coen、FANCLが語る!カスタマーエンゲージメント戦略とは
近年、オンラインとオフラインを統合した顧客体験の構築を重視するOMO(Online Merges with Offline)というマーケティング概念が注目されつつある。この流れから実店舗とWebサイト・アプリの横断を強化する企業が増え始めているが、まだ正解の型がない状況だ。
そこで今回は、OMO先進企業の事例を調査すべく、2019年11月7日(木)にRepro株式会社(以下、Repro)とシルバーエッグ・テクノロジー株式会社(以下、シルバーエッグ)が合同開催したセミナーに参加した。レコメンドを用いたデジタルマーケティングのコンサルティングなどを手がけるシルバーエッグの根本 隆之介氏、Repro株式会社 Web事業部 事業部長の實川 節朗氏、OMO先進企業である株式会社コーエン(以下、coen)販売戦略部Webマーケティング課の佐舗 征巳氏、株式会社ファンケル(以下、FANCL)通販営業本部 営業企画部の萩山 智也氏が登壇。「顧客のエンゲージメントを高める方法論」などについて、支援会社・事業会社それぞれの視点からお話しいただいた。
レコメンドを用いて「カスタマーエンゲージメント」を高める
小売業界の販売チャネルは、顧客との接点が実店舗やカタログ通販のみの「シングルチャネル」から始まった。その後、ECサイトが普及し出したタイミングで、販売チャネルが複数になる「マルチチャネル」や「クロスチャネル」が注目され、オフラインとオンラインを統合してシナジー効果を出そうと「オムニチャネル」が浸透し、各チャネルの統合を目的としたスキームが企業に広がった。
近年では、オフラインとオンラインが混ざりあい垣根がなくなるマーケティング概念の「OMO」がトップワードになっている。セミナーでは、「今後はどれだけオフラインをオンライン化していくかではなく、顧客体験からどれだけシナリオ設計をしていけるかが、OMOの思想で最も大切なことになります。」と、シルバーエッグの根本氏は話す。
「レコメンドシステムというと、CVRや顧客単価の向上という視点で語られがちですが、ユーザーの嗜好やタイミングに合わせ最適なアイテムを提示できるAIレコメンドシステムは、顧客体験の向上にこそ効果を発揮します。最近では『CVRを最重要KPIから外している』という企業さんも多くなり、短期的なCVRよりも、中長期的にどれだけエンゲージメントを高められるかが重要視されています。ユーザーのアクセス時間が平均5分~10分だと言われている今、短い時間の中でどれだけ快適な体験をしていただけるかが重要なのです。
例えば、シルバーエッグのレコメンドエンジンを導入し、ウィンドウショッピングをしているかような顧客体験が提供できるUI/UXを実装している企業さまがいらっしゃいます。
アプリを立ち上げると商品一覧が出て、画面上のボタンをタップするとオススメの商品が出てくるサービスで、気に入った商品をタップするとそれに関連したオススメ商品がどんどん出てくる。商品を買ってもらえたら嬉しいという気持ちはもちろんありますが、どちらかというと商品を紹介することでユーザーにより商品を知ってもらえるような設計になっています。」
このように、UI/UXの設計をしてカスタマーエンゲージメントをあげるためには、KPIツリーの作成、セグメント設定、各ページやタッチポイントに対してのシナリオ設計、この3ステップが必要になるだろう。だが、根本氏は「設計準備や運用が大変で、なかなか難しいという声も多数あります。」と話した。
この要望に対する回答の一つが、シルバーエッグのReproとの提携だ。顧客に「何を」提示するかを自動化するシルバーエッグのレコメンドシステムと、ターゲット選定やトリガーの簡単な設計で「いつ・誰に」を最適化するReproのマーケティングプラットフォームとが連携することで、顧客ごとに最適化された戦略を短時間で実行できるようになった。
両社はこのソリューションで、マーケターの業務負荷の削減と、高度なカスタマーエンゲージメントの両立を実現してゆくという。
カスタマーエンゲージメントを高めるために、今企業ができること
第二部ではReproの實川氏が登壇し、カスタマーエンゲージメントを高めるために必要な施策について語った。
「エンゲージメントを高めるためには、初めて接触した瞬間から購入していただくまでの体験が一貫していて、世界観を意識しながらロイヤル化していく設計が必要です。ですが現実的には、KPIを追うことで、「認知」「購入」などのアクションをいかに効率よく数値獲得していくか、一部分のPDCAだけを回してしまう事業者様が多くいらっしゃいます。部分最適化をしているがために、結果的に嫌がられるコミュニケーションになってしまっているのです。」
