【第3回】損益分岐点売上高がわかると年収がアップするって本当ですか?

古屋 悟司

花屋ゲキハナを経営する傍ら、昨年と今年、2冊の会計書を出版させていただきました。
失敗続きの連続ですが、僕の失敗が誰かのお役に立てるならうれしいです!
身をもって体験した、売上、利益、お金の話を少しばかりさせていただきます。

<過去記事はコチラ>
【第1回】売上が上がると年収がアップするって本当ですか?
https://ecnomikata.com/column/20168/

【第2回】粗利が上がると年収がアップするって本当ですか?
https://ecnomikata.com/column/20188/

■そもそも、損益分岐点ってなんだろう?

聞いたこともあるし、なんとなくはわかるという方は多いと思います。

損益分岐点とは、正しくは「損益分岐点売上高」と言って、損も益も出ていない、損益トントンになる売上高のこと。

早い話が赤字(損)と黒字(益)のボーダーラインになる売上のことです。

損益分岐点売上高を大きく超えて、黒字になる状態が長く続けば会社は潤ってきます。それに応じてボーナスが上がったり、基本給が上がったりする可能性は大いにありますよね。

その辺りは社長さんのさじ加減ひとつかもしれませんが、長期的に大きな黒字を得ることができれば、さらなる黒字のために、出た収益を何かに投資をして行くのが会社です。

例えば、新しい人を雇ったり、新しい設備を導入したり、商品を強いれたり、作ったり。何かに投資して、リターン(利益)を得てを繰り返していくのが会社の形です。

その投資(お金)の行き先が、あなた自身であれば、給料は上がるということを意味します。

投資という観点だけで見ると、人を商品のように扱って酷い!と思うかもしれませんが、これはあくまで一つのものの見方です。従業員を大切にしたり、人と人とのつながりを大切にするなんてことは当たり前として捉えてくださいね。

その上でお話を進めていくと、「会社があなたへ投資をしたくなる」という状況を作れば、確実に給料は上がって行きます。ただ、感覚として、「頑張ったご褒美に給料が上がる」と思っていると、給料って上がって行きにくいんです。

頑張って業績を上げれば自分の株価が跳ね上がり、会社があなたに投資してくれる。これが給料が上がっていくメカニズムの一つです。「この人に毎月50万円を渡すと150万円の利益になって返ってくる」と思ってもらえれば自ずと給料は上がります。

もちろん、会社を経営する社長の立場として考えると、頑張ってくれている社員の給料はどんどんあげてやりたいと思って当然。

でも、給料を上げたけれど、その分の利益が上がってこないようであれば、その投資は失敗。会社の経営自体を危なくしてしまうので、踏み切ることができないという想いがあるんです。そこの部分は理解して欲しいところです。

わかりやすい例え話をしますね。あなたが株の投資をしていたとします。10万円投資して株を買い、その株を売ったら7万円になって戻ってくる株にさらに投資をしようと思うでしょうか?それと全く同じ理屈で給料は考えられています。

10万円投資して株を買い、その株を売ったら30万円になって戻ってきた。これなら、さらにもう20万円投資してみよう。そんな風に思いますよね?そういう仕事ぶりであれば、あなたの給料は上がって行きます。

ただし、会社が赤字の場合には、投資する余力がありません。ですから、まずは会社がきちんと黒字化することが大切になります。その時に、必ず越えなければならないのが、損益分岐点売上高というわけです。

■損益分岐点売上高の計算方法

<公式>
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率


こんな風に計算されるのが、損益分岐点売上高なのですが、チンプンカンプンだと思います。手っ取り早く社長さんに「ウチの会社の損益分岐点売上高はいくらですか?」と聞いてしまうのが楽チンです。ただ、限界利益率が下がってしまう「値下げ」や「値引きクーポン」などを多用した販売促進で売上を上げても、損益分岐点売上はどんどん上がっていってしまいます。

早い話が 固定費<限界利益 となるようにしなければなりません。

ここで少し、「限界利益」という利益の考え方に触れておきます。限界利益とは、売ったら売った分だけかかる経費を引いた利益のことで、粗利よりもさらに正確に粗利を計算する方法です。

<公式>
限界利益=売上−変動費(売ったら売った分だけかかる経費)


変動費とは「売ったら売った分だけかかる経費のこと」なので、仕入原価や出店モールのロイヤリティ、カード決済手数料、梱包するための箱代、発送にかかる送料などのことを指します。それを全て差し引いて出てきた利益が限界利益というわけです。言うなれば「本当の粗利」ですね。

