年商1億円を超える楽天ECの設計図【戦術編】 ――全ては「構造」でつながっている

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桑田晋一

「戦略」は描いた。では、それをどう「現実の売上」に変えるのか――。楽天出店企業を20年にわたり支援するネットショップスタジオ 桑田晋一氏による書き下ろしコラム第2回は、楽天ECで年商1億円を超えるための「戦術」論。

懸命に走っても成果につながらない「ハツカネズミのPDCA」を脱却し、着実に目標へ近づく「昇り竜のPDCA」へ。第1回「戦略編」を踏まえて、バラバラになりがちな施策を構造的に組み立て、実践するための“設計図”を提示する。(全3回)

●過去コラムはこちら!
【第1回】楽天支援21年で見えた「構造的に勝ち続ける」羅針盤――戦略の失敗は戦術では取り戻せない

はじめに:なぜ「戦術」を構造として語るのか

前回の戦略編では、楽天支援21年の中で見えてきた「構造的に勝ち続けるための考え方」についてお伝えしました。楽天を単なる販促の場としてではなく、ひとつの事業として捉えること。そのうえで、戦略と戦術を切り分け、セグメント戦略、3C分析、そして3カ年の事業計画までを整理しました。

今回は、その事業計画を、いかに現実の売上として実現していくのか。いわば「戦略を実装するための戦術」のパートに入ります。第1回で「構造として楽天を捉えること」が重要だとお伝えしたのは、まさにこの戦術編においてこそ意味があるからです。

本来、楽天における戦術=施策は、全てが3年後のゴールと事業計画に紐づいているべきものです。しかし実際には、目の前の施策を単発で当てにいく運営がほとんどで、構造的に戦術を組み立てられている企業やコンサル会社は少数派です。

そして、楽天で安定的に成果を出し続けているのは、例外なくこの構造を理解し、戦術を設計している企業です。本稿では、戦略で描いた3年後のゴールを、日々の運営にどう落とし込むのか。その具体的な考え方と運用方法を解説していきます。

起点は「事業計画の進捗確認」 ゴールに到達するための6つの戦術

「戦略編」では、3カ年の事業計画を作成し、月ごとに以下の3つのKPIを設定したかと思います。

● アクセス人数
● 転換率
● 客単価


戦術におけるPDCAは、このKPIを毎月、3年後のゴールから逆算して振り返ることから始まります。ここで重要なのは、「良かった点」を探すことよりも、計画とのズレ=課題を見つけることです。戦術とは、事業計画と現実のギャップを埋めるための調整行為に他なりません。

戦術①:売上構造を把握する
まず行うべきは、売上の構造分析です。

●新規売上とリピーター売上
月ごとに、新規売上とリピーター売上を分解して確認します。ここで、「新規に課題があるのか」「リピーターに課題があるのか」という大枠を把握します。

例えば、新規売上が落ちている場合、「どの商品で落ちているのか」「どの流入経路が落ちているのか」といった、次の分析への起点になります。

●日次売上分析
次に、1カ月を日次で分解して売上を確認します。お買い物マラソンなどのイベント施策が、実際にどの程度効果を発揮しているのかを把握するためです。

例えば、特定の日にリピーター売上が落ちている場合は、その日の販促内容やCRM施策に課題がある可能性が高いと考えられます。

戦術②:商品軸での分析
次に、商品単位での分析を行います。

●新規獲得に貢献している商品
●リピーターが積み上がっている商品


これらをそれぞれ売上順に並べて確認します。
この分析は、「戦略編」で設定した「どの商品で市場シェアを獲得するのか」というゴールと密接に関係します(※1)。「想定した商品で新規が取れているか」「想定した商品にリピーターが積み上がっているか」。1商品目は想定通りでも、2商品目以降でズレが生じているケースは少なくありません。戦術とは、こうしたズレを修正していくプロセスです。

