適正在庫とは。計算方法や注意点、適正在庫を維持する具体的な方法を解説
適正在庫とは、欠品を出さない最小限の在庫数のこと。適正在庫の維持は、企業の利益を最大化につながるため、内容を理解して正しく管理することが重要だ。今回は、適正在庫の重要性や計算方法、適正在庫維持に向けた方法を解説する。自社の在庫管理方法の見直しに役立ててほしい。
目次
●適正在庫とは?在庫管理において重要な理由
●適正在庫を示す4つの計算方法
●適正在庫を維持する4つの方法
●まとめ
適正在庫とは?在庫管理において重要な理由
まずは、適正在庫の概要や在庫管理をする上で重要な理由を紹介する。
適正在庫とは、欠品しない最小限の在庫数
適正在庫とは、欠品を出さず、なおかつ過剰在庫にもならない最小限の在庫数のことだ。在庫数が少なすぎると購入ニーズに応えきれずに欠品が発生し、販売機会を失うリスクがある。一方で、在庫数を多く持ちすぎると管理コストがかかり、さらには不良在庫を増やし、企業業績の悪化をもたらす。そのため、在庫管理において適正在庫を保つことは、保管コストを最小限に抑え、利益を最大化にする「キャッシュフローの最適化」につながる。適正在庫の維持は、健全な企業経営を行うための重要な課題といえるのだ。
安全在庫との違い
適正在庫と混合されがちな言葉に「安全在庫」がある。適正在庫と安全在庫は、設定の目的が異なる。
安全在庫は、欠品を防ぐ目的で設定されるもので、在庫数の下限値を決めるもの。需要やリードタイムに多少の変動があった場合でも、柔軟に対応できるように備えておく在庫量のことだ。なお、リードタイムとは発注から納品までの時間を示すもの。
一方の適正在庫は、企業が利益を出すことを目的に設定される。欠品防止と過剰在庫防止の役割がある。
※出典元:在庫管理110番(瀬戸内scm株式会社)
「安全在庫の計算方法と設定の注意点」
「適正在庫の計算方法と実務ですぐに使える維持方法を専門家が解説」
適正在庫を示す4つの計算方法
自社の在庫が適正であるか判断する方法として、いくつかの計算式がある。ここからは、適正在庫を示す4つの方法について、具体的な考え方や計算方法を解説する。
1.適正在庫の基本計算は「安全在庫」+「サイクル在庫」
「安全在庫」+「サイクル在庫」とは、適正在庫を示す基本の計算式だ。多くの業界でこの方法を用いて、適正在庫を算出している。まずは、「安全在庫」「サイクル在庫」それぞれの数値の求め方を確認しよう。
<安全在庫の計算方法>
「安全係数(1.65)」×「使用量の標準偏差」× √(発注リードタイム+発注間隔)
●安全係数:どれぐらいまでなら欠品を許容できるかを表す数値のことで、一般的に欠品許容率5%にあたる1.65を使用する
●使用量の標準偏差:過去の出荷量や販売量の平均値
●発注リードタイム:発注してから納品されるまでの日数
●発注間隔:次回発注を行うまでの日数
以下の条件で、安全在庫を算出してみよう。
・欠品許容率=5%(安全係数=1.65)
・使用量の標準偏差=12個
・発注リードタイム=3日
・発注間隔=8日
安全在庫=1.65×12×√(3+8)=65.66個(67個)
<サイクル在庫の計算方法>
サイクル在庫とは次の納入までの需要に対応するための在庫であり、発注と発注の間に消費された在庫量の半分を示す値のこと。1日あたりの平均出荷量×調達期間日数で求めるのが一般的だ。例えば、1日に平均10個出荷され、発注してから納品されるまでに4日かかる商品の場合、10個×4日=40個がサイクル在庫となる。
安全在庫とサイクル在庫を使った適正在庫を算出する方法には、注意点もある。どちらも計算式から基準値は示せるものの、季節による売上の変動やメディアの影響など、経験則から状況に応じた予測が必要となることだ。この計算方法だけで適正在庫を示すのは難易度が高く、属人化しやすい傾向にあることを理解しておこう。
2.「需要数」から適正在庫を算出
「需要数」とは、顧客の需要に応えられる在庫数から適正在庫を算出する方法だ。店舗などの現場向きの計算方法といえる。計算式は、以下の通りだ。
<需要数からの適正在庫の計算方法>
適正在庫数=一定期間の需要数+安全在庫数
例えば、1週間の需要数が20で、安全在庫が10の場合、適正在庫は30となる。一方で、世間の情勢や最新のトレンドなどによって、需要数の変動が考えられる。的確な需要数を把握するためには、クライアントへの要望の確認や、市場の動きの観察などが必要になるだろう。
3.「在庫回転率」と「在庫回転期間」から適正な在庫かチェックする
「在庫回転率」と「在庫回転期間」とは、自社が適正在庫を適正な値で保てているかを判断する方法だ。在庫回転率が高く、在庫回転期間が短いほど、適正在庫を保てていると判断できる。在庫回転率と在庫回転期間は、経営的視点で用いられることが多い。
まず、在庫回転率とは、一定の期間の間に在庫が入れ替わった回数を表す値だ。在庫回転率を示すことで、在庫の仕入れから販売までの速さを数字で確認できる。計算式は以下の通りだ。
<在庫回転率の計算方法>
在庫回転率=年間売上原価÷平均在庫金額
(売上原価=期首在庫金額+商品仕入金額-期末在庫金額)
