失われた日本の“商店街”の力を見た〜熱狂!楽天うまいもの大会
まずは写真を見てほしい。先日、JR名古屋タカシマヤで開催された「うまいもの大会」でのこと、そこに参加する全てのEC店舗の方々が集結し、最高の笑顔と共に、一斉に“あのポーズ”を取った。
EC店舗の気持ちに近くにいたいと思っているから、現場で直視し、その盛り上がりを取り上げるべきだと考え、名古屋へと急行した。それが上にも書かれている「うまいもの大会」である。
JR名古屋タカシマヤの売上一・二を争う「うまいもの大会」
ここで何を思ったか。それは、まず、インターネット通販の底力であり、クオリティの高さだ。そして、これはお世辞でもなく、どこへ行ったか、ニッポンに失われつつある“商店街”は、まさにここにあると思った。その理由は後に譲るとして・・・。
さて、名古屋の現場では何が起こっていたのか。それを話す前に「うまいもの大会」の説明をしておこう。これは、楽天市場の人気店舗がJR名古屋タカシマヤに集うイベントで、今回は66店が集まった。期間は7日間で開催時間は開館時間(10:00〜20:00)をフルに使う。イベントの規模感で言えば、JR名古屋タカシマヤで、催事のナンバーワンが「バレンタインデー」なのだが、この楽天のうまいもの大会は、これに匹敵するレベルだと言う。参考までに昨年データで言えば「うまいもの大会」での売り上げは3億円で、来場者は16万人を数えるほどだ。
実際、その盛り上がりぶりはいかほどか。エスカレーターを上がるなり、催事会場階には、もう行列がある。それも一つや二つではなく、あちらこちらで。僕が伺ったのは平日、それも月曜の朝なのにである。行列の一番はなんと2時間待ち。当然、売り上げもトップ。それが「おいもや」で、写真の笑顔が美しいその人が店長の関谷 夕佳さん。干し芋がとにかく売れる。今年は史上最多の10万袋を用意。重さにして20tと言うのだから、想像を絶する。
入念な店選び、そしてメディアタイアップ等、集客の土台を作る
会場に着くなり、今回のイベントを取り仕切る、楽天株式会社(以下、楽天)マーケティング部イベント企画グループ中川智広さんが出迎えてくれた。「店舗は全て公募で集めています。今まで出店していただいたところは何を出すのかピックアップし、初めてのところに対しては高島屋を交えて、試食会を実施します。2〜3割は店舗を入れ替えて、イベント自体に新鮮さを失わないよう配慮しています。」と賑々しい中、語る。
これだけの人が集まる理由は、と問うと「リピーターの方がいます。そして、きちんと告知をし、メディアとの連携も怠らず、東海ローカルではありますが、テレビメディアで紹介をしてもらい、また、東海ウォーカーとも連携しています。地方情報誌の影響力は大きく、ここに掲載したクーポン券を持っている方も少なくなく、そういうところで東京とは違うんだな、と気づかされることもあります」と感慨深げに話してくれた。
60代のご婦人を虜にする「カニコロッケ」のイケメン店長を追う!
会場内はまさに立錐の余地もない。60代ご婦人のお客様に声をかけると「私は毎年きているの。楽天を使っているのは、娘の方。私はこのイベント専門かな」と笑う。その話でもわかる通り、お客様は普段、ネット通販をやらない人たちの姿も多い。でも、それを持ってしても、毎年来たいと思わせるだけの納得のクオリティが、ネット通販の商品にもあるということを裏付けているということでもある。
何がお好きなのですか?と聞くと「カニコロッケが毎年楽しみなのよ」とご婦人。早速、コロッケ、コロッケ・・・と探してみる。
それが「かに缶詰のオーグル」の商品であることに気づいたのは、しばらくしてからのことだった。「缶詰なのに?コロッケですか?」と店に伺うと、マルヤ水産常務取締役 千葉卓也さんがでて来てくれた。「それもお客様や高島屋さんから教えてもらったことなんです」と千葉さん。
「かに缶詰のオーグル」が催事に出るようになったのは、2011年のことである。実は、同社は、仙台の閖上地区に、本社があった。東日本大震災で最も被害が大きかったところの一つで、ここも例外ではなかった。倉庫には津波が押し寄せ、会長職にあった祖父も、時の工場長も命を失った。事業の見直しを余儀なくされ、また、既に、千葉さんを筆頭に、その時ECはやっていたが、その折、楽天から小田急百貨店の東北震災復興のイベントがあるから、と勧められ、一緒に頑張りましょうと声を掛けられたという。だが、彼が催事に出るのは、初めてだった。
「特徴はいいから、どうやったら美味しいの?」お客様の本音に商売の本質が
そして、「かに缶詰のオーグル」は催事に出た事で、一つの転換点を迎える。売り方が徐々に変化していったのだ。最初、催事ではチラシ寿司などを出していたが、その後この「うまいもの大会」で高島屋から、お客様を喜ばせる演出が大事だと助言を受け、売り場で、カニコロッケを揚げてみせる演出を取り入れたのだ。驚いたことに、ここで揚げていたのはコロッケも作ったことのない自分を含めた社員だったというが、これが奏功した。
