エヴァンゲリオンストア事例からわかる、海外ECによる販路拡大の可能性!海外ECにおける課題をどう解決するのか?
新型コロナウイルスの影響で、世界的にECの利用が増えている。国内ECの利用が増えていることは、EC関連事業者のみならず、多くの人が消費者として体感していることだろう。一方、海外のユーザーを対象とした海外ECはどのような状況なのだろうか。実は、海外ECにも大きな可能性があるという。
本記事では、国内ECから始まり、海外ECへの展開を目指してるエヴァンゲリオンストアについて、運営を手がける株式会社グラウンドワークスの神村典子氏 と、その海外進出を支援しているBEENOSグループBeeCruise(ビークルーズ)株式会社の岩本氏に話を伺った。
新型コロナウイルス影響下でのEC利用状況の変化
新型コロナウイルス影響下の海外ECの状況について、岩本氏は、国内・海外というくくりではなく、商品カテゴリにより、売上が大きく伸びている場合と、下がっている場合があると指摘する。
岩本氏「BEENOSグループでは海外向けの越境ECプラットフォームを運営している他、海外のECモールやマーケットプレイス自体へのに出資も行っているのですが、自社サービスや出資先の状況を見ても売上が伸びているのが、映像やDVDなどの娯楽系の商品、あるいは調理家電など、自宅で楽しめる商品です。
しかし、巣ごもり消費でECの需要は伸びていますが必ずしも全てのジャンルが売れているわけではありません。例えばラグジュアリー商品などは売り上げを落としているジャンルの1つです。参入をする際には自社商品のカテゴリーが伸びているのかを把握することが重要です」。
エヴァンゲリオンストアに関していえば、新型コロナウイルスの影響でリアル店舗の休店という打撃はあるものの、オンラインストアはそこまで影響を受けていないという。
神村典子氏「エンターテイメント系の商品は、自粛ムードを受けて買い控えが起こるかもしれないと思ったのですが、売上は継続しています。エヴァンゲリオンはもともと今年6月に新作の映画を公開予定で、映画は延期になったのですが、6月に向けて大量に商品を投入していたことと、映画の公開延期が逆に話題を呼び、追い風になりました。
また、在宅時間が長くなったこと、近年の動画配信サービスの拡充により、改めてエヴァンゲリオンを見て興味を持った方が、消費を後押ししてくださった面もあります」。
ECサイトからリアル店舗、そして海外進出に至るまで
エヴァンゲリオンは、1995年にテレビアニメとして放送され、社会現象となるほどの大きなブームを起こした。2007年には、テレビアニメ制作時と同じ庵野監督の下、新劇場版として作品が再起動され、これまでに「序」「破」「Q」という三作品を公開している。オフィシャルのオンラインストアとしてエヴァンゲリオンストアが立ち上がったのは、2005年のことだ。グラウンドワークス社の神村典子氏は当初からその運営に携わっている。
神村典子氏「テレビアニメ放送から新劇場版公開までの空白期間にもエヴァンゲリオンの人気は続き、さまざまな業界とのコラボ商品やキャンペーンが行われました。そういった人気を受け、専門のオンラインストアを立ち上げました 。」
2011年には、オンラインストアと連動したリアル店舗が原宿にオープンした。現在では全国6カ所にリアル店舗を展開している。
神村典子氏「さまざまなコラボ商品やイベント開催などを通じ、リアル店舗の可能性を感じ、アニメ専門店『アニメイト』を全国に100店舗以上運営されている株式会社ムービックさんの協力を得て、リアル店舗をオープンしました。アニメといえば秋葉原だった時代、あえて原宿ということも、普通のアニメ専門店とは違うかっこ良さのようなものを認知していただけたのではないかと思います」。
エヴァンゲリオンはコミックが多言語で出版されており、海外にもファンが多く、リアル店舗には海外からも多くの来訪があった。また、グラウンドワークス社は海外の有名アニメイベントに毎年出店しており、エヴァンゲリオンやグッズの紹介を続けてきた。
そういった宣伝活動の効果もあり、オンラインストアでも徐々に海外からの問い合わせが増えていた。そして2019年5月、BEENOSグループの代理購入サービス『Buyee』を活用して、エヴァンゲリオンストアの海外向けのEC通販がスタートした。さらに2019年10月には、台湾・東南アジアで人気のマーケップレイス『Shopee』で台湾に出店、2020年1月にはシンガポール、マレーシアでの販売も開始した。
