消費者インサイト ~本人が気づいていない本音を探る~
皆さん、こんにちは。株式会社売れるネット広告社 コンサルタントの迫川です。
今回のコラムでは、よくマーケティングで聞く「インサイト」についてご紹介いたします。分かっているようで実は難しい「インサイト」。「インサイト」と「ニーズ」の違いから、「インサイト」を見出したことで成功した事例をご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
インサイトとは
「インサイト」は直訳すると「洞察」や「物事を見抜く力」などを意味しますが、マーケティングにおいては少し意味が変わってきます。
シンプルに言うと、「表に出ていないユーザーの本音」が近いでしょう。多くの消費者は、モノを買うとき、なぜその商品を購入したのか?なぜその店舗を選んだのか?といった自分自身の行動に対して、明確な答えをもっていないことがほとんどです。
また、「表に出ていない」という部分からよく「潜在ニーズ」と混同されることがありますが、ここは明確に分けて考える必要があります。
潜在ニーズは、質問を掘り下げることである程度浮かび上がります。消費者自身では気づいていないものの、「欲求」として存在しているからです。一方、「インサイト」はまだその「欲求」自体がない状態を指します。(少しわかりづらいと思うので、後ほど事例でご紹介します。)
なぜ「インサイト」を探ることが必要なのか。
モノにあふれた現代、商品やサービスの差別化が難しくなっているのが現状です。毎年モデルチェンジされるスマホ1つとっても、正直、スペックなどに大きな差はありません。
そんな中、自社の商品を選んでもらうためには、新たな「価値観」の提供が必須となり、そのためには、潜在的にあるニーズ(欲求)の一歩奥にある「インサイト」を見つけ出すことが重要になります。
インサイトマーケティングの事例
ここで、「インサイト」を見出すことで成功を収めた事例を2つご紹介します。
ナショナル:家事効率化は悪!?
最初にご紹介するのがナショナル(現パナソニック)の食洗機の事例です。
当時、ナショナルを含めた多くの食洗機メーカーは、子育て中の親をターゲットとし、「最新の洗浄技術で家事が楽になる」という内容をメインに訴求するのが一般的でした。
ただ、市場が飽和し、技術的にも大きな差別ができなくなってきた現状を鑑みたナショナルは、新たな訴求軸、販売戦略を見出すため、子育て中の親の日常生活を徹底的に調査することを始めました。
すると興味深い「インサイト」が浮かび上がりました。子育て中の親の多くが「自分の家事は楽になりたいけど、子育ての手抜きと思われるのが嫌だ」と考えていることがわかりました。
家事が忙しくてついイライラするが、その家事を楽にすることには罪悪感を覚え、その結果、「食洗機を使う親=子育てをサボる親」のイメージから食洗機を敬遠しているという事実がそこにあったのです。
これをふまえ、ナショナルは食洗機を「家事を楽にする道具」から「子育て家電。子供との時間を少しでも長く楽しく。子育てを応援する道具」として打ち出し、大きな成功を収めました。
家事が楽になる=サボっていると思われる罪悪感という「インサイト」をうまく利用し、食洗機の価値を「家事効率化」から「育児応援」に切り替えた事例です。
参照:「インサイト実践トレーニング」桶谷功著 ダイヤモンド社
大戸屋:2階に店舗がある理由
一般的に集客力が弱く、飲食店出店の際には敬遠されることもあるビル地下や2階テナント。和定食店「大戸屋ごはん処」をよくみていただくと、実はあえてこのビル地下や2階以上に出店していることが多いことに気づくかと思います。
実は、大戸屋のこの出店計画にも、消費者自身も意識していない領域=「インサイト」が大きく関係しています。
大戸屋のモデル店舗となる吉祥寺店がオープンしたのが1992年頃。当時はファストフードやファミリーレストランの全国チェーン店は数多くありましたが、和食定食のチェーン店は少なく、大戸屋はその先駆者的存在でした。
定食屋と言えば男性ががつがつ食べる場所というイメージが強かった当時、新たな客層として女性をターゲットとした展開を考えていた大戸屋は、女性の気持ちを徹底的に調査しました。
まず浮かび上がったのが、女性の多くが抱える「一人の外食が苦手」という意見。大戸屋はここで調査を止めず、さらにインサイトを探った結果、一人で外食することが苦手なのではなく、「一人で店に入るところを見られたくない」という「インサイト」にたどり着きました。
結果、集客としては弱いとされるビル地下や2階以上にあえて店舗を構えることで、ターゲットである女性の一人客の支持を集めました。
参照:大戸屋が愛される理由 野菜メニュー豊富で女性客を意識
https://www.moneypost.jp/248328
まとめ
マーケティング活動において、消費者インサイトを捉える重要性はご理解いただけましたでしょうか。消費者自身も気づいていない「インサイト」。見出すためには、お客様の声や行動をそのまま追うのではなく、なぜ?を繰り返しながら「洞察」することが必要です。
中々困難な道のりではありますが、一度見出すことができれば、今回ご紹介した事例のように、新たなターゲット、新たな販売戦略、新たな価値観の提供が実現できるかもしれません。