BtoB-EC化の成功事例「福助」【前編】−−革新とパラダイムシフト
経済産業省が取りまとめた調査結果によると、BtoB-ECの市場規模は2016年で291兆170億円(対前年比1.3%増)。しかしながら、自社の慣例や既存の商習慣にとらわれEC化に踏み切れない、あるいは絞りきれない企業も多いのが実情だ。そんな中、軽やかにEC化を成功させた「福助株式会社」。時代の先陣を切る、136年の歴史を誇る老舗企業。その革新の歴史とEC化成功の手がかりを知る。
老舗『福助』がBtoBカタログ販売から脱却し、EC化を目指した理由
商人の町、大阪の堺で明治15年に創業した福助株式会社(以下、福助)。足袋から発祥した同社は、靴下・ストッキングや肌着のメーカーとして136年後の現在まで歴史を紡いでいる。「fukuske」や「満足」というブランド名は、日本人であれば知らない人はいないだろう。
2016年まで福助は、衣料品を扱う一部小売業者とのBtoBにおいてカタログでの販売を行なっていた。「年に2回『福助総合カタログ』を制作して1,000以上の得意先へ送付し、お電話とFAXで注文を受けていました」そう説明するのは、福助の総合部東日本総合営業グループ 長尾博之氏。
「得意先は当社に電話で在庫の有無を確認した後、FAXで注文するという2度手間。当社としても、電話による問い合わせと毎週数100件も送られてくる注文の処理に、複数名体制で対応していました」。得意先への負担軽減と業務効率化の追求は、企業が成長していく上での必須要件。果たして福助はBtoB-EC化を目指すこととなる。
しかしそれは同時に、1,000を超える得意先にEC化を受け入れてもらうということでもある。衣料品業界の特性として、得意先の多くは小規模な商店や個人事業主。経営者は高齢化が著しく、しかも足袋を扱う老舗福助、である。長く付き合っている歴史のある小売店が多く、最新のシステムを受け入れてもらえるのかは疑問符がつく。そんな得意先と、どうやってEC化を進めていくのか?長尾氏の格闘がはじまった。
2015年、新生福助の誕生。EC化の起点となった長い歴史の転換点
福助の歴史が大きく動いたのは2015年。親会社である豊田通商株式会社から招聘した田坂氏が代表取締役社長に就任。12月には子会社2社を統合し、企業体制が刷新された。社内を横断した社員参加型の改革プロジェクトが発足されるなど、社内の雰囲気と社員の士気が大きく変わっていった1年だった。
「社内の体制が変わったこともあり、それまで約半世紀にわたり使用していた社内システムを廃止し、最新の基幹システムを導入することになりました。外部データとの連携が可能になったことで、ASPカートの運用ができるようになった。それがBtoB-EC化のスタートでした」長尾氏はそう話す。
EC化をする際、衣料品業界においてはBtoBに特化したモールを利用するのが一般的だ。しかし福助は独自システムの開発を決断。「自社で運営することで、サービスの拡充やコストメリットを享受できる。さらに、いち早くBtoB-ECを導入することで得られる『先行の利』も、今後の運営において強みになると考えました」長尾氏はそう理由を明かす。常に最先端の技術をいち早く取り入れてきた福助ならではの発想だ。
具体的にEC化の検討をはじめたのは、新基幹システムが導入された半年後の2016年4月。BtoB専用のASP“Bカート”導入の決定が下されたのが6月で、8月には独自BtoB-EC『福助会員制卸専門サイト』が開設されるという、異例のスピードで物事は進行していく。
「これまでで一番働いた4ヶ月でした」と笑う長尾氏。「もちろんテストは何度も行いました。特に物流は重視して、伝票の出し方や返品があったときの仕組などを入念に。“Bカート”のレスポンスが良く外部連携もうまくいったので、比較的スムーズにスタートさせることができました」。なにもかも順調に進んでいるようだが、その裏には外からは伺い知れない苦労が伴っていた。
業務効率改善とコストダウン。EC化を徹底したことによる成果はとてつもなく大きい
2016年8月に発行された最後の『福助総合カタログ』には、BtoB-EC『福助会員制卸専門サイト』への移行のお願いにページを割かれ、9月の時点でサイト会員企業は500に達した。FAXでの注文は12月末まで併用されたが、翌2017年からは完全にEC化。2017年3月に会員企業は1,000を突破し、その数は2018年1月現在で1,300を上回る。
「EC化によるメリットは計り知れません。受注データがデジタル化されたことで、今まで1日中手入力していた業務が、2日に1回データを吸い上げ基幹システムに送り込むという、たった数分の作業だけに。在庫もサイト上でリアルタイムに確認できるため、得意先も電話で確認する必要なく発注することができるようになりました」。メリットは受注の入力や物流業務が効率化されただけではないという。
「特に財務の業務は飛躍的に改善されました。以前はすべての得意先に請求書を発行して発送、入金確認をして未入金があれば電話で入金を促すという業務があった。売掛以外にも、代引きでの発送や与信管理も行なっていました。それをBtoB決済サービスと外部連携しアウトソーシングしたことで、業務効率を大きく向上させることができたのです」長尾氏はそう言う。さらに年2回制作していたカタログの制作費や発送費も無くなり、商品撮影は簡便化することで、大幅なコストダウンを実現した。
しかし決してすべてが順風満帆だったわけではない。得意先の中には、システムを理解できない、そもそもインターネット環境がないというケースもあった。決済方法が変わったことによる混乱もゼロではなかった。それでも福助は数々の問題を乗り越え、紙でのカタログ発送とFAXでの受注を廃止。ECへの一本化を4ヶ月でやり切った。そして現在では、得意先にも喜ばれるシステムとして受け入れられているという。
成功すれば大きな利益を企業にもたらすBtoB-EC化。それでも踏み切れない・絞りきれない企業、うまくいかない企業が多いのは、その背景に「変えられない」という既存のやり方への執着や「紙での取引をやめられない」と思い込む理由があるからだ。福助はそれらの問題をどう解決し、EC化を成功させたのか?なぜシニア層の多い得意先に受け入れられたのか?その背景には、ものづくり企業として商品とお客様に向き合ってきた福助の歴史があった。
後編:BtoB-EC化の成功事例「福助」【後編】−−136年の歴史のコンテキスト