例えば、年間の売上高1,000万円で、年間の平均在庫金額が100万だった場合、年間の在庫回転率は10となり、在庫は年に10回入れ替わったことになる。
一方、注意点として、在庫回転率の値は、業界や扱う商品によって基準が異なる。例えば、消費期限が設けられる商品を扱う小売店などの場合、消費期限を在庫回転率の基準と考えるのが一般的だ。また、製造業などは、在庫金額の平均だけでなく、業界特有のコストを含めて計算する。
次に、在庫回転期間とは、在庫が全て入れ替わるまでの期間のことを表す。計算式は以下の通りだ。
<在庫回転期間の計算方法>
在庫回転期間=棚卸資産合計÷年間売上高
例えば、在庫資産が1,000万円で、年間売上高が500万円だった場合、在庫が入れ替わるまで2年かかったことになる。在庫回転期間は、数値が小さいほど、在庫がお金に変わるまでの期間が短くなり、売上が上がることを意味する。
このように、回転率の数値が大きく、回転期間の数値が小さいほど在庫が適正であるといえるのだ。
4.適正在庫金額を「交叉比率」で計算
「交叉比率」(交差比率)とは、在庫がどれだけ利益を上げているかを見るための指標だ。主に、小売業で利用される。交叉比率を示す計算式は以下の通りだ。
<交叉比率の計算方法>
交叉比率=在庫回転率×粗利益率
(粗利益率=粗利益÷売上高)
交叉比率は、数値が高いほど、利益を出すのに効率のよい商品と考えられている。例えば、在庫回転率が10で粗利益率が10%の商品がある場合、交叉比率は100。在庫回転率が5であっても、粗利益率が30%である場合は、交叉比率は150となり、後者の方が効率よく儲けている商品とわかる。
この交叉比率を利用することで、適正な在庫の金額を割り出すことも可能だ。計算式は以下のようになる。
<適正在庫金額の算出方法>
1.交叉比率÷粗利益率=目標の在庫回転率
2.目標売上÷目標の在庫回転率=適正在庫金額
適正在庫を維持する4つの方法
適正在庫の計算式を理解しているだけでは、さまざまな商品の在庫を適正に維持するのは難しいだろう。最後に、適正在庫を知ったうえで、その数値を維持し無駄な在庫を作らないための方法を解説する。
適正在庫の考えを社内で統一する
部門によって適正な在庫数に対する考え方が異なる場合には、適正在庫の考えを社内で統一することが先決だ。部門によって「コストカットのために大ロットで注文し、原材料を安く仕入れたい」「出来る限り、在庫を減らし保管料を安くしたい」など、異なる考え方では、適正在庫の維持は不可能だろう。
まず、平均在庫数を決定する際は、最低でも1年間の在庫変動を追跡し平均在庫を確認してから決めるとよいだろう。その後、部門ごとの考えを共有し、会社全体で適正在庫に対する目標値を最終決定する。全社横断で適正在庫に対する認識の統一が図れれば、最終目標が明確になり適正在庫の維持もしやすくなるだろう。
発注方法の見直しを行う
在庫補充を行う際、発注方法を見直すことも適正在庫を維持する一つの手段だ。発注方法には、「定期発注方式」と「定量発注方式」の2種類がある。それぞれの特徴は以下の通りだ。
<定期発注方式>
毎月特定の日に一定のサイクルで発注する方法。発注時期になると、在庫量に関係なく発注作業を行い、発注量をその都度決める必要がある。定期発注は、市場の動向に柔軟に対応しながら欠品を防げるのがメリットだ。そのため、季節や気温などに応じて需要が変動する商品に向いている方法といえる。
<定量発注方式>
事前に決めていた在庫数を下回ったタイミングで一定量だけ発注を行う方法。発注時期は在庫量によって決まるが、発注する量は毎回同じであるのが特徴だ。発注量の予測が不要なため、在庫管理や発注業務の人件費を削減できる場合もある。定量発注は、需要が安定している商品を扱う際に向いている。
一概にどちらの発注方法がよいとはいえない。自社商品の特性や販売方法、人員などを考慮して、見直しを行おう。
需要予測を実施する
適正在庫を維持するためには、発注商品の需要予測も欠かせない。需要予測とは、自社の商品が市場にどのくらい必要とされているか、見通しを把握することだ。需要予測をするためには、過去の各月における販売実績、顧客の動向、最新トレンドなどから分析する。しかし、昨今は市場の変化は予測困難なケースも多い。精度の高い需要予測を行うためには、システムの導入も一つの方法といえるだろう。
また、需要予測が外れた場合の対策の検討も重要だ。すぐに在庫を調整できるような仕組みを構築し、欠品や過剰在庫のリスクを回避できるように努めよう。
製造のリードタイムを短縮する
製造業においては、製造リードタイムの短縮も適正在庫保持には欠かせない。製造のリードタイムが長いと、欠品が起きた際に顧客を待たせることや、管理すべき在庫が増えることにつながりかねない。製造の各工程にかかる時間や不良品発生率を可視化することで、どこで問題が生じているのかを明確にし、製造リードタイムの最適化を図りたい。
まとめ
過剰在庫と欠品リスクを防ぐためには、適正在庫の考え方や計算方法をしっかり理解しておくことが重要だ。しかし、さまざまな要因を考慮する必要があるため、計算だけで的確に適正在庫数を導くのは難しい。今回紹介した内容を参考に、適正在庫に関する理解を深め、企業利益の最大化に向けて取り組んてみてはいかがだろうか。