【後編】共通の「送料込みライン」から一年 楽天COOが語る「これまでとこれから」

濱田祥太郎

コマースカンパニーCOO&ディレクター野原彰人氏

楽天グループの執行役員、コマースカンパニーCOO&ディレクター野原彰人氏は、「『共通の送料込みライン』は三方よしに向き合った結果」と説明する。連載「下」では、楽天市場を取り巻く環境や、目指す「これから」について聞いた。

「三方よし」を目指して

楽天市場、店舗、ユーザーの三者がWIN-WINな関係になる「サステナブルな価値の循環」を目指している(楽天市場の資料より)

楽天市場は「楽市楽座」の発想から「日本を元気にしよう、地方を元気にしよう」ということで、1997年に始まっています。

楽天市場とユーザーと店舗さん、この三者がうまく結び付く形、それが拡大再生産する。「三方よし」の世界観を作っていきたいと思っています。

ただ出店したら売れるというわけではなくて、そこは自分で頑張ってやっていただかなくてはいけない。「一緒に頑張っていきましょう。楽天もお力添えします」という想いですね。

本当は、ユーザーにだけ最大の価値を提供する方が分かりやすいですよね。しかもその方が、ビジネスとしてもコントロールしやすいと思います。でも楽天市場は三方のベネフィットを追求しようとしています。

当然、利害対立が生じてきます。三者に納得感を醸成しながら拡大再生産して、サステナブルな形にしていくというのは、とても難しいオペレーションです。

最近では「資本主義のあり方」といった議論がなされていますが、その中で、一定の倫理観をもって「資本主義のあるべき姿」を具現化しているのではないかとは思っています。

ECが生活基盤のインフラとして定着

「新しい生活様式」の浸透により、ECが生活基盤のインフラとして定着傾向にあり、ECに対する需要は拡大しています。

ユーザーが昨年、新規に入ってきた面もありますが、そのユーザーが定着し、購入金額を確実に増やしてきています。

商品をカテゴリー分けすると「最寄り品」「買い回り品」「専門品」の3つとなりますが、楽天でもともと強いのは「買い回り品」で、いろいろと検索をして探していくものでした。

伝統的にECは「買い回り品」が強かったのですが、(「新しい生活様式」の浸透によって)日用品、例えばトイレットペーパーやオムツなども含めた「最寄り品」のカテゴリーまで、確実に伸びたことは、ECがコモディティ化した証ではないかと思っています。

作ってきたルールの検証は必要

「楽天市場」としてのルール作りの面で言えば、ユーザーを守るためにどうしたらいいのかという事をずっと考えてやってきました。

2016年には、ユーザーが安心・安全に楽天市場を利用できるよう、出店店舗向けに規約やガイドラインの違反行為を明文化し、その違反レベルに応じた対応をルール化した「違反点数制度」という制度を作って、ユーザーを守ってきました。これは、今でも正しかったと思っています。

ただ、ルールの作り方について、私たちが正しいと思っている事が、必ずしも社会的に正しかったかというのは、検証が必要だとは感じています。

そうした観点から、2019年にアドバイザリーパネルとして、外部の有識者からご意見を頂戴する機会を設けたり、国民生活センターとのコミュニケーションを強化して、消費者サイドからの様々なご意見や消費者側が困っていることを受け止めたり、できる事をどんどん考えていこうという面で、中立の第三者と協力を進めています。
時代に合わせた制度をつくる必要がある一方で、楽天と店舗さんとの関係性の面では、今までは、「場所を提供しますので、あとは自由にやってください」という世界だったわけです。しかし、一定のルールがますます必要となるような環境に変わってきています。

「多様性」と「統一性」とのバランスの面では、楽天の一番の強みは「多様性」にありました。様々な店舗さんの発意創意でここまで来たと思っています。

多様性を最大限尊重しつつも、最低限、ユーザーを惑わせないように、ユーザーがより使いやすくするための最低限必要な統一性があります。これは店舗さん側からの立場でいえば自由度が少し奪われます。ですが、この「統一性」は理解してくださいとお願いをしています。

これは、店舗さんの「自由度」と、「ユーザー本位」の両立、「利便性」との両立といったところをどうやっていくかは難しいところです。

昔からいる店舗さんだと、「自由度が無くなった」と言われます。一方で、時代と共に環境が変わってきていますので、そこに合わせた形でモディファイしていく必要があると感じています。

その事をちゃんと店舗さんにお伝えし、ユーザーにも安心して使って頂ける環境を整備する必要があります。私は、今までやってきた事がベストだとは全く思っていません。常に改善していく事によって、結果として「選ばれる売り場」を作って参りたいと思っています。

「透明化法」について

日本ではECという領域が、社会的には看過できないくらいのスピード感で成長しています。昨年、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(透明化法)」が成立し、楽天市場も「特定デジタルプラットフォーム提供者」に指定されましたが、その背景にはこのようなトレンドがあったと理解しています。

ECが生活基盤のインフラとして定着していることを背景に、大きな流れとしてECプラットフォーム提供者に対する何らかのルール作りが求められていたと捉えています。

そこを受け止める準備はあります。私たちは従前より店舗さんに対するルールや禁止事項を明文化し、透明性のあるプラットフォーム運営を心がけてきました。

我々としては、店舗数が増えることは喜ばしいことです。取引先が増えた方がいいし、そこでビジネスをやってきたわけですから。

しかし、例えば、「これはダメでしょう」というような公序良俗に反する物や偽造品を売ってしまうような店舗さんが仮にいた場合、ユーザー保護の観点からも、売り場としては当然そのままにしておけないという事情もございます。

