卸売・小売社員の重要スキル「タイムマネジメント・ITリテラシー」【ラーニングエージェンシー調査】

ECのミカタ編集部

株式会社ラーニングエージェンシー(旧トーマツ イノベーション株式会社、本社 東京都千代田区、代表取締役社長 眞﨑大輔)は、2021年10月11日~12月13日の期間、ビジネスパーソン5,099人を対象に「組織・チームのあり方の変化に関する意識調査」を行った。

今回は、その中から「卸売業・小売業の社員に求められることの変化」に関する結果の概要についてポイントを絞って見ていく

10年で「卸売業・小売業社員の役割変化した」6割

10年で「卸売業・小売業社員の役割変化した」6割

最初に、卸売業・小売業の管理職や一般社員に求められることが、この10年間で変わったかどうかについて尋ねている。管理職に求められることが変わったと回答した卸売業・小売業の人は58.2%、一般社員に求められることが変わったと回答した人は60.5%となり、いずれも約6割の方が「変化した」と回答した。

これ以降の設問は、卸売業・小売業で求められる管理職や一般社員の姿が10年前と比べて「変化した」と回答した人のみに尋ねている。

卸売業・小売業で管理職に求められる役割が変わったと答えた人は、具体的にどのような点で変化を感じているのだろうか。まず10年前に求められていた管理職像を複数回答で尋ねたところ、TOP3は「トップダウンで物事を進める(79.4%)」「部下に自分の模倣を求める(63.8%)」「前例を踏襲する(57.1%)」だった。

これに対し、現在求められている管理職像のTOP3は「コンプライアンスやモラルを重視する(84.7%)」「時間内で効率的に終わらせる(75.6%)」「個人としてのスキルアップを志向する(73.2%)」となっている。特に、「個人としてのスキルアップを志向する」は卸売業・小売業を除く全業種(以下、『他業種』と記載)と比べると5.6pt多い結果となった。

また、現在求められる管理職像で上位には入らなかったものの、他業種との差が最も大きかった項目は「決められたことを確実に遂行する(44.9%)」で、他業種よりも6.6pt多い結果となった。

現在の管理職に多い傾向では、「コンプライアンスやモラルを重視する(50.4%)」が最多を占め、「トップダウンで物事を進める(46.2%)」「企業利益を重視する(45.6%)」と続いた。

また、求められている役割と実態を比較すると「自ら何をすべきかを定義し、遂行する」が最も乖離が大きく、期待よりも実態のほうが44.7pt低い割合となった。「ボトムアップで物事を進める」「前例にないことを行う」「個人としてのスキルアップを志向する」も、それぞれ44.4pt、40.9pt、40.5ptの乖離があり、期待より実態が低い結果に。特に「ボトムアップで物事を進める」と「個人としてのスキルアップを志向する」は他業種と比較しても期待と実態の間のマイナス幅がそれぞれ4.9pt、8.9pt大きく、卸売業・小売業ならではの特徴の1つとなっている。

管理職に重視されるスキルは「マネジメント」が最多

管理職に重視されるスキルは「マネジメント」が最多

管理職像の変化が生じた理由について3つまで選んでもらったところ、最多となったのは他業種と同じく「働き方(雇用形態や勤務時間・場所など)が多様化した」で、69.5%を占めた。

第2位、第3位も同様に「市場環境が変化・複雑化した(61.6%)」「従業員満足度や従業員の働きがいを重視する世の中になった(45.7%)」となっている。特に、卸売業・小売業では「市場環境が変化・複雑化した」を選ぶ割合が他業種よりも多く、その差は11.0ptでした。一方で、「求められる成果がより高くなった(31.7%)」「マネジメントする人材(職種や専門分野など)が多様化した(27.2%)」は、それぞれ他業種よりも4.4pt、4.8pt低い結果となった。

卸売業・小売業における管理職像の変化は管理職に求められるスキルや知識にも表れている。10年前に比べて特に重視されるようになってきたと感じる管理職のスキルや知識の第1位は「マネジメント(68.5%)」。他の選択肢より突出して選択されており、他業種と比べても9.5pt多い結果となった。

