オペレーション構築を考えるためのECカートの選び方
社内のコールセンター運用、社外の倉庫や配送、広告運用といった外注など、ECサイトの管理において日々考慮することはたくさんあります。
ECサイトの運営においては、日々発生する問題対して適切な施策を考えて実行しなければ、売上、利益を伸ばすことはできません。
多くの施策を考える中で、ECカート選定に悩む方が多いと思います。ECカート選びはその後の運用を決める大切な決断であり、選択を間違えると、後ほどの工数もコストもかさんでしまう可能性があります。
本記事では、ECカート選びの際に検討すべき項目や場面をできるだけ具体的にご説明いたします。
一般的なECのオペレーション
特に今回は、顧客の決済プロセスと企業側の管理オペレーションを改善する視点から、ECカート選定のコツをお伝えします。
ここで言うECのオペレーションとは、毎日、もしくは1週間に1回以上など、定期的に発生する業務を指します。
具体例として、とある化粧品会社のオペレーション部門の担当者の業務を説明します。
1)前日までの確認連絡
出社後に実施することは、昨日もしくは前営業日に退社してから来ている連絡の確認です。具体的には、お客様から様々な連絡を確認することからの業務が始まります。
例えば、電話相談窓口を設けていない会社の場合には、メールや問い合わせフォームからの連絡を確認する必要があります。
特に、すでに配送してしまった商品や、本日配送予定の商品に関する連絡は優先度が高く、配送会社もしくは倉庫と連携を取る必要が生じます。
2)発送準備
前日までの連絡を処理したら、次に、本日発送予定の商品の準備に取り掛かります。具体的には、前日もしくは前営業日の発送業務を行った後に入った新規注文、もしくは2回目以降の定期顧客の発送指示などを行います。
新規注文の際には、他の作業以上に気をつける必要があります。転売業者が、価格の低い初回商品のみを購入して、メルカリなどのフリマサイトで転売をする可能性があるからです。
転売を100%無くすことは不可能ですが、同じ住所や同じ電話番号で、名前だけ変えて注文されることがあります。過去の注文情報と照らし合わせて、新規注文が転売を意図したものではないか見極める必要があります。
転売チェックを終了すると、不正ではない注文をすべて確定処理します。ECカートによっては、自動で確定処理を行うこともあります。
確定処理とは、顧客の請求が確定する瞬間のことを指します。一度注文をしたお客様の中には、「さっき注文したけど、やっぱり注文取り消したい」という方もいるため、注文の確定処理は発送直前に行う方がオペレーションの工数が減り、効率よく進みます。
3)倉庫との連絡
注文確定後は、倉庫への指示出しをする工程があります。
一般的なECカートを使っている会社の多くは、WMS(Warehouse Management System)と呼ばれる倉庫管理システムを使って倉庫に対して指示を出すことになります。
WMSと連携をしていないECカートがあるので、ECカートによっては、カート上での処理だけで終わるパターンもあれば、WMSにCSVファイルなどのデータをアップロードすることで出荷が終わるパターンもあります。
いずれにしても、契約している倉庫によって仕様が異なるため、倉庫の指示を受けて出荷指示を出すことになります。
出荷指示を出した後には、倉庫からお問い合わせが来ます。倉庫からのお問い合わせでは、システム上でエラーが出てしまっている注文の確認と、対応を行うことになります。
倉庫からのお問い合わせは、例えば、「化粧水と乳液のセット販売だが、化粧水2本と乳液1本に変更になっています。どのように対応したらよいでしょうか」
といった形式で質問が来きます。
倉庫と契約し、事業を始めた直後には、そもそも注文内容があっているかの確認の場合もありますし、「化粧水1本と乳液1本用に箱が作られているため、化粧水がプラスで1本入る場合は、どのように箱にいれたらよいか」といった質問もきます。
例えば、箱に関する質問であれば、「大きめの箱に緩衝材をいれて送ってください」といった返答をEC会社側で行います。
オペレーション業務の担当者は、上記で述べたようなイレギュラーな事態に日々対応しなくてはならないため、業務負担がかかります。
では、一定期間経った後に化粧水2本と乳液1本で注文する顧客が増えたことを仮定してみましょう。その場合は、ECカート上で化粧水2本と乳液1本のセットを新たに商品登録して、倉庫が戸惑わないように指示書を作り変えておくと倉庫側の負担が減ります。
倉庫とEC事業者でやりとりするにあたって、倉庫側としては、過去にあった内容は定型化して次回以降は質問をせずに出荷完了までできる状態に持っていきたいのです。一方のEC事業者は、イレギュラーな注文は今後もあると想定して、イレギュラーをレギュラー作業にもっていくことを常に頭においておきましょう。
倉庫からの連絡で、「配送ができず、返送されたがどうしたらよいか?」という質問が来る場合もあります。
そのため、返送の場合の規定も社内で決めておかないと、オペレーションの実務担当者が困ってしまいます。
倉庫とのやりとりが終了して、出荷作業が終わったら、残りのオペレーション作業に移ります。
4)決済エラー対応
次に行う業務は、定期購入している顧客が、決済をできない問題が発生したときの対応です。クレジットカードやAmazon Payを使っているとエラーが発生して、購入ができないといった事例などがあります。
顧客は継続して購入意向があるのに、購入できないとなっては機会損失となります。顧客への電話やメールを通して、エラーが発生した旨を伝え、再度登録していただけないかを確認しましょう。
この際の注意点として、顧客が後払い決済をされている場合は、支払いに関する連絡の権利(債権)が後払い代行会社に移っていることが多いため、EC事業者が督促をしてはいけないことがあります
後払いを利用する場合は、後払い代行会社に確認をしましょう。督促の内容でなければ後払いをご利用いただいている顧客に対して連絡を取ることは問題ありません。
