BtoB ECは「全顧客のシステム化」を目指してはいけない――現場を疲弊させない「攻め」と「守り」のDX
いまや国内BtoB ECの市場規模は500兆円を超え、EC化率も右肩上がりで伸長中(※)。しかしその裏で、「システムを導入したのに業務が減らない」「社内に定着しない」といった課題に直面している企業も多い。
そうした「分厚い現実の壁」を破り、BtoB ECを成功させるには、どうすれば良いのか。BtoB領域のEC支援を専門とし、複数の自治体でDXパートナーも務める株式会社ウキヨの吉岡大輝氏が、BtoB特有の商慣習を踏み外すことなく、自社に最適な運用体制を築くための実践的ロードマップを提示する。(全6回)
※経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」より
DXの焦りが生む、BtoB現場の「見えない悲鳴」
世の中はDXブーム真っ只中。BtoB(企業間取引)の世界でも、「うちも早く電話やFAXをなくして、Web受発注(BtoB EC)に切り替えよう!」と意気込む企業が急増しています。
しかし、いざシステムを入れてみると、どうでしょうか。 現場からは「思ったほど業務が楽にならない」「イレギュラーな対応が増えて、かえって手間がかかる」、さらには「古くからの得意先から『使いにくい』と怒られてしまった」といった悲鳴が上がり、頭を抱えているご担当者様は少なくありません。
業務を楽にするはずのシステムが、なぜ現場を苦しめてしまうのでしょうか。
実は、システム自体の機能が悪いわけではないことがほとんどです。一番の落とし穴は、導入時の「スタンス」にあります。BtoC(消費者向け)のネットショップと同じ感覚で、「すべての取引先を、ひとつのシステムで一律に処理しよう」としていませんか? この「一律でデジタル化しようとするアプローチ」そのものが、義理人情や複雑な商習慣が絡み合うBtoBの現場には、そもそも馴染まないケースが多いです。
データが示す「一律DXの限界」と、奪われている大切な時間
この「一律DXの落とし穴」について、私たち株式会社ウキヨがBtoB受発注業務に携わる400名を対象に行ったアンケートからも、現場のリアルな葛藤が見えてきました。
※図版提供:株式会社ウキヨ(以下同)
調査によると、現場の32.8%が「全取引先を単一システムに統一したい」という理想を持っています。人に依存する業務をなくし、スッキリと効率化したいと願うのは当然の気持ちですよね。
しかし、現実の壁は分厚く、システム化を阻む要因のトップは「取引先ごとの個別単価・ルールの存在」でした。BtoB特有の「あの会社にはこの単価で」「この得意先は特別な納品ルールで」といった個別対応が、画一的なデジタル化を強烈に拒んでいるのです。
ここで目を向けていただきたいのは、無理にシステム化を進めようとしたり、システムでカバーしきれずに残った手作業が招く「見えない損失」です。

