解約率を下げるために行うべき施策

松元貴志

サブスクリプションや定期購入と呼ばれるビジネスモデルにおいては解約率を下げることが重要です。解約率が0%に近づくほど利益率が高くなります。結果、広告費に多くを投資することが可能になります。

今回は定期購入型のD2Cブランドを運営している方に解約率を下げるためのヒントを提示させていただきます。普段の事業のご参考にしてください。

解約率とは

化粧品や健康食品などの定期購入を契約すると、定期購入をやめるときがきます。一般的に「解約」と呼ばれるシーンです。本記事における解約率とは、定期購入をしている顧客が商品の継続購入を完全に解約する割合です。

”完全に”と書かせていただいたのは、定期購入を一時的に停止する場合があるからです。例えば、入浴剤の定期購入であれば、お湯をためて浴槽に入る頻度が少なくなるため夏の間は購入を控えることがあります。冬になればまた再開するパターンがあります。

停止している顧客に対しては、定期的にメールやLINEや電話でコンタクトをとり、定期購入の再開を促すことで、LTV(Life Time Value:顧客あたりの累計売上金額)を高めることができます。

*注)LTVは、LTV=1回あたり購入単価×購入回数 にて計算されます。例えば、5,000円の定期購入の美容液を10回購入してから解約した場合は、LTVが50,000円になります。

解約率は定期購入型のビジネスモデルで、D2Cブランドを運営している会社にとっては重要な事業指標になります。解約率を下げることはダイレクトに売上、利益の向上に直結します。

顧客に商品が解約される理由

定期購入している商品が解約される理由を考えてみましょう。D2C企業のコールセンターの1オペレーターとして電話に出ていると以下のような理由に直面します。

「期待した効果が出なかった」
「高くて続けて買うのが難しい」
「肌にトラブルが出た」
「他の商品に切り替えた」
「在庫が余っているので購入を止めたい」
「定期購入にしたつもりがなかった」
「イマイチ良さが分からなかった」
「広告で言っていた内容と違った」
「娘がプレゼントしてくれた商品を使うことにした」

あくまで一例ですが理由は様々でてきます。コールセンター担当に限らず、経営者は解約理由の全てに目を通す必要があります。

解約率を下げるためには下記の手段があります。

1.商品改良によって改善できるもの
2.コールセンターによって改善できるもの
3.配送頻度によって改善できるもの
4.その他

1)商品改良によって改善できる方法
商品改良によっていかに解約率を下げられるかを見ていきます。この場合、既存の商品に不満のない顧客離れを引き起こす可能性があるので、慎重に検討する必要があります。

2)コールセンターによる対策方法
コールセンター例で対策できるアクションを考えてみます。
「効果が出なかった」という理由に対しては、継続して使っていただくことを提案することができます。1ヶ月程度で効果を感じていただけることは多くの商品カテゴリでは少ないです。

育毛剤など長期間の継続を前提としないものでも継続を促すことである程度の引き止めをすることは可能です。

3)配送頻度での対策方法
「在庫が余っている」という人に対してのアクションを考えてみます。在庫が余っているということは、配達頻度が顧客の商品使用頻度よりも多いということです。

実際の使用本数と試用期間をヒアリングしたうえで、最適な配送頻度をご提案することで解約を防ぐ可能性があります。

1ヶ月に1本配送しており、2本すでに余っているという方には、「3ヶ月後に次回の配送で、以後は2ヶ月に1本ずつの配送はいかがでしょうか」と提案することで継続的に使っていただける可能性が出てきます。

4)その他
単純に解約したいというコメントに対して、言葉どおりに受け取らずに提案をする余地がないか確認しましょう。

ブランド側が積極的に動く手法

解約を阻止する手段について考えます。これまでコールセンターの話をしましたが、コールセンターを設置すること自体が解約を阻止する手段として有効です。

一方、WEBサイトのマイページ上で解約できるだけでは解約する理由を確認することができません。

実際にコールセンターの担当者が実際の声を聞くことで解約理由をより正確にヒアリングすることが可能になります。

WEB上で解約が可能な場合でも、理由を記入しないと解約できないようにすると的確に理由を拾い上げることができます。

一方で、解約理由を無理やり記入しないと解約できないような仕様では、苦情が発生することがあります。

解約というアクションを起こさせないために、企業側からコミュニケーションをとることもできます。LINEやメールで顧客に対して、自社ブランドを好きになっていただく施策を実施することで解約を阻止することが可能です。

化粧品の場合、商品機能としては似たものが数多く出ており、商品機能が唯一無二というパターンを実現することは難易度が高いです。

顧客は商品機能だけではなくブランドの対応を含めて特定のブランドを選択する傾向にあります。

商品機能以外のところで競合ブランドに対してプラスの差をつけることが解約予防につながります。

昨今では、チャットボット活用による顧客対応の自動化が進んでおり、解約を事前に防止するトークシナリオを導入している企業もあります。

人間によって電話で対応することも重要ですが、あまりに問い合わせ数が多い場合はキャパシティに限界があります。そこで、自動化することで、顧客の満足度向上につなげることができます。コールセンターでこれまで問い合わせがあった内容や、チャットに記入された内容を分析することで、精度の高い顧客対応が可能になります。

過度な解約阻止はNG

最近は減ってきましたが、解約を無理やり防ぐ方法はトラブルに発展します。電話を切らせずに一方的な勧誘トークを押し付け、解約することをやめるまで電話をする業者もいました。

例えば、WEB上でも400字以上解約理由を記入しないと解約できなかったり、数十個のチェック項目に答える必要があったりする場合など、いずれも顧客を不快な気持ちにさせてしまいます。

