EC事業の次なる戦略はオフライン活用 ポップアップストアに秘める事業成長の可能性

利根川 舞

左:株式会社カウンターワークス代表取締役 CEO 三瓶直樹氏(https://twitter.com/naoki_sanpei
右:ビタミン株式会社 CEO 高梨大輔氏(https://twitter.com/dtakanashi

オムニチャネルやO2Oといった、オンラインとオフラインの垣根を超えたマーケティング施策はすでに一般的なものとなり、多くの企業が取り組んでいる。しかし、ECからスタートした企業では資本や人的リソースの問題からハードルの高さを感じ、オフライン施策に取り組めていないのが現状だ。

ところが、マーケター/エンジェル投資家として多数の企業を支援するビタミン株式会社 CEO 高梨大輔氏は「ハードルが高く感じるかもしれないが、そうではない」と語る。今回、高梨氏と同氏がマーケティング支援をしている株式会社カウンターワークス代表取締役 CEO 三瓶直樹氏にオフライン施策としてのポップアップストア活用について話を伺った。

ポップアップストアはLPのような存在

ポップアップストアはLPのような存在カウンターワークスではオンラインで簡単に店舗スペースを予約できる、短期貸し店舗やイベントスペースのオンラインシェアサービス『SHOPCOUNTER』を運営している。
SHOPCOUNTER:https://shopcounter.jp/

ーーポップアップストア出店の支援をスタートされたきっかけを教えてください。

三瓶:僕はもともとオンライン広告の配信システムを作る会社で働いていました。ECをやられているクライアントさんとお話をしていく中で、値段が高いものやサイズ感がイメージしにくいものはECだけでは売れづらいという話になったんです。

冷静に考えてみると、大手量販店の安価なTシャツであれば、ある程度サイズ感もわかっているので、店舗に行かずして購入するケースは多分にあります。しかし、それが2万円のTシャツとなると、試着もせずにオンラインでいきなり購入することはないと。

そこで、ECの会社も店舗を出せばいいじゃないかと思ったんですが、引越しなどで家を借りる場合は2年契約が一般的ですが、店舗を借りるとなると10年契約がざらにあるんです。しかも保証金も12か月分を差し入れしなければならず、資金的なハードルが非常に高い。もっと柔軟に出店できる仕組みがあれば、EC事業者も出店しやすいのではないかと思い、ポップアップストアのプラットフォームである「SHOPCOUNTER」を始めました。

ーー高梨さんはマーケター/エンジェル投資家として、さまざまな企業のご支援をされていますね。カウンターワークスやポップアップストアのどういったところに着目されて、ご支援されることに決めたのですか?

高梨:三瓶さんとは10年来の友人だったので(笑)真面目な話をしますと、海外だと当たり前になっていたので、それは当然日本でも当たり前になるだろうというのが見えていたのが一番ですね。当時、SEOや広告面のテコ入れから入りましたが、ポップアップストアに関連するクエリが少しずつ伸びていたんです。

ーーやはり「SHOPCOUNTER」に対するお問い合わせも増えているんですか?

三瓶:僕らがサービスを開始したのが4年前なのですが、2年くらい前からぐっと事業の成長角度が上がり、2期連続で300%成長するくらいには増えていますね。とくに実店舗をもっていない、EC事業者さんの利用が増えているんです。

この先、ECとリアルの垣根はもっとなくなっていくと思います。ECで買うか、実店舗で買うかはその人の気分次第ですからね。これまで実店舗は商品を買っていただく場所でしたが、これからはブランドの世界観を伝えたり、店員とのコミュニケーションの場であったりと、心地のよい体験を提供するメディアのような場になると思っています。

高梨:もっと言えば、ポップアップストアはLP(ランディングページ)のようなものですよね。

三瓶:オーディエンスが沢山いる場所にLPを当てられる手段として使っていただきたいですよね。そこでうまく顧客ができたら、オンラインで買い物をしていただいてもいいんです。いうなれば、CVRを大幅に上げるような手段として活用されていくんじゃないでしょうか。