他にも、顧客対応窓口にかかってくる解約理由の内容を集計することや、定期購入の継続率を算出することも業務に入ってくる場合があるので、一言でオペレーションといっても様々あります。
外部ツールの連動は必須
ECカートを利用する際は外部ツールとの連携が必須です。先程挙げたWMS(Warehouse Management System)といった倉庫管理システムなどは良い例です。WMSはOMS(Order Management System)とも呼ばれ、物流の肝になってくるため、ECカート選びでは外部ツールとの連動性はよく確認しておく必要があります。
ECにおいてよく使用する外部ツールは、大きく3つのジャンルがあります。
1) OMS・WMS
上記で何度か触れましたが、倉庫とのやり取りに使用するツールです。
主なツールとしては、クラウドロジやLOGILEASSといったものが有名です
2) CRM(Customer Relationship Management)
CRMツールとは、顧客との関係性を高めるのに使用するツールです。
例えば、定期購入している顧客に対してLINEやメールで再購入を促すことで、ブランドへのロイヤリティをあげる施策を実施する際に使用するツールが当てはまります。
有名なCRMサービスでは、「うちでのこづち」や「リピートライン」といったツールがあります。
3) ECソリューション
EC運営をしていく中で発生する問題に対して対処してくれるツールも必要となる場合があります。
例えば、不正転売やクレジットカードの不正利用を検知する「O-PLUX」といったツールは近年重要視されています。
上記で述べたツールはほんの一例ですので、ご自身の用途にあったツールを探してみてください。また、良いと思ったツールを導入したくても、そもそもECカートと連動していなければ使えません。ツールとECカートの相性や、ECカートがAPI連携対応しているかなども事前に調べておきましょう。
ECオペレーションは“誰でもできるように”が大原則
EC業務に習熟していない方でも、すぐに操作に慣れることができるカートこそが優れたECカートです。
どれだけ機能が優れていたとしても、実際に現場の方が使えるようにならないと意味がありません。
社内で人の入れ替わりもあることを想定すると、習熟コストが低いECカートは投資価値があります。
使いにくいECカートが存在するのも事実なので、実際に普段のオペレーション業務を行っている担当者にヒアリングしておくことをおすすめします。
セキュリティ問題も重要
ECを事業として営むうえで重要な点はセキュリティです。個人情報を取り扱う業務のため、個人情報の流出事件が起きてしまえば、会社の存続が危ぶまれます。
セキュリティリスクは大きく2点あります。
1点目は、ハッキングによる悪意をもった外部からのサイト攻撃です。小規模のECサイトであれば、ハッキングのターゲットになる確率は低いですが、大規模になるほどECサイトが狙われる可能性があります。
ハッキングに関しては、一定規模のサイトになった後にセキュリティ担当を置き、社内で規則を設置する必要があります。なお、ハッキングに対しては、非常に高度な専門知識を要するので、本記事では省略します。
2点目は、人為的な理由による情報流出です。
機密データを、悪意をもって競合他社などの外部に流出するケースや、ダウンロードした個人情報がPCに残っていたものを、誤って第三者がアクセス可能なインターネット上にアップロードしてしまうケースなどがあります。
いずれのケースも、セキュリティの設定が甘く、誰もが個人情報にアクセスできる状況が原因となります。
2点目の人為的な流出については、対策が可能なECカートとそうでないものがあります。
対策できるカートとは、個人情報へのアクセス権を人によって細かく制限できるカートを指します。
全ての個人情報にアクセスできる人を制限する一方で、制限しすぎたせいで業務に支障がでてもいけません。
必要機能にアクセスできる設定が細かくできるECカートは優れているといえます。
また、全ての作業ログを確認できるECカートも、セキュリティ面において優れています。特に個人情報をCSVでダウンロードした人が誰か分かれば犯人の特定が容易になります。ECカート上でログを確認できる仕様は、ECカートには欲しい機能の1つです。
ECカートによって何が異なるか
ECカートについて様々説明してきましたが、ECカートを選ぶ重要な点は、「何を目的として運営したいか」によって変わってきます。
数億円規模の投資を行い、非常に細かいカスタマイズを行う場合はそもそもECカートを使用せず、0からシステムを開発するフルスクラッチ型が典型的です。
ECカートを使用する場合は、初期投資が数万円~数百万円の幅であり、目的によって必要な機能が変わってきます。
例えば、「集客が十分にできていて、販売機能だけあれば良い」といった場合は数万円でECサイトを立ち上げることも可能です。
そのようなパターンは稀ですので、広告やSNSを使って集客が必要になると思います。集客した見込み顧客に購入していただくためには、他にも機能が必要です。
また、ビジネスモデルに定期購入を導入する場合は定期購入に強いECカートが必要です。
ここまで述べたように、目的に合わせて、必要な機能を持つECカートを選ぶことが重要です。
ECカート選びに迷ったら導入している企業へのヒアリングをせよ
ECカート会社は、ECカートについては詳しいですが、ECの実務については深く理解していないことが多いです。
ECカート会社よりも実際にECカートを使っているEC会社に相談してみると、実務に関して解像度の高いアドバイスがもらえます。
もしくは、ECカート会社が自社ブランドを販売し、一通りの実務を行っている会社であれば、細かい実務まで理解しているので参考になります。
上記のような視点でECカート選びをすると、より良い選択ができるのではないでしょうか。
皆さまのECカート選びの参考になれば幸いです。