着実に変わり続ける企業のSNS運用――SNSマーケティングの最前線

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井野 純平

EC事業におけるSNS運用は、単に投稿を続けるだけでは成果につながりにくい時代に入りました。フォロワー数を増やすことだけを目的にするのではなく、顧客との関係性を深め、購買や再購入、ファン化につなげる設計が求められています。

本連載では、企業アカウントの戦略設計・運用改善を支援してきた株式会社toの井野が、InstagramやXを中心に、EC事業者が今見直すべきSNS運用の考え方を解説します。第1回となる今回は、SNSマーケティングの現在地と、企業アカウントに求められる変化について整理します。(全4回)

SNS運用は「やるか・やらないか」ではなく、「どう変わり続けるか」の時代へ

企業のSNS運用は、ここ数年で大きく変化しました。

かつては、公式アカウントを開設し、商品情報やキャンペーン情報を定期的に発信していれば、一定の認知獲得につながる時代がありました。フォロワー数が多いことは、それだけで“アカウントの強さ”を示す分かりやすい指標でもありました。

しかし現在は、SNS上に情報があふれ、生活者の目も肥えています。単なる商品紹介や一方通行の告知は、なかなか見てもらえません。企業からの発信であっても、ユーザーは「自分に関係があるか」「保存したいか」「誰かに共有したいか」「このブランドを好きになれるか」を自然に判断しています。

特にEC事業においては、広告費の高騰や競合の増加により、新規顧客を獲得する難易度が高まっています。だからこそSNSは、単なる認知拡大のための場ではなく、顧客との継続的な関係をつくる場として捉える必要があります。

SNS運用で成果を出している企業は、流行の投稿フォーマットを追いかけているだけではありません。プラットフォームの変化を見ながら、自社のブランドらしさや顧客との接点をどう磨いていくかを、着実に見直し続けています。

フォロワー数至上主義の終焉と、問われる「運用への姿勢」

まずはこの表を見て、皆様の運用状況はいかがでしょうか?

これらが全て「○」に当てはまっているのであれば、きっとSNS運用は上手くいっています。逆に「×」が多い場合は、もっと良くなる要素があるということになります。詳細は今後のコラムで詳しくお伝えしたいと思いますので、今回は「運用に対する姿勢」という部分に触れたいと思います。

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SNS運用の相談で、今でもよく聞かれるのが「フォロワーを増やしたい」という声です。もちろん、フォロワー数は重要な指標のひとつです。一定のフォロワーがいなければ、投稿が届く母数も限られます。ただし、フォロワー数だけを追いかける運用には限界があります。

たとえば、フォロワーが多くても投稿への反応が少ないアカウントがあります。一方で、フォロワー数はそこまで多くなくても、コメントや保存、シェア、DMなどの反応が活発で、ECサイトへの流入や購買につながっているアカウントもあります。

この差を生むのが、エンゲージメントの質です。

ここでいうエンゲージメントとは、単なる「いいね数」だけではありません。ユーザーの心を動かせている投稿かどうかという部分となります。投稿を保存する、家族や友人にシェアする、ストーリーズに反応する、DMで問い合わせる、プロフィールからサイトに遷移する。こうした行動の積み重ねが、SNS上での顧客との関係性を示します。

EC事業者にとって大切なのは、SNS上の反応を“にぎわっているかどうか”だけで判断しないことです。投稿を見た人が、その後どのような行動を取っているのか。商品理解が深まっているのか。購入前の不安が解消されているのか。再購入やファン化につながっているのか。

このように、SNSの指標をEC事業の成果と結びつけて考えることが重要です。

「投稿すること」が目的化しているアカウントは伸びにくい

SNS運用で成果が出にくい企業に共通しているのが、「投稿を続けること」そのものが目的になってしまっているケースです。毎月の投稿本数を決め、商品画像を用意し、キャンペーン情報を入れ、予定通りに投稿する。もちろん、継続運用は大切です。しかし、ただ投稿カレンダーを埋めるだけでは、ユーザーの心は動きません

