「ヒーロー」と「口コミ」に見る購買行動のトレンド

ECでは口コミが大切という事例がいくつもある
そこに共通する概念とはどのようなものか
成功事例を今に活かすための考え方は……

安心感と信憑性がキーポイント

人気ファッション誌「vivi」増刊号の「109BOOK」と連動したECサイト「SHIBUYA109ネットショップ」など、出版業界では数年前よりいわゆる「雑誌連動型EC」というものが相次ぐ傾向が見られる。
かつて一世を風靡したファッション誌の廃刊や休刊、先日発表された講談社の全コミック誌電子化など、雑誌文化の衰退や本格的なデジタル化が進んでいる印象を受けるが、ことアパレルに関してはWEBと絡めることでシナジーも生まれ、アナログの強みもいまだ健在といったところであろうか。

そんな「雑誌連動型EC」であるが、昨日新たに「jiggy(ジギー)」と連動したショッピングサイト「jiggy mall(ジギーモール)」がオープンした。
同様のサービスとの差別化ポイントに、ファッションモデルを起用するだけでなく、モデル自身が着用した商品の感想を公開する「信憑性の高い口コミ」があげられていた。顔の見えない一消費者のレビューではなく、雑誌に登場するモデルの感想であることが重要なポイントであるとしている。

ECにおいて「口コミ」が重要であるというのは昔から方方で言われている。
平成26年の8月に発表された、経済産業省による電子商取引に関する市場調査「平成 25 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備」によれば、EC利用者についてのアンケートデータ「自国 EC 利用時の情報収集動向」という項目で、自国 EC における活用する情報ソース第一位に「口コミサイト」が35.9%という結果が出ている。第二位「インターネット広告」31.5%、第三位「検索エンジンによる検索結果ページ」29.7%と続く。

海外ファッションに強みを持つECサイト「BUYMA」が成長と伸びを見せているが、ここでも口コミやレビューなどにヒモ付いた「パーソナルショッパー」と呼ばれる存在が大きなウエイトを占めている。中にはファンレターをもらうアイドルめいたショッパーもいて、パーソナルショッパーを表彰する「BUYMAアワード」が発表されることなどからも、サービス中におけるショッパーの存在の重要性が伺える。

冒頭の「雑誌連動型EC」の同様サービスでは他にも「SWEET PICKS(スウィートピックス)」というECサイトのオープンが記憶に新しい。こちらは、夢展望と宝島社のコラボECサイトで、人気雑誌「sweet(スウィート)」の編集者がセレクトした海外ファッションに特化している。

これら事例を見ていくと、口コミなど直接的な商品情報の他に、「誰がその商品情報を発信しているか」ということが重要であることが分かる。言うなれば「ヒーロー」の存在が浮き彫りとなってくるだろう。「モデル」「パーソナルショッパー」「人気雑誌編集者」など、一消費者にとって憧れの対象足りうる偶像が口コミ等の情報と結びつくことによって、より強力な宣伝効果を発するわけである。

例えば「あの芸能人の着ていた衣装が欲しい」というニーズに応えるファッションメディア「imanee(アイマニ)」というものもリリースされている。芸能人や番組名、ブランド名アイテム名で検索し、提携先のECサイトで購入できるという内容だ。こちらでも、次回予告で芸能人が身につけていたアイテムがSNSなどで口コミが広がり、オンエア前に完売するなどの現象が起きている。

形の見えない一消費者の口コミももちろん大切であるが、それ以上に、お手本にしたい憧れの存在の口コミの方が宣伝効果が高いのは納得がいく。
この図式で考えるとアパレルだけでなく他の分野でも同様の結果が生まれていないだろうか。

楽器のECという分野で考えると「楽器なんて弾かなきゃ分からない」というのが楽器愛用者の多数意見であるだろう。その一方で、人気ギタリストのシグネチャーモデルのギター等を見てみると、音楽雑誌の通販コーナーなどには非常に多くのモデルが掲載されている。楽天などの有名モールを覗いてもちょっと検索すれば数多くの商品が表示される。
人気ギタリストというヒーローと「あのギタリストの音はいい」という口コミや情報が結びつくことにより、実店舗販売向きのギターが通販やECで売れているのだ。

この「ヒーロー」と「口コミ」の図式は、キュレーションであったりSNS連動マーケティングであったり、昨今の消費活動におけるトレンドと言われている様々な事象に投影することができる。「あの人がいいと言ってるから」という理由が興味喚起や購買に結びつく裏には、「ヒーロー」と「口コミ」が隠れていると言えなくはないだろうか。

成功ロジックを当て込み使いまわそう

EC向きでないとされていた商材でも、ロジックを当て込むことで売れる。この図式は他の様々な分野にも応用することはできないだろうか。
さらには冒頭の「雑誌連動型EC」のように、ネットとリアルをつなぐ仕組みの上にそのロジックを落とせれば、より成功率は高まるだろう。

日々変化していく消費者の購買行動であるが、ロジックは同じと思えば不安感も消え、適切なアプローチの仕方も見えてくるだろう。成功事例の分析を行えばたくさんのヒントが隠されていそうだ。
今後新しい概念やツールが出てくれば出てくるだけ、「成功ロジックの当て込みと使い回し」は重要なキーポイントとなっていくのではないだろうか。