では事業会社のマーケターは、実際にどのようなアクションを起こしていけばいいのだろうか。
「カスタマーエンゲージメントを高めるためには、属性データや行動データなどを収集したうえで、サイトに訪れたタイミングで顧客の期待を超える体験を提供できるようにしていきます。具体的には属性データや行動データを基に、サイトに訪れたタイミングでそのユーザーの意図を汲み取った接客体験を提供する。それが重要なのです。データを基づいたアクションを行うことでサービスの魅力を理解してもらえる可能性は大きく広がります。
またPVなどの把握しやすいデータをとにかく集めてしまうのは良くありません。まずどんな施策をしたいのかを考え、そこから逆算して分析に必要なデータを収集していきましょう。」
實川氏は、マーケティングの理想と現実、カスタマーエンゲージメントを高めるために必要なことを講演し、実践に則した具体的なノウハウをセミナー内で共有した。
OMO先進企業「coen」に聞く!回遊率やCVRを上げたレコメンド施策
また、今回のセミナーではOMO先進企業であるcoenとFANCLが登壇し、レコメンドの活用方法とカスタマーエンゲージメントの高め方についてセッションを交わした。まずはcoenが語った回遊率やCVRを上げたレコメンド施策を紹介する。
アパレルブランドであるcoenは現在、店舗やアプリなどで「新規会員登録で10%OFFクーポンプレゼント」と新規会員獲得の施策に注力しているという。前年と比べて新規会員登録数が250%も増加しており、OMOにも力を入れている。
Webマーケティング部門を担当する佐舗氏は、レコメンド機能の活用について「あくまで回遊性を高めるためであり、購入単価を上げるためではない。いかに離脱や直帰を防ぐことができるかを大事にしています。」と話した。
「これまで3つの施策を行ってきましたが、中でもレコメンドツールを使いお客様に対して商品を表示させる施策は、CVRが80〜90%もアップし大きな成果となりました。残り2つの施策はまだチューニング段階ですので、同じように成果が出るようにしていきたいですね。
今はオフラインとオンラインを融合する施策を構想している段階なので、引き続き様々な施策にチャレンジしていけたらと思います。」
カスタマーエンゲージメントを高めるべくレコメンドを活用しているcoen。回遊性や離脱防止を意識しながらもCVRを伸ばす成果を挙げていた。今後も、会員ランクの見直しなど新たな施策を行っていくcoenに注目だ。
ロイヤルカスタマーを生み出すFANCL。会員ステータス別のフォローアップに注目
実店舗やインターネットからの購入だけでなく、カタログや電話注文も受け付けているFANCLは、年間累計購入金額に応じてユーザーランクを分けている。会員ステージはパールランクからダイヤモンドランクまでと幅広く、ランクに合わせた商品オファーやポイント還元率のアップを行い、多くのロイヤルカスタマーを生み出している。
営業企画部の萩山氏はカスタマーエンゲージメントを測る指標について「短期的な数値の改善はCVR、長期的な視点で見るときには商品購入の継続率などが重要になります。既存ユーザーの継続率と新規ユーザーの継続率をそれぞれ個別に見て、どうリピートをしてもらうかを考えていますね。」とコメント。
「やはり、人気の商材を購入された方に対しては個別のフォローアップなども行っています。また、新規ユーザーの獲得よりも、リピート購入が止まっている休眠ユーザーの復活を促す施策の方が効果的だったりもするので、そこにも力を入れています。過去の購入データなどを見て、どう休眠ユーザーを掘り起こしたらいいのか、どの商材を提案するのかを考えてアプローチしています。」と話した。
また、FANCLは商品をカートに入れた後、そのままカートページに飛ぶのではなく、『他の商品も買いますか?』とカート内でポップアップが表示されるようにしているとのこと。「ポップアップの下には、その人がカートに入れたものと合わせて買われる可能性が高い商品を、シルバーエッグのレコメンドツールを使って表示し、回遊してもらっています。」と、シルバーエッグが提供するレコメンドツールの具体的な活用例をシェア。
最後に萩山氏は「当初は売上アップ目的でレコメンドツールを導入したのですが、今では回遊してもらうことが一つの目的になっています。ECサイトや店舗などとの融合を今後も目指していきたいです。」と今後について語った。
OMOの成功事例はまだまだ日本では少なくどの企業も挑戦段階ではあるが、テクノロジーの進化やノウハウの蓄積によって、今後の「顧客体験」に大きな変化を与えることとなるだろう。ぜひ、シルバーエッグとReproのツールにも注目し、OMOを推進してほしい。