拡大続けるBNPL市場に参入したBASEが「画一化され、限定されている日本の決済事情を変革」へ

桑原 恵美子

「BNPL導入により、安全で自由なインターネットショッピング体験を提供していきたい」と語るBASE株式会社 代表取締役CEO 鶴岡裕太氏

2018年以降、国内で急伸しているクレジットカード不要の決済サービス「BNPL(Buy Now Pay Later=後払いシステム)」。2023年3月28日にはアップルが米国で決済サービス「Apple Pay」に後払い機能「Apple Pay Later」を追加することを発表し話題を集めたが、日本では創業から11年目を迎えたBASE株式会社が2023年4月11日、BNPL事業に参入。拡大するEC市場において、大きな存在感を示すことになりそうだ。

電話番号と、電話番号に届いたSMSコード入力のみで認証終了

EC市場の拡大とともに、BtoC、BtoB、D2C、OMO各チャネルで決済サービスの多様化が進んできている。矢野経済研究所は「EC決済サービス市場に関する調査を実施(2023年)」の中で、2021年度のEC決済サービス市場(EC決済サービス提供事業者の取扱高ベース)は23兆円を超えると推計し、2022年度は27兆円を超える見込みだとしており、この潮流において、BNPLはますます存在感を増してくるものと考えられる。

そんな中、BASE株式会社が2023年4月11日、BNPL事業への参入を発表。同社は2012年に、当時まだ学生だった鶴岡裕太氏が起業した会社で、D2Cのブランドなどのネットショップ作成サービス「BASE(ベイス)」をメインの事業とし10年間成長を続け、直近のGMV(Gross Merchandise Value=流通取引総額)は2000億円を突破している。

4月11日のBNPLプレス説明会では、同社が自社開発したD2C向けの後払い決済「あと払い(Pay ID)」の提供が同日からスタートしたことを発表。同サービスは「BASE」を利用しているショップが購入者に提供できる決済方法のひとつで、「あと払い(Pay ID)」にID登録している購入者は、当月の支払い金額を翌月にまとめて支払うことができるようになった。決済パートナーとしてGMOペイメントサービス株式会社と連携しており、同社が売買代金等の債権譲渡を受けて請求書の発行と代金の回収を行う形だ。

限度額は月額5万5000円と、一般のクレジットカードと比較すると少ないが、「この金額で、BASEで販売している商品はほぼカバーできます。現時点で過度な与信を与えることはあまりしたくないなと思っています」(代表取締役CEOの鶴岡裕太氏)とした。

(画像提供/BASE株式会社)

「あと払い(Pay ID)」にID登録している購入者は、電話番号の入力と、電話番号に届いたSMSコードを入力するだけで商品を注文できる。代金の支払いは、支払期限内の好きなタイミングを選ぶことができ、「Pay IDアプリ」に表示される支払い画面(バーコード)を、コンビニにて提示して支払い(コンビニ支払い手数料350円)することができる。なお支払い方式はマンスリークリア(翌月一括支払い)で、支払い期限は購入月の翌月10日までとなる。

電話番号の入力と、電話番号に届いたSMSコードを入力するだけで認証が終了(画像提供/BASE株式会社)

購入者とマーチャントの膨大なアセットが強み

BASEは過去10年間ずっとネットショップ作成サービスに注力してきたこともあり、ECのプラットフォーマーという見られ方をすることも多いが、実態は購入者向けのショッピングサービス「Pay ID」や、加盟店向けのオンライン決済サービス「PAY.JP」など金融系プロダクトも開発している。

「国内で見ると他にBNPLの機能を提供しているサービスはたくさんありますが、基本的にはゼロの段階からスタートしています。一方、私たちが本日からスタートさせる『あと払い(Pay ID)』は、購入者様のアセットも既に1000万を超える規模で持っていますし、マーチャント様の規模も200万近く持っています。こうした膨大なアセットを持っているという段階で、BNPLをスタートさせるということが私たちの特徴であり、大きなメリットだと考えています」(鶴岡氏)

画一化され、限定されている日本の決済事情を変革したい

画一化され、限定されている日本の決済事情を変革したいBASE株式会社 上級執行役員 髙橋直(なお)氏は、三井住友カード株式会社出身で、多くの事業開発事業に従事

「あと払い(Pay ID)」開発に携わったBASE株式会社 上級執行役員の髙橋直(なお)氏が、その背景について解説した。

BNPLは、ネットショッピングにおける「クレジットカードが作れない・使いたくない」「現金払い系の決済手段は利便性が低い」「購買までのステップが複雑で多い」などの課題を解決する手段として、2000年頃から始まったサービス。特に購買までのステップの複雑さは「かご落ち」と呼ばれるユーザーの離脱が発生する原因と言われて、問題視されている。

BNPLはクレジットカードを持てない・使わない若年層のEC利用が拡大したコロナ禍でニーズが高まり、欧米を中心に利用が急激に拡大。それに伴い、商習慣、文化、加盟店ニーズに合わせて商品性を最適化しながら各国で普及している。

日本のBNPL市場は、2021年度で大体1兆円超といわれ、前年対比で120~130%前後の伸び率。キャッシュレス市場の伸びが同年度で110%くらいだったといい、2倍ほどの伸長になっている。順調に伸びているように見えるが、日本だけの特殊事情もデータから見えている。それは、日本はキャッシュレス後進国と言われながらも、クレジットカードの決済比率だけを見ると世界トップクラスであること。

「2022年のキャッシュレス市場規模が110兆円くらいなんですが、このうちクレカの比率が85%、これだけ電子マネーが世の中に溢れていても、これだけの差があるというのが今の日本の現状です」(上級執行役員の髙橋直(なお)氏)

信販会社のクレジットカードへの依存度が高くなっているのは、日本の銀行法の関係で銀行がクレジットカードを発行できないという日本の特殊事情がある。

「そこに、僕たちがこのサービスを立ち上げた思いがあります。特にネットショッピングにおいては、決済手段が非常に画一化され限定されるため、決済事業者の都合に合わせざるを得ない部分もあります。それを最適化していくのが私たちの使命だと考えております。今後は利用シーンに応じて、ユーザーニーズにプロダクトをフィットさせていく必要があると考えています」(髙橋氏)

信販会社の審査が通りにくい先進的な商品を応援したい

鶴岡氏は11年前の起業当時、決済の複雑さに悩んだ経験があり、今回の自社決済「あと払い(Pay ID)」は、創業時からの念願だったという。

「私たちが応援したい個人やスモールのチームが行うビジネスというのはかなり先進的なものを扱っていることが多いので、信販会社が認めない商品はBASEで扱えないことになってしまいます。やはりBASEを始めた頃から、BASEを使ってくださる方にはやはり、少しでも自由な形でのビジネスをご提供していきたいと思っていました」(鶴岡氏)

同社が今後の大きな課題にしているのが、決済時のセキュリティ。開発にあたってはセキュリティの面に大きな投資をしており、今後は法制度の改革にも積極的にコミットしていく方針だという。

BASE株式会社 代表取締役CEO 鶴岡裕太氏(左)と、BASE株式会社 上級執行役員 髙橋直氏(画像提供/BASE株式会社)


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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