【BtoB EC《要件整理》チェックリスト付】BtoB特有のアナログ商慣習をシステムに落とし込む3つのステップ
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【第1回】現場を疲弊させない「攻め」と「守り」のDX
【第2回】現場の反発と経営の壁をどう乗り越えるか? 営業の「65%のムダ」を削減するBtoB ECプロジェクトの進め方
得意先ごとの「特別ルール」があるとシステム化は無理?
BtoB ECの導入プロジェクトが立ち上がった途端、営業部門から次々と声が上がります。
「A社には独自の特価ルールがあるからシステム化は無理だ」
「B社は急ぎの電話注文が多くて、ECなんて使ってくれない」
こうした現場の「特別ルール」や「アナログな商慣習」に直面し、要件定義の段階でプロジェクトが泥沼化してしまう。これはBtoBのシステム導入において、最もよくある挫折のパターンです。
【導入】BtoBのEC化が「要件定義」で泥沼化する本当の理由
DXやシステム化が叫ばれる昨今、「アナログな特別対応=悪」として、無理やりシステムの標準機能に業務を合わせようとする企業が少なくありません。
しかし、BtoB卸・製造業において、受注、見積、在庫確認、顧客別対応などに存在する柔軟な個別対応(アナログ)は、単なる「手間」ではなく、自社の「顧客価値」であり、デジタル・AI時代における「競争優位性」そのものです。
問題の本質は「特別対応をしていること」ではありません。「特別対応が属人化し、判断基準が曖昧なまま、全件手作業になっていること」なのです。ここを履き違えてすべてを一律にデジタル化しようとすると、プロジェクトは必ず失敗します。
昨今のAI導入の現場で「FDE(Forward Deployed Engineer)」と呼ばれるアプローチに近いですが、現場業務を可視化し、デジタル化・例外対応・運用設計まで落とし込む確実なステップが必要です。
【事例】「全部システム化」を諦め、顧客価値を守り抜いた企業のリアル
実際に私たちが支援した企業でも、この壁に直面しました。
●事例1:年商数十億規模の建材メーカーのケース
従来の受発注プロセスが営業活動の延長線上にあり、商圏内のVIP顧客には非常にアナログかつ丁寧な対応が求められていました。これを「全業務デジタル化」することは不可能です。
そこで下した決断は、「既存事業のVIP対応はあえて現状のアナログ(人)に残し、端材やアウトレット品を扱う『新規事業』としてデジタル完結のECをスタートさせる」という完全な棲み分けでした。
●事例2:大手企業のケース
取引規模の大きな企業とそうでない企業の割合が、およそ2:8(パレート分布)になっていました。上位2割の取引は指定のWeb-EDIを変えられないため「特別ルール」として許容し、残り8割の小口取引にのみフォーカスしてシステム化を実施しました。
このように、まずは現場の業務を可視化し、デジタル化するものと例外対応(人がやるもの)を明確に切り分ける運用設計が不可欠です。
アナログ商慣習を整理する「3つのステップ」
では、属人化した業務をどう整理すればよいのでしょうか。私たちが現場で行っている手順をご紹介します。業務は「標準業務(自動化)」「条件付き業務(一部自動化)」「特別対応(人が担う)」の3つに分類して進めます。
① 業務の棚卸し(「誰が」「何を」判断しているかを見る)
対象業務を細かく分解します。ここで重要なのは「FAXを受注している」といった作業内容ではなく、「誰が判断しているか」「何を見て判断しているか」「判断基準は明文化されているか」「単なる手間か、必要な人間対応か」を見極めることです。
②「判断」を分解する
業務が属人化する最大の理由は、「担当者の頭の中にある複合的な判断」が分解されていないことにあります。
例えば「見積作成」という業務で、営業担当者は以下を同時に頭の中で処理しています。
・この顧客に売ってよい商品か?
・過去にいくらで売ったか?
・粗利は確保できるか?
・納期は守れるか?
・競合状況を踏まえて値引きすべきか?
これを分解し、「過去見積の検索」や「粗利率チェック」はAI・システムに任せ、「競合・関係性を踏まえた値引き判断」は人が担う。このように仕分けることで、属人化していた業務を解きほぐします。
③ あるべき業務プロセスの規定(入口の整理とフローの分岐)
業務を整理した後は、プロセスを設計します。ここでの極意は2つです。
●入口は違っても、データ構造は寄せる
FAX、メール、電話、ECなど、注文の「入口」が分散していても、すべてを廃止する必要はありません。顧客ごとの入口は残しつつも、社内の処理形式(データ構造)は最終的に必ず一つに統一(寄せる)ように要件を定義します。

●「例外」をなくすのではなく、「条件」を明確にする
すべてを1本の理想フローに収めようとすると現場に合いません。業務を「標準フロー」「条件付きフロー」「例外フロー」「承認フロー」「人による特別対応フロー」に分け、例外を排除するのではなく「例外として扱う条件を明確にする」ことが成功の鍵です。

【保存版】BtoB EC要件整理「トリアージ」マトリクス&チェックリスト
要件定義の際、システム会社との打ち合わせにそのまま持ち込める図版をご用意しました。
▼業務トリアージ(分類)マトリクス

▼システム会社と揉めないための要件定義・確認ポイント

【Check!】“目先の効率”と“将来の理想”のバランスは取れているか?
どこを自動化し、どこに人を残すか、関係者で合意できているか(目の前の効率化だけを追うと次に繋がらず、大きすぎる理想を描くと現場が萎縮します)。
【Check!】顧客価値である「特別対応」まで一律になくそうとしていないか?
強みとなるアナログ対応は残し、暗黙知をルール化できているか(付加価値になっている業務はあえて完全デジタル化せず、企業の資産として残す視点が必要です)。
【Check!】注文の入口(FAX・電話など)が違っても、裏側の「社内の処理形式」は一つに統一する要件になっているか?
【Check!】“例外処理”を排除するのではなく、「どうなったら例外とするか」の条件が明文化されているか?
【まとめ】要件定義は「自社の商い」を見直すチャンス
システム導入は、単に紙をデジタルに置き換える作業ではありません。「自社が誰に対して、どんな価値を提供しているのか」「人が担うべき本当の付加価値は何か」という、商いの根幹を再定義する絶好のチャンスです。
どうしても社内のしがらみで整理しきれない場合は、客観的に「現状把握・課題の構造化・あるべき業務プロセスの設計」を行える外部の専門家を入れることも、プロジェクトを前進させる有効な手段です。
次回は、要件が固まった後に待ち受ける最大の難所、「商品マスタとデータ移行」の現実的なステップについて解説します。