解約を申し出ている時点で明らかに自社ブランドに対しネガティブな気持ちを抱いているわけなので、解約時にさらにマイナスな体験を与えてしまわないように注意しましょう。

しかし、解約してしまうのであれば理由を聞いて次回以降の改善につなげるのも重要です。顧客に迷惑をかけない範囲でヒアリングを実施しましょう。

解約を無理やり阻止して、消費者に不快感をもたせてしまい、消費者センターに通報されるケースもあります。場合によっては罰金や事業停止の措置につながりかねません。消費者庁などから悪質業者と認定されるとその後の事業運営に大きなマイナスをもたらします。

売る相手を間違っていないかを再確認

解約があまりに多い場合、売る相手を間違っていないか確認をしましょう。例えば、40代向けの商品なのに、広告を使って20代を中心に販売する場合、解約が増えてしまいます。

単純に広告で獲得に成功していても解約率が高い場合は販売対象としては適切と言えないかもしれないので広告の露出面を再検討すべきです。

他にも、広告の問題とは別ですが、転売ヤーに購入されている場合は解約率が急激に高くなります。転売ヤーに購入されている様子がメルカリなどで見られる場合は、転売ヤーに購入されない対策を講じる必要があります。

集客チャネルによって解約率を集計

集客が正しいか必ず振り返りが必要です。例えば最近ではTikTok広告から集客した顧客は解約率が高いということに困っているブランドがありました。

同じInstagram広告でも広告配信面によって解約率が異なってきますので、ブランドにとってどういった集客方法が良いのか探りましょう。

集客チャネルごとにLTVや解約率を瞬時に計算できるECカートも存在します。広告チャネルが多岐にわたっている現代においては、集客チャネルごとに細かい計算ができるECカートが求められています。

集客チャネル分析は後回しにされがちですが利益に直結する部分なので集客に追われていても時間をかけて分析する必要があります。

獲得単価が安いのはどこか、LTVが高いのはどのチャネルかを毎月追っていくことで利益率の高い事業を継続することができます。特に広告による集客はプラットフォーム側のアルゴリズムの変更によって意図しない顧客が大量に入ってくることもあります。結果として利益の高い顧客であれば問題ないですが、LTVが低く利益率にマイナスのインパクトをもたらす場合、広告出稿をすぐに見直す必要があります。

獲得単価は1日単位で、LTVは1ヶ月単位で集計し、今日からの戦略を再考することが経営者やマーケティング担当社に求められます。

獲得単価にしてもLTVにしてもすぐに集計できるような仕組み作りが大事です。特にECカートによってデータ分析にかける労力が大幅に変わってきます。

例えば、ecforceなどは細かい単位で売上や解約率の計算ができるため、EC熟練者には愛用されています。

何もやっていない人がロイヤルユーザーになることも珍しくない

20回以上購入いただいた顧客を見ると、ブランドからのメールをはじめとする連絡を全く読んでいないパターンもあります。5回購入した方に6回購入してもらうためにあの手この手を使うことで購入回数を増やすことができますが、20回以上になると商品を気に入っているため解約されることは少ないです。

20回以上買われることを目指すには常に良い商品を提供することが唯一の解決策です。

人間の温かみが求められる時代

AI時代において、チャットボットやWEB上で商品解約をすべて完結することも可能です。しかし、地方在住の顧客と話をすると、商品を購入いただいたあとに来る連絡やお手紙、またコールセンターとのやりとりが楽しみで買っていただいているという方もいます。

人間同士のやりとりこそが顧客対応において重要なポイントにもなりえます。特に高齢者向けのブランドの場合は、WEBを介さない電話でのやりとりが効果的です。

入院をして一時的に停止した方が退院して再度使ってもらうこともあります。商品を通じてのやりとりに過ぎませんが人と人との会話から次回の商品開発のヒントもありますし、人による対応は軽視してはいけないポイントです。

一方で、スマートフォンに慣れている世代にとっては電話は時間を使うだけの手段でしかないので、WEB上で完結することも重要です。チャットボットで人間とのやりとりに近い、コミュニケーションが実現できれば、電車の中でも顧客とブランドが話すことも可能になります。顧客年代に応じて最新のテクノロジーを取り入れていく必要があります。

まとめ

定期購入における解約率のを下げる施策や考え方について説明してきました。

商品が良いものであるという大前提のもと少しでも長く顧客に商品を使ってもらうためにできることは多々あります。

強引な手法の場合を除き、解約率が下がるということは、ブランドがより愛されるようになっている証拠です。

適切なテクノロジーを導入し、解約率を下げる努力をしましょう。一部紹介した、チャットボットによる解約阻止や、解約率の高いセグメントを分析することや、広告流入経路ごとの解約率の分析はECカートに付属しているものもあれば、外部からツールを連携して使用する場合もあります。

ECカートに付属している場合や、ECカート側への追加料金によって利用できる場合が最も安価で、手軽に利用できます。最初にECカートを契約する際には、追加機能は意識していないかもしれませんが、ブランドの次のフェーズを見越して、どのような機能があるかを把握したうえでECカートを選びましょう。

今回の解約率を下げるために提示したことがブランドの価値を高めるためのヒントになれば幸いです。


著者

松元貴志

早稲田大学創造理工学研究科経営デザイン専攻修了。新卒でユニリーバ・ジャパンに入社し、ヘアケアマーケティングブランドの従事。人材関連会社を創業し、人材会社に売却。その後、代表を務める株式会社メジオにてD2C事業を開始。アパレル事業からヘアケアの定期通販事業まで展開。現在は創業した株式会社BrandismにてD2Cブランド立ち上げを支援。

https://brandism.co.jp/