メンズ向け商品をレディース展開へ FABRIC TOKYOの新たな挑戦

利根川 舞

株式会社FABRIC TOKYO マーケティング部 マーケティングチーム 森本 萌乃氏 株式会社FABRIC TOKYO マーケティング部 マーケティングチーム 森本 萌乃氏

オーダーメイドビジネスウェアを販売するFABRIC TOKYO。サービス開始以来、メンズ向けにオーダースーツを提供してきたが、この8月女性の採寸に特化した期間限定のイベントを実施する。なぜ今、新たなチャレンジをするのか。
今回企画を担当している株式会社FABRIC TOKYO マーケティング部 マーケティングチーム 森本 萌乃氏に取り組みの背景とどのようにして、新たなチャレンジとなる本企画を実現できたのかについて話を伺った。

FABRIC TOKYOの新たな挑戦はなぜ始まったのか

2014年に前身のサービスである「LaFabric」をリリースして以来、同社では主にメンズ向けのオーダースーツやシャツなど、ビジネスウェアを提供してきた。ところがこの夏、男性向けのパターンを使用して、女性のスーツを作るという企画を実施する。この企画はある女性たちからの声が発端となっている。

”私は昔からレディースの洋服が好きになれず、古着屋さんや通販などで購入したメンズの洋服ばかり着ています。しかしサイズが合わないメンズの洋服を見る度に「これはお前の為のものじゃない、お前はここに居てはいけない」と言われているような 気分になって、好きなブランドのお店に入ることが出来ませんでした。今思えば心から買い物を楽しめたことが無かったのかもしれません。

今回FABRIC TOKYOさんで採寸をしていただいたことで存在を認めてもらえたような感覚になり「生きていていいんだ」と思える瞬間があって、バレないように、ちょっとだけ泣いてしまいました。”

こういった感謝が届く一方で、過去にはオーダースーツの製作を断った女性から悲しむ声も届いていた。そもそもFABRIC TOKYOはメンズ向けのオーダースーツをメインに提供してきたこともあり、基本的には男性の体型に合わせたパターン(型紙)しかない。女性は男性と比べて胸囲が大きくウエストが細く、肩幅も狭いため、既存のパターンに合わせてしまうと、サイズが合わなくなってしまうのだ。また、男性スタッフが採寸対応をする可能性もあり、女性向けの採寸対応に踏み出せずにいたのだ。

男性パターン、女性パターンの一例

FABRIC TOKYOは「Fit Your Life」というブランドコンセプトを掲げているが、この”You”がいつの間にか「FIt His life」になっていたのだと森本氏はいう。

「もちろん、男性パターンでオーダースーツを受けているメーカーはあります。しかし、入店してすぐに店員さんからは『彼氏さんへのプレゼントですか?』と聞かれてしまったりと、男性パターンでレディーススーツを作ることが当たり前になっていないんです。

洋服は似合うものを着ることが大切なんですよね。ユニセックスやジェンダーレスのような性別ありきの考え方では、結局自分がどれに当てはまるのかを決めなければいけない感じがあります。でも今は男性でもメイクが大好きという方がたくさんいて、そのような人たちの圧倒的個性を活かすのはやはりパーソナライズなんじゃないかと思うんです。『男性・女性だからこれを着た方が良いよ』と提案するのではなく、FABRIC TOKYOのスーツを着たい人が少しでもいるのであれば、その方を助けに行こうよ、という企画なんです。」

実店舗での採寸だから実現できる感覚値の蓄積

FABRIC TOKYO 表参道店

FABRIC TOKYOとしても、今までにない試みである。どのように実現させるのだろうか。

「女性スーツは経験がありませんし、男性パターンで制作するため、実は製作後のお直しの比率が上がってしまうんです。しかし、ブランド開始から4年が経ち、メンズスーツでのお直しの比率が下がりました。それは実店舗で採寸するコーディーネーターの目視の感覚が蓄積されているからなんです。今回の企画は、こういったデータだけではない感覚値を蓄積してきた、社内コーディネーターへの信頼があるからこそ実現できたものなんです。」と森本氏。

もしFABRIC TOKYOが、AIで測定したデータのみを蓄積していたのであれば、今回の企画は実現しなかっただろう。実店舗での採寸をするからこそ、コーディネーターの目視の精度が上がり、採寸の対象者が女性になったとしても、その蓄積された感覚値が実現をさせたのだ。

そこに、受注はECサイトであっても、採寸は徹底して実店舗で行うFABRIC TOKYOの強みがある。そして、採寸はもちろんのことなのだが、「今回のように女性のお客様の場合は、受け取りも実店舗をお勧めしています。我々にとっても初めての取り組みで、どんな課題が見えてくるか正直手探りですし、男性よりもサイズのお直しが多くなるのでは?と考えたときに、店頭で徹底的にスーツと向き合ってほしいんです」と森本氏はいう。実際に出来上がったスーツを合わせて、コーディネーターが目視で確認をすることで、自分が求めるシルエットに近づけていくのだ。「これは私個人の感覚ですが、家に届いた後に、なんか違うかも、って思って返送するのって結構手間じゃないですか。だったらもう、採寸後店頭でそのまま買って、受け取りまで予約しちゃった方が楽なんじゃないかと。」今回の女性向けの採寸イベントでは、店舗で購入して店舗受取日を指定すると、その日も女性のコーディネーターが対応するという徹底ぶりだ。

