情は消えていきました。

むしろ最近、家電を買ったときに電池を別で買わないと使えないものに対してレコメンドで出てこなかったのに憤りを感じたぐらいです(笑)。だからオフラインの買い物も人流解析によって便利になっていけばハードルは下がっていくと思います。

沖野:そうかもしれませんね。個人情報の取り扱いに関しては、経産省がこまめにガイドラインを出しているので、それに沿って進めています。弊社はカメラを使って個人の顔を撮影するのではなく、赤外線センサーを使って行動をデータとして記録するので、個人情報に関しては注意義務程度です。

ただ、弊社のそもそもの考え方として、たとえ法律が許しても、お客様にデメリットだと思ったものは実施しないので、バランスの良いところを見つけていくことになると思います。

野嶋:沖野さんの言う通り、個人情報と言われるのは顔認識ではなく顔認証で、個人の特徴量をとった情報なので、人流解析センサーの行動記録は個人情報に当たりません。IDと紐付けたりすると、そこが個人情報と紐づけられる可能性はありますが、ガイドラインに準拠する形でサービスに利用するのは問題ありません。

沖野:これから人流解析をはじめる企業は経産省のガイドラインを参考にして、取得するデータが個人情報に該当するかどうかをきちんと理解したうえで判断したほうがいいですね。

コスト、人材、技術面も導入ハードルに

野嶋:個人情報以外にも人流解析システムの導入に対してハードルに感じていることはありますか?

沖野:やはりコストですね。全てトレードオフになりますが、精度を高くしようとセンサーの数を増やせば当然コストが高くなります。そのあたりは弊社も常に最新のセンサーやカメラなどのデバイスをチェックしていて、手間もコストもかからず精度が高いものを模索しています。

野嶋:コストの点からいうと、どのようなROIの考え方をする企業が多いですか?

沖野:プロモーション、働き手を減らす、売上をあげるなど、顧客によってさまざまな目的があります。

人流解析を導入するにしても、売上のKPIをもってROIを出していかないと実証実験だけで終わってしまい、寂しい結果になります。

いかにコストを下げて、売上をあげていき、利益確保をするかというチャレンジをする必要があると思います。そのためには1つの施策で利益を出すというよりも、いろいろな施策を重ねてトータルで目的を達成するイメージです。

野嶋:人流解析を導入できたとしても、「データを扱える人がいない」というハードルもありますか?

沖野:今まで社内で人流解析をやったことがないところがほとんどなので、そういう部署もないという企業が多いですね。データ分析の点でいうと、じつは小売業だけではなく工場の生産管理のほうでも積極的に使っていただいています。

工場では、作業者の負担軽減のため、作業の一部をAGVに置き換える流れが出ており、そのためにまずは現状どのような業務があるのかを可視化して分析したいという要望があります。

ただ、小売はデータを分析できないわけではなくて、直観的な感覚から分析の隔たりがあるだけと思っているので、そこをサポートすることでどんどん使われるようになると思いますよ。

野嶋:ネットワークやカメラ、コンピューティングの処理など、技術の部分で人流解析の妨げになっているところはありますか?

沖野:センサーがどれぐらいまで良いものが出るか、というところがありますね。赤外線センサーについては自動運転技術が普及してきていて、その技術を応用できる可能性があります。

弊社としては最新の技術の動向をキャッチアップしていきたいと思っています。

野嶋:最新の技術はまさに我々に期待していただきたいところですね。大量のデータを処理するデータ分析の基盤としてのクラウドや、ネットワーク、コンピューティング能力のところで人流解析をより使いやすくできる可能性があると思います。

沖野:そうですね。弊社のメインのビジネスはソフトウェアなので、そこに専念できるようにインフラやクラウドは「意識せずに使えること」ようになり、誰もがインフラの存在を忘れるぐらいになるのが一番の理想です。


著者

SBクラウド株式会社 (sbcloud)

SBクラウド株式会社は、ソフトバンク株式会社とアリババグループの合弁会社です。
Alibaba Cloudの日本市場への展開を支援しています。

パブリッククラウドサービス「Alibaba Cloud」の日本向けサービスのローカライズ、日本語サポート等を提供しています。

https://www.sbcloud.co.jp/