盛り上がる東南アジアのEC市場! インドネシアの「ラマダン」前後からEC市場の動きを見る

山本 真大

こんにちは、国内外の主要ECモールの推計データを提供するデータカンパニー、(株)Nintでデータアナリストをしている山本と申します。

今回は中国EC市場について解説する予定でしたが、昨今新たな市場として注目されている東南アジアのEC市場、とりわけインドネシアで「ラマダン」前後のEC市場データが興味深いという情報が入ってきましたので、テーマを変更し、東南アジア(インドネシア)のEC市場についてお伝えします。

国民的宗教行事の「ラマダン」がEC市場へどのように影響するのか、必見です。

東南アジアのEC市場概況

労働人口の増加が見込まれる東南アジアでは、消費意欲が旺盛な若年層がEC需要を押し上げ、EC市場が拡大し、各種プラットフォームが発展しています。

東南アジア(インドネシア・シンガポール・マレーシア・フィリピン・タイ・ベトナム)諸国全体の人口は約5.5億人とも言われており、日本の4倍以上です。中でもインドネシアは中国、インド、米国に次ぐ世界4位の規模です。
人口ピラミッドを確認しても、日本に比べ若年層の比率が多く、今後しばらくは人口が増加することが予想されます。

参考:PopulationPyramid.net「インドネシアの人口ピラミッド2020年

東南アジアで2010年代前半から興ったEC市場は、2016年ごろに中国企業の資本注入、市場参入をきっかけに発展し、物流と決済システムが整備されたことで、EC市場が急速に発展しました。市場は2021年に1,200億ドル規模とも言われ、今後EC化率の上昇と、各国のインフラ整備がさらに整うことで、2025年には2021年の2倍の2,340億ドルに達すると言われています。まさに今、最も成長が期待されている市場です。(日本のEC市場は2022年度約2,010億ドル・前年比9.91%増)
※上記記事発表時期、2021年11月ドル為替相場にて試算

東南アジアの大手ECプラットフォームは、「Shopee(ショッピー)」と「Lazada(ラザダ)」です。国によって違いはあるものの、この2モールを合わせたシェア率は約50%~90%以上にも達します。

株式会社Nintでは上記2モールのデータを集計、取り扱いをしています。話題の東南アジアですが、その攻め方に悩んでいる方は是非一度お問い合わせください。

東南アジアならではの商戦期「ラマダン」に注目

米国発祥で日本市場でも定着した「ブラックフライデー」、中国の「双11」「618」など、各国さまざまな商戦期があるように、インドネシアにもEC市場が盛り上がりを見せる時期があります。それは「ラマダン」です。

ラマダンは、イスラム教の信仰行事です。約30日間、日の出から日没まで断食を行い、禁欲、禁煙の生活を送ります。ラマダンは毎年決まった日にちで開催されるものではなく、年度によって異なります。2024年は、3月10日~4月9日でした。

ラマダン期間は、食料品、衣料品、贈り物などの需要が増加し、小売業が活発になり、オンラインショッピングやモバイル決済が盛んに利用されます。
今回は、弊社が集計している、インドネシアのShopeeを一例に、「ラマダン」前後の売上・ジャンル動向を確認します。

市場推移

図2は、ラマダン前・ラマダン期間・ラマダン後の各期間のShopee売上をそれぞれ4週分ずつ集計したものです。

図2:ラマダン前(2月11日〜3月9日)・ラマダン期間(3月10日〜4月6日)・ラマダン後(4月7日~5月4日)のShopee売上推移

「ラマダン後」の売上を100として比較しています。結果、ラマダン期間の売上が最も高く、次いで、ラマダン前と続きます。これは、先に挙げたラマダン前からラマダンに向けて準備したことと、ラマダン期間にはECモール主催のセール・イベントが多いことが影響していると考えられます。

次は、「ラマダン直前週(3月3日~9日)」「ラマダン直後週(4月7日~4月13日)」の売上構成比を確認します。ラマダン後にはイード・アル・フィトルという祝祭があります。この時期には、贈り物や衣類などが売れ、人々の行動も活性化します。
準備の直前週と、明けのイード・アル・フィトルの週ではどちらが売上比率が高いのか、確認していきます。

図3:ラマダン直前週・直後週のインドネシアShopee売上構成比

2024年のインドネシアにおけるラマダン時期を迎えるShopeeでは、ラマダン前週の方が、ラマダン直後週よりも売上が高くなる傾向が見られるようです。

さらにラマダン期間前後、週次の売上推移を確認します。

図4:ラマダン前後期間週別売上推移(インドネシア・Shopee)

