【第三回】クレームを起こす顧客心理は「○○」を大切にしてあげれば解決する!

中澤 恵

「すみません、普通に使っていたら急に壊れたんですけど」

なんの前触れもなく冷たい声と共に訪れる、それがクレーム。
サービス業をお仕事にされている方であれば、誰しも1度は経験が
あるのではないでしょうか?

「一次感情」と「二次感情」を理解すべし!

私はトータルで13年間大手メーカーの直営店で
時計の販売に従事して来ましたが、最初の方はクレームが大の苦手で
お客様の怒鳴り声が怖くて、血の気が引いて震えてしまい
まともな対応が取れないどころか、さらにお客様を怒らせてしまい
胸ぐらをつかまれ罵詈雑言を浴びせられるまでヒートアップさせて
しまう……というくらいクレーム対応が大の苦手でした。


ただ25歳の時に店長になり、店舗クレームの全てを受ける立場に
なってからは怖い怖い!とも言ってられなくなりましたので
クレーム対応能力向上のために、日々研究をしていました。

その中で非常に役に立ったのが
心理学の「一次感情」と「二次感情」という考え方です。


簡単に説明すると
お客様の「クレーム(怒り:二次感情)」には、そこに至る前に
もう一つ別の感情が最初にある(一次感情)ということです。

例えば
誕生日などのお祝いとして前から欲しかった時計を買ってもらった。
大事に使っていたのに、ある日突然動かなくなって悲しかった。
この「悲しい」という感情が一次感情に当たります。

そしてこの「悲しみ」を訴えるために
「怒り」という二次感情を用いるんですね。

怒りって爆発力が強い感情ですから、相手に何かを訴える時には
訴求力が抜群なんですよね。
だから人は「怒り」を使って「悲しみ」などを訴えるわけです。

クレームにおける顧客心理を理解する

ここまでが心理学的な一次感情・二次感情の説明になりますが
私が仕事に活かす勉強の果てにたどり着いた
「コーチング」というコミュニケーション技術を学んだことに
より、さらにクレームにおける顧客心理を理解するに至りました。


それは「悲しい」と思う一次感情以前に

・誕生日に買ってもらった特別な時計であること
・プレゼントされたことがすごくうれしかったこと
・その時計を大切に使っていたこと
・時計が大好きだったこと

そういうお客様の「価値観」や「想い」が存在し
それがある日突然奪われてしまったことが「悲し」くて
「怒り」でそれを私たちに訴えているのだな、と知ったことです。


どうしてもサービス側は
「クレーム=無理難題を押し付けてくる厄介な顧客」
と認識しがちですが、多くのお客様は代償保証の訴求以上に
「自分がどれだけ商品が好きで、失われたショックが大きいか」
を分かって欲しいと訴えていることがほとんどなのです。


まずはこの感情の訴えをサービス側が受け止めることが
クレーム対応を上手く行かせるコツです。

ほとんどのクレーム対応がこじれるパターンは
このお客様の「想い」を無視して、
サービス側の「出来る対応の説明」や「故障原因の説明」に
徹してしまい、鬼気迫るお客様から早く逃げたい一心で
一方的に訴えを聴く前に、弁明や対応に走ってしまうことが
原因と考えられます。

まずはお客様の「想い」の訴えに耳を傾け、受け止めることが大切です。

例え、サービス提供者の価値観からしたら
「どうしてこんな安いものが壊れただけでこんなに怒るのか?」
「こんなに古いものを使っていたら壊れるのは当たり前だ」

そう思ったとしても
それはあなたの考えであってお客様の考えではありません。

例え安い商品や古い商品であったとしても
お客様が一生懸命働いて、欲しくて頑張って買ったものかもしれないし
大切な方からプレゼントして頂いた思い出の品かもしれません。


その商品がお客様の手元に来てから、壊れるまでの
想いやストーリーを聴かずに
「古いですから壊れても仕方がないですね」
「この価格の商品なら修理代の方が掛かりますよ」
と言われたら、誰だって多少は怒るのではないでしょうか?

それよりも、たった一言
「そんなに大事にご利用くださっていたのですね」
「それは壊れてしまってショックでしたよね、自分でも同じことを思います」

そう想いに寄り添った一言をお伝えするだけで
「わたしの気持ちを分かってもらえた!」
とお客様は理解して、怒りが消える方がほとんどです。

こうやって怒りが消え、お客様のお気持ちを受け止めた上で
「会社として最大限出来る対応の提示」をすることで
お客様は「誠意ある対応」だと受け止めて下さいます。


実際わたしが対応したケースで
大声で怒鳴り込んで来たお客様の訴えを5分間丁寧にお伺いしたところ
聴けば
「先月亡くなったおばあちゃんが「時間を大切にしなさい」と
 亡くなる前に贈ってくれた時計」
だったのに3か月で壊れたということが分かり

「そんな想いの詰まったものが3ヵ月で壊れてしまったら
 それは悲しいし、許せないですよね。
 商品に信頼を失くすのも当然です」

大変申し訳ございませんでした、とお詫び申し上げたところ
店頭で「そうなんです、本当にそうなんです。クレームを言いたいわけじゃ
ないんです。」と涙目になりながら伝えて下さったお客様もいらっしゃいました。


その後、こじれることも無く、修理が終わりお届けした後は
常連のお客様となって下さり、何度もご購入頂きました。

クレーム対応は本当に労力を使いますが、ちゃんと対応出来れば一転してリピーターやファンを増やす機会にもなります。

是非、「怖い!」と思って説明に走る前に
お客様の「想い」を大切に聴いてみてください。
きっとクレームが「怒り」ではなく「愛」に溢れていることに
気が付きますから。


著者

中澤 恵

大手時計メーカーの直営店にて13年間販売員として勤務。
うち10年間は店長として店舗運営をする中で
自分との考え方の違い、仕事に対するモチベーションの低さ、ジェネレーションギャップ、
指示待ちで自主性がない、失敗を極端に恐れるあまり責任を負いたがらない、
協調性がない、そんな個性様々なスタッフをどう育ててチームを作っていけば
いいのか分からず、胃潰瘍になるまで悩みぬいた末、コーチングやカウンセリングなどの
コミュニケーションスキルをアップさせるための勉強を始める。

その中で「相手の関心に関心を寄せて話を聴く」ことの大切さを痛感し
スタッフ一人ひとりと対話の時間を多く設けるようになったところ、
半年以内に変化が表れ、自主性のアップ、モチベーションの向上、
それぞれの得意を活かし、苦手は補い合うようなチーム育成に成功。

以降、社内外で上司や部下とのコミュニケーションに悩む人たちの
相談役として活動するようになり、2016年7月に独立。

会社員や経営者、個人事業主や芸術家など幅広い層をサポートしながら
『自分の能力をフル活用して仕事も人生も遊びきるオトナを増やす』
活動をしている。

個人事業主や中小企業向けのプロフィール写真専門の
カメラマンとしても活動中。

好きなおにぎりの具はすじこ。

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