ベイクルーズのライブコマース運営とは 最大9000人の視聴者を集める集客力

藤次 一嘉

株式会社ベイクルーズ EC統括 Digital Marketing Div. Planning&Operation Sec. 所属
(右)プランナー 池田 侑紀子氏
(中央)プランナー 森島 実香氏

株式会社Moffly
(左)代表取締役 藤次 一嘉氏

コロナ禍で外出が難しい中、注目が集まっているライブコマース業界。ECのミカタでは、SaaS型ライブコマース・ツールであるTAGsAPI(※)を提供している株式会社Mofflyの代表取締役・藤次一嘉氏をコラムニスト兼インタビュアーにお招きして、ライブコマースの最前線をお伝えする。

第一回となる今回は、アパレル最大手で早くからライブコマースを導入しているベイクルーズEC統括部の池田侑紀子氏と森島実香氏に、導入の経緯や配信のコツを伺った。

※TAGsAPIとは
自社ECサイトにて、ライブ配信を通じて商品の接客・販売ができるクラウド型ライブコマース・サービス。

ベイクルーズストアのライブコマースは平均5000名以上に視聴されている

ーーまず最初に、ベイクルーズストアとはどういうサイトなのでしょうか?

池田:ベイクルーズグループが運営する公式通販サイトです。現在JOURNAL STANDARDなど全43ブランドを取り扱っています。

ーーベイクルーズストアは現在SaaS型ライブコマース・サービスのTAGsAPIを導入されていますが、これはどういった経緯で導入に至ったのでしょうか?

池田:きっかけは2020年4月に出された緊急事態宣言です。店舗が閉業になりスタッフも出勤もできない中で、なんとか商品の良さを伝えられる機会を作ろうということで始めました。

ーー実際にサイトに導入された時期はいつ頃でしょうか?

池田:4月から検討を始めて、導入したのは5月ですね。ツールがシンプルだったので、かなり導入はスムーズでした。

ーーInstagram等でライブコマースを行うという方法もあったかと思いますが、サイトへの埋め込みという方法を取られたのはなぜでしょうか?

池田:まずインスタライブの場合、売上やユーザーの行動データが見れないんですね。やるからには「売上のデータが見れる」というのは必須だと思うのでサイトへの実装に決めました。あとは、ユーザーにとって購入までの導線がスムーズなのも良かったです。

森島:それから、Instagramはブランドごとにアカウントが分かれているという問題もありました。ベイクルーズストアならブランドを横断して会員全員にアプローチできますし、実際にライブコマースを通じて「ブランドのファンからベイクルーズのファンになった」という声もいただいています。

ーー現在平均でどれくらい視聴されているのでしょうか?

森島:積極的に告知を行っているので、多いときで6000〜9000名、平均だと4500〜5000名にご視聴いただいています。

ーー売上の方でも成果は出ていますか?

森島:ライブ経由の売上は配信から1週間で平均90万ほどですね。商品点数としては平均60点ほどが出ています。

ーーかなりの実績が出ていると思うのですが、売上を目標として運用されているのでしょうか?

森島:何回か配信して、いまは動画の視聴ユニークユーザー数をKPIにしています。緊急事態宣言などの状況に関係なく、普段から見ていただけるファンの方を増やしたいなと思っています。

ーーなるほど。「ファンを増やす」というのはライブコマースが最も得意な領域なので、すごくツールにあった運用をされているなと感じます。

ライブコマースを通じて人気になったスタッフも出てきている

ーー配信の内容についてお聞きしていきたいのですが、まずキャスティングはどういった点に気をつけて行っているのでしょうか?

森島:店頭でファッションアドバイザーとして活躍しているスタッフや、商品の知識があるバイヤーやプレスなどを中心に出演してもらっています。ライブコマースだと視聴者から直接質問が飛んでくるので、それにくわしく答えられる方をキャスティングしています。

ーーベイクルーズのライブコマースの場合、スタッフに名指しで質問が来ることもありますよね。

森島:そうなんです(笑)。ライブコマースに出演するようになってからファンが増えたというスタッフも多いです。

ーーそのようなライブコマースでファンがつくスタッフに共通していることはありますか?

森島:やはり商品の細かいところをうまく説明できるスタッフですね。「この生地は透け感がありますが、こういう色の下着なら透けません」「この生地はサラサラというよりシャカシャカしています」という細部を伝えるのがうまいというか。

あとは、お客様に寄り添った提案ができることも大事だと思います。「この身長ならこれぐらいの丈になります」と伝えるだけではなくて、そこから「長すぎると思ったらこの高さのヒールを履くとバランスがいいですよ」と一言足せると良いですよね。お客様が「これなら自分でも使いやすそう」と思えるような提案ができるスタッフは、ファンが増えていると感じます。

ーーそういったスキルは接客とは別のスキルになるのでしょうか?