ラマダン前は3週前から徐々に売上が上昇していることがわかります。ラマダン期間中は、3週目より売上が上昇していることが分かります。ラマダン後は売上が低下していることが分かります。

これらのことから、

ラマダン前 :オンライン・オフライン購入
ラマダン期間:オンライン購入(行動制限による影響)
ラマダン後 :オフライン購入の増加(行動制限がなくなることの反動)


が起きている可能性があります。

好調ジャンル

最後に、ラマダン前後で売上が好調に推移したジャンルを確認します。

図5:ラマダン前(1カ月間)売上上位TOP30ジャンル

図6:ラマダン中(1カ月間)売上上位TOP30ジャンル

図7:ラマダン後(1カ月間)売上上位TOP30ジャンル

売れ筋ジャンルを見ると、どの期間でも「クーポン」が1位です。インドネシアのShopeeでは、

・クーポン購入後に製品を買う
・クーポン+製品を購入し、割引を受ける


といったように、「クーポン」を使用した購入方法が主流です。クーポン売上は、上記2パターンどちらでも含まれ、売上として計上されます。日本のEC市場とは異なる点です。

その他の特徴として、ラマダン前後では「粉ミルク」がTOP30ジャンルにランクインしていますが、ラマダン中はランクインしていません。ラマダンによる断食は乳幼児や妊婦・授乳中の女性は免除になります。そのため、粉ミルクの消費は通常通り起きていることが予想されます。売上を見ると、ラマダン期間前に比べ微減するも、一定の売上がありました。
これらのことから、ラマダン期間中に「のみ」上位に現れるジャンルは、期間中需要が高いジャンルであると言えそうです。

ラマダン中に顕著に現れた特徴として、「ムスリムファッション」があります。これは、ラマダン後の祝祭に向けた準備として、購入されていると考えられます。
ラマダン期間は行動に制限が起きるため、「ラマダン後」に向けた準備にはECサイトを使用することが多いのかもしれません。

全体の特徴としては、「携帯電話」「化粧品」「食品サプリメント」が上位にランクインしている傾向が見られます。

まとめ

今回は、インドネシアのShopeeでラマダンの影響をお伝えしました。
市場の特徴として、期間前・期間中に売上が上昇する傾向があり、最も売上が高くなるのはラマダン中ということがわかりました。売れ筋ジャンルを確認すると、明らかにラマダン中とラマダン前後で違いも見られます。クーポンの使用方法や、概念の違いにも注目です。多くの企業が東南アジア市場を狙い、参入を検討しますが、このような文化の違いも理解しておくことが重要です。

上位のジャンルから考えると、携帯電話・化粧品・粉ミルク・アパレル関係が法律や文化の違いはありますが、売上を狙えるジャンルと思われます。

もっとも重要なのは、多くの企業が市場参入を狙う東南アジア市場で、自社のポジショニング戦略や競合メーカー・ショップの進出状況や、自社の商品が東南アジアで需要があるのかなどの市場動向を見極めてから出店することです。

ジャンルを確認し、商品を確認し、文化を確認し、戦略に落とし込むことが、東南アジアECで勝ち残るポイントと言えます。
今回は、東南アジアのEC市場の概要とラマダンによる影響などをジャンルの粒度でご案内しましたが、弊社のデータでは「メーカー」「商品」単位での確認も可能です。ぜひ一度お問い合わせください。

備考

■本記事の転載・一部転載に関しては、株式会社Nintへご連絡ください。
■調査対象:Nint推計データNint推計データは、AIやクローリングなどの技術により⽇本国内の3⼤ECモールで販売される商品の売上⾦額・販売数量を⾼精度に推計したデータに、サイト内でのプロモーションデータ等を加えた、EC市場の総合的な分析を可能にするビッグデータです。

※本稿における Nint 推計データは 2024年5⽉時点のものを使⽤
作成:山本 真大(Masahio Yamamoto)
編集:村上 咲(Saki Murakami) 松村 恵美 (Megumi Matsumura)

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著者

山本 真大

株式会社明治の菓子営業としてキャリアをスタート、IT業界、流通業界・他業界でのメーカー職を経験し、オフライン市場における、製造・流通の知見を学ぶ。
EC業界の今後に魅力を感じ株式会社Nintへ入社。営業・カスタマーサクセスを経て現在のアナリスト業務に従事。
EC市場を分析したブログ記事を中心に執筆中。