「手作業での対応に追われた結果、十分に時間が割けていない業務は何か?」という質問に対し、半数以上(50.3%)が「顧客との中長期的な関係構築」、34.0%が「大口・重要顧客への提案」と答えています。
企業の売上を支える大口顧客への「人間らしい営業活動」が、システムを回すため、あるいは手作業のフォローのための事務作業によって削られてしまっている。これこそが、経営層が最も危惧すべき、悲しい現実です。
【実例】「全部システム化」の壁にぶつかった、3社のリアルな選択
私たちが日々ご相談をお受けする中でも、「全社一律のシステム化」という理想に挑み、大きな壁にぶつかった企業はたくさんいらっしゃいます。ここでは、規模や業種の異なる3社のリアルなエピソードをご紹介します。
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ある年商数百億円規模のグローバル製造メーカー様では、全社的な受発注システムの統合を目指されていました。しかし、一律でシステム化を進めようとすると、お客様ごとの細かなルールのすり合わせの前に、「事業部ごとのセクショナリズム」という泥臭い社内調整の壁が立ちはだかりました。その結果、DX担当者様はすっかり疲弊してしまい、「現場を楽にする」という本来の目的を見失いそうになっておられました。BtoB特有の重厚な組織構造が浮き彫りになったケースです。
また、国内屈指の大手総合商社様では、外からの要因で「一元化の限界」に直面されました。売上の基盤となる大手取引先からは「指定のEDI(電子データ交換)」を使うよう求められる一方で、それ以外のたくさんの取引先からは、相変わらず電話やFAXでの注文がほとんどという状況でした。そこで彼らは「すべての受発注をひとつの自社システムにまとめるのは無理だ」と早々に判断され、大手にはEDIで合わせ、それ以外の取引先には自社のBtoB ECを案内するという「取引の切り分け」という現実的な道を選ばれました。
さらに、年商数百億円規模の上場食品卸企業様では、すでに営業担当経由だけでなくWeb受注の経路もお持ちでした。ただ、売上を引っ張る大口顧客をどうしても優先するため、取引割合の低い小口取引へのフォローがどうしても手薄になってしまう、というお悩みでした。そこで彼らが出した答えは、小口取引の取りこぼしを防ぐため、「営業担当者が一切介在しない、小口取引にフォーカスした専用のECサイト」を新たに作る、というものでした。
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これらの事例が教えてくれるのは、「すべてのお客様と取引を、ひとつのシステムに綺麗にまとめる」という理想が、いかに現場のリアルと離れているかということです。無理な一元化は、社内を疲れさせるか、大切なお客様との関係をギクシャクさせてしまうかのどちらかを招きかねません。
【解決策】現場が求めている「デジタルと人のハイブリッド戦略」
では、複雑なBtoB取引において、私たちはどうシステムと付き合っていけばいいのでしょうか。

先ほどの調査で、「今後のBtoBビジネスにおいて、業務のデジタル化と、人による柔軟な個別対応の両立は不可欠になると思うか」と伺ったところ、71.8%が「不可欠である」と答えました。
現場が本当に求めているのは、システムによる「冷たい一律処理」ではありません。デジタルに任せるべき定型業務と、人が間に入って温かみを提供する個別対応を、しっかり切り分ける「ハイブリッドな運用」なのです。
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本連載では、これから具体的なシステム選定や運用のコツをお伝えしていきますが、すべてのベースとなる私たちの考え方を、ここで一つお伝えさせてください。
BtoB EC導入の本当の目的は、「業務をシステムに置き換えること」ではなく、「利益を最大化するために、人(時間)の配置を見直すこと」です。 当社では、これを「攻めと守りのDX」と呼んでいます。

●守りのDX(小口・定型取引の効率化):パターン化しやすい受発注を専用のBtoB ECなどでセルフサービス化し、現場の事務負担を極限まで減らす
●攻めのDX(大口・重要取引の深耕 / 取引拡大):データに基づく最適なマーケティング活動の強化や、守りのDXで浮いた時間で大口顧客への手厚いご提案、イレギュラーなご要望に「人ならではの商い」で応える
すべてのお客様をひとつの枠に押し込むのではなく、取引の性質に応じて「システム」と「人」を優しく使い分けること。これこそが、お客様に喜ばれながら利益率をグッと高める、現実的で温かいBtoB ECの姿だと私たちは信じています。
まとめ
BtoB ECを成功させる第一歩は、「全顧客のシステム化」という美しい幻想を手放すことから始まります。自社のお客様の顔を思い浮かべ、デジタルと人を上手に使い分けるスタンスを持たなければ、現場は必ず疲れてしまいます。
ただ、経営層がどれほど現場を想ってハイブリッドな戦略を描いても、実際に使う営業担当者が「今まで通り電話やFAXで受けた方が早いよ」とそっぽを向いてしまえば、プロジェクトは前に進みません。
次回(第2回)は、BtoB EC導入における最大の壁とも言える「システムを入れたのに営業が使ってくれない」という事態を防ぐための、経営と現場の目線合わせや推進体制の作り方について、一緒にお話ししていきましょう。