※1:第1回「楽天を『事業』として捉える視点」項を参照

戦術③:流入元・キーワード分析
新規顧客に課題がある場合、 ほぼ必ず影響が出ているのが流入元です。

●「楽天サーチ」
●「広告」
●「その他流入」


まず、これらのどこに課題があるのかを確認します。
特に「楽天サーチ」に課題がある場合は、さらにキーワード単位での分析を行います。このキーワード分析は、3年後にどの市場・キーワードでシェアを取るのかという戦略そのものの進捗確認でもあります。

戦術④:SEO分析という戦略の進捗確認
SEO分析は、戦術の中でも本丸に近い位置づけです。
狙ったキーワードで、下の2点を確認します。

●何位に表示されているか
●検索結果1ページ目に何商品ランクインしているか


これは単なるSEOチェックではなく、戦略が予定通り進んでいるかどうかの確認です。なお、この分析はRMSでは難しいため、外部ツールの活用が必要になります。個人的にはセカンドブレインを推奨しています。

戦術⑤:メルマガ・LINE分析
リピーターに課題がある場合、最初に見るべきはメルマガ・LINEです。
下の2点をサブジャンル平均と比較しながら分析します。

●売上が落ちているのか
●開封率、送客率、転換率のどこに課題があるのか


また、リピーターの購買はSEOにも影響します。
そのため、SEOを強化するためのCRMという視点も重要になります。

戦術⑥:広告・アフィリエイト分析
楽天市場で事業を作る以上、広告は必須です。
基本は、広告種別ごとのROAS管理となります。
例えば、月商1,000万円、広告費率20%、ROAS400%で運用できれば、広告以外で必要な売上は200万円。この部分はSEOで自然に獲得できる構造になります。

ただし重要なのは、戦略を実現するための広告運用であることです。
短期的にROASが合っていても、3年後に積み上がっていなければ意味のない投資になります。特にRPP広告では、戦略キーワードで面を取るためにROASを度外視した運用が必要になるケースもあります。

アフィリエイトについては、現状は施策の自由度は高くありませんが、売上規模は大きいため、経由売上の把握は必須です。

戦術を「アクションプラン」に落とし込む

これらの分析結果をもとに、翌月のアクションプランを構築します。
アクションプランでは、日ごとに実行する施策を以下の5項目で整理します。

● 広告
● アフィリエイト
● 販促(ポイント、クーポン、割引、スーパーDEAL)
● CRM(メルマガ、LINE)
● クリエイティブ


▼「アクションプラン」を設計する(具体編)
分析によって抽出した課題は、翌月のアクションプランとして日々の施策に落とし込む必要があります。当社では、アクションプランを「日付×施策×商品」という粒度で設計しており、この5項目について、いつ・何を・何の目的で行うのかを明確にします。

① 広告施策の設計と管理
広告については、広告種別ごとにROAS目標と運用方針を明確に設定します。
例えば、「RPP広告」「TDA」 など、それぞれについて「目標ROAS」「投下目的(売上獲得/SEO強化/新規獲得など)」を事前に定義します。

管理の粒度としては、
● 日次:広告消化額の確認
● 週次:ROASと消化額の推移確認

を基本とします。

また、担当者レベルでは、日ごとに注力キーワードでの露出状況(検索順位・表示有無)をチェックします。広告は短期のROASだけで判断せず、3年後の戦略キーワードで面を取れているかという視点で運用することが重要です。

② アフィリエイト施策の整理
現時点で、店舗側が能動的に行えるアフィリエイト施策は限定的です。
そのため、主に以下をアクションプランに記載します。

● プレミアムパートナーへの商品提供対象
● 商品登録・更新のスケジュール


売上規模は大きいため、経由売上は定点観測し、今後の伸び代として把握しておく必要があります。

③ 販促施策(ポイント・クーポン・割引・スーパーDEAL)
販促施策については、日ごと×商品ごとに設定します。
重要なのは、その商品が「新規獲得目的なのか」「リピーター獲得目的なのか」を明確にしたうえで設計することです。

楽天市場では、以下のような需要が高まるタイミングが存在します。
● お買い物マラソン(前半・後半)
● ワンダフルデー
● 18の日
● 0・5のつく日

これらのタイミングに合わせて、戦略的に伸ばしたい商品へ販促を集中させます。

クーポン施策としては、以下の2つは汎用性が高いため、商品を限定せず、基本施策として設定します。
● マルチクーポン(◎◎◎◎円以上で△△円OFF)
● 初回限定クーポン(新規限定で◎◎◎◎円以上で△△円OFF)

