コロナ下の老舗くず餅屋はこうしてファンを獲得した 新卒2年目の担当者が挑んだSNS戦略とは

濱田祥太郎

広報担当の月岡紋萌さん(左)と通販事業部課長の川妻智彦さん

創業200年を超える東京・亀戸の老舗くず餅店「船橋屋」。10年にわたって続けてきたSNS戦略のコンセプトを変えたきっかけは、新卒2年目の担当者のひとことだった。その結果、ツイッターのフォロワーは5倍以上になり、ECの販売増にも大きく寄与した。ファン獲得の戦略について話を聞いた。

コロナで売上は3、4割の落ち込み

船橋屋看板商品のくず餅

船橋屋の創業は江戸文化2年(1805年)。現在の本店の隣にある亀戸天神の境内で、千葉・船橋出身の創業者がくず餅を売ったのが始まりだ。現在は4つの直営店に加え、東京近郊の百貨店など計26カ所に売り場を構える、東京を代表する老舗菓子店の一つだ。

新たな顧客層を開拓しようと、かねてEC事業に力を入れていた。2006年から楽天市場に出店。特に昨年はインフルエンサーを使った宣伝をしたり、ドラマに撮影協力したりなど広報戦略に力を入れ、2019年下期(10〜3月)はECでの売上が前年比増となった。

そんな中、新型コロナウイルスの影響が襲う。特に店舗販売は、店舗が入っている百貨店の休業などで打撃を受け、緊急事態宣言が出た以降の4、5月で売上が前年比3〜4割減となった。

執行役員に直訴「ツイッターやりたい。いいですか?」

「中の人」と連携してSNS戦略を練る月岡さんと川妻さん

新卒2年目の「中の人」が、船橋屋では社長に次いでNo.2となる執行役員に「直訴」したのは5月のこと。

「ツイッターの運用をやってみたい。いいですか?」。この担当者は入社当時は店舗に立って販売を担当していたが、今年1月に広報に就任。自分自身メディアとのやりとりが多くなり、顧客に直接アプローチする戦略にとぼしいと感じていた。コロナ下で特に、実店舗でも顧客との会話はできなくなった。

ツイッターは気軽に投稿できるが、SNS上での企業の「顔」となる分、炎上リスクも伴う。しかし、執行役員は二つ返事だった。「ぜんぜんいいよ。好きにやってみて」

「船橋屋の風土として、新しいことをやろうとするときに否定からは入らない。『やりたいならやってみよう』となります」とEC担当で通販事業部課長の川妻智彦さんは語る。

企業の宣伝はうっとうしい

船橋屋公式ツイッターの投稿

「おはようございます!!もうすぐ11月終わるやーーーん!早すぎ(゚ω゚)!となっている朝です」
「お疲れ様でしたー!お仕事がひと段落したのでまだたくさん呟いていきます\( ˆoˆ )/
何呟こうかなぁ」

担当が変わったツイッターの投稿は、中の人の「若さ」が前面に押し出されるようになった。

広報担当の月岡紋萌さんは、中の人と共にTwitter戦略を任されている。SNS運用のセミナーに出席したり、広報担当として培った人脈を利用して運用方法を学ぶなかで、SNS上で信頼される対象が「モノよりヒト」になっていることを学んだ。

それを踏まえてツイートでは、あえて人間らしさを出すことを心がけている。「ツイッターはあくまで私的な場所で、企業に一方的な宣伝されるのはうっとうしいと思う人もいるはず。『これ買って』ではなく『これおいしいよね。私も好き』というフォロワーとの会話の方がアリ、と思ってます」

「『業務』と感じたら楽しくならない」と、投稿時間は、オフィスにいるかそうでないかを問わない。中の人自身が一ファンのように投稿するのが良いという。

現に効果は現れ、4月に5千人だったフォロワーは12月上旬には約3万人と6倍にふくれた。ツイッター上では極力一つひとつの投稿に「リプ」を送り、投げっぱなしにしないようにしている。

最近では店舗の販売員など社内から「ネタ」が提供されることも多く、全社的な評判も上々だ。月岡さんは「ブランドは守りつつ、硬くないコミュニケーションでファンの年齢層をもっと広げたい」と意気込んでいる。

EC売上、前年突破

こうした施策やコロナ下での「巣ごもり消費」の後押しで、ECの売上高は9月の時点で前年一年間分を突破。4〜9月の上期ではECの売上が7200万円と全体の8.5%を占めた。昨年は全体の3%だったことを踏まえると大きく前進している。

ECの売り上げを支えているのは、実は若年層だ。

利用者数トップは、35〜44歳。続いて25〜34歳が占める。SNS施策のほか、無添加で自然発酵させたくず餅を健康食品として打ち出している戦略や、健康や美をテーマにした姉妹ブランド「こよみ」が一役買っている。

訴求の方法も、ただ老舗ブランドに頼るのではなく、発酵菓子という利点を前面に出して、顧客の健康・ライフスタイル向上を訴える。

人々のライフスタイルが変化した今年以降は、ECの売上高を全体の10%まで引き上げるのが目標だ。川妻課長は、「『老舗和菓子店』というだけでは、生きていくのはむずかしい」とさらなる改革の必要性を語る。まず目指すのはサイトの購入率を上げること。顧客との対話を重視したコンテンツを充実させるつもりだ。


記者プロフィール

濱田祥太郎

新卒で全国紙の新聞記者に4年半従事。奈良県、佐賀県で事件や事故、行政やスポーツと幅広く取材。東京本社では宇宙探査や宇宙ビジネスを担当。その後出版社やITベンチャーを経てMIKATA株式会社に入社。ECのミカタでは行政、規制系・老舗企業のEC事例に興味があります。千葉県我孫子市出身。

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