真のオムニチャネル ~カメラのキタムラ EC成長の道のり~

逸見 光次郎

逸見光次郎の連載コラム「カメラのキタムラ EC成長の道のりと今後の展望」
第8回:「大事にしている2つのこと」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7847/

第9回:「顧客満足とマーケティング」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7920/

“仕組み”ありき、ではなく“お客さま”ありき

前回は顧客満足とマーケティングについてお話しさせていただきました。よく「どうしたらオムニチャネルを実践する事が出来ますか?」と質問をいただきます。たしかに“評価指標(関与売上)”や“店頭ECタブレット”などの仕組み・手法の話をしていますが、そうした仕組みや考え方を導入したらオムニチャネル化が進むわけではありません。

大事なのは自社の商品・サービスを利用しているお客さまをよく見る事です。そしてお客さまから見た自社の専門性をしっかりと理解し、お客さまが自社にどんな商品・サービスを求めているのかを考えます。その上で、ご注文いただく入り口を用意し、いつ、どのようにお届けするのか、もしくは取りに来ていただくのか、決済方法はどうするのか、など様々な仕組みを考えます。さらにその仕組みを現場でしっかり活用してもらえるような研修と評価制度を作ります。決して先に“オムニチャネルの仕組み”を用意するのではありません。

ただし“お客様は神さま”ではなく、出来る事、出来ない事はきちんとご説明して良いと思っています。また一方で通常では出来ないけれど、別途対価を頂ければ出来るサービスを増やしていく事が必要だと考えています。直近の年賀状商戦では、年賀状チームが「写真年賀状受付締切り後の特急サービス」を実験として提案しました。12月26日の締切り後でも“ネット注文→宅配お届け”のパターンで、1,080円の別料金をいただければご注文をお受けし、年内にちゃんとお届けする、という内容です。

私の友人がこのサービスを使ってくれたのですが、仕事が忙しくて年末まで年賀状を頼む余裕がなかったけれど、1,000円ちょっとの追加料金で注文を受けてくれて、なおかつ2日程度で届けてくれるなら高くないし便利だと思う、との事でした。キタムラは自社印刷工場を持っており、生産現場との調整さえつけばご提供出来るサービスでした。

この実験サービスは数百件もの利用があり、年末になってしまって写真年賀状が頼めない、というお客さまのお困りごとを解決すると共に、追加料金分が利益になるという、双方Win-Winの結果となりました。無理に安くしたり値引く必要はなく、事業としてちゃんと適正な対価を頂きながら便利なサービスを提供する。日本では「サービス=無償」という思い込みがありますがそうではなく、大事なのはお客さまが選べるメニューを用意し、適正な価格を提示する事だと思います。その為にも既存の業務を効率化し、こうした特別メニューに対応出来る余力を作る必要があります。

これからのオムニチャネル

お客さまの求めるものを、求める手段で、求めるタイミングに適正な対価で提案する。それは常に一定の流れではなく、同じお客さまでもその時の状況や気持ちなどによって、パターンは変わってきます。「今日はお店に行って、よく商品を見て、説明を聞きたい」と思う日もあれば「今日は時間が無いしお店に寄るのが面倒だから宅配で届けてもらおう」と思う日もありますよね。一方でお店の側も、営業時間の制約があったり。

そうした中で、どうやってお客さまとお店の間に長期にわたる良好な関係を築いていく事が出来るのか。オイシックスの奥谷さんが提唱する「EC=Engagement commerce」の考え方が非常にしっくりきます。お客さまとの強いきずなを築くにはどうするのか。“ネット(EC)か店舗か”“PCかスマホか”“SNSか広告か”などど、様々な接点の優劣を決めるのではなく、お客さまがその時々で選んでいただけるようになること。“お客さまもお店もオムニチャネル化している”という状況を理解し対応する事が重要だとおっしゃっています。

オムニチャネル化の本質は、変化への対応です。機器、環境の変化だけではなく、その結果変化しているお客さまの行動に対応する事です。単なる接点を用意するだけでなく、その中で伝える情報(商品・サービス情報、価格等)が社内で統一されていて、お客さまごとに適正な伝え方(メール、アプリ、DM等)で伝えられている事。オムニチャネルという言葉はいわゆるバズワード化して、今までの“クリック&モルタル”“O2O”のように消えていくかもしれませんが、“店舗とネットの融合”を基本にしたビジネスの進め方は変わらず進化すると思っています。

その中で今はキタムラの“人間力EC”のように、店舗がネットを活用する、ネットから店舗への送客で貢献する、という店舗軸が強い施策が効果を生んでいますが、これからは様々な形が生まれると考えています。同一業種でネットが強い会社と、店舗が強い会社がそれぞれのインフラを活用するために提携して顧客満足に取り組んだり、複数の専門店が協力しあって相互送客し、自社にない商品でもお客さまのニーズがあればご提供出来るように提携が進んだり。特に後者はアフィリエイトやリンクモデルなどとは違って、自店の大事なお客さまに、安心してご利用いただける信頼出来る他店をご紹介するソーシャルに近い考え方であり、“広告”というものが減っていくのではないかと考えています。

(第11回へ続く)


著者

逸見 光次郎 (Koijro Henmi)

学習院大学文学部史学科卒。
1994年 三省堂書店入社、神田本店、成田空港店、相模大野店、八王子店勤務。
1999年 ソフトバンク入社。イー・ショッピング・ブックス(現:セブンネットショッピング)の立ち上げに関わる。
2006年 アマゾン入社、 ブックスマーチャンダイザー。
2007年 イオン入社、ネットスーパー立ち上げ後、グループ全体のネット事業戦略構築を行う。
2011年 キタムラ入社、EC推進本部副部長、ピクチャリングオンライン代表取締役会長を経て、執行役員EC事業部長。
2015年 経営企画、オムニチャネル推進担当。
2017年 3月よりローソン、マーケティング本部本部長補佐