Alibaba Cloudは人流解析の領域ではどのように活用することができるのか?(人流解析対談Vol.5)
中国の小売業界では、OMO(Online Merges with Offline)という概念でオフラインとオンラインを融合させたマーケティング・販売手法を行い、今までにない顧客体験を提供する活動が浸透してきています。
これは中国に限った話ではなく、日本国内に目を向けても顧客の購買行動は変化してきているため、小売業界のデジタル化は避けて通ることのできない課題です。
そこで当コラムでは、スプリームシステム株式会社の沖野聖史さんとSBクラウドの野嶋将光の対談をもとに、OMOの実現を支援する「人流解析」をテーマに計5話のコラム記事をお届けします。
最終回の第5話は、SBクラウドの「Alibaba Cloud」を利用して人流解析ではどのようなことが実現できるのかを聞くとともに、最後は今後の「ショッピングの進化」について話してもらいました。
IaaS市場で世界3位のシェアを誇るAlibaba Cloud
野嶋:前回の最後にクラウドの話が少し出ましたが、クラウド技術は以前よりも格段に進化していて、ストレージあたりの単価が安くなり、より安価にデータを扱うことができるようになっています。その結果、お手頃に人流解析ができるようになったという背景がありますよね。
沖野:弊社にとってはクラウドが出てきたことは非常に大きなポイントでした。現在はまだ人流解析で取得した3Dデータを無線でそのまま流すのは難しいところがあるため、店舗などでは有線を使っていますが、取得したデータをクラウドにあげていき、そこで分析していくことはできます。
クラウドのおかげで、スモールスタートでちょっとした調査から人流解析をはじめたいという企業のトライアルはやりやすくなっています。
野嶋:人流解析はデータを取得するだけでなく、その後の分析も重要なポイントなので、データ分析基盤であるクラウドも不可欠な存在ですよね。
沖野:その通りです。SBクラウドさんが提供している「Alibaba Cloud」もまさにクラウドですが、特徴はどのようなところにあるのでしょうか?
野嶋:Alibaba Cloudはクラウドベンダーとしては日本では後発ですが、AWSやAzureと並ぶメガクラウドベンダーです。発祥は中国のアリババで、最初はアリババのECの基盤としてスタートし、現在はアリババのすべてのサービスを支える存在になっています。
このクラウド技術を外部にも提供しているのがAlibaba Cloudです。注目度は年々高まってきていて、IaaS市場では世界3位のシェア、アジア太平洋地区では1位。
わかりやすい例では毎年11月11日に行われる「独身の日」があり、この日は1日で日本国内大手ショッピングサイトの1年間分の取扱高を超えるほどの買い物が行われ、2019年は4.2兆円を突破しました。この膨大なトラフィックと、大量のサイバー攻撃からも守っています。
沖野:「独身の日」は毎年盛り上がっていて、年々、注目度が高まっていますね。
野嶋:そうなんです。私はSBクラウドの中でIoT推進する立場なので、IoTの観点からもアピールさせてください。アリババは中国でもIoTのプロダクトに力を入れていて、中国の杭州などでスマートシティを展開しており、そのモデルを海外に輸出しようとしています。
まだ日本には来ていないものの、IoTの開発をより効率的に行うプロダクトを用意しているので、ぜひIoTの領域でもAlibaba Cloudに注目していただきたいです。
人流解析におけるAlibaba Cloudの活用法は?
沖野:私たちが行っている人流解析の分野では、Alibaba Cloudは具体的にどういう活用法がありますか?
野嶋:店舗で取得した人流解析によるデータを分析するための基盤として活用することができます。御社のMoptarで取得した人流解析のデータは外部に出すことができるということなので、データをAlibaba Cloudのストレージに入れて、単独のデータとして分析するだけでなく、天気やイベント情報、テレビの情報などオンラインのデータも入れて、オンラインとオフラインのデータを結合させて分析するという使い方もできます。
沖野:それは面白いですね。それができるとさらに人流解析で取得したデータを有効に活用することができそうです。
野嶋:さらに、Alibaba Cloudはデータを蓄積するだけでなく、「DataV」というデータ可視化サービスがあり、膨大な量の複雑なデータを視覚的なダッシュボードとして分析および表示できます。これは小売店からも「使いやすい」と好評です。
また、「データ分析ソリューション」というIoT向けの分析プロダクトもあり、これは大規模なコンピューティングおよびストレージ、柔軟なデータモデリングおよび簡単なポータル構築、ユーザーフレンドリーなインターフェイスを提供し、ビッグデータの価値の発見に役立ちます。
さらに、クラウドベンダーとしてのコンピュータビジョンもアリババはグローバルでもっているので、たとえば中国では物流倉庫でよく火事が起きるため防災の目的でタバコを吸っている人を検知するということにも使われています。
このように汎用的に使えるプロダクトを多数用意しているので、Alibaba Cloudのテクノロジーにもぜひ期待していただきながら、Moptarとも組み合わせることで人流解析に付加価値をつけることができて、より良いシステムをつくっていけるのではないかと思っています。
ショッピングは今後どう進化していくのか?
野嶋:最後に、今後のショッピングの進化について沖野さんと意見交換をして終わりたいと思います。現在は「デジタルトランスフォーメーションの時代」と言われるようになりました。
これはITの浸透により人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させるという概念で、ショッピングの領域もパソコンとスマホの出現によりオンラインが、人流解析によりオフラインがどんどん変化しています。
次の時代のショッピングはどのように進化するかと考えたとき、店舗はオンラインに押されているというイメージを受けがちですが、現在も週末に友達や彼女、家族と「どこに行く?」という話になると、ショッピングという人がたくさんいますし、ショッピングはオフラインの“特別な体験”になりうると思うんです。
だから今後は、お店に来た人がどれぐらい感動したか、次に来店してもらうための施策ができたか、それがオフラインでモノを買うロイヤリティになると考えています。
沖野:確かに店舗は買うだけでなく、特別な体験を提供するためにいろいろな機能があって、体験できたり、最近では泊まれたりするような動きも出てきそうです。さまざまな体験を店舗の枠を超えて提供できるという強みがあります。
さらに、現在はモノをつくるハードルが下がってきているので、良い物を編集して、店舗で出すところはこれから増えてくると思います。
今までは大きなメーカーでなければ店舗を出せませんでしたが、ポップアップストアという手法も出てきておりのように気軽に店舗を出してみて、そこでファンを獲得していく動きが出てくるだろうなと感じています。
野嶋:店舗などで「実際にモノを見たい」というニーズは今も根強くありますよね。オフラインで大切なのは、沖野さんの言うように、家でECを見ているときとは違う雰囲気や体験を提供することです。
その中のひとつに接客があり、「この店員さんの対応だったら買おう」「店に来てよかった」と思われるチャンスがあります。
もしかしたら、オフラインの中でテクノロジーが飛び道具的に使われて、アミューズメント性がある店舗などもこれから出てくるかもしれません。
オフラインのお客様の注目度がオンラインでの販売ページ、ECの構成に反映されることも十分にありえますよね。
沖野さん、今日はありがとうございました。最後に、御社が目指す世界観、ビジョンを教えてください。
沖野:オンラインとオフラインで同じような体験が得られるようにする、店舗にとってもユーザーにとっても心地よい体験を受けられるような社会がくるといいですね。
そのためにも、動線分析「Moptar」の開発をさらに進め、今後もさまざまな展開をしていきたいと思っています。ご期待ください。