つまり、料理人がするものではなく、素人であっても作れるなら、私にもできそうだと、お客様が続々と購入し始めたというのだ。リアルでやり取りをするということには、商売の本質が垣間見えるのだなと思った次第だ。それが確信に変わったのは、千葉さんの次の一言だ。
「今までは缶詰メーカーですから商品のこだわりみたいなものを延々伝えていたんですが、お客様から言われたんですよね。そんなのはどうでもいいから、どうやったら美味しくたべれるのよ?と。」つまり、カッコつけずにお客様の本音に近づけばいいんだという事なのだ。これはECでも生かされ、料理人でもない社員が蟹の炒飯を作り、それをサイトに公開したら売れたというのだ。お客様のメリットが第一なのだ。
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店舗に気づきと成長を与えるリアル体験。学び多し
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呼応するように、楽天の中川さんは言う。「僕らでも、在庫の管理などは数字上でしかみていないけど、このイベントを通して、お客様が買って行き、在庫がなくなっていくのを肌身で感じていますが、それがわかることで、お客様に対しての接し方が、単なるテクニック的なものだけではないことを思い知らされます」と。リアルなイベントには、商売の本質が詰まっていて、それが分かっていることが、どれだけ他の店舗との差別化になるか、ということだと思った。
また、別のファミリーのお客様に聞くと「テレビで見て、お母さんを応援したくて、パンを買いました」と。お母さん?と色々話を聞くに、そのパン屋は、店の社長の母親が糖尿病になった為、そういう人にも食べられるパンをと、脱サラして立ち上げたお店だとか。一から実店舗を構えていたら、おそらくこういう斬新な発想の食品を展開するのは難しいわけで、ECだから挑戦できるもの。こういうお店がリアルのイベントに展開できることこそ、ECと絡めたリアルイベントの醍醐味ではないか。
ECならでは。糖質を使わぬパン屋の隠されたヒストリー
その店が「大豆パンとスイーツの店 糖限郷」だと分かり、同店を運営する「ウェルフード」代表取締役 中村宏樹さんに話を聞いた。母親が糖尿病を患い、何も食べたいものが食べられなくて困っている人の為に、と一念発起して立ち上げた店だ。ECをやろうと思ったきっかけは、母の言葉だそう。料理を作るにもその材料がスーパーマーケットでは売っていないので、そもそも物流がないからネットでやったらいいのではないかという声だった。
とはいえ、いざ始めると、中村さん自身「調理師免許もなければ、ニッチゆえにレシピもない。何百回、何千回とやってもパンが焼けないというのは、一番苦しかったですね」と振り返る。毎日毎晩、ノートにつけて、分量と発酵温度、発酵時間、いろんな組み合わせがあるので、一個ずつ潰していき、ようやくたどり着いたのだという。0を1にする執念。思うに、これだけの執念があって、商品があるのだから、やっぱり売る場所が変わったとしても、それに見合った価値を提供できるポテンシャルはあるということだ。
また、最初はお客様に何を話しかけていけばいいかわからなかったが、テレビで取り上げられたこともあり、向こうから話しかけてきてくれたという。何気ない会話、それがより距離を縮めるのだとわかった。メールに送る定型的な「ありがとうございました」だけでは、これほどの距離感はない。接客ってこういうことだなとハッとさせられたと言う。定型的な「ありがとうございました」だけでなく、もう一言添える、気持ちの大事さを、痛感させられたという。
ニッポンの商店街の温もりがこの笑顔に。
ネットの中の商品は、リアルで見たことがないものであっても、しっかりとファンがいて、商品のクオリティにおいては申し分ない。実は、ECには様々な可能性が蓄積されているように思う。ネットのレベルが高いからこそ、リアルで初見のお客様も納得させている。その事実は、ECが築き上げて来たものが正しかったことを示し、誇りでもある。ニッポンで少なくなりつつある“商店街”は、実は、ECの中にあったのだと僕は思った。
オーグルの千葉さんと話していた時、『最近は仙台にも大型店ができて、随分と便利になった反面、小さな金物屋や本屋や文房具屋など、商店街が形成されていたのが無くなった』という話題になった。商店街で店主のおじさん、おばさんたちがあれやこれやと話し、お客様とも顔見知りのようにして、触れ合ったあの温もりはもうない。
でも、僕は今回の「うまいもの大会」に来て思ったのだ。その商店街の温もりは、ここにあったと。繰り返すが、楽天のショッピングモールの中で、ニッポンの商店街が生きている。だから、僕は言いたい。なんだか楽天さん、最近格好つけすぎちゃってませんか?と。グローバルじゃなくていいじゃない。泥臭くて、人情味溢れていて、店と店、顔なじみのお客様とが触れ合うそんなモールだから、素敵なんだと思う。楽天の本当の魅力、僕はこの「うまいもの大会」で見た気がする。ニッポンの商店街の未来は、きっと明るい。この笑顔がある限り。
<企画・構成:石郷 学>