データから顧客の潜在ニーズを探る!家具のサブスク『airRoom』が目指す世界とは

利根川 舞

株式会社Elaly 代表取締役 兼 CEO 大薮 雅徳氏

増加するサブスクリプションサービスの中でも、精力的な動きを見せている家具ジャンル。その中で、人々のライフスタイルをより良いものにすべくサービスを提供しているのが株式会社Elaly(以下、Elaly)の運営する『airRoom』だ。今回、代表取締役兼CEOの大薮 雅徳氏に『airRoom』に込める思い、そしてそれらを実現するマーケティング施策について話を伺った。

買うのも処分をするのも手間。家具業界が抱える課題

買うのも処分をするのも手間。家具業界が抱える課題URL:https://air-room.jp/

2018年10月に正式リリースされた『airRoom』ではあるが、ほぼ同タイミングで類似サービスがリリースされている。それに対して「目指している世界観やお客様へ提供する価値に明確に違いがあるなと思いました。」と大薮氏は言う。というのも、当初の構想の中にはサブスクリプションサービスという概念はなく、結果的にサブスクリプションサービスになったという背景があるからだ。

「原点は『お客様が体験できる選択肢を広げ、幸せの最大化を実現したい』ということでした。今の若い方々はライフスタイルを充実させることへの関心が高い一方で、引っ越しや単身赴任、就職、結婚といったライフステージの変化に伴い、家具の購入を検討するものの配送費を含めた価格の高さから購入を諦める方もいらっしゃいます。

この背景には、家具業界の販売の難しさが起因しています。家具業界では直近の10年で約半数の企業が経営難に追い込まれています。これは家具の販売が縮小するにつれ、在庫を抱える企業様が増えたことに原因があります。加えて、在庫を抱えるが故に、販売価格も向上します。また昨今の物流費の向上に伴い、お客様が家具を購入する金額が向上してしまいます。加えて廃棄家具が増えることで環境問題にも悪影響を及ぼします。

こういった様々な課題に対して、最適な形でお客様が家具を手に入れることができ、ライフスタイルを充実できるようサポートさせていただきたい。加えてライフスタイルの変化のスピードが早まり、ニーズが多様化する現代において、お客様の満足度を最大化するためにはサブスクリプションモデルでサービスの提供を行うことが最適だと判断しました。」

そうした背景のもと、家具サプスクリプションサービスへのニーズ調査を開始する。

「家具を購入することが、今の若い方々のライフスタイルに合っていないのではないだろかという仮説が漠然とあったものの、これがどれだけ共感性のある課題なのかがわからなかったので、そこの検証をしました。」

いわゆる定量的な手法と定性的な手法の二つで検証を行った。定量的な手法としては、簡単な事前登録用のLPを作成し、Facebookで広告を打った。その結果、ニーズは期待以上のものであったという。そして、定性的な検証として渋谷のスクランブル交差点で路上アンケートを行った。

「路上アンケートの内容はフェーズによって異なりますが、まずはどういう家具が借りたいのかというアンケートを取りました。ニーズは結構固まっていて、大型家具が欲しいという方が多かったですね。その後は実際にはどのくらいの金額を払うのかを調査しました。僕はもともとエンジニア出身なので、簡単なモックを作り、実際に見せながら検証し、意見をもとに作り直していくというのを繰り返していきました。」

プロダクト開発と並行しながら約3ヶ月、仮説と検証の日々は続いた。

ユーザーの声を採用し、改善の日々

ユーザーの声を採用し、改善の日々

そして2018年10月、オープンβ版として運営していた『SmartRoom』を『airRoom』と改め、正式リリースとなる。

「ユーザーの中には、ただ家具を借りるのではなく、ライフスタイルの提案してくれるサービスとして『airRoom』を使ってくださる方が多くいらっしゃいます。『airRoom』を通じてライフスタイルを実現していく上で、そこには洗練された感覚が必要です。既存の家具レンタルサービスでは満たされないニーズも増えてきている為、当社では一人ひとりのニーズに対し最適なご提案ができるよう、プロのインテリアコーディネーターを抱え、そういったプロからアドバイスをもらえる体制を構築することやサイトのデザイン・文言なども気をつけています。」

住空間のスタイル提案ということもあり、リリース当初は『airRoom』のターゲットを『RoomClip』をよく利用する20〜30代女性と想定していた。しかし、現在のユーザー層では若干男性の方が多いのだという。その理由として大薮氏は次のように分析する。

「『airRoom』の中でも、プロのコーディネーターが家具をコーディネートしてくれるサービスのニーズが大きいんです。そのような”ズボラ”なニーズは男性の方が多いのかもしれません。ウィンドウショッピングということがあるように、女性は見ている時間すら楽しいって方が結構いらっしゃるんですけど、男性からは『早くお洒落な部屋を提案して欲しい!』という声が多いんです。

実際、リリース当初は1品でのレンタルしか行っていなかったのですが、みなさん同じ系統のデザインの家具を複数点揃えて注文される方が多くて。また、僕らは毎週、ユーザーさんにオフィスへ来ていただいているんですが、実際にサービスを触ってもらい、行動フローを見ていると、みなさんいきなり家具を購入するわけではないんですよね。やはり、ライフスタイル寄りな考え方をしていて、他者に見せたい自分像を体現するための一環として家具を探しているため、作りたい部屋の雰囲気などから決められているんです。

であれば最初からそういう提案の仕方をした方が良いということで、コーディネートサービスを追加しました。また、まだ数が多くないので、専門のコーディネーターがLINE@でコーディネートの相談に乗ってくれるサービスも展開しています。」

