「これからのキタムラ」 ~カメラのキタムラ、EC成長の道のり~

逸見 光次郎

逸見光次郎の連載コラム「カメラのキタムラ EC成長の道のりと今後の展望」
第9回:「顧客満足とマーケティング」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7920/

第10回:「真のオムニチャネル」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7988/

素晴らしい商品・サービスがある事を、お客さまにもっと伝える

自社の事を褒めるのもなんですが、キタムラは非常に良い会社です。

人を大事にするので、社員・パートともに勤務年数が長く、登用試験を経て社員になるパート・アルバイトも多いため、結果として専門知識が蓄積され、地域のお客さまとのつながりも深くなっています。新製品が出た時には、メーカーの営業さんとしっかり商品勉強もしています。

そのカメラ・写真の専門性を軸にしながら、スタジオ事業(スタジオマリオ)、スマホ販売、iPhone修理と新しいサービスを展開し、常に時代の流れにのろうとしています。

自社現像工場があり、様々な処理を専門の技術者の手で、自社で行う事が出来ます。オムニチャネルで評価いただいている通り、ネットと1,300の直営実店舗が融合して、よりお客さまが使いやすい環境を提供しています。

このように写真に関するあらゆる商品・サービスを持っている企業でありながら、ふらっと立ち寄る量販店とは違って、目的来店性の高い専門店であるために、集客で苦戦しています。「良い商品・サービスを提供していれば、きっと使っていただける」そうした職人気質の文化があるのも事実です。

こうした素晴らしい商品・サービスを、あらゆる媒体・顧客接点を活用して、タイムリーにお伝えする。WEB、メール、アプリ、チラシ、ダイレクトメール等、顧客と商品・サービス内容に合わせた形で情報提供してご利用いただくのも、まさにオムニチャネルですよね。専門性が高く、ネット活用に抵抗のない社内環境があったが故に、結果的にオムニチャネルが出来てしまっているキタムラが、再度マーケティング視点で顧客接点を見直す事で、より多くのお客さまとの接点・関係を再構築する事が出来たなら、必ず売上・利益も大きく伸びると考えています。

セブン時代に鈴木(康弘)さんに「商品・サービスがしっかりしていて、それを提供するインフラが整っていてはじめて、集客をやるんだ。前の2つが整っていなければ、いくらお客さまに来ていただいても結局は迷惑をかけてしまい、クレームの山になるからだ」と教えられました。まさにキタムラは今、“集客”のタイミングに来ているのです。

本業である写真を伸ばす

フィルムカメラからデジタルカメラにシフトする中で、写真プリントは確実に減ってきています。実際6,000億円のプリント市場が5年で1,200億円になったと言われていますが、その一方でシャッターを切る回数は、100倍にもなったと言われています。

世の中の人は、写真をプリントしたくない訳ではなく、たくさんの画像データをどう整理するのか、そしてプリントしたいものを選ぶのか、その作業に途方に暮れているのです。フィルムカメラがフィルムの撮影可能枚数(12,24、36枚撮り)の制約があったのに比べて、デジタルカメラにはメモリ容量の制限があるものの、1,000枚単位の撮影が可能です。その結果“非日常を切り取る写真”から“日常を切り取る写真”になり、100倍の画像データがスマホ、カメラ、パソコンに点在し、整理が出来なくなっているのです。スマホのカメラ機能の進化も大きく影響しています。

こうした“画像データが多過ぎて整理が出来ない”状況に対して、2年前から新たな商品を提供しています。富士フイルム社と共同提供している『イヤーアルバム』というフォトブックです。 年/月/日~年/月/日という期間を指定すると画像Exif(イグジフ)データの日付情報を読み取って期間内の画像を自動選択してくれます。そして仕上がりページ数を指定すると、何千枚もの画像データから“写りが良い”画像を必要枚数だけ自動選定し自動レイアウトしてくれます。

例えばA5サイズで32ページを指定したなら、約150~180枚の画像候補を選んでレイアウトしてくれます。富士フイルム社の画像認識技術を活用し、“自分で必要な枚数の写真を選んでレイアウトする”という一番面倒なプロセスを、期間指定&自動選定&自動レイアウトという技術で楽にし、アルバムを作りやすくしているのです。年に一回はその一年間の写真を整理してアルバムにしましょうという商品です。

ただしこの商品も現在は「PCのハードディスク」「メモリカード内」と一箇所にまとまっている必要があります。これがもし「インスタグラム」や「google+」のように画像クラウドサーバ内にスマホで撮ったものも、カメラで撮ったものも、あらゆる画像データが集まっていたら、より幅広い写真の整理・プリントが簡単に出来るのではないでしょうか。
 
しかもキタムラであれば、ネットやPCが苦手な人にも、店頭サポートが出来ます。店頭にメモリカードやスマホ、ノートPCを持って来ていただいて一緒にクラウドサーバにアップする。しかも画像データを自動レイアウトして画面で見られるデジタルフォトブックを楽しむだけではなく、本当に気に入ったデジタルフォトブックは実際にプリントアウトして楽しむ事も出来ます。その時にも店頭で店員に聞きながら作成する事が出来ます。

既存の紙のプリントやアルバム、ネガ等をデータ化するサービスと併用したり、スタジオマリオで撮影した画像データDVDを併用すれば、あらゆる写真が整理出来て、いつでもどこでも見て楽しめる、しかも自動で整理/並べ替えしてくれます。
http://photobook.kitamura.jp/

人のお悩み事を解決するのが一番のビジネスになります。キタムラの場合は、写真画像整理に困っている人を、自らが一番得意とする専門サービスで解決提案する事が出来るのです。そして会社にとっては核となる商品であり、利益率も高い。もちろんネットワークの高速化などの技術的な進化と、クラウドサーバと専用線を維持する多くの投資が必要ではあるものの、他の誰にも真似の出来ず、かつキタムラがやるべきビジネスです。なんとかして実現していきます。

「写真の事ならゆっくりキタムラで相談しよう」ネットと店舗を活用して、より写真を楽しむ文化を創り出したいのです。
 
(最終回・第12回へ続く)


著者

逸見 光次郎 (Koijro Henmi)

学習院大学文学部史学科卒。
1994年 三省堂書店入社、神田本店、成田空港店、相模大野店、八王子店勤務。
1999年 ソフトバンク入社。イー・ショッピング・ブックス(現:セブンネットショッピング)の立ち上げに関わる。
2006年 アマゾン入社、 ブックスマーチャンダイザー。
2007年 イオン入社、ネットスーパー立ち上げ後、グループ全体のネット事業戦略構築を行う。
2011年 キタムラ入社、EC推進本部副部長、ピクチャリングオンライン代表取締役会長を経て、執行役員EC事業部長。
2015年 経営企画、オムニチャネル推進担当。
2017年 3月よりローソン、マーケティング本部本部長補佐