人工知能と要素分類

山崎 徳之 [PR]

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コラム#4:需要予測 - 消費者データの活用手法と領域
http://ecnomikata.com/ecnews/marketing/6522/

コラム#5:ECにおけるマーケットクリエーションと人工知能の活用
http://ecnomikata.com/ecnews/marketing/6579/

人工知能ブームの現状


今回はECにおいてパーソナライズされた商品目利きを実現するために、人工知能、機械学習といったものをどう活用するかについてです。

そもそもECにおいてどう人工知能や機械学習を活用するメリットがあるのでしょうか。正直ここ最近は「人工知能」という言葉がバズワード化しています。クラウドやビッグデータ、オムニチャネルなどがそうであったように、こうしたキーワードがバズワードと化しているときはその内容が玉石混交になりがちです。例えば今までと提供しているソリューションが同じなのに、急に「人工知能」と謳うようなケースも今後増えてくるでしょう。

私が代表を務めるゼロスタートでも、以前から機械学習ソリューションを提供しており、また今年の前半からマーケティングにどう人工知能を活かすかについて研究開発を進めていますが、胸を張って「人工知能がマーケティングにおいて画期的に役立つ」という確信を得るまではソリューションとしての提供は見合わせています。

ただ人工知能という言葉の定義はあいまいで、場合によっては単なる相関係数を使うだけで「人工知能を使ったマーケティングソリューション」と謳うようなケースも増えてきたりとか、一部に画像認識を用いているだけで「人工知能を活用した」というケースも見られるなど、このブームをどう捉えたものか正直悩んでいます。とはいえ長い目で見れば、こうした状況は必ず淘汰されていくことは歴史が証明していますので、今後共腰を据えた取り組みをしたいとおもいます。

機械学習による成果


さて、定義があいまいなのでなにを活用するのが人工知能にあたるのか、という問題がありますが、まずは基本的な前提について考えてみます。

人工知能も機械学習も、その根本にあるのは「データを演算することで人間の経験に基づいたような、もしくは人間では難しい成果を出す」というものです。ではその成果とは何かというと、簡単にいえばそれは「要素を見つけて分類」することです。その要素は明確に定義できることもあればそうでないこともあります。分類する対象は基本、人間(消費者)と商品です。人間と商品を分類するケース、人間同士を分類するケース、商品同士を分類するケースなど組み合わせは様々です。

例えば最も単純な「Aを買っている人はBも買っている」という、いわゆる相関によるレコメンドというのは購買行動を要素として商品同士を分類しているケースです。TVのCMにあるような「ゴルフ番組を観ている人にゴルフクラブの宣伝」というのは、ゴルフという要素を用いて人間と商品を分類しているといえます。ベイズ推定を用いてニュース記事をレコメンドするというのは、キーワードを要素として人間と商品を分類しています。マーケティングとはちょっと違いますが、人工知能が注目を浴びるきっかけになった画像認識というのは、画像データを要素として商品を分類しています。

人間と商品の要素分類


ところでマーケティングというのは基本、人間に対して商品を提案し購買につなげるという原則があります。人間同士の分類、商品同士の分類というのは、それだけではマーケティングにつながらないので、どこかで人間と商品を結び付けなければなりません。それは商品をカートにいれることであったり、購買行動であったりなど様々です。

先に挙げたAを買っている人はBも買っているというのは、それだけでは成果につながりません。AとBが何らかの相関を持つグループに分類されただけです。そこで人間がAに注目したとき、カートに入れるとか購入したときなどに、ではBもいかがでしょうかとなって初めて成果が期待できるのです。

人間同士の分類も同様で、XさんとYさんが似ていると分類されてもそれだけでは意味がなく(SNSなどでは意味がありますが)、そこからではXさんの好む商品をYさんに提案するなどのステップが必要です。一方人間と商品を分類するのは、これはそのまま成果に直結するアクションが可能です。ただ人間と商品を分類するための手法は、その根拠となる要素を何に求めるかが、一般的に人間同士、商品同士の分類よりも難しいのです。人間同士、商品同士は同じものなので、演算が可能です。単位が同じであるといえます。

分類ラベルの複雑化


これに対して人間と商品は単位が違うため、そのまま演算ができません。結局それらを結びつける要素、ラベルとかメタデータとか言い方はいろいろありますがそうしたものが必要になってきます。

集合知やビッグデータが注目を集めたのは、大量の演算を根拠にしたアプローチであるといえますが、私はこれから注目されるのはこうしたラベルやメタデータをどう扱うかだと考えています。一番単純なのはキーワードです。例えばGmailだとメール文中に出てきたキーワードに関連する商品の広告が表示されます。それ以外にも地域、年齢層、性別、趣味などもこうしたラベルです。

ただこういうわかりやすいものだけではなく、例えば「都会に住む若くて浪費がちな男性」というような複雑なラベルもすでに扱われ始めています。そのうち文字にできないようなラベルが増えていくことでしょう。こうしたラベルを用いて人間と商品を分類するとき、これまでとはまた違う高度なマーケティングソリューションが普及してくると思います。


著者

山崎 徳之 (Noriyuki Yamazaki )

青山学院大学卒業後、アスキー、So-netなどでネットワーク・サーバエンジニアを経験。オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)のデータホテルを構築・運営の後、海外においてVoIPベンチャーを創業。2006年6月に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現株式会社ゼロスタート)を設立、代表取締役就任(現任)。EC向け商品検索やレコメンドエンジンの「ZERO ZONE」シリーズを開発・販売している。

http://zero-start.jp/