ECは自動販売機を卒業しなければならない コロナで変化したお客様ニーズとどう向き合うべきか

株式会社フラクタ 代表取締役 河野貴伸氏

2020年上半期、突如世界を襲った「新型コロナウイルス感染症」。外出自粛の流れにより、リアル店舗に行く機会は減り、巣ごもり消費が加速した。ウイルスとの戦いを余儀なくされ、消費者のECに対する価値観はどのように変化したのだろうか。株式会社フラクタ 代表取締役の河野貴伸氏にお話を伺った。

コロナで変化した消費者心理 真のデジタルネイティブに

コロナによる巣ごもり消費の流れで、消費者のショッピングに対する価値観が変化しました。それは、リアルとデジタルの境界線がなくなって「購買体験」として一括りになったこと。「オンラインが便利だから」と消費者が意識的に変化するより先に、抗えない状況下で「オンラインで購入するしかない」と無意識的に変化していきました。

コロナによって5年、10年はかかるだろうと予想された変化が一気に短縮され、消費者の進化が加速し、真のデジタルネイティブに強制アップデートされたともいえます。消費者の意識からリアルとデジタルの境界線がなくなり、オンラインで購買活動をするのが当たり前になっている今、事業者側の意識にも変化が求められています。存続のため、ECに力を入れざるを得ない状況といえます。事業者は「変われなかったらおしまい」、これくらい未来を左右する重要な局面にいるのです。

ショッピングは原点回帰し、人にフォーカスされるように

リアルとデジタルの境界線が限りなく曖昧になったことで、消費者がリアルの場で求めていた「人とのつながり」をデジタルでも求めるようになりました。これまでは見た目上だけの価格の安さや利便性が重視され、マーケティング手法を駆使して少ないCPAで出来る限り多くの顧客を獲得することが追求されていた側面が強かったデジタルの世界。消費者も事業者もECサイトを自動販売機として捉え、ECサイトの運営担当者は自動販売機のメンテナンス担当のような存在だと考えられてしまっていたと感じています。しかし、オンラインでの買い物の機会が増え、接客を受けなくなった結果、消費者の中で人とのコミュニケーションが枯渇している現在、デジタルが「店舗スタッフの接客が欠かせないリアルの購買活動」に原点回帰したのです。

消費者は、商品が並んでレジがあるだけのECサイトではなく、スタッフの存在が感じられる、リアルと同じような接客をECに求めるようになっています。こうした変化を象徴するのが、バニッシュ・スタンダード社が提供する、スタッフと消費者をつなぎ合わせ、店舗とECを融合させるサービス「STAFF START」です。スタッフがデジタル上で行う接客をアプリで簡易化し、スタッフ個人の売り上げや評価を可視化しています。このサービスは、今まで店頭でしてきた接客をオンライン上でも実現し、「あのスタッフのおすすめ商品が欲しい」とスタッフに対する信頼を構築させているのです。

事業者視点で見ても、デジタル化が進んで広告費が高止まりし、オンラインにおいて以前のような感覚で消費者との接点を作ることは難しくなっています。消費者のニーズと事業者がぶつかっている局面を考えると、原点回帰して人にフォーカスする時代が来ているのではないでしょうか。

数字に捉われてませんか?見るべきは生身のお客様

数字に捉われてませんか?見るべきは生身のお客様

では、消費者心理の変化を踏まえて、事業者は何をするべきなのでしょうか。私がお伝えしたいのは、自分たちのお客様の姿を常に想像し続けること。インタビューやアンケートを通して「ブランドを愛してくれるのはどんな人なのか」と生身のお客様を知らなければなりません。

よく事業者が陥りやすいのが、数字のデータばかりを見てしまうこと。データドリブンという言葉が頻出し、購入数・PV・UUなどのボリューム指標の数字に捉われている事業者が多いと思います。しかし考えてみてください、あなたが見ているデータの先にお客様の顔を想像できますか?