④ CRM施策(メルマガ・LINE)
CRM施策では、まず月全体のテーマを設定します。
● 送客率に課題があるのか
● 開封率に課題があるのか
● どの商品を購入してもらいたいのか

といった観点から、月単位での方針を定めます。

そのうえで、
● 配信日
● 配信時間
● 配信内容(商品・企画)

をメルマガ・LINEごとに設定します。

また、各配信について想定売上を事前に記載しておくことで、後から振り返りが可能になります。CRMはリピーター売上だけでなく、SEOにも影響するため、中長期視点での重要施策として位置づけます。

⑤ クリエイティブ施策の設計
クリエイティブ施策は、積み上げ型の戦術となります。
主な内容は、
● LP改善
● 特集ページ作成
● 回遊リンクの設定
● サムネイル改善
などです。

これらは即効性よりも、中長期での転換率・SEO改善を目的とするため、週単位程度のスケジュールで管理します。あわせて、「らくらくーぽん」「イメージアップ」等のツール利用についても、実施タイミングと対象商品を記載します。


▼「アクションプラン」の役割
このようにアクションプランを設計することで、
● 3カ年のゴール
● 月次のKPI
● 日々の施策
が一本の線でつながります。

戦術とは、施策を増やすことではなく、戦略を実現するために、日々の行動を構造化することです。このように整理することで、3カ年のゴールと日々の施策が一本の線でつながります。

実行体制とPDCAの回し方~「ハツカネズミ」と「昇り竜」

PDCAとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)の頭文字を取った言葉で、業務改善や品質向上、目標達成のために、この4つのプロセスを継続的に繰り返す管理手法です。EC運用の怖いところは、PDCAを回していても、回していなくても、同じように「仕事をしているように見える」点にあります。

「毎月必死にメルマガを配信している」「毎月必死にイベントでクーポンを発行している」。
一見、頑張っているように見えます。しかし、PDCAが回っていないケースが非常に多い。これは、僕の視点から見ると、とてつもなく恐ろしい状態です。

現場は忙しそうにしている。でも、1年前と何も変わっていない。一方で、競合は確実に前に進んでいます。つまり、気づかないうちに負けているということで、当社ではこの状態を「ハツカネズミのPDCA」と呼んでいます。

なぜ、こうなってしまうのか。
理由はシンプルで、Plan(計画)がないからです。当社では、仮説とも呼びます。計画・仮説がないままDo(実行)をする。だから、何も残らないわけです。

本来、計画・仮説は、しっかり練り込んだ方が良いです。ただし、ないよりは、簡単でもあった方が100倍マシです。
例えばメルマガを作るとき、「このメルマガを打ったら、2万円売れるかな?」という仮説があるのと、ないのとでは、結果はまったく変わります。結果的に1万円売れたとして、仮説があれば、「あれ? 1万円しか売れなかったな」→「じゃあ、件名を変えてみようか」と、PDCAが回り始めます。一方で、仮説なくメルマガを作った場合、この結果に対してほとんど何も感じず、次も同じ形でメルマガを作るだけでしょう。

このように、計画・仮説を立てた上で施策を実行していくPDCAを、当社では「昇り竜のPDCA」と呼んでいます。

施策と戦略、2つのPDCAと実践事例

EC/楽天におけるPDCAには、大きく分けて2種類あります。一つ目は「① 施策のPDCA」で、メルマガ、広告、イベント対応など、施策レベルのPDCA。二つ目が「② 戦略のPDCA」で、セグメントシェアを取れているかどうかを検証するPDCAです。

例えば、「肉まん市場で思ったよりシェアが取れていない」「競合が想定より強い」といった場合は、「新たな商品を追加する」「商品の切り口を変える」「販促を強める」といった戦略側の改善が必要になります。

