【ECのミカタリサーチ】再配達問題での消費者の声と各社の対策事例〜楽天/ヤマト×DeNA/JR東日本等
インターネット通販の発達により、消費者の通販購入のハードルが下がりつつある。耐久消費財だけでなく、洗剤や化粧品などの日用雑貨を気軽に通販購入できるようになった。このようなEC市場の成長に伴って考えておきたいのが宅配業者の再配達に関する問題だ。今、インターネット通販で購入した商品を配達する宅配業者は、相次ぐ再配達の配送に追われ疲弊しつつある。
再配達は今後もEC市場の成長に比例して増えていくだろう。EC市場が成長を続ける限り、再配達が無くなることはないと予想される。こういった状況において、EC事業者は通販の再配達問題とどのように向き合うべきだろうか?
ここでは、EC事業者が知るべき再配達の現状について紹介したい。また、実態を把握するべく、ECのミカタが独自に消費者に調査も行っているので、そちらもあわせてご覧いただきたい。
再配達にかけられているコストと社会的損失の大きさ
ヤマト運輸の発表によると、2015年度の宅配便取扱個数は、過去最多となる17億3,126万個にものぼった。2014年度と比較して6.7%増加していることになる。そして国土交通省の発表によると、2015年度の宅配便取扱個数は37億4,493万個。こちらも前年度から3.6%増加している。
このように日本の宅配便のほとんど(約46%)をヤマト運輸が取り扱っている現状があり、日本全体の宅配便取扱個数は年々増加傾向にある。EC市場は、2009年から2013年の5年間で約1.8倍という規模に拡大した。EC市場の成長に比例してヤマト運輸への負担も増加しているというわけだ。
運送業界への負担は、宅配便取扱個数の増加だけに留まらない。2015年の国土交通省の発表によると、都市部・都市郊外・地方のいずれにおいても、2回以上の再配達が約20%も発生しているという。こういった再配達に費やされている時間は約1.8億時間と言われている。1日の平均労働時間を8時間、かつ年間労働日数を250日と仮定すれば、これは年間9万人もの労働力に匹敵する。再配達は日本の労働生産性に影響を与え、大きな社会的損失を引き起こしている。
また、再配達のための自動車走行距離にも注目すべきだろう。再配達によって発生するCO2を1年間で換算すると、その量は418,271t。これは、スギの木約1億7,400万本が1年間で吸収するCO2に相当する。
2015年度は、インターネットで購入された商品の中でも日用雑貨の割合がもっとも多かった。今後も宅配便取扱個数が増えることが予想される中、運送業界は深刻なドライバー不足に見舞われている。このような状況において運送会社の負担を減らし、かつ業務を効率化するためには、20%も発生している再配達を減らす必要があるだろう。
ECのミカタリサーチによる「再配達の実態」
さて、ECのミカタでは、この再配達の問題に関して、全国に住む20代から60代までの男女150名を対象にしたアンケート調査を行った。
◆調査対象:全国に住む20代から60代の男女
◆調査方法:インターネット調査
◆調査時期:2017年04月14日~04月16日
◆回答者数:150名
まず、初歩的な質問。荷物の1回目の配達の際に、「すみません。その時私、これしてたから再配達になりました。」という項目はどれですか?と聞いてみたのだ。何をしていたから、再配達を誘発してしまったのか?
それによると、再配達の原因でもっとも多かったのは上の棒グラフの通り「買い物に出かけていたから」であった。宅配便の時間指定をし、何時間も家で待機していたにもかかわらず、たった数分の外出のタイミングで受け取りの機会を逃してしまうという。
再配達の原因と、消費者の要望・意見
宅配便では時間指定ができるものの、その幅は数時間単位とざっくりしている場合が多い。買い物や外出などやりたいことがあるにもかかわらず、ユーザーは数時間単位で自宅に拘束されているのだ。アンケートに寄せられた意見からは、このようなシステムがユーザーのストレスとなっている様子がうかがえた。
結局のところ、人は拘束されることに抵抗があるわけだ。では、それを踏まえて、もう一つ、質問をしてみた。商品を購入する際、オンラインショップに対して極論、場所は自宅で時間が厳密になるか?場所が厳密で時間にはこだわらないか?のどっちを重視するのか、聞いてみたのだ。すると・・・
オンラインショップに対して「荷物の受け取り時間を詳細に決められるように頑張ってもらいたい」と回答したのは全体の73%。つまり、コンビニや職場といった受け取り場所の多様化よりも、ユーザーは詳細な時間指定が可能となり自宅で受け取ることを望んでいると言える。
仕事などで留守にする時間が長い独身の世帯では、それでも初回で荷物を受け取るのが難しいだろう。したがって、大学生が利用するアパートや独身世帯の多い地域では、地域の駅やコインパーキングに共有の宅配ロッカーを設置するなど、再配達を減らすための工夫が必要となる。
アンケートに寄せられたコメント
以下で、アンケートに寄せられたコメントの一部を見ていこう。
■「荷物の受け取り場所の選択肢を増やし、受け取り時間にはこだわらない」
● 職場や学校近くのコンビニや配送センター等、都合の良い受け取り場所の選択肢が増えれば、自宅配送に拘る必要はない。(男性・静岡県・40歳)
● 自宅での時間指定の受け取りは必ず家にいなければいけないので、可能な限りコンビニ等での受け取りを希望している。(男性・栃木県・47歳)
● 配達予定が入るとトイレも我慢したり極力インターホンの近くの部屋に居続けるのでなるべく宅配ロッカーに入れてもらうようにコメントすることにしているしほぼ絶対人がいる職場に届けてもらうようにしている。(女性・兵庫県・53歳)