大切なのは、投稿ごとに役割を持たせることです。

たとえば、新商品を認知してもらう投稿なのか。購入前の不安を解消する投稿なのか。使い方をイメージしてもらう投稿なのか。既存顧客に再購入を促す投稿なのか。ブランドへの共感を深める投稿なのか。同じ商品紹介でも、「商品の特徴を並べるだけ」の投稿と、「どんな生活シーンで役立つのか」を見せる投稿では、ユーザーの受け取り方が変わります。

ECでは、商品ページに来てもらう前の段階で、どれだけ興味や理解をつくれるかが重要です。SNSは、その入口として機能します。だからこそ、投稿は単なる告知ではなく、購買までの導線の一部として設計する必要があります。

【改善事例】投稿内容を見直すことで最終的なCVを増加させた事例

実際に、SNS運用の改善では「何を投稿するか」よりも「どの視点で見せるか」を変えるだけで、反応が大きく変わることがあります。

【CASE 01/クライアント:食品メーカー(焼き菓子)】

●課題:
InstagramからECサイトへの流入が伸び悩んでいる

もともと商品のスペックや価格、キャンペーン情報を中心にInstagramを運用していました。投稿は継続していたものの、保存やコメントは少なく、ECサイトへの流入も限定的でした。

●打ち手:
投稿の軸を「商品を紹介する」から「ユーザーが使う場面を想像できるようにする」へ変更

具体的には、商品の特徴をそのまま並べるのではなく、季節の悩み、生活シーン、購入前の疑問、比較検討時に気になるポイントをテーマ化。投稿内では、商品そのものよりも「こんなときに役立つ」「こう使うと便利」「選ぶときはここを見る」といった情報を前面に出しました。

●結果:
投稿の保存数やシェア数が伸び、結果的にECサイトへの遷移も改善しました。


▼ビフォー(2025年12月):
月間12投稿の平均保存数0件/シェア数0件
→ECサイトへの遷移数:3件/月

▼アフター(2026年3月):
月間12投稿の平均保存数5件/シェア数2件
→ECサイトへの遷移数:25件/月(833%に増加)
※ECサイトへの遷移数=プロフィールからのクリック数+ストーリーズ投稿からのクリック数

この事例から分かるのは、SNSでは“売りたいこと”をそのまま出すのではなく、“ユーザーが知りたいこと”に変換する必要があるということです。

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続いて、発信する方法を工夫して効果が出た例です。

【CASE 02/クライアント:アパレル企業】

●課題:
XからECサイトへの流入が伸び悩んでいる

Instagramのアカウントも運用しており、同じ画像を使い回してプレスリリースで発信するような内容を中心に投稿をしていました。エンゲージメントもECサイトへのクリック数も毎月少なく、かつ運用期間が2年経っているにも関わらず一向に数値が伸びない状況でした。

●打ち手:
Xらしい投稿を取り入れて、ユーザーが楽しめるコンテンツを提供

具体的には、色使いやデザインに対して一定の評価を受けていたので毎月「カレンダー」という形で世界観を全面に出した画像を投稿しました。

●結果:
毎月少しずつインプレッション数が伸びていき、比例してXからのECサイトへの流入が増加しました。


▼ビフォー(2026年1月):
1ポストあたりの平均インプレッション数は1,250件。Xからのサイト流入数は38件。

▼アフター(2026年4月):
1ポストあたりの平均インプレッション数は2,890件(231%に増加)。Xからのサイト流入数は91件(239%に増加)。

この事例から分かるのは、全投稿に全力で取り組まなくてもキラーコンテンツを生み出してそれを中心に全体を底上げしていくことも、ひとつの手段となるということです。

企業アカウントに求められる「透明性」と「パーソナリティ」

SNSでは、企業も一人の発信者として見られます。前述の通り、投稿を工夫していく努力も必要ですし、ユーザーからの見られ方というのも同時に重要となります。

ユーザーは、企業アカウントの投稿から、そのブランドが何を大切にしているのか、どのような人に向けて商品を届けたいのか、顧客とどのような距離感で接したいのかを感じ取っています。

そのため、これからの企業アカウントには、透明性とパーソナリティが欠かせません。透明性とは、良い面だけを見せるのではなく、商品やサービスに対する考え方、開発背景、使い方、注意点、企業としての姿勢を誠実に伝えることです。

