サン・クロレラ最高裁判決のEC業界への影響

木川 和広

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

機能性表示食品制度の拡大といわゆる健康食品への規制強化
https://www.ecnomikata.com/column/13234/

 今年(平成29年)1月24日、サン・クロレラ販売が配布していた新聞の折込チラシに対する適格消費者団体からの差止請求訴訟において、最高裁は、それまでの行政解釈や下級審の判断を覆して、「『広告』も、場合によっては、消費者契約法上の『勧誘』に当たり、消費者契約法に基づく差止請求の対象となり得る。」という判断を下しました。この判決は、EC業界にも大きなインパクトのある内容を含んでいますので、そのポイントをご説明したいと思います。

適格消費者団体の問題意識と大阪高裁の判断

 問題となった折込チラシは、サン・クロレラ販売が、日本クロレラ療法研究会の名義で配布していた「解説特報」という名称の折込チラシです。この折込チラシには、サン・クロレラ販売の商品の原材料であるクロレラについて、「病気と闘う免疫力を整える」、「細胞の働きを活発にする」、「排毒・解毒作用」、「高血圧・動脈硬化の予防」、「肝臓・腎臓の働きを活発にする」などの効能効果があり、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)、肺気腫、自律神経失調症、高血圧などの慢性的な疾患の症状が改善されたとの体験談も掲載されていました。しかし、この折込チラシには具体的な商品名は記載されておらず、折込チラシに記載された研究会の連絡先に資料請求をすると、サン・クロレラ販売の商品カタログが送付されるという仕組みが採られていました。

 適格消費者団体は、この折込チラシについて、景品表示法に基づく差止請求権と消費者契約法に基づく差止請求権を主張して提訴しましたが、今回の最高裁判決の対象となった消費者契約法に基づく主張を要約すると、以下のような内容でした。

 折込チラシは、消費者契約の締結についての「勧誘」に当たり、その折込チラシに消費者に対する不実告知(重要事項について事実と異なることを告げること)等があれば、消費者契約法に基づく差止請求の対象となる。

 原審の大阪高等裁判所は、この適格消費者団体の主張に対して、従来の行政解釈に従って、以下のように判断しました。

 消費者契約法上の「勧誘」には、事業者が不特定多数の消費者に向けて広く行う働きかけは含まれず、個別の消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の働きかけを指すから、折込チラシは「勧誘」には当たらない。したがって、消費者契約法に基づく差止請求の対象とはならない。

 世間一般の語感としても、不特定多数の人に向けられたものは「広告」であって、「勧誘」は特定少数の人に向けられたものというイメージがありますので、大阪高裁の判決は、ごくごく当たり前の判断をしたものと考えられました。

最高裁判所の判断とEC業界への影響

 しかし、最高裁は、折込チラシが「勧誘」に当たるかどうかについて、次のように述べて、大阪高裁の判断を違法としました。

 例えば、記載内容全体から判断して、消費者が事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、その働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るから、不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を一律に「勧誘」から除外するのは、消費者契約法の趣旨目的に照らし相当ではない。

 消費者契約法は、消費者と事業者との間の情報の質や量、交渉力の格差を考慮して、消費者の利益を擁護することを目的とする法律ですが、そのような法律の目的を達成するためには、「『広告』と『勧誘』は別物」という一般的な感覚を少し広げて解釈すべきだとしたわけです。

 もっとも、最高裁も全ての広告が勧誘に当たるとしたわけではありません。「商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような広告」が「勧誘」に当たり得るとしていますので、商品やサービスの価格等が明示されない一般的なテレビCMまで「勧誘」に当たるとしたわけではないと思われます。

 一方で、インターネット上のランディングページやECショップの商品ページなどは、価格や取引条件等が具体的に書かれており、最高裁が挙げた例に当てはまりますから、「勧誘」に当たる可能性は高いと言えます。そして、ランディングページや商品ページが「勧誘」に当たるとすると、その記載内容によっては、消費者に契約の取消権が発生したり、適格消費者団体からの差止請求を受けたりすることになります。特に、「重要事項について消費者の利益となる旨を告げ、かつ、その重要事項について消費者の不利益となる事実を故意に告げなかったことにより、消費者がその事実が存在しないと誤認した場合(不利益事実の不告知)」にも、契約の取消しや差止請求を受けることになるわけですが、広告にはその商品の良い部分を強調して書くのが一般的ですから、これまでは違法とされなかったランディングページや商品ページの多くが違法とされる可能性があります。

 今回の最高裁判決を受けて、今後、消費者契約法の改正論議が進み、勧誘に当たる広告と勧誘に当たらない広告の区別が明確化されるはずですが、どのような結論になるにせよ、EC業界に与える影響は、とても大きなものになることが予想されます。


著者

木川 和広 (Kazuhilo Kikawa)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル
国際的な案件も含め、EC関連企業の法律問題を幅広く取り扱う。
(木川弁護士プロフィール)https://www.amt-law.com/professional/profile/KLK