落ち込む郵便・物流事業に対する今後の展望は? 日本郵政Gの決算と「JP ビジョン2025+」に注目 

奥山晶子

2024年5月15日、日本郵政グループは「2024年3月期 決算の概要」を公表した。グループ連結では経常利益が増益となったものの、郵便・物流事業の落ち込みが目立つ。同日に発表された「JP ビジョン2025+(プラス)」の策定により、関連事業の業績はどの程度上向くだろうか。決算と合わせて今後の展望を解説する。

日本郵政グループ 2024年3月期 決算の概要

日本郵政グループの発表によると、2024年3月期の経営成績は以下の通り。

※引用元:日本郵政グループ「2024年3月期 決算の概要」
※参考:日本郵政グループ「2024年3月期 決算のポイント」

赤枠で囲まれているグループ連結では、経常収益が前期に比べて8435億円増加して、11兆9821億円となった。経常利益は 6683億円と、これも106億円増加している。それに対して当期純利益は減益。主な減益要因は、ゆうちょ銀行株式の売却に伴い持分比率が89%から61.5%に低下したことの影響と、日本郵便の大幅な減益だ。日本郵便は、郵便・物流事業、国際物流事業の業績が前期比で減収・減益。当期純利益は548億円減少し、72億円となっている(前期比88.3%減)。

気になる郵便・物流事業の減収要因は?

郵便・物流事業の落ち込みは、なぜ起こったのだろうか。今回の「決算の概要」では下記のように説明されている。

※引用元:日本郵政グループ「2024年3月期 決算の概要」

要因として挙げられるのが、営業収益に直結する郵便物等の取扱数量減少だ。総引受物数は前期比5.8%減少し、内訳としてはゆうメールが7.7%、郵便が6.0%の減少。ただしゆうパックは3.0%増加し、そのうち、ゆうパケットが8.6%増加している。このほか、年賀はがきも減収となった。

なお、国際物流事業についても、フォワーディング事業(※1)の貨物運賃下落等による減収などの影響で、前期比18.9%の減収となっている。

※引用元:日本郵政グループ「2024年3月期 決算の概要」

「JP ビジョン2025+(プラス)」で収益改善なるか

日本郵政グループは、決算報告と同日の5月15日に「JP ビジョン2025+(プラス)」の策定に関する発表を行った。これは2021年5月に策定した中期経営計画「JP ビジョン2025」を見直し、新たに2024年度および2025年度の2年間を計画期間としたものとなる。

その「JP ビジョン2025+(プラス)」では、郵便・物流事業におけるこれまでの主な取り組みとしてヤマトグループや楽天グループとの業務提携の推進、オペレーションのデジタル化・機械化による効率化の試行が掲示された。しかし2021年の策定以降、想定を超えて外部環境が大きく変化しているとして、特に物流分野においては「リソースシフトの強力な推進」を明記。強靱な輸配送ネットワークの構築や、他企業との連携強化などによる収益力強化、顧客の利便性と業務の効率化が両立する生産性の高いオペレーションの実現を目指すことを明らかにした。

※引用元:日本郵政グループ「JP ビジョン2025+(プラス)」

強靱な輸配送ネットワークの構築
区分運送拠点の整備や、内務業務の効率化としてロボットアームの導入検討、輸配送能力の強化として電動アシスト自転車の試行や他企業と連携した幹線輸送の共同運行、ドローン・配送ロボット・自動運転車の実用化に向けた検討などを行う。

収益力の強化
ゆうパックのサービス改善(越境ECやECサイト向けの新商品・サービスの開発・改善、品目拡大の試行等)、置き配の強化(e受取アシスト、指定場所ダイレクトの利用拡大)などに取り組む。また、「クロネコゆうパケット」の引受地域拡大などによる他企業との連携強化、郵便基本料金の改定も見込まれている。

効率的なオペレーションの実現
デジタル化された差出情報と日本郵政グループならではの配達先情報を活用し、データ駆動型のオペレーションサービスを実現するための郵便・物流事業改革「P-DX」の推進とともに、ゆうパックの配達希望時間の見直しにも取り組む。

EC事業者が注目していきたい日本郵政の動向

「JP ビジョン2025+(プラス)」で、郵便・物流事業の落ち込みには歯止めがかかるのだろうか。今回発表された計画を押さえ、動向を観察していきたい。なかでも、喫緊でEC事業者が特に押さえておきたいのは以下の2点だろう。

・郵便料金の改定
第一種郵便物のうち、25グラム以下の定形郵便物の上限料金の額を現行の84円から110円に改定する省令案が提出されていた(※1)。2024年5月21日に、物価問題に関する関係閣僚会議にて料金改定が了承され、公布の日から施行するとしている(※2)。

※1 参考:総務省「郵便法施行規則の一部を改正する省令案及び民間事業者による信書の送達に関する法律施行規則の一部を改正する省令案に対する意見募集の結果及び情報通信行政・郵政行政審議会からの答申」
※2 参考:25 グラム以下の定形郵便物及び料金上限規制の対象となる 25 グラム以下の信書便物の料金の上限の改定について(物価問題に関する関係閣僚会議)

他企業との連携
前述の通り、輸配送事業を行う他企業との連携が今後も強化されていくと予想される。2024年5月9日には、セイノーグループとの業務提携に関する基本合意書の締結を発表。幹線輸送における共同運行によって輸送効率向上や環境負荷の低減などを目指す。

参考:「日本郵便グループとセイノーグループとの幹線輸送の共同運行に向けた業務提携に関する基本合意について」

「物流の2024年問題」が社会的にもクローズアップされ、物流業界は激動の時代を迎えている。日本郵政グループの動向はもちろんのこと、同グループが連携を進める各企業の動きにも、今後いっそう注目していきたい。


記者プロフィール

奥山晶子

2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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