その結果、CVRや顧客単価が上がった上に、何よりもLTVが目に見えて改善されたという。また、こうした新新サービスの提供だけでなく、細かなチューニングも日々行なわれている。

「『airRoom』では商品単体のページを見ているユーザーの属性データを重視して取得しています。そのデータを活用し、男性によく見られている家具であれば、詳細画面の文言は男性受けしやすいものにしていますし、逆も然りです。たとえば、ブランド志向の強いお客様であれば、『この家具の生産地はイタリアです』と言われたら使ってみたい方も多いのでは?と考えています。そういったこともあり当社では様々なニーズに対応できるようデータを蓄積しながら改善を行なっています。」

データを活用した圧倒的な集客力

データを活用した圧倒的な集客力※2019年5月9日時点

『airRoom』の強みはデータに基づいた圧倒的な集客力であると大薮氏は言う。

「サブスクリプションモデルの特性として、お客様との継続的なコミュニケーションを通じ、データが蓄積されます。そこで『airRoom』では、商品データ、顧客データといったデータを用い、お客様一人一人に最適な商品のご提案を行なっています。

たとえば、現在商品ラインナップ数として数万点もの商品を保有しておりますが、1点ずつ商品管理を行っています。一般的な販売では1つのIDで同一商品を管理することも多いのですが、当社では同一商品でも切り分け、1点ずつ管理をすることで、どういったお客様にどれだけの期間使われ、その結果どういう状態になるのか。こういったデータを1つ1つ蓄積しています。

加えて、顧客データであれば、お客様の基本的な情報に加え、閲覧履歴やコーディネートセットの満足度、継続率などを蓄積しています。こういった取り組みを通じ、蓄積された数万にも及ぶレコードから、『airRoom』でアカウントを保有することで、自分だけの最適なライフスタイルを見つけられるサービスと成長しています。」

こういった蓄積されたデータは解約率や継続率、課金率の改善に当てるとともに、マーケティングにも活用。ユーザーとのコミュニケーションを通じ、ニーズの変化を見逃さず『airRoom』のサービス改善に当てられている。

また、多くの企業が販促施策として注力しているInstagramであるが、『airRoom』のフォローワー数は約5万人にまで上っているという(5月9日現在)。集客のためにどのような施策を行っているのだろうか。

「当社のInstagramでは開始半年で約5万フォロワーを抱えるアカウントにまで成長しています。Instagramでは北欧風の家具やアジアン風の家具に興味がある方々で、それぞれ小さなコミュニティを形成しています。この小さなコミュニティの上に当社が作成したプロモーション動画を一つ上の概念として置くことで、『airRoom』を通じてこういう生活をしませんか?といった提案を行なっているのです。」

そして、『airRoom』では不動産やホテル、オフィス向けにもサービスを提供し、顧客層を拡大している。

「法人のお客様の中でも特に不動産やホテルといった企業からのニーズが強いサービスとなっております。クライアント企業様のニーズとして、個人のお客様をいかに獲得するか、これはとても重大な問題です。一方『airRoom』では上記の取り組みを通じ、圧倒的な集客力と一人一人にパーソナライズされた提案力を兼ね備えております。こういったところに法人のお客様からはご支持いただいています。」

自分たちが信じていることにコミットしていく

「僕自身、お金が無いことによる機会損失を被った経験があるのですが、今の若い方々も自由に使えるお金が減っていて、それに伴って実現したいことや体験したいこと、欲しいものが得られなくなっている。それは人生という長いスパンで見た時にデメリットだと思うんです。そういったことを体験出来る価値や選択肢を増やしていきたいと考えています。」

Elalyは”テクノロジーで世界中の人々のライフスタイルを、より良いものに”をビジョンとして掲げており、今後も課題の多い領域である住環境に関する課題を解決し、一人でも多くの人がより快適なライフスタイルを実現できるためのサポートをしていくことに一層注力していくという。

「それらを実現するには、お客様とのコミュニケーションを通じ、お客様のご要望を一つでも多く我々が把握する必要があります。そのために当社ではLINE@で無料でコーディネート相談を行なっていたり、より使いやすい料金設定にしているのです。これらの取り組みを通じ、お客様のニーズの変化が速い現代においても、スピーディに対応できる商品の拡充やカスタマーサポート、物流面の体制を整えていくつもりです。

加えて、中長期的な視野で考えた時に、ライフスタイルとは家具・インテリアだけではなく、家電やファッションなども含まれます。将来的には、そういった領域も踏まえてライフスタイル全体をご提案できるサービスにしていきたいと考えています。」

「自分たちが信じていること、課題を解決するということに対してコミットしていきたい」と大薮氏は語っていたが、『airRoom』は人々のライフスタイルをより良いものにする一つの手段としてサブスクリプションサービスを提供しているに過ぎない。だからこそ、家具というカテゴリに囚われることなく、今後もカテゴリーの拡大を検討しているのだ。

今回、大薮氏は「他社はあまり気にしていない。」と話していたのが非常に印象的であった。大薮氏が検証を入念に行ったように、市場調査などはもちろん必須ではあるのだが、必要以上に他者(他社)を気にするばかりに、自身が本来目指していたものを見失ってしまっては、それこそアイデンティティーの喪失につながる。

ECサイトの運営は業務も多く、多忙を極めている担当者は少なくない。その上にEC業界は移り変わりも激しく、いつの間にか自社サイトの、そして自身のアイデンティティーを見失っていることもあるだろう。スタート地点に立ち返る時間を設けてみてはいかがだろうか。

<企画:竹内 長>


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

ECを活用した地方創生に注目しています!
EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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