GMO ECカンファレンス〜ブランドに学ぶECサイト運営/Instagramが酒造企業にもたらした栄光
一昨日、GMOインターネットは「GMO ECカンファレンス2017」を開催した。GMOは言うまでもなく、 そのグループの中で、MakeShopやカラーミーショップといったカートシステムの他、GMOペイメントゲートウェイやGMOペイメントサービスのような決済に関わるサービスを提供する中で、多くのECサイトと接点を持っている。
日頃、彼らが抱くECサイトへの想いを、このカンファレンスを通して、自ら発信し、そして、また、ECサイトの各々のビジネスに生かしてもらおうと言う一つの決意がここにはあり、数々のセミナーがここには用意された。
例えば、冒頭のセミナーでは、「MakeShop人気店の店長さん達と向畑社長がホンネで語り合う、EC戦国時代に勝ち残るための極意」と題して、向畑社長が自らショップとトークを行い、ECサイト運営の裏側に迫った。
MakeShop人気店の店長というのは、ダーツショップを運営するアールオーエヌ取締役の中野洋さん、卸スタジアムといった卸売のECサイトを運営するオールスタジアムの代表取締役の八巻宏さん、Capanaというアクセサリーサイトを運営するバモラジャパン代表取締役の柄沢雅之さん。あくまで、向畑社長はモデレーターであり、ECサイトによる、ECサイトの為のイベントといった印象だ。
人気となるには理由があって、例えば、Capanaで言えば、広告を出さずとも、SNSを活用することで、効果的にアピールすることができるとしていて、人間の心理をうまくビジネスに生かしている。バモラジャパン柄沢さんは、こんな一例を持ち出した。「ブランドで「BMW」が、何故、大都市のど真ん中で、商品の売り込みをするわけでもない、イメージ広告を出しているのか」と。
一流ブランドが何故に支持されるのかに、着想を得たとある店舗のエピソード
それをバモラジャパン柄沢さんはこう分析するのだ。最初からターゲットを富裕層で意識していて、自分達が持っているそのブランドがそうしたシーンで、広告として使われていることで、それを街中で見たときの自分達が自分達のステータスを感じて、その広告に誇りを持って見ているからこそ、また、改めてそのブランドの商品を買おうという心理になると。
では、人々がそんな風にしてどうやれば、優越感のような感覚を持てるようになるのか、ここにCapanaの人気の秘訣があるのだ。そこで、Capanaでは「贈った時や、紹介された時に、受け取って喜ばれるブランド」作りを心がけ、例えば、商品の質は勿論、些細なことにも気を配り、梱包などにも必要以上のコストをかけて、より良き雰囲気を演出したのだ。
それは自分が誰かにプレゼントをした時に、あるいは、そのブランドを紹介した時に、そのブランドを手にした相手から「本当に良かった」「いいブランドを紹介してくれた」と言われることとなり、それがある意味、その贈った人、紹介した人の誇りとなり、自らのステータスの向上に繋がったのだ。それは、思いの外、拡散される。そして、その快感は、また次、そのブランドを使おうという心理へと繋がる、という事なのだ。
最初は苦戦したECサイトの運営
他にはない、自分なりの着想で勝負を挑めるのが、まさにECの魅力であるといえよう。今回は、ECのミカタからは僕が「有名酒造ショップに聞く「地方で勝ち残るためのネット活用戦略」と題したセミナーに参加させていただき、モデレーターを務めさせてもらった。
有名酒造ショップというのは、まずは下関酒造 代表取締役内田忠臣さん、そして、通潤酒造 中の人課長 菊池一哲さんだ。下関酒造は山口、通潤酒造は熊本と、地方で着実に実績を上げているECサイトだ。そして、両社ともに、ECは最初、苦戦したと切り出す。ただ、その突破口は、意外なことに、EC以外に目を向けて見た時に開かれたというのだ。
