消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正 ECサイトを運営する事業者がとるべき対応とは?

小野 智博

インターネットでの電子取引が普及している現在、EC・通販サイトでは、消費者との取引は非対面式で、交渉を経ずに画一的に行われるため、その取引に関する説明や契約内容をめぐって、事業者・消費者間でトラブルが頻繁に起こります。そして、EC事業者が、消費者とのトラブルや問題をスムーズに解決させるために、法律面で留意する必要があるのが消費者契約法です。

政府は、成人年齢を18歳に引き下げる民法の改正等を踏まえ、より一層の消費者保護・救済に資するため、消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正案を閣議決定しました。本改正は、令和4年6月1日に公布され、公布の日から起算して1年を経過した日(令和5年6月1日)に施行されます。ただし、適格消費者団体の事務に関する改正規定および消費者裁判手続特例法に関する改正規定については、公布の日から起算して1年半を超えない範囲で政令で定める日に施行されます。

本稿では、主に改正消費者契約法のポイントについて解説すると共に、本改正によりECサイトを運営する事業者が対応すべき法的な注意点について解説します。

※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

消費者契約法とは

「消費者契約法」とは、消費者と事業者との間に存在する情報の質や量、知識などの格差を考慮して、消費者を保護するために作られた法律です。

契約は、「契約自由の原則」により、当事者がその内容を自由に決めることができるのが大原則となりますが、消費者と事業者が当事者となる契約については、両者間に存在する情報や知識などの格差から、消費者が一方的に不利益を被ることがないようにする必要があります。そこで、消費者の利益を一方的に害するような条項は、消費者契約法により無効になるものとされています。

消費者契約法は、消費者の利益を保護し、事業者との間である程度対等な立場となることを目的としており、BtoCビジネスを運営するEC事業者にとっては、無視できない重要な法律となります。

EC事業者が消費者契約法に関連して留意すべき事項

ECサイトを運営する事業者にとって、利用上のルールを明記した「利用規約」を適切に定めておくことはとても重要となります。適切な利用規約を作成しておくことにより、利用者とのトラブルを未然に防ぐことが可能になるのはもちろんのこと、対外的にも信頼感・安心感を与えることができます。

もっとも、利用規約で定めさえすれば、すべての内容が利用者を拘束するルールとなるわけではありません。その内容によっては、消費者契約法により無効とされてしまうことがあります。たとえば、以下のような条項を利用規約で定める場合には、注意が必要です。

事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効(消費者契約法8条)

消費者契約法8条は、消費者が損害を受けた場合に正当な額の損害賠償を請求できるよう、事業者が消費者契約において、民法、商法等の任意規定に基づき負うこととなる損害賠償責任を、特約によって免除または制限している場合には、その特約の効力を否定する条項です。具体的には、以下のような条項が無効となります。

①事業者の責任を全部免除する条項(同法8条1項1号、3号、2項)
②事業者に故意・重過失がある場合であっても、責任の一部を免除する条項(同法8条1項2号、4号)

消費者の解除権を放棄させる条項の無効(消費者契約法8条の2)

消費者契約法8条の2では、事業者による債務不履行が原因となって発生した消費者の解除権を放棄させたり、事業者に対し、消費者の解除権の有無を決める権限を付与するような条項は無効となります。

消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効(消費者契約法9条)

消費者契約法9条では、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額や違約金を定める場合に、これらの額が同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずる平均的な損害額を超える場合には、その超過分については無効となります。

消費者の利益を一方的に害する条項の無効(消費者契約法10条)

消費者契約法10条は、民法、商法その他の法律の任意規定の適用による場合に比べて、消費者の権利を制限しまたは消費者の義務を加重する特約で、その程度が民法1条2項の基本原則(信義誠実の原則)に反するものを無効とするものです。EC・通販サイトにおいては、その取引条件の中で、消費者の利益を一方的に害すると判断される要素があれば、消費者契約法10条によってその契約条項が無効となる可能性があります。

今回の改正とEC事業運営への影響

以下では、主に今回の消費者契約法の改正ポイントを中心に、本改正がEC事業者に与える影響や、対応すべき注意点について解説します。

3-1 契約の取消権の追加

本改正では、成人年齢の引き下げに伴い、社会生活上の経験が乏しい若年成人の保護を目的として、消費者は、以下の場合に契約の取消権を行使できるようになります(改正消費者契約法4条3項)。

①勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘した場合
②威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害した場合
③契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難とした場合

消費者契約法では、事業者が不当な勧誘行為を行い、その結果として消費者と契約を締結したような場合、消費者は契約を取り消すことができるものと定めています。本改正では、このような不当勧誘行為のうち消費者に「困惑」を生じさせる類型の追加がなされました。もっとも、EC事業者においては、消費者との取引は非対面式で行われることが多く、困惑類型が適用される場面は想定されづらいですが、契約締結に当たっての対応は慎重に行うことを留意しておく必要があります。

