越境ECにも! 観光庁がグローバルな消費動向トレンド5つと訪日外国人に対する日本の課題を分析

奥山晶子

国境を越えて取引を行う越境ECの成功には、グローバルトレンドを押さえる必要がある。2024年5月30日、観光庁は「世界的潮流を踏まえた魅力的な観光コンテンツ造成のための基礎調査事業」の調査報告書を公開。報告書の内容を解説するため、世界的な今の消費動向を知り、自社のサービスや商品開発に役立ててほしい。

観光庁の調査はなぜ行われた?

今、国内観光業は停滞傾向にある。インバウンドを中心に宿泊需要はあるが、それも都市部への偏在傾向が強い。誘客を全国に波及するためには、付加価値の高い観光コンテンツの造成を強力に進める必要がある。

そこで観光庁は、日本のポテンシャルを活かす上で前提となる観光コンテンツに関する世界的潮流について、各種文献やマーケットに精通した組織団体を幅広く調査し、グローバルな視点で消費者の価値観の変化や、観光コンテンツのトレンド分析を行った。それが「世界的潮流を踏まえた魅力的な観光コンテンツ造成のための基礎調査事業」だ。

日本と海外の人気コンテンツの比較、訪日旅行者需要と日本の観光コンテンツ供給とのギャップなどを分析すると、日本の観光コンテンツの現状と課題が明らかになった。以下、調査報告書を解説したい。

モノよりもコト・トキ・イミ消費へ、「イマーシブ」がキーワード

報告書では、長期的に消費の軸足が「所有」=モノ消費から、「体験の享受」=コト消費へシフトしつつあり、近年は「非再現的なイベントへの参加」=トキ消費や「消費を通じて環境保全や地域活性化ができる」=イミ消費が着目されていることが示された。

※画像元:【調査報告書】世界的潮流を踏まえた魅力的な観光コンテンツ造成のための基礎調査事業

とくに20代後半から40代前半となるミレニアル世代では、体験を重視する傾向が強い。また、盛り上がりに自ら貢献するなど能動的に体験する「自分で」体験や、SNS発信で賞賛・承認されるような希少で価値ある「自分だけの」体験欲求が強まっており、特定の対象や世界観への没入性、イコール「イマーシブ」がキーワードになると考えられている。

イマーシブな体験の例として、米国で行われている「イマーシブシアター」がある。イマーシブシアターとは、演者と聴衆の間の壁を取り払い、物語世界に没入する体験型の演劇だ。タイには、農園へ訪問し、そこで採取した有機食材を使って自分だけのメニューを組み立て調理するといった日常没入型の体験もある。

観光コンテンツのトレンドは5つ

先の章で解説したイベント消費の傾向も踏まえ、報告書が最近の海外事情から抽出した観光トレンドは以下の5つだ。

1. ウェルネス
健康増進への根強いニーズと、パンデミックによって健康志向の高まりや衛生面への注目があり、またヨガや瞑想などを通じた自分自身への深い洞察が注目されていることから、身体的な健康にとどまらず精神的な癒しや充足、幸福も追求することが大事とされている。

2. ネイチャーアクティビティ
自然空間に入り込んでの強い感動や驚きの体験が求められている。

3. 聖地巡礼
メディアの発信する創作物に触発されて「聖地」を訪れ、物語世界へより没入する。

4. イベント
フェスティバルやライブに参加・貢献し、唯一無二の体験や仲間との交流を楽しむ。

5. 生活没入
旅行先の住民と同じような体験を楽しみ、地域の歴史文化都の一体感を享受する。

5つのトレンドは、いずれも「イマーシブ」の要素を強く持っている。

訪日外国人は日本のどこに魅力を感じている?

