特別企画:モールは通販に何をもたらした?
EC店舗を運営しようと考えたときに必ず出会う「ショッピングモール(以下、モール)」という言葉。そんな「モール」について、あなたはどれくらい説明できますか?意外と知っているようで、知らないのでは。初心者には理解を、熟練者には気づきを、得られる特別企画をご用意しました。
今回は、楽天株式会社 楽天市場事業 メディアプランニング統括 上級執行役員 河野 奈保さんにお話を伺いました。
特別企画:「モールは通販に何をもたらした?」レジュメ
(企画/石郷 “145“マナブ 文/伊達 舞子)
・【成り立ち】
・【Yahoo!ショッピング編】https://goo.gl/OKdlyZ
・【楽天市場編】https://goo.gl/imnDBC
・【Amazonマーケットプレイス編】https://goo.gl/75CV2b
EC業界の歴史とモール
私達が初めてモールを使ったのはいつのことだろう。国内でも飛行機を使わないと行くことができない土地のお菓子や、海外にしか売っていないブランドのポーチも、今ではネットで簡単に購入することができるような世の中になった。
しかし少し昔までは、「ネットでモノを買う」ということが当たり前ではなかったはずで、「モール」という言葉も世間に浸透していなかったのではないだろうか。
そんなEC業界発展の時代を見つめながら、今回はまず「モールってなんだろう」という疑問に答えるべく、楽天株式会社(以下、楽天) 楽天市場事業 メディアプランニング統括 上級執行役員 河野 奈保さんにお話を伺った。
それは、河野さんが楽天の一員であることから、やはり、モールについて誰よりも考えていて、なおかつ、モール運営側なだけではなく、一人の消費者でもあるという点から河野さんに「モール」について振り返っていただくことで、「モールってなんだろう」という問いの答えに、深さを増してお伝えすることができると思うのだ。
河野さん:楽天がみたECとモールへの一歩
「楽天市場がサービスを開始したのは、世間でもネットが浸透し始めていた1997年のことでした。このとき私は学生で、まだECが一般的ではなかったのですが、個人的に興味があり、ECで学生起業を行っていました。そしてそのECの可能性を感じていました。
当時の楽天は、まだ世間に知られておらず、楽天から店舗さんに「ネットで商品を売りませんか」と出店の営業を行っていたとのことです。
しかし、店舗さんからは「ネットで商品を売る商売なんて商売ではない」「お客様に直接対応することが商売だ」、「お客様に接客ができないネットのビジネスに『モノを買う』という想いを持ったお客様は来ない」と言われ、結果、今では4万店以上の店舗さんが出店している楽天に、最初は13店舗しか出店していませんでした。
それから数年後の2000年は、まだまだ「ネット=胡散臭い」と思われていたところから、楽天、Yahoo!JAPANやソフトバンク、オンザエッヂ(ライブドア)、サイバーエージェントなど、ネット企業の中でベンチャーと言われていた会社の中からIPOする企業も現れるなど台頭し、ネット人口が急激に増え始めました。
そんなネット企業が盛り上がりを見せている中で、日本においてのネット利用は90年代であれば検索で情報を得るということが主流であったと思います。しかし海外のインターネットサイトを見てみると、「インターネットでモノを買う」という行為が少しずつ増えていました。なぜだと思いますか。それは、その当時に海外のインターネットでオークションサービスが始まったからなのです。これにより、国内でも「ネットでモノを買う」という行為が徐々に増えていったことは記憶にあります。
そしてこの頃には、「自分たちの想いが伝われば、ECは必ず広がり、伸びていく。」というECに対する意識が店舗さんにもあったと思います。それは、実際に「ネットでモノを買ったら届く」という”体験”が、ECの魅力を広げていったからです。「Shopping is Entertainment!」、インターネット上で”体験”してもらう、そのコンセプトは楽天市場のサービススタート当初から変わっていません。」
河野さん:モールの進化を支えた存在
「私が楽天に入社したのは2003年のことでした。当時から現在に至るまで、楽天のターゲットは『ネットが伸びているのがわかるから、いつかはECをやらないといけないと思っている。しかし、やり方はさっぱりわからない。さあどうする。』という店舗さんで、その店舗さんと一緒に"パートナー"として"二人三脚で"モールを盛り上げていくのが私たち楽天の使命です。
実際に、楽天のモールの歴史は店舗さんが独自に進化したものの塊なんですよ。当時、数千店舗あった楽天の店舗さんに機能を1つご提供すると、その機能を数千店舗が数千店舗なりの使い方をするので、機能が数千店舗分に進化します。だから、自社サイトよりもモールの進化のスピードが早いのは、明らかに、モールにいてノウハウを試す店舗が多いからだと思います。
たとえば、以前実際に起こったのは、楽天から店舗さんにサイトの機能として、サイトに「長期休暇のお知らせ」を載せる枠を提供したら、店舗さんはその枠に「キャンペーン」のお知らせを書くんですよね。その枠は、店舗ページの全てのページに表示されるため、キャンペーン告知に活用できると判断されたわけです。