女性に限らずではあるが、人間の身体は千差万別で誰一人同じ体型の人はいない。その身体的特徴は時にコンプレックスと捉えられ隠したいもの、時にはアドバンテージと捉えられ、主張したいものになる。それらは決してデータだけでは導きだせず、本人が求めるオーダーメイドの形にはならないだろう。数字には現れない個性が実店舗のコミュニケーションで顕になる。

「ファッションってライン緩めで着たいとかありますよね。オーダーメイドだと自分のことをわかってくれたり、自分にパーソナライズしてくれる感じは、One to Oneのリアルなコミュニケーションの中で生まれるのかなって思います。」(森本氏)

ブランドコンセプト”Fit Your Life”を追求

衝撃的だったのは「この企画で採算は考えていない」というセリフだ。通常であれば、採算が通らないのであれば、企画は通しにくいものだ。森本氏は次のようにいう。「この企画って繁忙期には絶対に通らないんです。メインのお客様はあくまでも男性ですから、閑散期である夏はメインのお客様を無下にせず、新しいことにチャレンジできるタイミングなんです」と。

FABRIC TOKYOの採寸は基本的に予約制だが、週末には予約がいっぱいになるときもある。だから、閑散期を狙って、FABRIC TOKYOが掲げる”Fit Your Life”というコンセプトを追求・体現しよう、という企画なのだ。

また、この企画の中にはもう一つマーケティング的なチャレンジも含まれている。それは、今回の企画対象者である女性をインフルエンサーとした、男性への情報発信だ。

「男性からの情報発信って口コミになりにくいのですが、女性は良いと思ったものを人に勧めやすいと言う性質がある。なので、女性がFABRIC TOKYOでスーツを作ってみたい、作ってみて良かったという情報発信を男性フォロワーの方々が見かけて、『FABRIC TOKYOって知っているぞ。女の子もいいと思っているんだな』という連鎖が生まれればいいなと思っています。マーケティングの視点では、メインターゲットへのリーチまで包括的に鑑みた上で企画しています。」

コンセプトを追求する一方で、この企画自体が男性向けのプロモーションの一環ともなるというのだ。SNSなどでのインフルエンサー施策では、女性向けの商品であれば女性を、男性向けの商品であれば男性をインフルエンサーとして起用することが多いが、今回は女性をインフルエンサーとして男性向けにアプローチする。これもまたFABRIC TOKYOのチャレンジの一環だ。

既製品にはない着心地がそこに

一足先に採寸から仕立てまでを体験させていただいたので、その様子をお伝えしたいと思う。今回の企画の場となる表参道店に伺ったが、白と青を基調にしたレイアウトは爽やかな印象で、メンズスーツをメインに販売しているとはいえ、決して女性が立ち寄りにくい場所ではない。

実際の採寸は5分程で終わり、すでにスーツの形になっているものを試着しながら、体型や好みに合わせてジャケットの袖丈や着丈を調整していく。ここでコーディネーターさんと会話をしながら、自分の骨格や癖を知ることもできる。中には、過去のスポーツ経験や通勤スタイルなどに合わせて調整することもあるそうだ。

採寸とスーツの形が決まった後はECサイトでの購入になる。採寸したサイズはクラウド上に保存しているため、自宅でゆっくり購入することも可能だが、店舗にもタブレットが置かれており、注文が可能だ。ECサイトでは生地や袖ボタン、細かなカスタマイズができる。初めてのオーダースーツということで、コーディネーターさんと相談をしながら決めていくとあっという間に注文が完了する。そして、約4週間程度でスーツが手元に届く。

実際にスーツに袖を通してみると、初めて袖を通す服であるとは思えないほどにしっくりくる。既製品の服に袖を通すのとは違う感覚がそこにあった。

小さなヒントを見逃さない

FABRIC TOKYOでは実店舗での採寸が女性向けの採寸をする上でネックになっていたが、逆に実店舗で男性の採寸をし続けてきたという強みを逆手に取る形になった。これまで積み重ねてきた経験を存分に発揮したのが今回の企画と言えよう。

新しいことに挑戦をするとき、まるで0からのスタートであるように感じることも多いが、実際にはこれまでの積み重ねや顧客・周囲からの声など様々な材料がある。タイミングも含め、様々な条件が重なった時、良い企画や良い商品が生み出されるのかも知れないが、FABRIC TOKYOが「FABRIC TOKYOのスーツを着たい」という女性の声を掬い上げたように、小さなヒントを見逃さないことが何よりも重要なのかも知れない。


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

ECを活用した地方創生に注目しています!
EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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