次に報告書は、「訪日外国人消費動向調査」の、訪日者の行動・態度を示す設問の回答を用いて、アクティビティ別の訪日者の行動や態度(満足度や期待度)を分析。抽出された5つのキーワードに基づくアクティビティについて、それぞれ分析結果をまとめている。

1. ウェルネス
日本食の満足度や再訪希望率は高いが、温泉入浴への期待度は横ばいに近い。体験商品点数の少なさや、付加価値の高い商品の少なさが目立つ。

2. ネイチャーアクティビティ
ウォーターアクティビティやウィンタースポーツの商品点数が多い。自然体験や農漁村体験は実施率や期待度が総じて低いものの、再訪希望率が高いため、リピーターへの誘客促進が重要と考えられる。

3. 聖地巡礼
ポップカルチャーの人気度は高く、「芸術・文化・歴史」カテゴリは商品点数も多く、世界と比べても高い成長率となっている。アニメの舞台となった場所での写真撮影ツアーやコスプレをするアクティビティについても高成長。

4. イベント
舞台や音楽鑑賞については、実施率も期待度も低く、まだまだマイナー。

5. 生活没入
日常生活を体験するアクティビティは、19年から23年にかけて実施率が7pt、期待度は6%上昇するなど、徐々にメインストリームのアクティビティになってきている。とくに着物や浴衣をレンタルするアクティビティが数多く存在する。

※画像元:【調査報告書】世界的潮流を踏まえた魅力的な観光コンテンツ造成のための基礎調査事業 p.74

今後はこれまで日本が強く打ち出してきた「温泉」や「スキー」などの観光資源に頼らず、没入感や特別感を大事にした体験を提供する商品造成が必要になってくるだろう。

越境ECにおいても、知名度の高低にかかわらず、「日本にしかない商品、ここでしか受けられないサービス」「よりイマーシブにアプローチしたサービス」の提供が必要と予測できる。

SNS・インターネットの普及でターゲット層は明確に

これまではグローバル市場に進出しようとしても、ターゲットが特定しづらいことから、目指す顧客にリーチするのが難しいという課題があった。しかし昨今ではSNSで旅先の情報を収集する傾向が強まり、日本のマイナーな観光スポットやアクティビティでも外国人の目に留まりやすくなってきている。

2023年の訪日旅行者数は2507万人、2019年比で約8割にまで回復してきている。日本に興味関心のあるインバウンド旅行者がターゲットであると明確なので、中小・零細企業にも市場拡大のチャンスが増加。他言語に対応し、グローバルのチャネルに流通させることが大事になるだろう。

タイムマシン手法が1つの活路?

タイムマシン手法とは、海外で成功したビジネスモデルやサービスを日本で展開する、経営上の手法だ。報告書では、先進国でヒットしている商品の内容やコンセプトを模倣することで、訪日者のニーズに応えることが可能かもしれないと提示された。とはいえ、規制緩和を伴うものや実証したうえで得られたノウハウをもとに展開することが重要だ。

同じく流通にあっても、成長しているオンラインチャネルはじめ海外販路に掲載するだけでも、販売を増やす効果が期待できるという。タイムマシン手法を活用するためにも、まずは対象とする地域の嗜好やニーズを踏まえることからはじめたい。

ガイド養成や予約プロセスの簡易化が課題

最後に今後重要な論点として、新たな観光コンテンツの造成とともにガイドやインストラクターの確保・養成の必要性が提示された。なお、グローバルな大手IPホルダー(出版社や制作会社など)がリアルイベントを積極造成するなど観光地との戦略的連携も期待される。

なお、外国人が利用可能なチャネルでは商品情報が充実しておらず、予約・購入プロセスが使いにくいことも、課題として挙げられた。インバウンドに対する流通促進の上では、グローバルに受け入れられる流通環境の整備が重要になってくる。これは、越境ECに取り組みたい事業者にとっても大事な視点といえるだろう。

報告書から見えてきた日本の高いポテンシャル。5つのトレンドを意識して企画すれば、外国人にとって魅力の大きい新たなサービスや商品を生み出せるかもしれない。


記者プロフィール

奥山晶子

2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

奥山晶子 の執筆記事