3-2 解約料説明の努力義務

本改正により、事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償額を予定し、または違約金を定める場合、消費者からの要請に応じて、損害賠償額の予定または違約金の算定の根拠を説明すべき努力義務を負うものとされました(同改正法9条2項)。

また、適格消費者団体との関係では、事業者は、当該予定額が同種の消費者契約の解除に伴い生ずる平均的な損害の額を超えると疑うに足りる相当の理由がある場合には、当該団体からの求めに応じて、予定額の算定根拠を説明すべき努力義務を負うとされました(同改正法12条の4)。 

3-3 免責の範囲が不明確な条項の無効

また、賠償請求を困難にする不明確な一部免責条項(軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないもの)は無効とされます(同改正法8条3項)。具体的な条項としては、以下が例示されています。
(無効となる例)「法令に反しない限り、1万円を上限として賠償します。」
        ⇒軽過失による行為のみ適用されることが明示されていないため無効。
(有効となる例)「軽過失の場合は1万円を上限として賠償します。」

よって、EC事業者は、利用規約等の免責規定において、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項を設けている場合、「軽過失による行為のみに適用されること」を明確にしていないものについては、その契約条項が無効となる可能性がありますので、見直しを行う必要があります。

3-4  事業者の努力義務の拡充


  • 契約解除に必要な情報提供の努力義務


例えば、ECサイトでの利用契約において、消費者による解除権の行使の方法を電話や店舗の手続に限定する条項や、中途解約権の行使の際には、解除事由が存在することを明らかにする書類の提出を要求する条項が定められている場合には、消費者が解除権を容易に行使できない状態が生じていると考えられ、解除をめぐりトラブルへと発展するケースが多くあります。そこで、事業者の努力義務として、消費者の求めに応じて、契約解除に必要な情報を提供することが規定されました(同改正法3条1項4号等)。

よって、サービスや商品をサブスクリプション形式で提供するEC事業者においては、解約手続きをしやすくするための仕組みづくりや配慮が努力義務として求められます。

  • 定型約款の表示請求権に関する情報提供の努力義務


また、事業者は、消費者契約の条項として定型約款を使用するときは、定型約款の表示請求権の存在および行使方法についての必要な情報を提供する努力義務が規定されました(同改正法3条1項3号)。

もっとも、定型約款を使用するEC事業者の多くは、消費者が定型約款の内容を容易に知ることができるよう、例えば、ユーザーから見やすい位置に利用規約のリンクを張るなどの措置を講じているものと考えられます。このような場合には、別途、定型約款の表示請求権についての情報提供を行う必要はないと考えられています。

  • 適格消費者団体の要請への対応の努力義務


事業者は、適格消費者団体の要請に応じて、不当条項を含む契約条項・差止請求に係る講じた措置の開示要請、および解約料の算定根拠の説明要請に応じる努力義務が規定されました(同改正法12条の3から5)。

もっとも、その一方で、事業者に不合理な負担が生じることを避けるため、事業者が消費者との間で使用している契約条項の内容を、消費者が容易に知ることができる状態に置く措置を講じている場合、例えば、インターネット等の適切な方法により、公表している場合には、開示要請に応じる必要はないと考えられています。

3-5 消費者裁判手続特例法の改正

消費者裁判手続特例法は、消費者へ提供される情報の質・量が不十分であること、対象としうる事案が限られること、特定適格消費者団体が現実的に対応可能な範囲が限られることから、手続の活用が広がらない現状にありました。そこで本改正では、これらの課題に対応するため、より消費者の被害を救済しやすく、消費者が利用しやすい制度へと進化させるとともに、制度を担う団体が活動しやすくする環境整備を行う改正が組み込まれました。

本改正によって、集団訴訟が提起される場面が広がりましたので、従前は損害額が低額のために訴訟にまでは至らなかったケースにおいても、訴訟リスクが生じることとなります。

まとめ

今回の改正では、消費者契約を取り巻く環境の変化を踏まえつつ、平成30年改正時の附帯決議に対応し、消費者がより安全・安心に取引できるセーフティネットが整備されました。各事業者においては、従前にも増して、契約締結に当たっての対応、契約内容または利用規約の策定に当たっては注意を払う必要があります。

消費者とのトラブルを未然に防ぐためにも、不安がある方はEC・通販サイト上での利用規約の作成や契約内容の事前のリーガルチェックを弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、ご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしておりますので、いつでもお問合せください。


著者

小野 智博 (Tomohiro Ono)

慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。
2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として、経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。