下関酒造の内田さんによれば、直売店でイベントを年に5~6回実施するようになり、また、合わせて、カフェも設置することで、それも一緒にアピールしたところ、女性客がどっと押し寄せたという。カフェも、社内の声を元にしたわけだが、お酒の会社がスイーツをやることが果たしてうまくいくのか、と恐れもあった。ところが、蓋を開け見れば、酒造とのギャップで逆に話題となった格好だ。
Instagramが酒造企業にもたらした光明
その上で、更に想定外だったのが、その女性客が「写真を撮っていいですか」という言葉。まさに、彼女達がそれらの写真をInstagramなどで発信し始めた事で、自分たちが発信するよりもはるかに上手に、自分達の下関酒造がブランディングされて、拡散されていったというのだ。
内田さんは言う。従来、直売店に来る人がいても大体、女性は一緒に連れられて来ることが多くて、旦那や彼氏がしゃしゃり出ていることが多かったが、女性が率先して来るようになった。これを契機に一気に男女逆転したことが、この店にとってもプラスに作用した、と。
結果、お客様が集まってくるというサイクルが生まれ、顧客データが集まり始めて、DMなども積極的に活用し、ECだけにとらわれる事なく、お客様との接点作りを意識したというのだ。この接点が増えたことが、結果、ECサイトへの集客にも繋がったというのだから、わからないものだ。
Twitterが酒造企業にもたらした栄光
また、通潤酒造の菊池さんの話も興味深く、Twitterでその効果を実感した一人だ。菊池さんの肩書きの通りTwitterで「中の人」と名乗り、お酒のことにとらわれることなく、発信したところ、ファンがつき始めたわけだが、菊池さん自身、ウィークポイントだと思っていた、「田舎」、「過疎と言われる地域」という所の個性が逆に、多くの人の関心を集めることになったのは、当初、想定していなかったことだ。
これをきっかけに、お客様との接点を生んだ菊池さんは、その後、女性の間で流行している刀剣ブームを活用し、「蛍丸」という吟醸酒で、そのデザインに取り入れた。そして、一気に拡散することに繋がり、店の躍進を後押ししたのだ。「蛍丸」とはまさに、先ほど触れた地元の個性に着目し、熊本県北東部の一帯を納めた阿蘇大宮司家の宝刀の名前から取ったものである。
ネットにできることはなんだろう?
まさに、ECサイトだけを見ていても答えは見えなくて、自分達の個性を俯瞰的に捉えて、様々な仕掛けをしていく中で、ECサイトに繋げていく。その工夫こそが、地方にあるECサイトの運営の肝なのかもれない。
下関酒造の内田さんは、ネットの存在に感謝もしているという。地元の下関の誇れるものとして、自ら「ひれ酒」の存在を挙げていて、同社は、下関の料亭で味わえるようなひれ酒を、とひれの乾燥方法、焼き方、保存方法、使用方法に至るまで、工夫した商品がある。ネットを通して伝え、また、商品を買うことで、その本当の良さに気づいてもらえたからだ。
そして、菊池さんもネットの価値に重きを置いていて、ヒットをつかんだ通潤酒造は、酒粕を使った石鹸の開発もTwitterで繋がった石鹸メーカーとの間で行い、商品開発、制作段階から、SNSを活用して丁寧に伝えていった。今ではそのブランド力が評価されて、この石鹸は、アパレルブランド「アーバンリサーチ」でも販売されていると言うのだ。地方の価値はネットにより発掘された、と語る。
地方の持つ可能性は、まだまだあるし、まだまだ発掘されるべきである。その部分において、ネットは、そして、ECはできることがきっとある。僕は、モデレーターとして、横にいてそれを強く思った。本来持つその可能性をもっと多く人に知らしめるために、また、彼らは仕事に打ち込むのであり、そんな彼らの動きを少しでも伝えられればと思った次第だ。
こうしたECサイトの取り組みへのリスペクトを込めて、イベントで詳らかにし、ECサイトの背中を後押しするGMOグループ。来場者にとっては、学びも多かったと思うし、それだけに同社グループのこの姿勢には拍手を送りたいと思う。