EC人材に焦点を当てた「ネットショップ担当者アワード」、第2回授賞式を開催

桑原 恵美子

EC業界で活躍した人や企業などを知ることで、自社の取り組みのヒントを見つけることを目的に、通販・EC事業者向けのメディア「ネットショップ担当者フォーラム」が主催する「ネットショップ担当者アワード」。その第2回授賞式が2024年11月20日、虎ノ門ヒルズ森タワーのフォーラムで開催された。授賞式で発表された7名の受賞者と、受賞理由を紹介する。

活躍するEC人材を世に広めてEC事業者の自信や成長につなげていきたい

「ネットショップ担当者アワード」は、EC・小売り事業者向けの最新ニュースやノウハウを配信するWebメディア「ネットショップ担当者フォーラム」(運営:株式会社インプレス)が2023年に立ち上げた顕彰。ネクトラス株式会社 代表取締役の中島郁氏ら4名が選考委員として、受賞者を選出している。

選考委員の4名。左からスマイルエックス合同会社代表の大西理氏、株式会社CaTラボ 代表 オムニチャネルコンサルタント 日本オムニチャネル協会 理事の逸見光次郎氏、株式会社RESORT 代表取締役CEOの石川森生氏、選考委員長でネクトラス株式会社代表取締役の中島郁氏

授賞式は、選考委員長である中島氏の挨拶から始まった。「EC業界が成長し続けていることは皆さんがよくご存じと思いますが、実は個別の事業者で見ると、言われているほど伸びていないのが実情です。ランキング上位の会社でも、実は伸びているのは半分程度で、売上が低迷している会社が多い。

その理由は大きく二つあると私は考えています。一つは企業側が本気でECに取り組んでいないことと、もう一つは圧倒的な人材不足。これをなんとかしたいと考え、他の会社の活躍している人をロールモデルとすることでEC人材が増えていくのではないかと期待して、この賞を始めさせていただきました。これから紹介する受賞者をぜひご参考にしていただき、広めていただいて、EC事業者の自信や成長につなげていただければと思います」(中島氏)

ロールモデル賞<キャリアデザイン賞>:タイムマシン 小川公造氏

続いて、いよいよ各賞の受賞者の発表。最初に発表されたのは、得意なこと、関心があることを突き詰めて現在のキャリアに繋げたロールモデルを表彰する「ロールモデル賞」のひとつ「キャリアデザイン賞」で、受賞者は株式会社タイムマシン 取締役の小川公造氏。

授賞の理由について、選考委員の大西氏は「エンジニアからスタートして未経験のままマーケターになり、ECからYouTuber、会社取締役に至るユニークなキャリアデザイン」を挙げた。「エンジニアをやられている人は多いですが、取締役にまでなれる人はそんなに多くありません。小川さんはエンジニアからスタートし、社内の組織の各パートの痛みや課題を理解しつつ、YouTuberとしてオーディエンスが何を望んでいるのかもつぶさにわかっていて、それを事業に展開できるというところがキャリアとして非常に面白いなと思いました」(大西氏)

「新しいソリューションを入れても、それだけでは売り上げは2倍にならない。やはりチームとしてのオペレーションやそれを構築するプロセスこそが大事」と語る小川氏

フロンティア賞<BtoB部門>:エトワール海渡 桑原惇氏

BtoB領域で新たな挑戦をした人に贈る「フロンティア賞 BtoB部門」を受賞したのは、エトワール海渡の桑原惇氏。選考委員の石川氏は、「エトワール海渡のような創業122年という歴史のある会社でBtoBやDX化を進めるのは非常に難しいと思いますが、そうした中で桑原さんが積極的に社内改革を進め売上を伸ばしてこられた」と授賞理由を語った。

「長きにわたりリアルで接客や提案をさせていただいてきた取引先にオンライン決済をしていただくために、オンラインサイトでの仕入れをより効率的にするにはどんな流れがいいのか、徹底的にヒアリングを繰り返した」と語る株式会社エトワール海渡 営業開発部 副部長の桑原惇氏