パーソナリティとは、単にくだけた言葉遣いをすることではありません。ブランドとしての一貫した温度感や言葉の選び方、ユーザーへの向き合い方を持つことです。

たとえば、親しみやすさを重視するブランドであれば、コメントしやすい空気づくりが重要です。高価格帯の商品を扱うブランドであれば、信頼感や世界観を損なわない言葉選びが求められます。日用品や食品であれば、生活者の具体的なシーンに寄り添う表現が効果的です。

重要なのは、どのブランドにも同じ正解があるわけではないということです。自社の顧客にとって自然で、信頼できる人格を設計することが、SNS運用の土台になります。

SNS運用は、EC事業の「顧客理解」を深める場でもある

SNS運用の価値は、投稿から売上をつくることだけではありません。

ユーザーがどの投稿に反応したのか。どんなコメントがきたのか。どのストーリーズで離脱したのか。どんな質問がDMに届いたのか。こうした情報は、EC事業における顧客理解のヒントになります。

たとえば、よく聞かれる質問があれば、商品ページの説明が不足している可能性があります。保存される投稿が多ければ、購入検討期間が長い商品かもしれません。コメント欄で使い方に関する反応が多ければ、新しい訴求軸を見つけられる可能性があります。

SNSは、顧客の声を受け取る場所でもあります。投稿して終わりではなく、反応を見て、次の企画や商品ページ、広告、メルマガ、キャンペーンに活かしていくことで、EC事業全体の改善につながります。

AI時代の到来で、SNS運用は効率化できる。しかし“人間味”は代替できない

近年、AIの活用により、SNS運用の効率化は大きく進んでいます。

投稿文のたたき台を作る。企画案を出す。過去投稿の傾向を整理する。コメント返信の方向性を検討する。競合アカウントの投稿テーマを分析する。こうした作業の一部は、AIを活用することでスピードを上げることができます。特に、限られた人数でEC運営とSNS運用を兼務している企業にとって、AIは心強い味方です。投稿案をゼロから考える負担を減らし、分析や改善に時間を使いやすくなります。

一方で、AIに任せるだけでは成果につながりにくい領域もあります。それが、ブランドらしさや顧客理解に基づく“人間味”の部分です。

たとえば、ユーザーがどんな言葉に反応するのか。どの悩みを抱えているのか。商品を購入する前に何を不安に感じるのか。購入後にどんな気持ちになっているのか。こうした感覚は、日々の顧客接点やSNS上の反応を見ながら磨いていく必要があります。

AIは運用を助ける道具ですが、ブランドの人格そのものを作ってくれるわけではありません。むしろAIが普及するほど、企業ごとの視点や言葉選び、顧客への向き合い方の差が見えやすくなります。

効率化できる部分は効率化し、その分、人が考えるべき部分に時間を使う。これが、これからのSNS運用におけるAI活用の基本姿勢です。

まとめ:変わらないために、変わり続けるという覚悟

企業のSNS運用は、これからますます高度化していきます。フォロワー数だけを追う時代は終わり、エンゲージメントの質、購買までの導線、ブランドらしい人格、AI活用、顧客理解など、複数の視点を持って運用することが求められています。

ただし、すべてを一度に変える必要はありません。

まずは、自社のSNSが「誰に」「何を伝え」「どの行動につなげたいのか」を見直すことから始めるのが現実的です。投稿を増やす前に、投稿の役割を整理する。フォロワー数を見る前に、反応の質を見る。商品を見せる前に、顧客が知りたいことを考える。この小さな見直しの積み重ねが、SNS運用の成果を変えていきます。

次回は、Instagram運用に焦点を当て、なぜ伸びるブランドと伸び悩むブランドの差が広がっているのか、リールやストーリーズ、DM活用を含めて具体的に解説します。


著者

井野 純平

井野 純平

株式会社to 取締役/COO。デジタルマーケティング戦略の設計から、Instagram・XをはじめとしたSNSアカウント運用、投稿企画、分析改善、キャンペーン設計まで幅広く支援。食品、アパレル、商業施設、BtoB企業など多様な業種に携わり、ブランドの魅力を生活者に伝えるコミュニケーション設計を得意とする。EC事業においても、認知拡大だけでなく、購買・ファン化につながるSNS活用を支援している。


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