こういう思いがけない進化というのがモールならではで、自分たちのアイデアだけではないところで進化をするというのがモールの面白さだと思います。それに、そういった変化が起きたときに、ネットの世界だと、私達も誰がどういう使い方をしているかがわかるし、それが効果があったかどうかもリアルタイムに見ることができるから、効果があったものを更に拡大できるのはネットの面白さですよね。
現在、楽天には4万以上の店舗が出店しているわけで、そうすると4万以上の店舗分のアイデアがありますし、私達が企画をどれだけやるよりも、4万店以上の店舗さんの意見でモールは更に進化していくので、現在のモールのカタチはみんなで作り上げてできたものだと思います。」
河野さん:モールが拡大し見えてきたこと
「ECに対するユーザーの見方が変わりましたね。これだけ生活のほとんどがネットで賄われているので、ユーザーの目も肥えてきています。楽天にくるとなんでもありますよというのは大分できているので、そうなってくると、今度は量よりもそれぞれの店舗の戦略とか、専門性に富んだ店舗が進化を遂げていくと思います。
社内も店舗さんに対して『出店してください』『商品増やしてください』というコミュニケーションではなく、『シーズンにあわせてユーザーのニーズにあった企画って何でしょう』とか、よりユーザーのニーズを掘り起こすということのマーケティングに力を入れ始めた気がします。
そして、モールが専門性をもって運営していくことは、これから特に重要になってくると思います。例えば、10年前は、家電に強い、ガラケーに強いなど、対応マーケットの幅でモールごとの差別化がされていました。今はその差は縮小している感じがします。これからは更にジャンル毎に専門性を高めてモールを発展させ、ユーザーのニーズに応えていきたいです。
専門性をもって発展していく必要性はモールに限った話ではなく、モールに出店している店舗さんにも求められることです。モールに出店する主なメリットは、ノウハウやツールをもらえることと、トラフィックをもらえること。しかし、モールに出店するうえで覚悟しなければならないのが、モールの中でも様々な戦いがあること。常に店舗さんも成長していくことが求められます。
特に、最近のモールは商売人にとってはハードルが上がっていて、本当の商売魂をもって、本当のビジネスをちゃんとできる人じゃないと勝てない時代になってきています。ネットというものにのっかった時代から、商売人が商売を始める時代になって、この先は専門性をもって進化しなければならないので、モールの中身は相当難しくなってきていますけど、その分、面白くもなっていますね。」
EC業界の時代はめまぐるしく移り変わってきた。YouTubeが始まった時代には、そしてLINEが始まった時代には、EC業界では何が起きていたのか、あなたはご存知だろうか。そして河野さんから学ぶ”モール”とはいったい何なのか。
河野さんから学ぶ「モールってなんだろう」
初期のECは、「モノを直接お客様に売る」というそれまでの商売の概念を壊し、モールとは人々が想像しにくいものだった。しかし、それを”体験”してもらうことで、新しい驚きと感動に触れた人々はECの魅力に気づいていくこととなる。
そして河野さんは「モールの進化を支えたのは店舗さん」と話した。商店街が閑散としていたらお客様はなかなか集まらない。楽天だけがただひたすらに突っ走っても商店街は盛り上がらない。モールの主役である店舗さんが輝くことで商店街にお客様が集まり、一緒に盛り上げていくことで思いがけない発見がある。そうやって店舗とタッグを組みながらECを見つめてきた楽天であるから、現在は4万店舗以上も出店する巨大な商店街となったのだ。
しかし、モールは拡大させることだけが目的なわけではない。これからは、さらにそれぞれのモールが専門性をもって消費者のニーズに応えていくことが重要となるのだ。それは店舗にも求められている。多くの店舗が存在するモールの中で、自分の店舗を成長させ、他店と差別化を図り、戦っていかなければならない。そうして、店舗同士が自分の店舗の色を出し、消費者を引き付けることが、結果、モールを盛り上げることとなる。
ネットだと、お互いの顔が見えない商売であるから、おもてなしが難しいのではないかという点が指摘されがちだが、河野さんは、「コミュニケーションを取りたい、理解し合いたいということは、普遍的なもの」とし、「街のなかでコミュニケーションが薄れている時代背景の中で、うまくネットを活用すればむしろ密なコミュニケーションがとれるはずだと、多くの人が気付いたので、メールマーケティングや、Web接客など、ネットならではの、さまざまな接客方法が生まれ続けている。テクノロジーの進化により、接客方法は、より個人個人に合わせた(Humanizedされた)ものになってくると思うが、人々が求めるものは普遍的で、おもてなしの精神をもった接客の重要性は今後も変わらない。」と答えた。
つまり、ネットだからおもてなし精神が薄れるなんてことはなく、ネットだからこそ、モールだからこそできるおもてなしがある。きっと、現実の世界もネットの世界も垣根なんてないのだろう。モールとは、モール運営者と店舗が一緒になって成長し、変化する消費者のニーズに応え続ける商店街なのではないだろうか。