第2位は「コーチング(43.4%)」、第3位は「IT・デジタルに関するリテラシー(42.9%)」だった。「コーチング」は他業種よりも2.9pt多く選ばれた。また、他業種より重視されているスキル・知識として「ティーチング(21.6%、+3.9pt)」も挙げられた。

一般社員に期待するのはチーム力での成果

一般社員に期待するのはチーム力での成果

次に、卸売業・小売業の一般社員に関して調査している。10年前に期待されていたことのTOP3は「定型的な業務を確実に遂行する(75.8%)」「個人として成果を上げる(60.2%)」「上位層の方針や判断をこまめに確認し、行動する(51.5%)」だった。

これに対し、現在期待されている項目は「チームで協力して成果を上げる(78.8%)」が最多となった。第2位・第3位は「自ら現場で判断し、行動する(62.5%)」「周囲を巻き込みリーダーシップをとる(58.7%)」となり、チームで働くことを意識した選択肢が多く選ばれた。

特に「チームで協力して成果を上げる」は、他業種より5.6pt多く選ばれている。一方、対極的な意味合いの項目である「個人として成果を上げる」は、期待される割合が10年前から22.7pt減少し、他業種と比べてもマイナス幅が11.9pt大きい結果となった。

では、実際に卸売業・小売業の一般社員が担っている役割はどうだろうか。最も多く選ばれたのは「定型的な業務を確実に遂行する」で57.6%、次が「チームで協力して成果を上げる(45.9%)」「上位層の方針や判断をこまめに確認し、行動する(45.0%)」となっている。

また、求められている役割と実態とを比較した際に大きなスコア差が見られた項目は、「周囲を巻き込みリーダーシップをとる(-35.2pt)」「非定型的な業務・プロジェクト型の業務で役割を遂行する(-34.7pt)」「チームで協力して成果を上げる(-32.9pt)」「自ら現場で判断し、行動する(-32.5pt)」の4項目だった。逆に、現在求められる割合があまり高くないものの、実態では大きな割合を占めたのが「定型的な業務を確実に遂行する(+22.3pt)」だった。

一般社員の重要スキル「タイムマネジメント」「IT・デジタルリテラシー」

一般社員の重要スキル「タイムマネジメント」「IT・デジタルリテラシー」

卸売業・小売業の一般社員にこうした役割の変化をもたらした理由は「状況の変化が速くなった」が最多で、56.0%の回答者から選ばれていた。2番目に多く選ばれた「顧客やマーケットのニーズが多様化した」でも約半数の48.5%を占め、他業種より6.9pt多い結果となった。

新たに期待される役割に関して、特にどのようなスキルや知識が重視されるようになってきたかという設問では、他業種と同様に「タイムマネジメント(53.9%)」「IT・デジタルに関するリテラシー(52.0%)」「言語化する力(相手に合わせた表現で伝える力)(43.1%)」がTOP3を占めていた。「マーケティング(22.8%)」は卸売業・小売業で重視されるスキルの第7位ではあるものの、他業種より9.2pt多く選ばれた。

求められる役割に変化が

調査結果にあるように、この10年で卸売業・小売業社員の役割「変化した」が6割となり、管理職のあるべき姿TOP3は「コンプラ重視」「効率的」「スキルアップ」、実態とは大きな乖離がみられた。

また管理職に重視されるスキルは「マネジメント」が最多。市場環境の変化の影響が色濃く出ており、一般社員に期待されるのは、個人ではなくチームで協力して成果を上げること、一般社員の重要スキル「タイムマネジメント」「IT・デジタルリテラシー」が過半数、「言語化する力」も4割超となった。

公表に際して同社では次のように述べている。

「現在期待されている卸売業・小売業の管理職像のTOP3は『コンプライアンス・モラル重視』『効率的』『個人としてのスキルアップ』となりました。特に『個人としてのスキルアップ』は、他業種よりも強く期待されていることがわかりました。商品の入手経路が多様化し、商品や製品自体のスペックもコモディティ化が進む中、会社としての差別化が困難になっています。このような状況になり、1人ひとりの個人力を高めることが、企業の差別化につながるという危機感が表れているといえます。

