25歳の起業家が抹茶に込めたメッセージ−−。千休が伝える息抜きのカタチ
一昨年3月に創業した抹茶専門ブランド「千休」は「心に、晴れのいっぷく」をコンセプトに、抹茶を始めラテやカプチーノ、フィナンシェなどを販売する。ブランドが訴えるのは、激動の時世とは一線を画した、おだやかなメッセージだ。ブランドに込めたメッセージは、代表の久保田夏美さん(25)自身が抱えていた思いから生まれた。描く戦略をインタビューした。
たまたま飲んだ抹茶ラテに感動
−−久保田さんと抹茶との出会いについて教えてください。
中学2年生くらいのときだったか、学校帰りで話したりテスト勉強をしたりするのにカフェに行きました。コーヒーや紅茶が苦手で、始めはオレンジジュースしか飲めなかったのですが、たまたま頼んだ抹茶ラテに感動して。
その後、私の推しのアイドル・鈴木愛理さんが宇治市の「宇治茶大使」に就任したことで都内の抹茶カフェをめぐったり、抹茶をたてる動画を見たりしていました。本格的にはまったのは大学生のとき京都・静岡に旅行に行ったときの抹茶がきっかけです。
「こんなにおいしいんだ」と今まで飲んでいた抹茶の概念を変えられたほどでした。
−−事業としてやろう、と思ったのはいつからですか?
もともとシステムエンジニアとしてビジネスツールの改善の仕事などをしていて、副業としてライターやデザイナーとしてWeb関連の仕事をしていました。しばらくして独立して。あるとき、たまたま渋谷で開かれていたイベントで女性起業家と話す機会があって、「抹茶でイベントやろうよ!」と言われて。それがきっかけでした。そのイベントにあわせて会社を立ち上げて、イベントは商品の販売記念という形で実施しました。
人と比べていた過去 幸せになれないと気づいた
−−千休のターゲットはどこに置いていますか?
20〜40代の働いている女性です。仕事と私生活でON/OFFもなく忙しくしている、そんな中で千休の抹茶が小休憩の時間を作れたらいいなと思っています。
−−なぜこの層をターゲットにしたのでしょうか。
癒しを欲している人のエネルギーになれればなと思ったのは、私自身がそうだったからです。かつては本業のエンジニアをやりつつ、ライター業は出社前と帰社後、休日を使ってしていました。忙しいとき、見るだけでもいやされたり、気持ちを落ち着かせたりできるアイテムがあればと思っていました。
−−サイトはすごくやさしい雰囲気で色使いがされています。
コスメブランドなどを参考にして、「気持ちの切り替え」「私らしく」というイメージが伝えられるような作りにしています。具体的には、かわいらしい・上品・やわらかい・清楚な、イメージを持ってもらえるように作りました。
−−サイトではコンセプトの紹介ページをショップページよりも前に置いています。どんなメッセージを伝えたいと考えていたのでしょうか。
一時期ビジネス書が流行ったときに、「やりたいことで生きる」「まずは行動しよう」など「動」を軸としたメッセージが広まっていました。その志しも大事ですが、それを継続するためには一度立ち止まって「静」の時間がなければいけません。実体験からそういったことを学び、ブランドを通じて伝えたいと思いました。
−−コンセプトには、「楽しいこと、つらいことも、全部があなたの大切な日々」や「忙しい毎日を頑張る自分に、たまには少しだけ感謝を込めて」といった穏やかな言葉がつづられています。
私も人と比べて競争して、「何でみんなできていることが自分にできないんだろう」と落ち込んだことがありました。それをやめようと思ったのは、それでは幸せになれないと気づいたからです。独立して、自分のスケジュールを組んだり周りと話したりして気づいたことです。
名前も茶聖と呼ばれた「千利休」と「Thank you」をかけて「千休」にしました。だれも傷つけずに、みんながよろこべる言葉だなと。
−−PR戦略をおしえてください。どのような発信方法を活用していますか。
Instagram、Twitterを活用しています。ターゲットとなる20〜40代女性が情報を探す際はやっぱりSNSを使いますし。インスタのアンケート機能も活用しています。
発信の仕方も、「いい抹茶をつかっている」だけではなく、飲み方や生活の中でどう役立つのかを紹介しています。
抹茶には、テアニンというやさしい気持ちにさせてくれる癒し効果がある成分が入っています。「抹茶を飲むとこういう気持ちになれるよ」と伝えて、イメージしてもらいたいと思っています。
好き、だけでは仕事になってない
−−趣味が仕事になったこと、自分自身でどう評価していますか。
たしかに好きなことが仕事にはなりましたが、本当に好きなことだけでは仕事として成り立ってないな、というが本音です。
最初は、抹茶の香りがたつラテ・カプチーノのみで勝負しようと考えていました。熱を加えると香りが飛んでしまうので、お菓子には不向きだと。私が実際に農家さんに足を運んだり調べたりして検討した、本当においしいものをおいしい方法で飲んでもらいたかったんです。
ただファンの方から「抹茶スイーツも作ってほしい」との要望が多く、それをきっかけに抹茶フィナンシェを作りました。自分が一番ほしいものだけでなく、「自分が好きなもの」と「ファンが好きなもの」を掛け合わせたものを作っていかなければいけないなと。
でも仕事にできて良かったです。仕事にしたことで、農家さん、メーカー、他ブランドの経営者といった人と交流することができました。「好き」だけでは知らなかった抹茶の世界がたくさんあったと思います。
−−これまで、どんな苦労がありましたか?
作りたい商品が製造できるところを探すのが大変でした。粒度の細かいものを作りたかったのですが、私たちのような商品を小ロットで扱ってくれるところが少なくて...。
−−昨年10月には大阪で本格的には初めて実店舗を出しました。今後の目標をおしえてください。
まず、ECのカテゴリでブランドとして地位を高めていく。疲れたとき、気持ちを少し上に向けたいとき、千休を選択肢として思い浮かべていただくことですね。長期的には、オフラインの店舗を持ちたい。文章や画像だけではつたわらない味を多くの人に知っていただきたいからです。
久保田さんプロフィール
株式会社千休代表取締役社長。抹茶家。抹茶に関連する商品開発から販売を行う。また個人活動として抹茶や茶湯の精神の魅力をわかりやすく伝えるためにイベント企画やデザイン、執筆活動なども。365日抹茶。好きな抹茶を食べるために宇治まで行く。