【比較してみた】日本郵便とヤマト運輸、シノギを削る2社の海外戦略比較

クールEMSと国際クール宅急便の比較

今年の1月22日にヤマト運輸が正式にプレスリリースした「メール便廃止宣言」より約2ヶ月が経過した。激動の物流業界を象徴するかのように、この2ヶ月は数々の物流業界のニューズがリリースされ、まだうまく整理しきれていない方も多いのではないかと思う。
以前に弊誌では、日本郵便とヤマト運輸の新サービス「スマートレター」と「ネコポス」の比較を行ったが、今回また新たに両社がリリースを発表。越境ECの加熱が著しいEC業界においてチェック必須な「海外へのクール便」のサービス拡大ニュースだ。

参考記事
・フランスにクール便が送れる!日本郵便「クールEMS」取扱開始
http://ecnomikata.com/ecnews/detail.php?id=4848

・またまたヤマト運輸新サービス、香港に続き台湾向けの「国際クール宅急便」を開始
http://ecnomikata.com/ecnews/detail.php?id=4833

しかし、ただこれだけでは何がどう違うのかよく分からない。そこで今回は、各海外対応のクール便の特徴をまとめてみようと思う。

サービス内容比較表

サービス内容比較表

◆日本郵便「クールEMS」
対応国は「香港」「台湾」「シンガポール」「マレーシア」「ベトナム」、そして今回新たに「フランス」もラインナップ化された。
その他特徴は以下の通り。

・冷蔵(0~10℃)と冷凍(-15℃以下)で値段が違う。
・サイズは冷蔵冷凍それぞれ2種類。
・重さにより値段が変わる。冷蔵は15kgまで、冷凍は10kgまで。

◆ヤマト運輸「国際クール宅急便」
対応国は「香港」今回新たに「台湾」もラインナップ化された。2015年度中に「シンガポール」にも対応する予定。
その他特徴は以下の通り。

・冷蔵(0~10℃)と冷凍(-15℃以下)値段は同じ。
・サイズは縦✕横✕高さの3辺合計(cm)、または重さで4種類
・冷蔵も冷凍も重さはそれぞれ15kgまで。

総評

【クールEMS】
対応国の豊富さにおいては「クールEMS」が有利という結果に。フランスに対応し、初の欧州向け小口保冷宅配が可能という点も強み。
サイズや重さだけでなく温度による値段の差があるのも特徴。重くなればなるほど料金も増すが、サイズが連動していないので「小さいけど重たい」品物の発送は圧倒的に有利である。サイズが3辺の合計でなく固定で決まっているため、どこか一辺でもオーバーすると途端に大になる。隙間やデッドスペースができやすい可能性もあり。値段の面では圧倒的に有利。

【国際クール宅急便】
2015年中にシンガポールにも対応する予定だが現状対応国の数では不利。随時対応国を増やしていく見通し。
冷凍でも冷蔵でも値段に差はない。また、サイズが3辺の合計で決まるため、隙間やデッドスペースなく変形物の発送には有利。サイズが3辺の合計なので形に縛られることなく「軽くて形が特徴的」な品物の発送には適している。また、最大サイズ120と、「クールEMS」の最大サイズ86を大きく上回っているため、「サイズが大きい」品物も発送できる点が大きな強みだが、値段の面では不利。

結局どう違うのか

料金面で見た場合、規定サイズに収まる範囲の品物であれば圧倒的に「クールEMS」が有利なものの、冷蔵では86、冷凍では78を超える大きな物を送るには「国際クール宅急便」でしか送れないため、大きい品物のシェアは独り占めという状況だ。
以上比べてきたが、やはり両社ともにそれぞれの特徴があり、利用の用途によって使い分けが必要となってくることが分かる。自社製品がどういうものでどういう発送方法がより効果的なのかをよく考えることで、最適な利用方法が見えてくるように感じる。

ここで一点、「クールEMS」が今回対応化したフランスについて大きな補足が残る。
フランスでは、「クロノポスト」という会社がEMSを取り扱っており、ここの対応がラフすぎるという意見が非常に多いのだ。荷物の破損、盗難、出戻りなどのケースが多く、行方不明になってしまうケースもゼロではない。普段どの国でもEMSで発送しているが、フランスのみ国際小包で発送をするという事業者は、実は多い。そのほとんどの原因が「クロノポスト」による郵便事故の事前回避なのだ。

こうした背景を考えると、今回「クールEMS」がフランス対応になったとしても、現地で請ける会社が「クロノポスト」であった場合、同様の事態が起こることも考えられる。
ましてや温度管理が必要なデリケートなクール便、不在のままサインももらわず玄関先に放置、などになる可能性はゼロでなくてはならない。

日本郵政の担当窓口に、「クールEMSの現地取扱業者は、EMS同様クロノポストなのか」という内容を尋ねたところ、やはり同様、クロノポストが現地取扱業者であるとの返答をいただいた。事実、フランスへの発送をEMSでなく意図的に国際小包を利用するケースが多いのは担当者も感じているとのこと。今回「クールEMS」のフランス対応に向け、郵便事故対策などは特別には行ってはいないものの、発送先がフランスでもEMS利用者が安心して使用できるよう根本的な対策は考えていきたいとしている。
初の欧州向け小口保冷宅配を実現し注目高まるサービスなだけに、今後の動向や利用者の口コミ、感想などが非常に気になるところである。今回の初進出を足がけに、欧州対応のクール便サービスが追随していくことに期待したい。