神村典子氏「当初は、海外のお客様のご要望にもお応えしたいと思いながらも、海外配送や不正利用のリスクなどを考えると海外ECはハードルが高い状況でした。しかし、転送サービスの進化などで状況が整っていき、BeeCruiseさんにご協力いただき、海外EC運営を開始することができました」。
新型コロナ影響下における、海外EC運営の課題
海外向けのEC参入のハードルとして、一般的にあげられるのが、言語、決済、物流だ。
岩本氏「言語については、ECサイト上の対応だけでなく、カスタマーポートの対応も重要です。何か不安なことがあった際に、すぐに回答が得られないECサイトはなかなか利用されません。
決済については、その国で使われる決済方法を用意することはもちろん、不正利用への対策も必要です。たとえば、BEENOSグループで提供しているBuyeeや転送コムでも不正利用されるケースがあり対策を行っています。そういったリスクのあるユーザーを管理して、対策を行う必要があります」。
そして今、新型コロナウイルスの影響を受け、物流には新たな課題が生じているという。それは、新型コロナウイルスの感染拡大状況によって、世界的に物流が遅延・停滞し、商品の緊急度合によって、取り扱いの優先度が変わる可能性がつねにあるということだ。
岩本氏「海外配送に利用の多いEMSの引き受けが停止となった国が多くあり、弊社への相談も増えました。弊社は、もともと複数の配送手段を確保していたため、代替の配送手段を手配したり、倉庫での保管期間を延長したりして体制を整え、新型コロナウイルスの影響を受けた物流量の減少や停止はありませんでした」。
Buyeeでは120カ国ほどを対象にサービスを提供しているが、国や地域によっても状況は異なる。たとえばアメリカでは、物流倉庫での勤務体制や感染症対策など、厳しい基準が設けられているそうだ。そんななかで、岩本氏がEC事業者にアドバイスしているのが、新型コロナウイルスの影響下でのプロモーションの考え方だという。
岩本氏:「今、このタイミングに限っては、プロモーション施策をいつ・誰に向けて行うか、物流の状況を見て決めたほうが良いと思います。新型コロナウイルス感染拡大の状況によっては、せっかくプロモーションをしても商品の配送ができないという状況になる可能性もあります」。
本物が買える環境、情報があることが偽物、転売を防ぐ
言語、決済、物流という越境EC、海外向けECの3つの大きな課題に加えて、商材によっては、偽物や転売への対策も大きな課題となる。海外でも人気の高いエヴァンゲリオングッズを販売するなかで、神村氏は、本物を知ってもらうということが、海賊版や転売への対策になる面があると考えているという。
神村典子氏「昨今のお客さんのニーズとして、本物がほしいという方が増えています。実際に台湾では、日本のアニメーション・エンタメ商品について、出版元が現地法人を作り、本物を販売することで、海賊版が減っています。しかしそれでも「本物がないから海賊版を買う」という人も少なくありません。
ライセンス許諾された本物の商品が普通に買える状況があれば、海賊版は減る可能性があります。エヴァンゲリオンストアも、ライセンス元が運営していて、正式許諾品を販売しているという安心感をお伝えしていく必要があると思っています。
また、商品の転売は、需要があることの裏返しでもあります。転売対策としては、日本での発売と同時に海外でも正式発売するという方法もあります。また、正式許諾品の情報を配信して、転売されたものを買わなくても本物が手に入る状況を提供することで、転売も緩和されるのではないかと考えています」。
転売されやすい商品は、海賊版や非正規の流出品により価格 が下がり、正式な販売元が市場に進出しようにも価格が下がり過ぎていて難しいという問題が起きがちだ。この問題に対して、岩本氏は、どういった商品を扱うかで防げる面があるという。
岩本氏「転売が特に多いのはフィギュアです。エヴァンゲリオンストアの場合、お洒落なアパレルブランドなど、従来のアニメグッズとは少し異なる、そこでしか買えないものをそろえていて、転売されやすいジャンルとは印象が違います。
これは他の企業さんにも参考になる事例です。単一商品を価格競争だけにすると、配送料や関税を考えると勝てません。しかし、他にない商品をそろえて、あえてそのストアで買う意味がある状態を作れば、価格競争にならずにすみます」。
海外のユーザーに情報をどう届けるか
海外販売を進めるなかで、エヴァンゲリオンストアが今後強化していきたいのが、情報発信だという。エヴァンゲリオンは知っているけれど、グッズがあることは知らないというユーザーに対して、いかに情報を届けるかということが課題として大きいそうだ。