限界利益率を計算するには、売上に対する限界利益の%を出せば良いので

<公式>
限界利益率=限界利益÷売上×100


これで出てきます。そして、毎月、もしくは毎年の固定費を計算して把握しておけば、損益分岐点売上高が計算できるというわけです。こと会計のことになると、僕もそうでしたが「数字アレルギー」が出てしますので、実際の数字は出さないでおきますね。概念としてはこんな風に計算することができます。

説明は軽めにしておきます。これを詳しく説明すると、一冊本が書けてしまいますので、さらに詳しく知りたい場合には拙著『「数字」が読めると本当に儲かるんですか?』をお読みください。(このコラムの一番最後にリンクを貼っておきます)

■会社が黒字になったら給料は上がりますか?

会社が黒字であれば、その黒字額を自分たちに還元してほしいと思うのが、従業員としては正直なところ。

でも、そうもいかないのが会社という組織です。損益分岐点売上高を無事超えて、会社が黒字になった時に、次に行うのが「さらなる黒字の拡大」となります。

その会社が「事業拡大」を狙っているのか、それとも今のままで黒字額を増やして、「社員たちに還元したい」のか。会社の方針一つで、自分たちの給料も決まってきてしまいます。

会社自体が事業拡大を考えているのであれば、黒字になったお金をさらに新しい人材や、設備に投資して事業拡大を狙っていきます。社員たちに還元するのが後回しになる場合も多々あるんです。その場合には、自分自身が会社の中での「キーパーソン」になって注目される必要があります。

注目されるかどうかは、すべてが「他人との比較」で成り立っているので、「他の人と比べて頑張っている」かどうかは、あまり重要ではありません。「他の人と比べて、会社に利益をもたらしてくれるかどうか」というのが重要になってきます。

また、給料を決める決定権者(多くの場合は社長や人事や上司)に嫌われていると給料が上がりません。僕自身も、結果を出しているのに、評価されないことに腹を立てていた時期がありました。

でも、経営者になってわかったことは、「嫌いな人を優遇しようとは思わない」ということです。人はなんだかんだ言っても一人の感情を持った人間ですから、数字だけでは動かないんですよね。好かれている人の給料は上がる可能性が高いですし、自分のそばに置きたいというのが正直なところです。

イエスマンになれという話ではないのですが、人と仲良く上手にやっていくというのも、スキルの一つだと思います。

小さい会社だと「評価制度」がきっちりと決まっているわけではないので、社長の気分ひとつで評価が決まるなんてことは良くあります。理不尽に感じるかもしれませんが、決定権を持っているのが社長なので、難しいところです。そもそも論ですが、「社長の理念や、やりたいことに共感して入社したのかどうか」というのも大切な部分かと思います。

「実力さえあれば評価される」というのは幻想にすぎないのが現実です。

早い話が、好かれたうえで。自分の給料に対する損益分岐点売上を大きく上回るような仕事ぶりや結果が出せれば、会社はあなたにどんどん投資してくれるという仕組み。

人件費というのはそんな仕組みで成り立っているんです。


■損益分岐点売上高を大きく越えれば給料に直結する

ともあれ、圧倒的な結果を出して、給料を上げていく方法もないわけではありません。損益分岐点売上高を、大きく上回れば大きな黒字額が生まれます。

大きな黒字になると、実は経営者にとっては嬉しいけれど困ったことが起きるんです。たくさんの税金を払わないとならなくなるため、「税金払いたくないなあ」という感情が湧いてくるんです。

そこで「税金を払うくらいなら、みんなに還元しよう!」という気持ちになることが多いです。でも、「そんなこと言ってもベンツ買うお金に使うんじゃない?」と思うかもしれませんがベンツを買っても余るほどの黒字の利益が出れば、お金の使い道に困りますよね。

ということで、「決算賞与としてみんなに還元しましょう」というのが節税対策になります。ここまでしないと給料を上げてくれない社長さんが、正しいかどうかは別として考えてみてください。会社の業績が上がることは、社長にとっても社員にとっても悪いことではないですよね。

「先に給料を上げてくれれば頑張るのに」と言う意見をたまに耳にします。その気持ちはとてもよくわかります。でも、物理的に可能な会社はとても少ないのが現状です。

現在赤字の会社は全体の70%と言われています。給料を支払う原資を持たない会社が多いのが現状です。また、あなた一人の給料を上げることはなかなか難しいので、社員全員の給料を上げるとします。そうなると、毎月ものすごい金額の投資が増えることになるので、損益分岐点売上高がかなり高くなってしまうんです。

