ワインがこぼれないマットレス「コアラ」のD2Cはなぜ成功した?代表に独占取材

濱田祥太郎

Koala Sleep Japan株式会社代表のアダム翔太氏

ベッドの上に置かれたワイングラスのすぐ横で大柄な男性たちが飛び跳ねてもワインがこぼれないーー。そんな動画が話題になった「コアラマットレス」。2017年の日本進出以来業績は好調で、日本で店舗を持たない「D2C寝具」の地位を確立した。今年はブランドを「コアラ」に刷新したうえ、家具事業への展開も発表した。
功を奏したマーケティング戦略と今後の展望について、Koala Sleep Japan株式会社代表で、マーケティングディレクターも兼ねるアダム翔太氏に話をうかがった。

日本人の眠りを研究 功奏したローカライズ戦略

日本人の眠りを研究 功奏したローカライズ戦略コアラのマットレスに乗せたグラスワインの周りで飛び跳ねる社員たち(コアラ公式YouTubeページより)

−−日本進出から現在までの自己評価をお願いします。

これまでの3年間の売上は毎年、前年の2倍以上になっています。顧客の反応はよく、SNSでもポジティブに受け止められている印象です。商品評価の星が平均で4.5以上になり、睡眠が改善したファンから「命を救ってくれた」とコメントがありました。ファンになってくれたことをうれしく思っています。

要因の一つはローカライズ戦略が成功したことです。まず、日本人の睡眠がどうなっているかを調査しました。日本人は仰向けに寝ることが多い。夏は湿度が高いから通気性をあげないといけない、などです。オーストラリアのものをそのまま輸入するのではなく改良を続けました。

もう一つは広告戦略です。オーストラリアは車で通勤する人が多いので屋外広告が主でしたが、日本は通信速度が早く、電車内でYouTubeコンテンツを見る人も多く、そのための戦略を立てました。

「高品質をより安く」目指したのは 顧客体験の向上

「高品質をより安く」目指したのは 顧客体験の向上コアラスリープカーの内部。企業に派遣され、お昼寝体験ができる。

−−そもそも、日本に進出した理由はなんですか?創業地であるオーストラリアでは、創業1年目で13億円、2年目には33億円を売り上げています。日本のマーケットにも同じポテンシャルがあるという考えだったのでしょうか。

オーストラリアでは「国民全員に快適な睡眠を提供すること」をコンセプトにしていました。次にどこか?となったときに、目をつけたのが先進国中でもっとも睡眠時間が少ないのが日本でした。

さらに日本市場には当時、マットレス市場が成熟していませんでした。2、3万円で買えるマットレスはありますが、より快適にしようとしたら20、30万円かかる。ショールームでセールスマンがトークして購入してもらうモデルなので、コストがかかっていました。


−−そこにD2Cというモデルを持ち込みました。

こちらは営業マンがおらず、ショールームもないため、品質が高いものをより低い値段で売ることができます。
日本に進出した当初、メンバーは私1人でした。そこから2年で4、5人になり、最近は20数人まで増えています。

ユニークなのはその業種です。ほとんどの会社は広告・マーケティング人材を獲得すると思いますが、弊社は顧客体験を向上させるためのメンバーを増やしました。顧客に対応する電話、チャット対応者です。


−−このほか、コアラの優位性はなんですか。

競合に対してのコアラが優れていると考える点は三つあります。①D2Cモデル②顧客中心主義③サスティナビリティです。

①はさきほど説明した通り。②の例では、私たちは「120日間トライアル期間」を設けています。
たとえば家具を買いに行って、ショールームで見て「いいな」と思っても家に帰ると「ちょっと違うな」ということもあるはずです。そこで商品が届いた日から120日間は返品できるようにしました。

③では、コアラが作る寝具・家具で使う木材は、環境を維持できるペースで利用しています。また絶滅危惧種に指定されているコアラの保護活動にも協力しています。


−−日本でサスティナビリティを押す企業はまだめずらしく感じています。

2017年に進出した当初はまだ、日本でサスティナビリティが浸透していなかったのは事実だと思いますが、近年では変わりました。Googleトレンドでみてみても「サスティナビリティ」「ビーガン」を検索する人が格段に増えたことが分かりますし、街を歩いてもビーガンレストラン・カフェが増えていたり、コンビニなどでポリ袋が有料になるなど日本にも確実に浸透しています。

企業に派遣した「ぐぅ〜す CAR」

−−日本でコアラのプレゼンスが高まったのはいつからでしょうか。

海外ブランドが日本で信頼を獲得するのは時間がかかります。時期は2019年中間くらいでしょうか。


−−どんなことがありましたか?

この時期というのは二つの要因がありました。2019年6月に表参道で、「個人の睡眠問題を解消しよう」という「コアラスリープラボ」を実施したのが、マスコミに取り上げられました。
9月3日の「睡眠の日」には「ぐぅ〜す CAR お昼寝デリバリー」を走らせ、大きいバンに用意したコアラのベッドでビジネスマンに昼寝をしてもらうキャンペーンも実施しました。ハードワークを好む日本人は昼過ぎに眠くなるというパターンがあるんですね。

どちらも、「売上を獲得しよう」というコンセプトではなく、広告費をかけていません。来てくれた人の信用をもらうのが目的でした。そのことが、オーガニックな話題作りに貢献したと思います。


−−日本進出からこれまでを振り返りつつ、今後の展望をお願いします。

どのスタートアップにも、「新しいことをしたい」と思う人材は必要ですが、コアラには失敗を恐れない勇気がある人が多いと思います。

私は、コアラが日本に進出するときお母さんに「日本人はマットレスで寝ない。ふとんで寝てるんだ」といさめられましたが、それでも恐れませんでした。コアラという会社は既存の考えと違う人たちが集まっていて楽しいです。最初の半年間は1人でさみしいこともありましたが、ここまでがんばってこられました。
来年も、今年と比べて2倍以上の成長を期待しています。

アダム翔太氏プロフィール

アダム翔太氏プロフィール

Koala Sleep Japan代表兼マーケティングディレクター。
日本生まれオーストラリア育ちの日英ハイブリッド。オーストラリア国立大学を卒業後、楽天株式会社に入社。
その後、Havas Japan株式会社にてデジタルアカウントマネージャーとして、ECやデジタルマーケティングの業務等に従事。
2017年にKoala Sleep Japan株式会社の立ち上げメンバーとして入社し、現在は日本オフィス代表として全てのマーケティングとクリエイティブ施策を統括している。


記者プロフィール

濱田祥太郎

新卒で全国紙の新聞記者に4年半従事。奈良県、佐賀県で事件や事故、行政やスポーツと幅広く取材。東京本社では宇宙探査や宇宙ビジネスを担当。その後出版社やITベンチャーを経てMIKATA株式会社に入社。ECのミカタでは行政、規制系・老舗企業のEC事例に興味があります。千葉県我孫子市出身。

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