フロンティア賞<BtoC部門>:Tshirt.st 後藤鉄兵氏

BtoC領域で新たな挑戦をした人に贈る「フロンティア賞 BtoC部門」を受賞したのは、株式会社Tshirt.st 代表取締役の後藤鉄兵氏。選考委員の石川氏は、「日本のEC黎明期からEC事業に関わり、無地のTシャツという、商品自体の差別化が非常に難しいコモディティ商品を扱う中で、オペレーションワークを磨きあげて最適なフローワークを作ってこられた。そういった外から見えないECの部分でずっと頑張ってこられた方に光を当てたいと思った」と授賞理由を語った。

それに対して後藤氏は、「ECは、フロントにフォーカスすれば売り上げが伸びるといわれてきましたし、自分たちもそれを頑張ってきましたが、やはりECの利益の源泉はバックヤード、日々の仕事にあると思っています。そこを改善してソリューションを作り、少しでもEC業界に恩返ししたい」と語った。

1999年からEC事業に関わり、Shopify日本語版も日本法人も存在しない頃から独自のローカライズで運用して、現在は年間140万枚30万件のECサイトを運用している株式会社Tshirt.st 代表取締役の後藤氏(左)と石川氏(右)

サブスクリプション賞:POST COFFEE 下村祐太朗氏

サブスクリプション領域で他のEC事業者のロールモデルとなる人を表彰する「サブスクリプション賞」に選ばれたのは、POST COFFEE株式会社 CCOの下村祐太朗氏。選考委員の逸見氏は、「サブスクは多くのEC事業者がやりたがっているが、離反率をどう下げるかというテクニカルなことにフォーカスが当たりがち。その中でPOST COFFEEは、サブスクできちんと業績を伸ばしつつ、お客様との接点も大事にして、サブスクのイメージアップにも繋げたことをぜひ評価したい」と、授賞理由を語った。

「コーヒーをサブスクで楽しむというだけでなく、コーヒーの好みの味の診断ができたり、中に何が入っているのかわからなかったりという体験を楽しんでもらうことを目指しました」と語る下村氏

ロールモデル賞<ワークライフバランス賞>」「ベストチーム賞」

授賞式後半では、働き方やキャリア形成などのさまざまな観点でほかのEC事業者の目標となりうる人物を顕彰する「ロールモデル賞<ワークライフバランス賞>」、ほかのEC事業者のロールモデルとなり得るチームをけん引している人物や、チームそのものを顕彰する「ベストチーム賞」、実績や個人の挑戦などを総合的に考慮して選出する「ネットショップ担当者アワード MVP」の受賞者が表彰された。

育児とキャリアアップを両立して活躍し、「ロールモデル賞<ワークライフバランス賞>を受賞したルームクリップ株式会社 KANADEMONOカンパニー General Manager MD&QA管掌 田中ゆみえ氏と、田中氏のお子さん2人(前列)

「ベストチーム賞」に選ばれたマドラス株式会社 リテール事業部EC課課長の丸山堅太氏と、受賞を喜ぶチームの皆さん

第2回の「MVP」はカンロ武井優氏に

「ネットショップ担当者アワード MVP」を受賞したのは、カンロ株式会社 マーケティング本部 デジタルマーケティングチームリーダーの武井優氏。さまざまな部署を経験した人が未経験のままEC担当者に任命されるというEC担当者の典型的なキャリアであること、子育てと仕事を両立させているライフスタイル、老舗企業のDXへの挑戦、そして飴という非常に単価の低い商品をECで売るというコンセプトを考案したことなどが総合的に評価されたという。


「お客様とのコミュニケーションを構築するために、日々トライアンドエラーでたくさん失敗もしながら、諦めずに頑張っています」と語るカンロ株式会社 マーケティング本部 デジタルマーケティングチームリーダーの武井優氏

最後の選考委員たちの挨拶では、「人をクローズアップすることで、ECの魅力をより多くの人に知ってもらいたい」「個人としてこの業界に貢献している方をこれからどんどん掘り起こして、横のつながりを作りたい」などの抱負を口々に語った。また、ロールモデルになり得る取り組みがあっても、その担当者にたどりつくのが困難なため、来年の受賞候補者の自薦・他薦を歓迎しているという。


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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