もうお気づきになると思いますが、売上目標はグンと上がり、ノルマがきつくなり、上司の方も厳しく当たるようになるのは当然予測できることですよね。

会社としても黒字化が難しくなるので、倒産してしまえば自分自身の首を絞めることになります。また、基本給を一度上げると、下げることは容易ではないため、昇給は長期的な約束をするのと同じです。

基本給を1万円上げただけでも、30名の会社であれば毎月30万円、年間で360万円のコスト増。さらに、社会保険の負担も増えていきますので、結構な負担が会社にかかります。

わずか1万円の基本給アップなのに、心理的負担が大きくなる可能性をはらんでいます。そんなことであれば、先にビシビシ頑張ってしまって大きな黒字を出し、決算賞与をもらった方が嬉しいですよね。

■損益分岐点売上高は一人の力では超えられない

ここまで、損益分岐点売上高を超えて、大きく黒字を出すことが年収アップの近道というお話をしてきました。

よし!頑張るぞ!と思った方もいらっしゃると思います。でもちょっと待ってください。一人の力でそこまでの大きな黒字を出すことって、なかなか難しいんです。会社でめちゃくちゃ頑張っている方にたくさん出会ってきました。そのほとんどの方が、自分一人で頑張っていることがとても多かったんです。

「僕は頑張っているのに会社は評価してくれない」と嘆いている人も少なくなかったです。結果として、一人で頑張っても、出てくる結果は会社を動かすほど大きくなることは稀です。ですから、まずは頑張る仲間を作って一緒に頑張る環境を整えることが先だと思います。

同じような思いをしている仲間が社内にいると思います。部署が違っても全く問題ありません。仲間づくりに欠かせないのが、相手に対する「感謝の気持ち」です。

実質、販売をしている部署は、会社の売上を作る部署です。「会社を僕らが支えているんだ」という自負もあるかと思います。毎日頑張ることができるのは、経理や総務をしてくれる方が、細かな計算や処理をしてくれるからこそです。

経理や総務の方は、売上に直結しない仕事ですが、経費を節減する仕組みづくりは得意です。その部署で働く頑張っている方にも声をかけて、「どうやったら大きな黒字が出せるのか」を一緒に考えても良いと思います。

細かな数字に強い彼ら彼女らは、喜んで計算をしてくれると思います。

そんな頑張る仲間を「感謝の気持ち」を中心に据えて作って行くと、思わぬところで相乗効果が発揮されて、仕事が楽になって行くことがあります。頑張る仲間で大きな黒字を出し、社長から認めてもらうことが、給料アップの近道です。

「会社はなぜ自分を評価しないんだ?」とくすぶって辞めて行くよりも、よっぽどこの方が楽しく仕事ができるはずです。

僕は、このコラムを通して、社員と経営者がともに同じ方向を向き、会社が盛り上がることを応援したいと思っています。

お互いがお互いの異なる視点を理解し合い、協力しながらより良い会社を作り上げていってくれれば嬉しく思います。

■次週は・・・。



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次回のお話は、『ビジネスモデルが変わると年収がアップするって本当ですか?』をお送りいたします!

【第4回】ビジネスモデルが変わると年収がアップするって本当ですか?
https://ecnomikata.com/column/20359/


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著者

古屋 悟司 (Satoshi Furuya)

1973年東京生まれ。
あとりえ亜樹有限会社代表取締役
V字回復研究所 所長
「さしすせそ」がうまく言えない東京育ち。
大学卒業後、トヨタのディーラーに就職。新人賞を獲得後、さらなる収入アップのためにブラック企業へ足を踏み入れる。
訪問販売業で荒稼ぎするも、自宅が火事になり全てのやる気をなくし退職。
2002年再起をかけ花屋ゲキハナを開業。2004年楽天市場へ出店。
倒産の危機を経験し、三方よしを学ぶ。
その経験を生かして書いた会計本『「数字」が読めると本当に儲かるんですか?』は、国内外で高い評価を得てロングセラーに。台湾で翻訳され、中国でもその予定あり。
好きな食べ物は、ラーメンとカレー。
現在、「V字回復研究所」を立ち上げ、会う人と会社を元気にする活動をしています。


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