ーー実物を見てから購入したいというニーズはもちろんですが、店員とコミュニケーションを取りながら買い物をしたいという人も多そうですよね。

EC事業者がポップアップストアを出店するメリット

EC事業者がポップアップストアを出店するメリット   株式会社カウンターワークス代表取締役 CEO 三瓶直樹氏

ーーポップアップストアですと、通りがかりの人に入店してもらえるなどがメリットかと思いますが、他にはどういったメリットがあるのでしょうか。

三瓶:経産省の発表で2018年のEC化率は6.22%という数字が出ましたが、裏を返せば94%はオフラインのトランザクションなんです。EC市場自体も前年比9%ずつくらい成長しているので、それだけでも成長できるとは思います。

しかし、今は売り手が増えているので、資本力があったりマーケティングが上手だったり、製造コストを極限まで下げられるなど、何かしらのスペシャリティがないまま戦っていくのは難しい。そこで94%の部分に目を向け、新商品を出す時期や季節が変わるタイミングなど、一番アテンションが取れるタイミングで、人材も場所も什器もフレキシブルになポップアップストアを出店するというのは非常に合理的かと思います。

ーーAmazonなども定期的にポップアップストアを開催していますよね。

三瓶:そうですね。大手EC企業はもちろんですが、小規模なプレイヤーもめちゃくちゃ増えていて。ニッチな界隈では有名というレベルでも短期間で数億円売れる環境になってきているんです。オンラインからスタートしたアクセサリーブランドで、ポップアップストアを複数開催して、今では常設展を持っている会社とかもありますからね。

高梨:イベントに出店はするけれど、ポップアップストアには出店しないという方がいるのが疑問ですね。常設展よりハードルを下げるのがポップアップストアだと思うのでもっと気軽にやってみてもいいのにな、とは思います。

ーー高梨さんも戦略的にオフライン施策を使うことは多いんですか?

高梨:めちゃくちゃありますよ。僕はテスト的に使うことが多いんです。いきなりWebサイトやシステムを作ってミスったら平気で数百万をゴミ箱に捨てるようなものですから、まずはイベントで実験をしていますね。たとえば、イベントをやって集客が悪ければ企画が悪いという検証ができます。オフラインで起きたことをデジタル化する方が難易度は低いんです。

デジタル発想だけだと、部分最適化をしてしまいがちですが、小売全体を考えた方が新しい発想が出やすいですし、他の人がやっていないことなので勝ちやすいと思いますよ。

ーーいざ出店しようという時に気をつけた方がいいことってありますか?

三瓶:これはポップアップストアに限らずですが、まずは何故ポップアップストアをやるのかを明確にしておくのが大事です。とりあえずやれば何かしらの結果は出ると思うんですけど、『なんか大変だったね』で終わりがちです。たとえば、新規のお客様をどれだけ増やすとか、既存のお客様のロイヤリティを上げるとかでもいいと思います。

あとは、商品の見せ方、いわゆるビジュアルマーチャンダイジングは重要です。たとえば、さきほどお話ししたアクセサリーブランドさんがポップアップストアを出したショッピングモールは1日に3万人の集客があり、過去の傾向からみると1日で平均20万円くらいは売り上げられるくらいのパワーを持っている場所なのですが、初日の売り上げは2万円くらいだったんです。そこで、通行人に商品を見せるための角度や動線を改善した結果、最後の2週間くらいは1日に20万〜30万円を売り上げていました。見せ方次第で結果が変わるということを理解するのはすごく重要です。

ーーECサイトを作るときにも商品購入までの動線を考えてサイトを設計しますもんね。

三瓶:おっしゃる通りです。トップページから商品への動線、カゴに入れてからCVするまでの動きになるべく摩擦が無いように改善していくじゃないですか。それと同じように、実店舗も店の前を通っている人がどうやったら入店してくれるのか、どうしたら商品を手にとって、購入してくれるのかという、ECの概念に置き換えて整理していくと改善がされていくと思います。そういう意味でもECの考え方はすごく重要ですね。

高梨:ECからリアル店舗と聞くとハードルが高く感じるかもしれないけど、そうじゃないんですよね。

ーーポップアップストア費用はどのくらいかかるんですか?