まずはきちんとお客様に向き合い、接客を通して「このお客様は1カ月前も来てくれた」「今度はワンピースを買ってくれた」と人間の脳でデータを記憶する。そのデータをスタッフ一人のものではなく、会社の資産として蓄積・共有するため、数字に落とし込み可視化していく。このように、最初から数字に頼るのではなく、お客様の姿を捉えて「何を求めているのか」という顧客心理まで想像し尽くしてみてください。データを見ることは手段であり、目的ではありません。

今お話しした「お客様の実像をつかむこと」を体現しているのが、D2Cブランドではないでしょうか。D2Cブランドの持つ「お客様とダイレクトにつながる覚悟」は、すべての事業者が学ぶべきポイントだと思います。

モールと自社サイト、どこに出店するべきなのか

今、Amazonや楽天などのECモールと自社サイト、どこに出店するべきか迷っている事業者が多くいます。そんな方々にお伝えしたいのが「自社のお客様はどこで購入できれば利便性が高いのか」を考えて店舗を出すこと。消費者からすると、商品を手に入れることが重要なので、モールでも自社サイトでも、購入する場所はどこでもいいのです。消費者が欲しいと思った時に買える利便性をキープしておくことが、何よりも大切だと思います。

一部で「モールは手数料がかかるから出店しにくい」と耳にすることもあります。しかし、モールは訪れる消費者に対して、自社サイトだけでは実現するのが難しいクオリティの利便性という「おもてなし」を体現しています。流通網の構築によってどこよりも早く届けたり、大規模なセールを開いたり、スムーズに購入できるUIを設計したり。こうした顧客サービスを充実させ、消費者からの信頼を積み上げてきたからこそ、モールという場所にお客様が集まるのです。

大規模なシステムを構築することなく、モールの信頼を借りられるわけですから、手数料を払う価値は大いにあると思います。お客様が求めているならそこに出店すればいいし、利益率が合わないなら出店しなければいい。どちらが良い悪いではなく、「お客様起点」でシンプルに考えると、自社が取るべき施策がおのずと見えてくるのではないでしょうか。

映画のようにストーリー化 私たちの手で歴史を変える

映画のようにストーリー化 私たちの手で歴史を変える

これから事業者が求められるのは、映画を作るようにストーリーを伝えていくことだと思います。ブランドや商品を通して何を感じてほしいのか、自分たちは何者なのか、どんな歴史をたどってきたのか。こうしたストーリーをお客様に分かりやすく、そして共感してもらえるような形に編集し、映画を見ている感覚で楽しんでもらえたら、ブランド化の第一歩は成功。そのためには、自社のストーリーを第三者に伝わるように語れる客観性を持った編集が必要になるでしょう。そういった人材が今後事業者内でも重要な存在になっていくと思います。

コロナという存在は産業を破壊し続けています。これは大きな危機である一方、捉え方を変えてみると進化のタイミングなのだとも感じています。生物が進化する時は、絶滅の危機など、必ず大崩壊が起きた後でした。危機的状況を乗り越えるために、仲間で力を合わせ、より洗練され、一歩先の生命体へと進化していく。これは、ビジネスにも通ずることで、コロナによる産業危機はなんとしても乗り越えるべき課題です。なくなっていい産業はないし、私たちは大袈裟ではなく、日本全体の中で「EC」は何ができるかを考えなければなりません。

例えば、酒蔵の場合。卸の一本化をやめてECサイトを作り、商品が購入されたらオンラインでの酒蔵見学を実施し、消費者とのコミュニケーションを重ねる。その取り組みの背景をストーリーとして伝えていく。結果多くの人に知ってもらうことによって、卸経由での売り上げも上がる…こうした活動の積み重ねの先に、日本産業の明るい未来があるでしょう。一人一人がグッと踏ん張った先に「コロナを機に日本はEC大国になった」と教科書に載ることを夢見て。おこがましいですが事業者と私たちのようなECの支援企業が力を合わせれば、夢物語ではなくなるかもしれませんね。

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