森島:もちろん接客もライブもどちらもうまいスタッフというのはいるんですけど、普段接客をしていないデザイナーもライブコマースでは人気です。

商品を熟知していて、どこから仕入れた生地なのか、どういう意図で作った柄なのかといった、ブランドならではのこだわりを語れるので、お客様からの反応もいいです。

ベイクルーズの配信は親しみやすさやカジュアルさが魅力のようにも思います。

森島:出演者もスタッフも直前まで談笑していて、その流れでライブコマースを撮り始めるので、楽しい雰囲気が出せているのだと思います。

ーーベイクルーズでは時々モデルやインフルエンサーの方が出演されていますが、そちらはどういった意図なのでしょうか?

森島:新しいファンを増やしたいときはゲストをお呼びしています。ゲストが来ると既存ファンの方にも喜んでもらえるので、一石二鳥だと思っています。

ーー商品選びはどういった基準でされていますか?

森島:通常配信の場合、ブランド担当者がそのときにオススメしたい商品を選んでいます。シーズンものやコラボ商品などが多いです。ゲストをお呼びする回は、ゲストに商品を選んでもらったりしています。

ーー視聴者とのコミュニケーションで気をつけていることがあればお聞きしたいです。

森島:全体的に、ユーザーの質問にとにかく親切に答えていく動画の方が伸びるんですね。

ーーそうなんですね。

森島:あとは、質問に答えるだけじゃなくて、商品の良さをプラスアルファして答えた方がライブ中の売上にも繋がりますね。

それから、何もコメントがないと視聴者の方も書き込みにくいので、出来るだけコメントしやすい雰囲気を作るのが大事だと思っています。出演者たちが積極的に「なんでも質問してくださいね」と呼びかけるようにはしてますね。

ーーいままでユーザーからもらったコメントの中で、印象的だったものはありますか?

森島:「ベイクルーズのライブに元気づけられています」みたいなコメントは我々もとても嬉しいです。

あとは「いつもベイクルーズストアのライブスタイリングを見るのが楽しみです」といったコメントをもらうことがあるんです。そうやって、ただ商品を紹介するだけじゃなくてひとつのコンテンツとして配信を楽しんでいただいているコメントは嬉しいですね。

ーーユーザーからの質問に対して、口頭ではなくコメントで返されていることも多いですね。

森島:そうですね。時間内に答えられなかったものはコメントでフォローするようにしています。色味など、画像の方が伝わりやすいものは、そちらをご案内したりもしています。

ーーお聞きしていると、視聴者が購入前に気になることをとにかく解消するということが重要なのかなと思います。

森島:ECの購入って「本当に似合うかな?」「サイズ感大丈夫かな?」といったところが一番不安だと思うんですね。なので、そこをとにかくフォローするようにしています。

ルーティン化することで少人数で配信を回せる

ーー配信場所は社内を使われているのでしょうか?

森島:ベイクルーズの場合、社内にいくつかスタジオがあるのでそこに撮影スペースを設けています。

ーー社内で配信をする場合、雰囲気づくりが難しいかと思うのですが、工夫されている点はありますか?

森島:「お店にいけない代わりにライブを楽しんで欲しい」という思いがあるので、雰囲気作りはかなりこだわっています。

動画が縦型なので、そこに収まるように商品ラックを配置したり、ブランドイメージに合うようなグリーンやラグを敷いたりしてますね。後ろのラックにかけている商品に問い合わせが来ることもあるので、その場でモデルが着てみせることもあります。

ーー機材はどういったものをお使いなのでしょうか?

森島:TAGsAPIにおすすめいただいたものを一式購入したうえで、撮影場所に合わせてライトやマイクなどを買い足しています。

池田:少ない人数で回しているので、最低限の機材で始めたのは向いてたかなと思います。機材を持って社内を移動することも多いので、トートバッグにまとめて持ち運べるのはありがたいです。コンパクトなので、配信前の準備もあまり時間がかからなくてすみますね。

ーー配信はどれくらいの頻度でされているのでしょうか?

池田:現状で週2回、月8回前後ですね。ブランド側の販促やベイクルーズストアのイベントに合わせて調整しています。

ーー配信時間も固定されていますか?

