ダイエットサプリへの景品表示法の適用

木川 和広

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

機能性表示食品制度の拡大といわゆる健康食品への規制強化
https://www.ecnomikata.com/column/13234/

 最近、消費者庁や消費者団体のダイエットサプリに対する監視が厳しくなっているようで、私のところにも大変数多くのご相談が寄せられています。私が東京地検で薬事法(現薬機法)の取り締まりを担当していた2011年当時は、ダイエットサプリの強烈なLP(ランディングページ)が全盛の時代で、「アメリカではFDAの承認を受けて医薬品として販売されているダイエットサプリが日本初上陸」とか、「50キロ以下の人は絶対に飲まないでください。1週間で脂肪が10キロ溶けます。」など、いくらなんでもそれはないでしょうと言いたくなるような宣伝文句が氾濫していました。さすがにそこまでいくと誇大広告というレベルを超えているので、薬事法を適用して関係者を逮捕起訴したわけですが、現在ではダイエットサプリでここまで過激なLPはあまりないようで、ここしばらくは、ダイエットサプリで逮捕者が出たという話は聞こえてきません。

 ところで、なぜダイエットサプリが、薬機法による取り締まりの対象になるのかという点については、私の過去のコラムをご覧ください。
(薬事法の基礎①「医薬品」とは?)
https://ecnomikata.com/column/7711/

ダイエットサプリへの景品表示法の適用

 薬機法は、食品会社を規制する法律ではありませんので、警察が薬機法を適用して刑事事件として立件するのでなければ、ダイエットサプリのLPに関して行政当局ができることは基本的に行政指導しかありません。そのため、刑事事件として立件されるほどの過激なLPでなければ、都道府県の薬務課に呼ばれて指導を受けるだけで終わってしまいます。

 この薬機法のギャップを埋めているのが景品表示法です。行政庁は、景品表示法に基づいて、商品の品質等について実際のものよりも著しく優良であると示す表示(優良誤認表示)に対して、措置命令や課徴金納付命令などの行政処分を課すことができます。したがって、刑事事件にするほど過激ではなくても、一般に誇大広告と見られるようなダイエットサプリのLPに対して、行政処分が課されることがあります。

 措置命令では、誤認表示の中止、誤認表示をしていたことの消費者への周知(新聞やHPへのお詫び文の掲載)、再発防止策の実施等の措置を講じるように命じられます。この命令に違反した場合、会社には3億円以下の罰金刑が定められています。また、課徴金納付命令では、最大で過去3年分の売上の3%の課徴金が課されます。

消費者庁ガイドライン

 ダイエットサプリを含む健康食品への景品表示法の適用に関しては、消費者庁が「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」というガイドラインを出しています。その中の「問題となる表示例の1つに、「健康食品を摂取するだけで、特段の運動や食事制限をすることなく、短期間で容易に著しい痩身効果が得られるかのような表示」が挙げられています。ダイエットサプリに対する措置命令には必ず、「株式会社●●は、例えば、次のとおり記載することにより、あたかも、対象商品を摂取するだけで、特段の運動や食事制限をすることなく容易に著しい痩身効果が得られるかのように示す表示をしていた。」という認定がされます。

 しかし、実際のLPを見ると、必ずしも「運動をしなくても痩せる」とか「食事制限をしなくても痩せる」と明確に書かれているわけではありません。ある会社に対する措置命令では、LPに書かれた「アミノ酸のメラメラパワー!」、「不足していたのはメラメラ力だったんですね・・・」、「そこで注目したいのが人が本来持っている“メラメラ力!”という名の力!」、「そうです!このメラメラ力!をサポートすれば本来の力をぐんぐん高めることが出来るのです!!」などのコピーを全体として見て、「あたかも、対象商品を摂取するだけで、特段の運動や食事制限をすることなく容易に著しい痩身効果が得られるかのように示す表示」だという認定がされています。そして、こうして全体的な印象に基づいて認定された「表示」について、その表示を裏付ける根拠を提出できない場合に、優良誤認表示という認定がされています。

 こうした「全体的な印象」による表示の認定という手法に対しては、どこまでが法律上許される誇張表現で、どこからが法律上許されない誇大広告かがわかりにくいという批判が事業者団体からなされています。その際に良く言われるのは、薬機法は許される表現と許されない表現が明確なのに、景品表示法はそこが不明確だということなのですが、私が薬事法を適用してダイエットサプリの取り締まりをしていた際にも、個々のコピーがどうかということではなく、LPが「全体として医薬品的な効能効果を訴求しているかどうか」で判断していたので、消費者庁の判断手法に違和感はないというのが率直な感想です。


著者

木川 和広 (Kazuhilo Kikawa)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル
国際的な案件も含め、EC関連企業の法律問題を幅広く取り扱う。
(木川弁護士プロフィール)https://www.amt-law.com/professional/profile/KLK