管理職に現在期待されていることと実態の乖離が大きい項目は『自らすべきことを定義し、遂行する』『ボトムアップで物事を進める』『前例にないことを行う』『個人としてのスキルアップ』と続いています。特にボトムアップとスキルアップは、他業種と比較して期待と実態の乖離が大きい結果となりました。現場の状況に応じてボトムアップ型で判断し、臨機応変に物事を進めていくこと、前例のないことにも挑戦するために個人がスキルアップをしていくことが求められていますが、現状はまだそのようにはなっていないことがうかがえます。

卸売業・小売業における管理職像の変化の要因では、『市場環境が変化・複雑化した』ことが他業種と比較して突出して高くなり、マーケットの影響を即時に受ける卸売業界・小売業界の特徴が表れているといえます。管理職に必要なスキルでは『マネジメント』を挙げる方が突出して多く、『コーチング』『ティーチング』を選んだ方も比較的多く見られました。市場の変化・複雑化に対応していくために、これまでの自身のマネジメントのあり方や部下育成の方法を見直さなければならないという管理職の危機感が表れていると推察します。

一般社員に目を向けると、10年前と比較して大きく伸びた期待する役割は『チームで協力して成果を上げる』『自ら現場で判断し行動する』『周囲を巻き込みリーダーシップをとる』でした。特に『チームで協力して成果を上げる』は他業種と比べて多く選ばれています。このような変化の要因は『状況の変化が速くなった』『顧客やマーケットのニーズが多様化した』の回答が多く、消費者の生活スタイルの変化により、これまでの成功体験に固執しすぎずに状況によりアンラーニングする必要があること、またこの環境下で成果を出すにはチームで知恵を出し合う必要があるという危機意識の表れだと考えます。

一方、これらの大きく伸びた項目は実態と乖離があります。一般社員が現在担っている役割の実態は『定型業務の遂行』が最も高く、『チームで協力して成果を上げる』『自ら現場で判断し行動する』『周囲を巻き込みリーダーシップをとる』といった期待されている役割に対しては、ずれが見られます。現時点では変革途中の段階にあるようです。

なお、一般社員に特に求められるようになったスキルTOP3は『タイムマネジメント』『IT・デジタルリテラシー』『言語化する力』となり、他業種との順位の違いはありませんでした。残業時間の削減のみならず、仕入れ先との交渉やお客様との会話においてもこれまで以上に相手や手段が多様化していることから、相手に合わせた表現・手段で伝える力の重要性もますます高くなってきているといえます。

卸売業・小売業の社員が期待と実態の乖離を埋め、求められるスキルとのミスマッチを軽減していくためには、管理職も一般社員もチーム力を向上し、ボトムアップ型の業務の進め方に切り替えていくことに加え、上記で触れたような個人としての新たなスキル・知識の習得も同時に行っていく必要があるでしょう。本調査レポートが、皆様のチーム・組織運営のあり方を見直し、管理職だけでなく一般社員も含む役割の見直しの一助となれば幸いです」

このように今回は、卸売業と小売業に焦点が当てられ、現場の視点から管理職と一般社員(非管理職)に求められる役割の変化が解き明かされた。同社も述べているように、国内での事業展開が多い卸売業・小売業は、人口減少やECによる購入経路の多様化などに大きな影響を受けている。

それに加えて2020年から新型コロナウイルスによる感染拡大が起こり、一般消費者の生活スタイルや購買行動に大きな変化をもたらしてきた。SDGsやエコに対する意識の高まりも、消費者の商品選択の基準に影響を与えている。

新たにロシアによるウクライナ侵攻という第二次世界大戦後・冷戦後の国際秩序を脅かす事態も発生しており、それはサプライチェーンにも影を落としている。こうした激変する市場環境を前に、企業の中でのそれぞれの役割はこれからも変化を求められることになるだろう。

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