現場の反発と経営の壁をどう乗り越えるか? 営業の「65%のムダ」を削減するBtoB ECプロジェクトの進め方
BtoB ECの導入を進める際に、多くの企業が直面する「社内のすれ違い」という大きな壁。経営層やDX担当者が主導すれば実際にシステムを使う現場から反発が起きる、逆に、現場がシステム導入を切望しているのに経営者が煮え切らない――。
株式会社ウキヨの吉岡大輝氏による連載第2回は、この「不幸なすれ違い」の原因と、全社を巻き込んで「壁」を乗り越えBtoB EC構築を進める組織作りについて、実例を引きながら解説する。(全6回)
●過去記事はこちら! 第1回:現場を疲弊させない「攻め」と「守り」のDX
システム導入の前に立ちはだかる「社内のすれ違い」
前回(第1回)の記事では、すべてのお客様をひとつのシステムに押し込もうとする「一律のデジタル化」を手放し、デジタルと人を優しく使い分けるハイブリッド戦略の重要性をお伝えしました。小口取引はシステムによるセルフサービス化で徹底的に効率化し、そこで浮いた時間を大口顧客への人間らしい提案活動に振り向ける。これがBtoB EC導入の本来の目的です。
しかし、経営層やDX担当者が自社に合ったこの戦略を描き、いざシステムを導入しようと動き出した時、必ずと言っていいほど直面する問題があります。それが「社内のすれ違い」です。
経営層が主導してシステムを入れようとすると、実際にそれを使う現場の営業担当者から強い反発が起きる。逆に、現場からデジタル化の必要性を訴えても、経営層が投資に踏み切ってくれない。会社全体の業務を良くし、利益を上げるための取り組みであるはずなのに、なぜこのような対立が起きてしまうのでしょうか。
今回は、このすれ違いが起きる根本的な背景と、全社を巻き込んでBtoB ECを前に進めるための「推進体制の作り方」について、導入を成功させた企業のリアルな事例を交えてお伝えします。
データが示す「65%の非営業時間」と、変化への不安
現場がシステム導入に反発する理由を紐解く前に、少しショッキングなデータをご紹介します。 セールスフォース社が行った調査によると、営業担当者は業務時間の「約65%」もの時間を、本来の営業活動(顧客への提案や商談など)以外の業務に費やしていると言われています。
実際に私たちがご支援に入り、現場の皆様にヒアリングを行う中でも、このデータと見事に符号する現実があります。多くの営業担当者が、鳴りやまない電話や大量のFAXの処理、そして長年培われてきた「このお客様にはこの単価で」「この得意先にはこの納品形態で」といった、属人的なルールの対応に1日の大半を奪われています。本来やるべきリピートを促すための施策や、新しいご提案に割く時間はほとんど残されていません。

これほどまでに日々の事務作業で疲弊しているのなら、業務を自動化して楽にしてくれるシステムを、現場は大手を振って歓迎してくれそうに思えます。しかし、現場のホンネは違います。
「本当に取引先がシステムに切り替えてくれるという確信が持てない」 「かえって『使い方がわからない』という電話での問い合わせが増えて、余計に自分たちの首を絞めるのではないか」 「長年自分が築いてきたお客様とのやり取りのペースが崩れてしまう」
つまり、現場がシステム化に反発する正体は「今のやり方が楽だから」ではありません。「これ以上業務が混乱することへの恐怖」や「新しい取り組みに対する強烈な不安・不信感」なのです。
【実例】社内の壁にぶつかった、2社のリアルな選択
では、この「現場の壁」、そして逆のパターンである「経営層の壁」を、企業はどう乗り越えればよいのでしょうか。ここでは、現場の壁を見事に打ち破り、BtoB EC導入を成功させた2社のエピソードをご紹介します。
●実例1.【経営→現場】トップダウンに現場が反発した食品企業様(年商数十億円規模)
ある食品を扱う企業様では、電話やFAXでのアナログな発注が大半を占め、営業担当ごとの属人的なルールで日々の処理が行われていました。経営側はシステム化による効率化を急ぎましたが、現場からは先述のような「変化への不安」から強い反発が起きていました。
しかし、ある時大きな転機が訪れます。営業担当の離職やチームの再編が重なり、従来の受注・営業業務の体制を大幅に縮小し、物理的に「これまで通りのマンパワーでのアナログ対応は不可能」な限界の状況に直面しました。
そこで私たちは、これを機に単なるシステムの箱を入れるだけでなく、「属人化したルールの再設計」を一緒に進めました。結果としてどうなったか。ちょうどその頃、食品業界は原材料高騰の波を受け、頻繁な「価格改定」が発生する時期でした。これまでは価格が変わるたびに、営業が手作業で見積書を作り直し、全取引先に個別に説明・周知するという膨大な負荷がかかっていました。
これがBtoB EC化によって、マスターデータを一括変更するだけで自動反映されるようになったのです。現場の首を最も絞めていた「価格改定のアナウンス業務」が丸ごと不要になったことで、現場のシステムに対する不信感は一気に解消されました。