当社ではPDCAの質を上げるため、仮説を大事にしています。先ほど挙げたアクションプランに、『広告』『アフィリエイト』『イベント販促』『メルマガ・LINE』『クリエイティブ』の6項目を、スケジュールとそれぞれの詳細を記載し、振り返りができるようにしています。

特に広告運用については、広告種別ごとの費用と目標売上と運用テーマ。メルマガ・LINEについては、1本ごとに開封率や売上目標や配信内容を事前に記載するようにしています。こうすることによって、振り返りができ、PDCAが回るからです。

ここで、当社が実際に支援した事例を紹介しましょう。


【事例1】
クライアント:贈答メーカー様
●施策名:RPPの面抑えとイベント訴求

▶ビフォー(2025年10月)/売上:約20万円規模
▶アフター(2025年12月)/売上:約250万円規模

●施策の詳細:
・21キーワードを選定し、各キーワードで2枠以上をRPPで押さえる設計
・そのための注力商品を事前に選定
・イベント期間中はポイント20倍とし、商品名・サムネイルにてイベント訴求を明示


【事例2】
クライアント:美容メーカー様
●施策名「期間限定訴求施策」

▶ビフォー(2025年9月)
・昨年対比:77%
・注力商品の実績
  売上:20万円規模
  転換率:4.87%
  新規:5

▶アフター(2025年12月)
・昨年対比:240%
・注力商品の実績
  売上:60万円規模
  転換率:7.60%
  新規:24

●施策詳細:
・主力の1商品に集中
・主力商品を勝っていただけるだろう4キーワードに注力
・SEOとRPP広告を上記キーワードに集中
・イベント期間中にクーポンを発行し、店内バナー/CRM/サムネイル/商品名/LPで期間限定訴求を実施


【事例3】
クライアント:食品メーカー様
●施策名:SEO集中施策

▶ビフォア(2025年12月)/新規売上 昨年対比:-40万円規模
▶アフター(2026年1月)/新規売上 昨年対比:+30万円規模

●施策詳細:
・競合の多いキーワードへの注力をやめ、4キーワードのシェア拡大に集中
・注力商品の選定
・店舗内リンクによる集約
・RPP該当キーワードで露出を作り、RPP→SEOに波及する構造を設計

当社では、概ね以下の体制で運用しています。

● 分析・アクションプラン構築:PM
● 広告運用・分析:アナリスト
● 販促・CRM設計:コンサルタント
● クリエイティブ:コンサルタント

そして、
● 週次:施策レベルのPDCA
● 月次:KPIと事業計画のPDCA
● 四半期〜半年:戦略レベルのPDCA
という多層的なPDCAを回します。

この積み重ねによって、3年後のゴールを現実の数字として実現していくことが可能になります。

まとめ:戦術とは「運用構造」である

戦術とは、施策の数を増やすことではありません。戦略で描いた3年後のゴールを実現するために、事業計画と日々の運営をつなぐ運用構造を作ることです。週・月・年という時間軸でPDCAを回し続けることで、楽天ECは一過性ではなく、事業として成立していきます。

戦略と戦術が構造的につながったとき、楽天は「安定して勝ち続けられる市場」になります。

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次回は「歴史から学ぶECでの成功・失敗法則」として、諸葛亮孔明や織田信長を中心に、彼らがどういう狙いをもって、天下を取りに行ったのか、そういった狙いをECに置き換えるとどうなるのか、について解説します。連載の最終回として、歴史を紐解きながら、ECでの成功や失敗を避ける方法をお伝えできればと思います。


著者

桑田晋一 (Shinichi Kuwata)

株式会社ネットショップスタジオ 代表取締役CEO。
慶應義塾大学経済学部卒。学生時代のECコンサルティング会社でのインターンを経て、2006年に株式会社プラグインを設立し取締役として勤務。2010年、EC専門・メーカー専門のコンサルティング会社であるネットショップスタジオを設立。3年後の売上目標や攻めるセグメントや商品設計から逆算して日次の施策まで落とし込む『逆算メソッド』を開発。楽天で1億円作る丸投げコンサルティングサービス『楽イチ』を開発・提供する。

■EC/楽天情報提供の社長メルマガを毎日配信中。
https://netshop-studio.com/

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