池田:そうですね。基本的には午後8時に配信しています。たまに午後7時にやることがあるのですが、ベイクルーズストアの訪問者数のピークが午後8時なので、やはり視聴者数は少なくなります。

ーー配信時間はもともとのサイトのユーザーデータをもとに決めているということですね。配信は何名体制で行っているのでしょうか?

池田:出演スタッフが2〜3名、ナレーションスタッフが1名というのが基本です。状況にあわせてナレーションのサポートスタッフや、着替え・ヘアメイクのスタッフがいます。立ち会いのEC担当者を入れると、最小で5〜6名、最大で10名以上で行っています。

ーー少人数でかなりの配信を回している印象がありますが、運営のコツなどはあるでしょうか?

池田:ライブの準備をすべてルーティン化しています。「◯日前までにこれを作る」といったスケジュールをきっちり決めて、担当者で回している形ですね。ルーティンを決めて崩さないようにすれば、少人数でも安定的に配信を続けていけると思います。

ーーなるほど。告知についてもお聞きしたいのですが、よく使われている告知方法はなんでしょうか?

池田:アプリのプッシュ通知が一番うまくいってると思います。ベイクルーズストアのアプリがあるので、そこから通知を送っています。

ーーLINEやTwitterといったSNSも活用されていますか?

池田:メールマガジン、LINE、Instagram、Twitter、Facebookなどの各種SNSでは告知しています。あとはECサイト内ニュースへの掲載と、バナー掲載もしています。

ーーサイト内ニュースからの流入は多いのでしょうか?

池田:そうですね。ライブのテーマをぱっと見ただけでわかるようにして、たまたま来た方が気軽に見られるようにしています。

ーーなるほど。コンテンツだけでなく運営にもかなり工夫をされているんですね。

ライブ中と後日のアーカイブで売れる商品には違いがある

ーー配信された動画はアーカイブとしてサイト上に残りますが、アーカイブを活用するために気をつけていることはありますか?

池田:当日在庫がなくてご案内できなかったものを追加したり、商品の入れ替えなどを行っています。あとはサムネイルに出演者の顔を入れて、好きなスタッフが出ている回をすぐ選べるようにしています。

ーーサムネイルには、ベイクルーズストアのライブコマース名称である「LIVE STYLING」というロゴも毎回入れられていますね。

池田:そうですね。名前を浸透させるためにロゴを入れるようにしています。結果として、ライブコマースの配信がシリーズもののように見せられていると思っています。

ーーTAGsAPIを提供している弊社に「LIVE STYLINGをやりたいです」という問い合わせが来ることもあって、かなり名前が浸透しているという印象があるのですが、名前をつけるときに気をつけたことなどはありますか?

池田:「スタイリングを提供したい」というのが念頭にあったので、それが伝わるように気をつけました。ユーザーが見たときにどういうライブなのかを想像しやすい名前になっていると思います。

ーーなるほど。アーカイブとライブで売れる商品に違いなどはありますか?

池田:ライブ中に視聴者からの質問やコメントが殺到して盛り上がった商品は、一気に売れることがありますね。逆に、価格が高い商品は購入前に一旦検討されているのか、アーカイブ経由でご購入いただくことが多いです。

ーーおもしろいですね。では最後に、今までの配信の中でお二人が特に気に入っているものを伺いたいです。

池田:私はVERMEILの配信ですね。いつも5人ぐらいで入念に準備をしてライブをするブランドなんですが、スタッフの私が見ても楽しくて笑っちゃうぐらいなんですね。

シナリオの完成度がとても高いので、私も紹介された物が全部欲しくなります(笑)。仕事ということを忘れるぐらい和やかで楽しい配信です。

"Be a Lady" 自分らしく!楽しく!VERMEILスタッフ5人 春のスタイリングをご紹介!のアーカイブを見る

森島:私もVERMEILの配信は印象的です。紹介する商品が多くてボリュームもあるし、作り込みもすごくてバラエティ番組みたいです。

あとはJOURNAL STANDARDでやった、メンズとレディースの合同ライブも印象的でした。スタッフどうしの会話もおもしろくて、ブランドならではのカラーも出ていて、一体感のある楽しい配信でした。

この春絶対欲しい!指名買いアウターのアーカイブを見る

ーー参考になるお話がたくさん聞けてよかったです。今日はありがとうございました!


著者

藤次 一嘉

2014年、東京大学大学院修了後、Googleに入社。営業・マーケティングに携わった後、2017年、Mofflyを創業。その後、クラウド型ライブコマース・サービス「TAGsAPI」を立ち上げる。