ECサイトにおいて商品マッチングの良いレコメンドをするために検索条件からユーザーニーズを把握する

山崎 徳之

今回は前回の続きで、ECサイトにおいて商品マッチングの良いレコメンドをするために検索条件からユーザーニーズを把握する、という点について解説してみます。

そもそも検索条件というのは、ユーザーが「◯◯を探すために入力するもの」なので、本質的に相当ニーズを把握しやすいという前提があります。Googleがあれだけ成長したのも元はといえばリスティング広告ですが、これも「検索するキーワードに関連する広告は相当高い効果が期待できる」という理由があるためです。

Googleのようないわゆるインターネット検索の場合には、例えばスポーツや芸能情報のような購買とは無関係なキーワードも多く検索されます。というよりそういった検索のほうがほとんどでしょう。それでもその僅かな購買につながりうる検索キーワードへのリスティング広告だけでも、Googleはあれだけの収益をあげています。

これに対してECにおけるサイト内検索というのは「そのほとんどが購買するための検索」なので、ある意味純度100%の検索ともいえるようなものです。まさに宝の山といってもいいかもしれません。まずは検索キーワードですが、こちらはまさにリスティング広告と同じです。現在のほとんどのECサイトというのは、「キーワードが検索としてヒットする商品を表示」しています。

当たり前のように思いますが、そこが大きなブレークスルーのためのハードルです。Googleの場合には、いわゆるオーガニックな検索結果は純粋に検索キーワードがヒットする良質なコンテンツが表示されます。

それはそもそもGoogle検索をするユーザーが、「入力したキーワードにヒットする良質なコンテンツを探している」からです。ところが上や右に表示される広告は、必ずしもそのキーワードそのものがヒットする広告が出るとは限りません。広告主が「このキーワードが検索されたらうちの広告を出して欲しい」というキーワードを指名しています。例えばライバル会社や競合商品で広告を出すことすら、珍しくないでしょう。これはオーガニックな検索では起こらないことです。


ところがECサイトの場合には、そもそもが「購買をするための場所」なのですから、本来は全ての商品がこうした「広告と同じ発想で表示されるべき」なのです。つまりオーガニック検索がなくて、すべてリスティング広告が表示されるようなものです。理想を言えば、すべての商品について「このキーワードで検索されたときこの商品が表示されるようにしてほしい」という設定がされていると良いでしょう。

ところが実際には、多くのECサイトにおいては検索キーワードは単純に商品名とか商品説明のテキストにマッチして表示しているだけです。広告では「このキーワードでサイトや商品ページが表示されるようにしてほしい」という登録をしているのに、流入してきたユーザーにサイト内においては単純なキーワードマッチングだけで表示しているというのは、本末転倒ではないですが片手落ちと言わざるを得ないでしょう。

例えば「デジカメ」で検索した場合、単純なキーワードマッチングではデジタルカメラは表示されません。デジタルカメラの商品名や商品説明に「デジカメ」というキーワードは出てこないためです。その結果「デジカメ用ポーチ」であるとか「デジカメ用保護フィルム」であるとか、若干ずれたものが表示されてしまいます。でももし広告出稿をすると考えたら、「デジカメ」というキーワードにリスティングを指すのではないでしょうか。

別の例を挙げてみます。いわゆるレコメンドとして考えた時に、ほとんどのECサイトの運用者が「商品に対して商品をレコメンドする」という発想をします。「Aを買っている人はBも買っている」というパターンです。これはこれでジャンルによっては大変有効なので、別に間違ってはいません。

例えばマンガや小説、映画などはこのロジックは大変有効に機能します。商品に対して商品をレコメンドする、という発想があるのであれば、「検索条件に対して商品をレコメンドする」という発想はほんのちょっとした思考の飛躍で辿り着くことが出来ます。

商品が表示されてからレコメンドするだけではなく、その商品を表示するための元の検索条件に対して商品をレコメンドするほうが、より本質的なレコメンドができるケースは沢山あるでしょう。また検索キーワードではなくて、その他の検索条件も同様です。例えば価格帯というのはユーザーのニーズを把握するためには大変重要です。他にも色やサイズ、発売時期、レーティングなども、そのユーザーがどういった商品を求めているかを如実にあらわしているといえるでしょう。

またこういったキーワード以外の検索条件は、検索の絞り込みにも使いますが、並べ替えすなわちソートに使うことも多いと言えます。色でソートは出来ませんが、価格帯や発売日、レーティングなどは絞り込みにも使いますが並べ替えにも使えます。どの条件を入力したかによって、そのときそのユーザーは何を重視しているかがわかります。同じユーザーでも嗜好品を買うときと消耗品を買うときは、重視する項目が違うのは当然です。

検索に加えてレコメンドも、どういった検索条件を入力していたかによって、Aを買った人が一番良く買うのはBだとしても、その人はむしろCのほうがいいということは充分にありえることです。店舗の場合には、こういった高度なロジックは店員によって実現されています。それがいわゆる接客です。

この連載はECにおいていかに店舗のような接客を実現するのか、どうやって高度な商品レコメンドを実現するのかという点について解説してきました。

単純な「Aを買った人にはB」というレコメンドに加えて、検索条件がいかに重要かということが伝われば幸いです。


著者

山崎 徳之 (Noriyuki Yamazaki )

青山学院大学卒業後、アスキー、So-netなどでネットワーク・サーバエンジニアを経験。オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)のデータホテルを構築・運営の後、海外においてVoIPベンチャーを創業。2006年6月に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現株式会社ゼロスタート)を設立、代表取締役就任(現任)。EC向け商品検索やレコメンドエンジンの「ZERO ZONE」シリーズを開発・販売している。

http://zero-start.jp/