機能性表示食品制度の拡大といわゆる健康食品への規制強化

木川 和広

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

第18回:ステマの定義と日米の法規制
https://www.ecnomikata.com/column/12903/

機能性表示食品に関する検討会報告書の要点

 機能性表示食品制度は、特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品(ビタミン・ミネラル)と並んで、食品へのヘルスクレーム(健康上の有効性に関する表示)の記載を可能とする第三の制度として、2015年4月に導入されました。トクホを販売するためには、食品の有効性・安全性について消費者庁の審査を受けて許可を得る必要がありますが、機能性表示食品は、企業の自己責任で食品の有効性・安全性に関するエビデンスを準備し、消費者庁に届け出ることによって販売が可能になります。そのため、トクホよりも短期間で同じようなヘルスクレームを記載した食品を販売できるということで、数多くの企業が、この制度を利用して食品を販売しています。

 昨年12月に公表された「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取扱い等に関する検討会報告書」では、これまで機能性表示食品制度の対象とならなかった食品を新たに対象に追加することが提言されています。具体的には、次の2種類の食品が制度に追加されることになりそうです。

1. 主として栄養源(エネルギー源)とされる成分(ぶどう糖、果糖、ガラクトース、しょ糖、乳糖、麦芽糖及びでんぷん等)を除いた糖質、糖類

2. 機能性の科学的根拠の一部を説明できる特定の成分が判明しているものの、当該成分のみでは機能性の全てを説明することはできない「エキス及び分泌物」

 新たに制度の対象となる「糖質、糖類」には、これまでトクホの許可を取らなければヘルスクレームを表示できなかったオリゴ糖やキシリトールなどがあります。オリゴ糖であれば、「ビフィズス菌を適正に増やして腸内環境を良好に保つので、お腹の調子に気を付けている方に適しています。」、キシリトールであれば、「歯を丈夫で健康に保ちます。」といったヘルスクレームを表示できるようになります。一方、「エキス及び分泌物」については、「単一の植物を基源(原料)としたものを対象とすることが適当である。」とされています。したがって、「朝鮮人参エキス」は対象となり得ますが、「100種類の野草エキス」のようなものは対象にならないと考えられます。

 届出だけで簡易にヘルスクレームを表示できる機能性表示食品制度の導入により、長期間の審査による許可を得てようやくヘルスクレームを表示できるトクホの存在意義が問われていますが、今回の対象拡大によって、ますますトクホの存在意義が低下することになりそうです。

いわゆる健康食品への規制強化

 2016年4月、健康増進法の誇大広告に関する指導取締り権限が、市と特別区の保健所に移譲されました。権限が移譲される前まで、健康増進法による指導のご相談が持ち込まれることはあまりありませんでしたが、権限移譲後、私のところにも保健所から指導を受けたというご相談が複数持ち込まれています。

 それだけでなく、消費者庁の委託を受けたという民間業者から健康増進法に基づく改善要請通知が届いたという相談も頻繁に受けるようになりました。消費者庁は、四半期に一回、インターネット上の健康食品の監視事業として、「がん」、「動脈硬化」、「ダイエット」などの検索キーワードを設定し、検索システムで抽出されたサイトを目視して調査しています。しかし、目視調査を行う職員の数に限りがあるため、その業務の一部を民間業者に委託しており、今後も民間委託の範囲を拡大したい意向のようです。

 制度的な規制強化が進む一方、実際の運用を見ると、健康増進法に基づく勧告は昨年の3月以降1件もありませんし、景品表示法の措置命令件数も極めて低調です。その原因としては、機能性表示食品の届出件数の増加、景品表示法の課徴金制度導入、地方への権限移譲に伴う問合せへの対応等、消費者庁の業務量が急激に増加していることが指摘されています。

 このような消費者庁の体制整備の遅れから、健康食品の表示広告に関する実際の行政処分の件数は伸びていませんが、基本的な規制強化の方向性は今後も続くと思われますので、予算や体勢の拡充と共に行政処分の件数も増加してくることが予想されます。健康食品を取り扱うEC事業者の皆さんにとっては、今後も消費者庁の動向に注意が必要です。


著者

木川 和広 (Kazuhilo Kikawa)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル
国際的な案件も含め、EC関連企業の法律問題を幅広く取り扱う。
(木川弁護士プロフィール)https://www.amt-law.com/professional/profile/KLK