店舗さんとは日々様々なコミュニケーションをさせていただいておりますが、楽天市場の運営について個別の相談が受けられる専用の相談窓口を新たに設置しています。

楽天市場が「特定デジタルプラットフォーム提供者」に指定されたことで、一層透明性の高いプラットフォーム運営ができるよう、従前からの取り組みにも改善を重ねていきたいと考えております。

関連記事「経産省が目指した『イノベーションを阻害しないルールづくり』とは デジタルプラットフォーム取引透明化法」

サステナブルな成長が一番

前述したように、楽天は、店舗さんの個性などの多様性を尊重しながら、ユーザーにとってよりわかりやすく、魅力的なお買い物の場を提供できるよう、統一性の向上を目指しています。楽天市場として大事なのはいかにして、店舗さんの成長をサポートすることができるか、というところに行き着くのではないかと思います。

そして、その中で、サステナブルな成長ができるという事が一番、理想的な形だと思います。

私たちのビジネスモデルでもそうですし、物流もコストがかかります。みんなで力を合わせて、知恵を出し合いながらやってきたという世界観を今後も大切にしていきたいと思います。

コミュニケーションを尽くすしかない

楽天市場は今後も、さまざまな改善を続けていく予定です。

約5万5,000店(8月時点)もいる店舗さんの事を考えますと、理解を得るためにコミュニケーションに身を尽くして、その真意を伝えていく事をやっておくしかないと考えています。

店舗さんごとに、いろいろな価値観がありますから、“ベスト”は無い、「十分です」という事は無いんです。

考えられる施策を持って、丁寧にお伝えして、ご理解を頂いていく、その結果として、今までのように躍動感を持って、選ばれなければ意味がないわけですから。

だからこそ、この施策をやらなくてはいけないという事は、こちらが店舗さんにお伝えする事が出来ますし、数字で以て説明できると考えています。そうした事を通じて、店舗さんにご理解頂くという事だと思います。

中には一気にやらなくてはいけなくなる部分も出てくるかも知れませんが、そうならないように、こうした施策をいろいろとやって、極力、理解を得ていくという事をしていきたいと考えています。

目指すのは「みんなの売り場」

創業期から引き継がれている売り場のメンタリティーがあるんです。

それはつまり、売り場というのは楽天が作る部分もあるんですが、店舗さんが作る部分もあり、さらに言えば、ユーザーが作る部分でもあります。

その結果として、“みんなの売り場”となっていく、と私は思っています。その価値観というのは、ぜひ、今後もそうあってほしいと思いますし、それが楽天市場の独自性だと考えています。

「エンパワーメント」という、店舗さんの発意創意をエンパワーする事が私たちの役割なので、売るのはやはり店舗さんです。

たくさんの売り方、たくさんの商品があって、その力というのが、ユーザーを魅了しています。一方で、ユーザーもただ単に“いい売り場”という事ではなくて、楽天というブランドを通じて、自分の購買体験を投影していると思います。

ですから、「どうせ行くなら、あそこのお店に行きたい」というロイヤリティを醸成していく、その過程の中で、「この売り場、このお店、ダメだよね」とか、「このファンクション、使いにくいから何とかしてくれ」とか。

こうしたご意見として頂戴しながら、売り場を改善していく事によって、ユーザーがより“自分の売り場”という事を思って頂ける、こんな形になるのではないかと考えています。

それは、創業以来、ずっとやってきている事でもあります。

日本を元気にする

創業以来の理念「エンパワーメント」(楽天市場の資料より)

創業当初は地域経済の低迷状況に対して、インターネットを通じて、活性化させたいという想いがありました。我々は1997年の創業以来、「Empowerment(エンパワーメント)」という言葉を、その事業の基本となる価値観として掲げてまいりました。

社長を含めて、我が社のメンバーは、将来を信じて、「ビリーブ・イン・ザ・ヒューチャー(Believe in the future)」といって“将来を信じて楽観的になる事”といった価値観を提示していくのが、「日本を元気にする」という事なのではないかと思っています。

少し抽象的ではありますが、ベースになるモチベーションみたいなものを、ご提供できるのではないかと考えています。

それは、私自身がECコンサルタントを担当していた際、地方の店舗さんなどを回って、売り上げを上げたり、新社屋を造ったりなど、店舗さんとともに成長を重ねた経験から、チャンスを提供できるという事にはとても意味があると思っています。

私たちみたいな小さな会社でも出来たんだから、みんな頑張ろうよという意識改革が出来るのではないかというのが、私が考える理想です。(完)


記者プロフィール

濱田祥太郎

新卒で全国紙の新聞記者に4年半従事。奈良県、佐賀県で事件や事故、行政やスポーツと幅広く取材。東京本社では宇宙探査や宇宙ビジネスを担当。その後出版社やITベンチャーを経てMIKATA株式会社に入社。ECのミカタでは行政、規制系・老舗企業のEC事例に興味があります。千葉県我孫子市出身。

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