三瓶:このアクセサリーブランドの場合、2週間の出店でしたが、場所代や人件費を入れても1日あたり10万円くらいの費用でした。

ーーそうなると、少し凝ったLPくらいですね。ただ、集客も混みで考えると高くないですね。

三瓶:扱っている商材のメイン検索クエリの平均CPCが仮に100円だとすると、スマホやPCからの1PVで100円なのか、手に取って100円なのかだと手に取って100円の方がはるかにCVRは高そうですよね。

ECのミカタ読者の方の中にはオフラインでの展開をしたことの無い方が多いと思うんですけど、CPCや入店率、購買する確率みたいなECで使っている方程式はオフラインでも有用だと思っています。よくわからないものと諦めるよりは「ECだったらこうだよな」という視点でリアル施策を考えてみてもいいのではないしょうか。むしろオフラインしかやったことのない人よりも効率的に運用できると思います。

デジタルベースのブランドに最適なポップアップストア

デジタルベースのブランドに最適なポップアップストア   ビタミン株式会社 CEO 高梨大輔氏

ーーポップアップストによって小売業界はどのように変化していくのでしょうか。

三瓶:これまでは大量に生産したものをマスメディアを通じて売るというものが小売の王道で、マスメディアが存在することでビジネスモデルが成立していたんです。しかし、マスメディアに投下されていた時間がどんどんソーシャルメディアにシフトしている。最近ではD2Cブランドやデジタルネイティブブランドと呼ばれるような、消費者と直接つながることができるデジタルベースの会社がマーケットのシェアを獲得しています。

最近P&Gが重い腰をあげて買収を始めましたよね。マスメディア時代の王者とも言えるP&Gが既存の商品をD2Cブランドに入れ替えているということは、拡大解釈をすると過去にP&Gが生み出したマーケットがもう一度生まれるということです。

しかし、デジタルベースのブランドには、デジタルベースに最適化されたオフラインの流通の仕方があるべきだと思っていて、その解が「SHOPCOUNTER」のようなポップアップストアだと思っています。

高梨:D2Cブランドは多分5年後くらいにはP&Gのようになっていくと思います。簡単に自分たちのブランドを作って売ることができる時代ですが、5年後には勝者が決まってくるでしょうね。合併や吸収を経て、D2Cを束ねる会社が生まれる。吸収される可能性があるにしろ、自分たちのブランドは大きくしていきたいじゃないですか。それをマーケター視点で見ると、リアル施策を捨てるということは成長する可能性を半分捨てているような感じですね。

マーケティングに必要なのは”お客様が今どうあるのか”という視点

ーー今後はどのようにポップアップストアに出店したい方々をご支援されていくのですか?

高梨:今、お手伝いをしている色々な会社に、各サービスのスタートアッププランを作ってもらっていて、カウンターワークスでもポップアップストアのスターター版みたいなのできないですかね?

三瓶:全然ありですね。僕らは今後、人材や什器、ポップなどをもっと簡単に手配できるようにしていきたいと思っているんです。

高梨:それと、僕は今、マーケターの情報ギャップを無くして均一化するために、スタートアップのマーケターミーティングに力を入れているんです。

ーーみなさん、実店舗への興味はあるものの、その中でポップアップストアという選択肢があることに気づいてい方も多そうですね。オフライン施策もやらなければと思いつつも、高いから足踏みしてしまっている。

高梨:多分30万円の予算があったら、デジタルよりもオフラインの方がいいですよ。to Bマーケティングで考えるとわかりやすいんですが、実店舗は商談をしているようなものです。ちなみに、ポップアップストアの告知LPにタグを入れておくんです。そうするとリマーケティングもできますよ。リード取れまくりで絶対にペイすると思います。それに、多分面倒臭いマーケティング施策の方が勝ちやすいんですよ。他の人がやっていないことを絡ませた方が間接効果でCPAも下げられます。

三瓶:オフラインからオンラインへの誘導も大事ですね。もうオンラインとはオフラインとか分けて考えるのではなく、お客様がどういう消費行動や情報収集をしているのかなど、”お客様が今どうあるのか”という視点で施策を考えていくのがいいと思います。

これまで、オフラインの施策はコストも手間も掛かるもので、ECからスタートしたような小規模企業にとっては非常にハードルの高いものであった。しかし、ポップアップストアであれば常設展よりもリスクを抑えて実施できる上に、将来の実店舗展開のテストとして活用することも可能だ。

また、まだまだポップアップストア市場は成長途中ということで、チャレンジしている企業は多く無い。競合を含む売り手が増加している今、一歩先に進んでみてはいかがだろうか。

ECのミカタでも、ネットショップさんが商品を販売できるリアルイベントを行いました。
夜のご褒美フェア

今後もリアルイベントを開催していく予定です。いつかカウンターワークスさんとコラボできる日が待ち遠しいです。


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

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EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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