神村典子氏「買うというのはひとつのハードルで、そこを超えてくださるというのは熱意の表れだと思います。今、ご購入くださっている海外のお客様というのは、エヴァンゲリオンに対する熱意があって、本当に一生懸命調べてくださっていると感じます。
たとえば、商品のひとつに16万円以上のダイバーズウォッチがあるのですが、高額商品にも関わらず、海外のお客様からもご注文があります。商品情報をしっかり説明することで、お客様が良いものの見極めをしてくださっていると感じます。
今後、そういった商品の情報をもっとお伝えできるようにしていきたいです。ストアだけでなく、WeiboやTwitterでも情報発信を積極的に行うようにしています」。
グラウンドワークス社がSNSを活用しているように、特にアジア圏では、口コミに対する信用度合いが非常に高い。BEENOS社が手がけるマーケットプレイスでも、それが実証されているそうだ。
岩本氏「CV率が上がるタイミングを調べてみると、現地の掲示板などのコミュニティで口コミが書かれたときなんです。企業発信の広告も、ストアの存在を知ってもらう効果はあるのですが、新商品や新ブランドに関しては口コミを広めることが非常に大事です。インフルエンサーを起用するのもひとつの方法ですね。また、ストア自体の信頼度を上げることも大事なことです。新たに出店する場合は、まずはフォロワーをつけ、レビューをつけることに注力する必要があります」。
エヴァンゲリオンストアの場合、最初にShopeeに出店した台湾では、かなり認知度が上がってきているそうだ。
岩本氏「今後、Shopeeの機能もご活用いただきながら、新商品など継続的な情報発信を強化していくことが重要だと見ています。他の国は今後開拓していく段階ではありますが、注目度は高いですね。エヴァンゲリオンストアさんの場合、コンテンツ自体の人気がすごく高いので、広告を出すよりも、そのグッズをもつことがいかに格好いいかということをもっと知ってもらうことが効果的だと思います」。
神村典子氏「エヴァンゲリオンストアは、ただ商品を販売するだけでなく、エヴァンゲリオンのグッズを紹介するカタログ的な役目があると思います。今後、正式許諾品を販売するオフィシャルストアとして、エヴァンゲリオンストアが取り扱う幅広い商品に海外の多くのお客様の手が届く状況を作っていきたいです」。
ECの可能性を広げる新たな挑戦
エヴァンゲリオンストアの運営において、情報発信の強化とともに、今後挑戦したいこととして、特別感のあるサービスを提供することがあるという。
神村典子氏「リアル店舗では、海外から来店された方に特別なプレゼントを差し上げているのですが、ものすごく喜んでくださって、海外から来店してくださる方も増えていたんです。ECでも、商品についてしっかり発信していくことに加えて、オフィシャルストアならではの特別なサービスを提供できたら良いなと思っています。
また、リアル店舗が休店している期間、新たな試みとして、Twitterでお客様のご要望やご質問に、リアル店舗のスタッフがコンシェルジュ的に応えるという企画を期間限定で開催しました。これが非常に好評で、休店中のスタッフの接客ノウハウも活かせましたし、リアル店舗での接客体験をネットの上で再現することができたと感じています。こういった、お客様とコミュニケーションを取るという機会は、今後にもつなげていきたいですし、海外でも活かせるのではないかと考えています」。
一方、エヴァンゲリオンストアのようなEC運営を支援する立場のBEENOSは、新型コロナウイルスの影響を受けて変化する社会に対して、デジタル化を進めていきたいという想いを強くしている。
岩本氏「新型コロナウイルスの影響で予期しづらいところはありますが、この状況になったからこそデジタル化できていなかった課題がものすごく浮き彫りになりましたし、デジタル化の本質がきちんと見られるようになったところがあります。そういった課題に対して、すでにノウハウのある弊社のプラットフォームなどをご活用いただき、推進していきたいです」。
BeeCruise株式会社
グローバルマーケティング担当
岩本夏鈴(イワモト カリン)
BEENOSグループの中で越境ECおよびジャパニーズコンテンツの海外進出をサポートするBeeCruise株式会社にて日本法人向け海外進出サービス事業の企画・国内セールスや海外セールスなどの統括を行い、アジア各エリアにおけるマーケティング調査やプロモーションなどの戦略策定や提案・支援を行っている。
EVANGELION STORE
オンラインを始め池袋・新宿・大阪・博多・箱根と全国5店舗でも営業中。