越境ECの新潮流、東南アジア市場の可能性と注意点

ECのミカタ編集部

越境ECというと中国市場に注目が集まりがちだが、今、急成長を遂げ中国に続く市場と言われているのが、東南アジア市場だ。フロスト&サリバン ジャパン株式会社(以下「フロスト&サリバン」)が発表した「東南アジアのEC市場分析」を始め、各種の調査や講演より、越境ECの変化と、参入時に注意すべき点を紹介する。

東南アジア成長の要因と今後の展開予測(フロスト&サリバン調べ)

 今回の分析は、B2CのEC市場を対象とし、東南アジアの6カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)を含んでいる。それよると、東南アジア市場は、2020年までに最も早いペースでの成長が見込まれる市場の1つとなっている。

 東南アジアにおけるECの市場規模は、2015年〜2020年にかけて年平均成長率(CAGR)17.7%で成長し、2015年の112億米ドルから2020年までに252億米ドルに成長する見通しだ。成長の背景としては、中所得者層の拡大に伴う購買力の増加や、デジタル化の加速、安価なスマートフォンの登場、デジタルに敏感な若い世代の台頭によるスマートフォンやインターネットの利用者の拡大などがあげられる。

 東南アジアには、アマゾンのようなB2Cのマス市場をターゲットとしたビジネスモデルの収益化が難しく、逆に、特定の分野に特化したECや、個人間のECなどの有望な市場が多いという特徴がある。たとえば、CarousellやTokopedia、Shopeeといった東南アジアで展開されるECサービスは、モバイルファースト戦略を推進し、将来的には旅行、食品や高級品の配達などの特定の分野に特化したサービスが期待される。そういった状況で、企業間の競争は、プライスポイントや物流面から、O2Oやロイヤリティプログラムといった、新たな分野に移行しつつある。

 一方で、東南アジアのEC市場の課題として、クレジットカードの所有率が低いことや(シンガポール・マレーシアを除く)、一部地域では人口の半数以上が銀行口座を持っていないという、決済面での障害や、特にインドネシアやフィリピンといった海に面した国々において、不十分なインフラが大きな障害となっている現状もあげられる。ただし、それらを解決する動きもある。たとえば、物流インフラ面の課題については、aCommerceやSingPostといったサービスに向けた地元の物流会社による投資がなされており、ECの物流インフラ強化によるオンライン小売市場の成長加速が期待される。

 こういった動きの中で、2015年時点では、マレーシアとタイが東南アジアの中でも最も大きなEC市場であったが、2020年までには、ベトナムやインドネシアといった新興市場がこれらを追い抜くことも予測されている。

東南アジアの消費者意識と国による違い

 今回の調査の他にも、日系企業の東南アジアへ向けた越境EC進出支援に取り組むEC-PORT JAPANによると、東南アジアでは従来の「安かろう、悪かろう」を求める動きとは別に、中間層・富裕層を中心とした、高品質でユニークな商品へ対する需要が急速に高まっており、日系の特に中小企業が狙うとすれば、この市場が可能性があるという。ただし、一口に東南アジア市場と言っても、国によって事情も違うので、全て自社で賄うよりは、適所適材で越境ECサービスを活用する方が、効率的と言える。

 実際、日本能率協会総合研究所の「インドネシア/フィリピン/ベトナムにおける消費者意識に関する調査」によると、フィリピンやベトナムの男性には飲酒習慣があるが、インドネシアでは飲酒習慣があまりないという、国による習慣の違いが分かる。一方で、日本で生産された製品のイメージは総じて良い。このイメージを活用することは、東南アジア市場での成功の鍵となるだろう。

今すぐ行動すべき、東南アジア市場参入

 以上のような状況を踏まえて、EC事業者が東南アジア市場に参入するには、どうすれば良いのだろうか。6月に開催された「ECのミカタセミナーフェア〜越境EC最前線〜」に、そのヒントがあった。ここでは、eBay、アリババなど、越境ECの最前線に立つ5社による講演が行われたのだが、その中で提示されたのが、まずは一歩を踏み出すこと。中国や東南アジアの成長スピードは非常に早く、躊躇っている間に状況が変わってしまう。

 ただし、やみくもに踏み出せば良いというわけではない。少し前までは、越境EC市場の壁は高かったのだが、今は、リスクも低く簡単に参入できる環境が整い始めている。まずは、そういった場で一歩を踏み出し、効率的な方法で、実際の状況に合わせて拡大するか、場合によっては合わないという結果もあり得る。今は、それを気軽に試せるようになっていると言えるだろう。


記者プロフィール

ECのミカタ編集部

ECのミカタ編集部。
素敵なJ-POP流れるオフィスにタイピング音をひたすら響かせる。
日々、EC業界に貢献すべく勉強と努力を惜しまないアツいライターや記者が集う場所。

ECのミカタ編集部 の執筆記事