大事にしている2つのこと ~カメラのキタムラ EC成長の道のり~
逸見光次郎の連載コラム「カメラのキタムラ EC成長の道のりと今後の展望」
第6回:「組織とWEBサイトを統合する時の基本思想」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7238/
第7回:「キタムラeモール計画」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7777/
組織の情報共有と判断基準
実は私はあまり細かい指示をしない、いい加減なリーダーです(笑)その為に、どうやって効率良く情報共有をするか、課題発見を行うかを重視しています。その基本となる会議体は以下のように運営しています。
①EC全体会
月に1回。昼食はさんで実質3時間半位。社員は基本全員参加。
全員が何をやっているのか10~20分でチーム別に報告・共有する。
②ECマネージャー会
週1回月曜日。1時間。
各マネージャーが参加し、現状報告と課題共有・提案。
③ECシステム定例会
週~2週に1回。1時間。EC営業と情報システムの定例会
課題管理表を元に進捗確認と新規案件検討。(私は不在)
④ECシステム全体会
月に1回。1時間~1時間半。
社長(スケジュール空いている限り会長も)、CIO、EC
事業部長(私)とEC / 情報システム関係メンバー参加。
システム開発全体の進捗と、リリース後の状況(売上含む)
システムトラブルの報告・共有、新規計画の共有・確認等
新横浜・高松を結んでのTV会議が基本です。これ以外に随時の会議はありますが、定例会議はこれ以外にはやりません。会議を増やしても、数字は伸びないからです。
一方、必ずこの中で各自・各チームともシンプルに報告・課題共有・提案を行い、みなの意見を聴き、賛同を得る事が重要です。時間が必要なものは別途協議や、事前にメールでの共有・確認も併行して行います。メールも無駄に3往復以上し始めた時は電話して「当事者ですぐ電話 or TV会議で話せ!」としています(笑)
結果として、最小限の時間で効率良く情報・課題共有を行い、継続的な改善を行う会議体・組織となっていきます。この会議体で決議されたものは、必要に応じてキタムラ全体の営業会議や役員会に提案され、決議され、動き出します。もちろん決議の際には、誰が、いつまでにやる、と明確にして進めます。いかに会議と報告書作成の時間を減らして、実務時間を作るか、一方で情報共有を密にするか。これは会社組織の永遠の課題ですよね。
ちなみにシステムについては、eモールリリース当初は毎週1回、昨年からは2週間に1回の定期改修リリースで、継続的な改善を行っています。この中にはキタムラ店頭で使っているECタブレット改善ももちろん含まれています。タブレットの課題は、毎月のキタムラ店長会にECメンバーが出張してECタブレットを活用した販売方法の提案を行う際に、各店長からの意見を吸い上げて一覧化し、改善していきます。ECのサービスで、みなにこれだけは、とお願いしているのは「決済金額と商品の納期だけは正確であること」です。この基本を守ってさえいれば、どんな課題解決方法も全てOKとし、費用対効果だけの問題となります。
ECの利益構造を理解する
もう一つの重要な要素であり判断基準となるものは“利益”です。ちゃんと利益構造を理解しているかどうか。うちでは売上ではなく全て利益で評価しています。いくら売上が伸びても、利益が増えていなかったら賞与も給料も増えないし、投資も出来ませんよね。だから利益が伸びる施策であれば、多少売上が落ちても、OKします。
私が昔セブンで教わったのはECならではのPL(損益計算書。Profit&Loss)の作り方です。大きくは次のように分けます。
①売上・・・店舗別(本店・Y!店・楽天店・アマゾン店)、部門別(イメージング・ハード(カメラ)・ソフト・家電・時計)
②仕入原価・・・店舗別/部門別
③荒利益・・・店舗別/部門別
④変動費・・・決済手数料、モール手数料、アフィリエイト手数料、物流(作業費・送料)、ポイント関連 等
⑤固定費・・・人件費、家賃、光熱費、償却費、通信費 等
⑥営業利益
⑦経常利益
これらを店舗売上PLとEC売上PLで比較したのが次の図です。
この「変動費」(売上に比例して発生する費用)と「固定費」(売上とは関係なく発生する費用)の認識の仕方が大事です。通常の小売店舗では、経費の大半は「固定費」の中の「人件費」と「家賃」になります。「変動費」は「カード決済手数料」くらいです。その為、頑張って売上げを伸ばせば一定の「固定費」の中で利益を増やす事が出来ます。もちろん人員増員等による「固定費」増もありますが、変動的には増えませんよね。
一方でECの場合、大半は「変動費」です。1件注文が入って出荷したら発生する費用です。わかりやすいように売上金額との対比で%表示します。図のように、キタムラEC宅配売上の月10億円に対して「固定費」は3,000万円、売り比で3%となります。この%は月の売上金額が増えたら小さくなりますが、一方の「変動費」は常に売り比で9%発生します。売上金額が大きくなっても小さくなっても%は変わりません。%を変える為にはカード会社や物流会社と“どのくらいの量になった0.01%引き下げてもらう”といったボリュームディスカウント交渉が必要です。
「固定費」3%、「変動費」9%であれば、商品の販売ごと(注文1件ごと)に売上金額の3%+9%=12%の“費用”が発生します。1万円の売価であれば、1,200円のコストです。手元に残るお金は1万円―1,200円で8,800円。同時に商品の仕入金額も引きます。仕入原価85%(つまり荒利15%)だったら仕入金額は8,500円。8,800円―8,500円=300円が利益になります。これが営業利益です。売り比でみたら300円÷1万円で3%です。
EC事業の場合はその後の営業外収支(銀行の受取/支払利息や、保有株式の配当など)が少ない為、だいたいこの営業利益=経常利益と見ることが出来ます。事業会社の場合は、借入金が多いと、営業外支出となる支払利息が増えたりする事があります。
実はECの利益構造がわかりにくいのは、ここで「変動費」と呼んでいるほとんどの項目が決算書作成時には「固定費」に入ってしまい、見えなくなるからです。
「モール手数料・アフィリエイト手数料・ポイント」これらは「固定費」の中の「販促費」となり、「物流費」は「荷造運賃」となります。そのため、売れたら発生する「変動費」ではなく、毎月固定で発生する「固定費」と考えてしまい、利益見込を見誤るのです。うちでは毎月決算書PLから書き換えてECPLを作成しています。
こうしてざっくり利益構造がわかると、商品担当はいくらの値付けをしたら儲かるのかがわかり、経営陣も儲かる利益構造の指標が理解出来ます。BS(貸借対照表。BalanceSheet)もわかるに越した事はないですが、全てを理解するのは大変なので、最初のうちは在庫金額の把握が出来ていると、事業全体の収益がわかりやすくなるかもしれません。お金勘定が苦手という人も、最低限この図のような指標は身につけておくといいと思います。
こうした判断基準をメンバーが持ってくれているので私はラクが出来ているのです(笑)