「65%の非営業時間」が大きく削られたことで、人員が減ったにもかかわらず、お客様との対話に時間を割けるようになり、新規の引き合いにも適材適所で対応できる体制が整いました。「売上を追うだけの体制」から「利益を生み出す体制」へと、見事な転換を果たしたのです。
●実例2.【現場→経営】ボトムアップにトップが難色を示した工業用製品メーカー様(年商数十億円規模)
もう一つは、先ほどとは逆のケースです。従来のルート営業だけでは売上の伸びに限界を感じていた現場が、「Webからの新規引き合いを獲得したい」とBtoB ECの導入を熱望されました。
しかし、この工業用製品の分野においてデジタルチャネルを活用した受発注は業界的にもほとんど前例がなく、経営層は「市場性やWeb上でのポテンシャルが未知数である」として、投資に対して難色を示されました。新しいシステムへの投資は、経営層にとっても「見えない不安」だったのです。
そこで現場の皆様と一緒に取り組んだのは、「システムを入れたい」という現場の要望を、経営層の言語である「事業計画」に翻訳することでした。市場性や、Webでどれだけの引き合いが取れるポテンシャルがあるのかを客観的な数字で具体的に試算し、会議へ提出しました。
さらに、一か八かの全社一斉導入といった大規模な投資ではなく、まずは一部の領域からスタートする「段階的な投資」を提案。結果として、リスクを最小限に抑えつつリターンが見込める計画として、無事に経営陣の納得と承認を勝ち取ることができたのです。
対立を乗り越え、一枚岩の推進体制を作る「3つのポイント」
これらの事例から見えてくる、BtoB ECプロジェクトを前に進めるためのポイントは以下の3つです。
● 目的を「相手のメリット」に翻訳する
経営層には「市場性と確実な投資対効果(段階的投資)」を提示し、現場には「価格改定の周知・説明といった、目の前の痛みの解消」を提示する。自分が言いたいことではなく、それぞれの立場が抱える「不安」を取り除く言葉に翻訳することが、目線合わせの第一歩です。
● 属人化を否定せず、ルール再設計の「きっかけ」にする
現場が長年抱え込んできた属人的なルールを、単に「遅れている悪習」として切り捨てるのは危険です。人員不足などの外的要因によるピンチを逆手に取り、業務を整理・標準化する前向きな「ルール再設計の機会」として共に取り組む姿勢が求められます。
● 小さく始めて、成功体験を共有する
最初から完璧な全社導入を目指す必要はありません。まずは動かしてみて、「この業務の負担が本当に減った」という現場の小さな成功体験や、「Webから本当に新規の引き合いが来た」という事実を早く作ること。この小さな成功の積み重ねが、社内の不信感を払拭し、全社を動かす最大の推進力になります。

まとめ
BtoB ECの導入は、単なる便利なITツールの導入ではありません。社内の業務プロセスそのものを変える、痛みを伴う「意識改革プロジェクト」です。トップダウンであれボトムアップであれ、経営と現場の言葉を正しく翻訳し、お互いの不安を解消しながら伴走する推進体制が不可欠です。
さて、社内の目線が合い、いざシステム化を進めようとした時に待ち受けているのが「要件定義」という大きな壁です。「この取引先には特別な単価で」「あのお客様は独自の納品ルールで」といったBtoB特有のアナログな商慣習の数々。これらを、どこまでシステムに落とし込むべきか、あるいは落とし込まないべきか。
次回(第3回)は、この複雑な要件定義をどう整理し、システムに反映していくべきか、その具体的なステップとノウハウについて解説していきます。