統計とコメントを見ると、自宅の他に受け取り場所の選択肢が広がれば、必ずしも自宅で受け取らなくてもよいと考えている消費者が多いようだ。特に、普段から仕事などで自宅を留守にすることが多い場合は、場所や時間に縛られず、自由に受け取りできるサービスに魅力を感じている。ただし、自宅や職場から受け取り場所までの距離があると、ユーザーがそこまで足を運ぶ負担が増えてしまうのが難点である。
■荷物の受け取り場所は自宅で、受け取り時間が詳細に決められる
● 受け取り時間が2時間や3時間単位でも、たまにどうしてもやらなきゃいけない事をしてるたった数分の間に来てしまって再配達を頼むこともある。自宅にいても暇なわけではないし午前中でも詳細に一時間単位だと助かる(女性・福島県・57歳)
● 受け取り時間が詳細に決められれば、その時間に家にいればいいので他の行動がしやすいが、分からないとなかなか一日中待っていることが難しい。(女性・愛知県・40歳)
● 受け取り時間が曖昧だと、前後の時間の行動が制限されてしまうため、間違いなく届く時間を詳細に決められるなら、ありがたいと思います。(男性・北海道・46歳)
多くのユーザーは、受け取り時間を1時間単位で指定できるようになれば、再配達を防げると考えている。基本的に多くの時間を自宅で過ごすユーザーにも、どうしても家を開けなければならないことはある。そのたった数分が、再配達の原因となっているのが現状だ。受け取り時間を詳細に設定できるようにするだけで、こういった行き違いを減らせる可能性があるだろう。
荷物の受け取り方対策と最新事例紹介
アンケート調査では、受け取り時間の細分化を望む声が多くみられた。その一方で、受け取り方法の多様化を推進する重要性もまた明らかになった。ただし、アンケートの結果で73%が自宅での受け取りを希望していることから、優先順位が高いのは前者だと考えられる。
荷物の受け取り方が多様化している事例
日本の大手企業においても、再配達を減らすためのさまざまな企業努力が行われている。以下で、その事例の一部を紹介する。
パナソニック株式会社
福井県あわら市の共働き世帯に宅配ボックスを設置する「宅配ボックス実証実験」を、2016年11月より開始している。中間報告によると、再配達率が49%から8%に減少し、約65.8時間の労働時間の削減、そして約137.5kgのCO2削減が達成された。
299回もの再配達を削減し、翌年4月の最終結果発表時には、再配達率が約8%にまで下がったという。今後、再配達削減回数は700回以上になると予想されている。このことから、自宅への宅配ボックス設置が再配達を減らす可能性が示唆されている。時間指定の荷物のうち約2割が再配達となっている今、自宅に設置する宅配ボックスにも注目しておくべきだろう。
JR東日本×日本郵便・ヤマト運輸
首都圏を中心とした駅に「宅配受取ロッカー」の設置を拡大している。こちらは日本郵便およびヤマト運輸の荷物を対象とし、多様化する荷物の受け取り方の一例となっている。
日本郵便
郵便局に設置されたロッカーで荷物の受け取りができる「はこぽす」が登場。近隣の郵便局で荷物を受け取れる環境が整備されつつある。
楽天
購入した商品をユーザーの自由なタイミングで受け取れる「楽天BOX」の設置を開始。設置場所は徐々に数を増やしている。また、同社は日本郵便と連携し、1回目で荷物を受け取ったユーザーに対して、楽天スーパーポイントを付与する施策を実施する。ポイント付与によりユーザーの再配達への認識が変化するのではないだろうか。
ヤマト運輸×ネオポスト
オープン型宅配ロッカーの「PUDO(プドー)」の提供を開始。宅配ロッカーの利用条件として、45%のユーザーが「身近な場所への設置」を挙げたのを受け、再配達の多い地域を重点に駅・ショッピングモール・コインパーキングなどに設置していくという。鉄道駅だけでなく、バスターミナルや駐輪場など、より身近な場所への設置を推進していく。
京王
京王地下駐車場では、コインロッカーを利用した荷物受渡サービスを実証実験中だ。コインパーキングという利便性の高い場所で、既存のコインロッカーを活用した取り組みを展開している。一人暮らし世帯や共働き世帯における鉄道利用者の利便性を、さらに高めるのを目的としている。
ヤマト運輸×株式会社ディ−・エヌ・エー
ヤマト運輸と株式会社ディー・エヌ・エーが開始する「ロボネコヤマト」では、配送の時間帯を10分刻みで指定できる上に、自宅以外でも荷物が受け取れるようになる。この取り組みが実現すれば、荷物の受け取り時間の細分化と、荷物の受け取り場所の多様化が、同時に実現できるかもしれない。
環境省
オープン型宅配ボックスの設置を推進するため、環境省が5億円の補助金を盛り込んだ予算案が、2016年12月に閣議決定されている。補助の対象となるのは、物流事業者・ロッカー設置者・ロッカー管理者。拡大するEC市場に対して、消費者がより荷物を受け取りやすい環境を目指す。
まとめ
EC市場の拡大に伴う再配達の増加を受け、再配達の割合を減らすための新しい取り組みが、各企業から次々と実施されている。こういった新たなサービスを利用するとともに、なるべく時間指定を設けて再配達を防ぐのが、業界全体ないし国全体の利益に繋がると考えられる。
特に、注文した当日に荷物が届くサービスにおいては、未だ時間指定ができないのが現状である。今後も日用雑貨等の注文が増えていくのを考慮するならば、当日注文であっても時間指定できるよう改善するのが、再配達の削減に繋がるのではないだろうか。